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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科14巻9号

1979年09月発行

雑誌目次

視座

大学人と地方医師会

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.857 - P.857

 大学病院staffの任務は教育と研究と診療の三つであることは言うまでもない.しかし,大学人の評価は教育上の成果や個々の患者に対する医師としての診療能力より研究業績の量が重視される傾向がある.確かに臨床医学者としては不明の疾患について特殊検査所見与論述したり,難症例に対する高度手術の成績を発表することは必要であり,その方が華々しく評価の対象になり易い.しかし,医学者と言えども現在目前にあつて多くの国民が困惑している保健上の問題に対しては可及的早期に救いの手をさしのべる社会的責任を負つていると言えよう.
 現在,患者,医師,行政三者共々困惑しているものに職業病がある.北海道に多い振動障害に例をあげよう.例の洞爺丸台風(昭29)による厖大な数の風倒木を処理するためチェーンソーが導入された数年後よりいわゆる白蝋病が発生し始めたが,職業病として法制化されるや年々鰻上りに認定数は増加し国有林民有林計4,000人の労働者のうち昨年までで600名(平均15%)に昇つた.数は兎も角として問題は認定率の不均一さにあつた.

論述

慢性関節リウマチの膝関節造影像 第3報—膝関節造影像からみた滑膜切除術の適応について

著者: 横井秋夫 ,   冨士川恭輔 ,   田中義則 ,   戸松泰介 ,   伊勢亀冨士朗

ページ範囲:P.858 - P.866

はじめに
 慢性関節リウマチ(以下RA)の病因がなお不明である今日,その根治療法はないので,症状の変遷に対応する対症療法の適否が論議の的になつている.われわれが日常行つているRAに対する膝関節滑膜切除術は,その対症療法の一つであり,病勢をとどめるということに主眼がある.滑膜切除術は古くは1800年代後半のSchüller,Müller,Volkmannらの報告をもつて嚆矢とするが,RAに対しては1923年Swett19)やJones7)の報告に始まる.その後の報告は枚挙に遑がないが,それらのRA滑膜切除術の成績は,極めて良好なものから逆に全く悲観的なものまで様々である.1960年頃から,関節破壊の予防という見地から滑膜切除術が行われるようになり,とくに早期滑膜切除術が脚光を浴びている14).この早期滑膜切除術の適応について色々な基準がうち出されてはいるものの,結局は経験的な判断によつて滑膜切除を行つていることが多い.われわれはRA膝関節に対して関節造影法を応用し,滑膜のみならず関節軟骨,半月等の病態とその推移についても報告を重ねてきた.これらの膝関節構成体の造影所見はRAの膝関節のclinical courseをよく描出し,早期滑膜切除術の時期適応を決定する重要な情報を提供してくれる.
 今回は,RA膝関節造影像からみた滑膜切除術の時期適応と手術法について報告し,大方の参考に資したい.

小指外転筋移行による母指対立再建術の経験—母指形成不全への応用

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   村松郁夫 ,   福田公孝 ,   三浪三千男 ,   中下健

ページ範囲:P.867 - P.873

緒言
 母指形成不全には種々の程度のものが存在し,その程度により治療法が異なる6,7).Blauth1)は母指形成不全を障害の程度により5度に分類している.Blauth分類4,5度のぶらぶら母指と完全欠損には母指化術が適応になる.また,母指球筋が欠損する2度のものに対しては対立運動の再建が必要である.各種の母指対立再建法の中で,Huber4)あるいはLittler5)が報告した小指外転筋移行による方法は,対立運動の再建と同時に母指球のふくらみが形成できる点が特徴である.
 著者らは,母指形成不全の5例に対して小指外転筋移行による母指対立再建術を行つてきた.その際,原法に改良を加えることによつて満足すべき結果を得ている.原法の手術術式の問題点と著者らが行つた改良点に検討を加えて報告する.同時に,I-II指間の形成あるいは母指MP関節の安定性獲得手術を合併していくことの重要性を強調し,その術式にも検討を加える.

Chiari骨盤骨切り長期観察例の吟味—特に年少児例について

著者: 家田浩夫

ページ範囲:P.874 - P.882

 1956年にChiariにより紹介された骨盤骨切り術は,先天性股関節脱臼後の遺残性臼蓋形成不全や亜脱臼に対し,また股脱後の二次性変股症に対して基準的な手術法の一つとなつている.Orthopädische Universitätsklinik Balgrist Zürichでは1962年10月3日に第一例が行われて以来現在に至るまで,400例以上の同手術が行われている.その予後調査はすでにWeberが1973年にスイス整形外科学会において,またSchreiberが1976年にフランス整形外科学会において200例以上の調査結果を発表している.このたびわれわれは6歳以下の年少児で同手術を施行された症例のうち,術後10年以上経過した55関節の予後調査を行う機会を得たので報告する.

習慣性膝蓋骨亜脱臼症候群について

著者: 森雄二郎 ,   黒木良克 ,   山本龍二 ,   渥美敬 ,   扇谷浩文

ページ範囲:P.883 - P.890

はじめに
 膝関節痛を訴える若年者のなかで膝蓋骨が亜脱臼位にあるために膝痛が生じたと思われる症例の報告は,本邦では少ない.しかし欧米では数多くその報告をみる.そこで我々は最近外来を訪れた若年者とくに女子の膝痛患者のなかで,膝蓋骨亜脱臼位を認めるものについて特に調査したところ,本症が注意深い臨床診断とレ線所見等で診断が比較的容易なことに気付き,しかも本邦でも稀れな疾患でないことがわかつた.過去2年間,我々は両側例4例,片側例9例,合計17関節の膝蓋骨亜脱臼例を経験したので,これらの症例の臨床症状,レ線所見,関節鏡ならびに手術所見などを検討しこれに考察を加えて報告する.

手術手技

股関節創外圧迫固定法—慢性化膿性ならびに結核性股関節炎への試み

著者: 津布久雅男

ページ範囲:P.892 - P.899

はじめに
 年長児期の股関節感染症は抗生物質の相次ぐ開発で,早期に適切な治療が行われれば決して悲観的ではない.しかし稀に骨髄炎に進行して瘻孔形成を繰り返すものや破壊性脱臼をおこすものは治療の困難なものが多い.また成人期での慢性化膿性関節炎や関節結核も多くの問題が提起される.このような症例に対しては病巣の廓清と抗生物質の計画的使用が不可欠で,炎症再燃の予防および歩行やその他の日常生活動作を容易にするという点からも関節固定術は今なお実際的で極めて有効な治療法である.
 昭和50年以来,わたくしは7例の感染性股関節炎(化膿性関節炎3例,結核性関節炎4例)に対して,創外圧迫固定装置を作り,これを用いて関節固定術を試みた.症例も増すごとに技術上の進歩もあり,問題点もかなり煮つまつてきたので報告する.

シンポジウム 最近の抗リウマチ剤の動向

最近の抗リウマチ剤の動向

著者: 七川歓次

ページ範囲:P.900 - P.905

 抗リウマチ剤として最も繁用されているのは,いうまでもなく非ステロイド抗炎症剤である.最近では新しいものが次々とあらわれてきて,選択に迷うのが実状である.というのも,効果の点でも副作用の点でも格段の差があるわけではなく,新しいものが古いものよりもすぐれているとは限らず,その選択に微妙なものがあるからである.
 二重盲検法によつて二つの非ステロイド抗炎症剤の効果を比較しても,両者に有意の差の出ることは滅多にない.むしろ副作用の方で有意差の出ることの可能性の方が大きい19).そこで実際に患者に非ステロイド抗炎症剤を投与するさいに,漫然と選んでも大差ないという印象をもつことになるが,最近ではこういうように有効率をパーセントで理解するのではなしに,患者個個について,ある薬剤に対して反応するものとしないもの,という風に理解されるようになつた.

金製剤

著者: 橋本明

ページ範囲:P.906 - P.914

 1890年,Kochによつて金塩が試験管内で結核菌の発育を阻止することが見出されて以来,金は結核や梅毒に対して試用されてきた.当時リウマチや紅斑性狼瘡も結核に起因する疾患と考えられていたため,金はしだいにこのような疾患にも用いられるようになつた,欧州において最初に慢性関節リウマチ(RA)に金を使用してその効果を報告したのはForestier1)である.その報告に刺激されて,1936年には米国でも慢性関節リウマチの金療法の報告2)がみられるようになつた.本邦においては1958年の大島ら3)の報告が最初である.金は現在もほとんど慢性関節リウマチにかぎつて使用されているが,その臨床効果はほぼ確立されたものとなつている.近年測定技術の進歩に伴い,その血中膿度・吸収・排泄などの生体内金代謝動態がしだいに明らかにされつつあるが,抗炎症剤としての金の作用機序は未だ充分に解明されていない.

D-ペニシラミン

著者: 内田詔爾

ページ範囲:P.915 - P.922

はじめに
 D-Penicillamine(以下D-Pcと略す)はペニシリンの加水分解で分離されるα-アミノ酸の一種であり,以前よりキレート作用があることが知られて,ウィルソン病や金属中毒あるいはシスチン尿(結石)症に対する治療剤として使用されている.
 1957年Deutschら1)によりD-Pcのマクログロブリンに対する解離作用が発見され,DresnerやTromblyら2),Griffinら3)がD-Pcを慢性関節リウマチ患者に使用した.いずれもリウマトイド因子と臨床症状の改善が認められたと報告している.その後外国および国内でD-Pcの慢性関節リウマチ(以下RAと略す)に対する有効性が研究され,有用であるという治療成績の報告4〜9)が多く,欧州を中心に適応症として認められつつある.D-Pcの抗リウマチ効果は,蛋白変性抑制作用,蛋白質解離作用,細胞性免疫に対する作用などで説明されようと試みられたが明らかでない.D-Pcはリウマトイド因子や免疫応答に何らかの形で作用し,抗リウマチ効果に関与していると想像されている.

免疫調整剤

著者: 吉野槇一

ページ範囲:P.923 - P.924

 関節リウマチ(RA)の原因は不明であるが,その進展には,異常免疫反応が関与していることは,周知の事実である.効果的な治療を行うためには,原因が不明である以上,現状では完治を目標とせず,その進展を阻止すればよい.その手段は異常免疫反応を抑制するか,または,観点を変えて免疫反応の異常を修正し,正常にもどすかである.異常免疫反応を抑制する薬剤には,アザチオプリン,サイクロファスファマイド,解釈に多少問題はあるが,金製剤,D-ペニシラミンなどがある.これら薬剤は正常免疫反応も抑制してしまうという欠点を有している.理想的には,異常免疫反応のみ抑制する薬剤があればよいのだが,残念ながらまだない.最近の免疫学の進歩で,RAの免疫反応で次のような異常があることが分かつてきた.
 1)多くの抗原に対する遅延型皮膚反応が抑制されている.
 2)病的滑膜,または関節液中のリンパ球が,PHAまたはConcanavaline Aに対し,その反応が弱い.
 3)これらリンパ球のSubpopulationでT-cellのパーセンテージが減少している.
 4)多核白血球やマクロファージの遊走能や貪食作用が減少している.

免疫抑制剤

著者: 居村茂明

ページ範囲:P.925 - P.932

はじめに
 抗癌剤が免疫抑制効果を持つことは,すでにその開発の初期より知られていた.また,Hektoen等がnitrogen mustardの一種であるdichloretylsulfidを兎,犬に用いて,異種赤血球に対する抗体産生が抑制されることをみたのは,遠く1921年のことである22).しかしこの免疫抑制作用が,臓器移植における拒絶反応の抑圧を経て,結合織,肝,腎疾患のもつ免疫異常の抑制に利用されだしたのは,華ばなしく登場したステロイド剤の使用が,ようやく反省期に入つたここ10〜15年のことである.
 RA,SLEを始め,結合織病と呼ばれる疾患群は,病因との関連が,いかほどのものかなお不明な点が多いものの,少なくともその病態の一部に,免疫機構の異常により表明される症状を持つている.いわゆる,鎮痛抗炎症剤は,この免疫異常に対し正常?の反応として起こつた炎症過程に介入することによつて,これら疾患の治療に利用されてきたのであるが,これを一歩進めて免疫機構そのものに介入して,治療効果を得ようとするのが,免疫抑制療法の狙いであり,理論上は治療の幅を拡げる福音でもあるが,残念ながらその作用は,非特異的で,このために実際上の,あるいは理論上予想される副作用(むしろ主作用そのものであるが)が少なくなく常に警告と共に試用されてきた.

臨床経験

骨腫瘍における99mTc-diphosphonateの集積部位について

著者: 奥野宏直 ,   石田俊武 ,   林俊一 ,   高見勝次 ,   野村正 ,   大向孝良 ,   田中治和

ページ範囲:P.933 - P.943

緒言
 骨シンチグラフィは,骨腫瘍をはじめ各種骨疾患に広く応用されている.しかし骨シンチグラムでは,骨腫瘍,骨の炎症,骨の壊死または骨折などに陽性像が見られるため,疾患特異性が得られない.それゆえ,主として骨内病巣の部位や範囲を正確に知るためや,各種骨疾患の治療効果の判定に用いられている.
 Bone-seeking agentとして,従来より47Ca,85Sr,87Sr,67Gaなどが使用されてきたが,被曝線量,半減期,入手の難易,価格などで使用に際して種々の制約があつた.しかし,1971年subramanian1)により開発され,紹介された99mTc標識燐酸化合物(以下99mTc-Pと略す)は,99mTcのため半減期も適当であり,被曝線量も少なく,大量投与が可能である.しかも99mTc-Pは血中よりの排泄が早く,骨集積性に優れており,鮮明な像が得られる.従つて現在では99mTc-Pがbone-seeking agentとして広く利用されている2〜5)

Post-traumatic lumbar spinal stenosisの2例

著者: 稲用博史 ,   片岡治 ,   栗原章

ページ範囲:P.944 - P.947

はじめに
 Lumbar spinal stenosisは,現在ではよく認識され,したがつて,その報告も多くなつている4).しかし,その大部分の症例は,国際分類におけるdegenerative typeのものであつて,post-traumatic lumbar spinal stenosisについての報告は,きわめて少ない.
 われわれは,2例のpost-traumatic lumbar spinal stenosisを観血的に治療する機会を得たので報告する.

Dorsal finger flapによる電気鉋(かんな)創の治療経験

著者: 片田重彦 ,   矢部裕

ページ範囲:P.948 - P.951

 近年電動工具の普及により,従来みられなかつたような特異な手指損傷が出現してきている.電気鉋(かんな)による手指損傷もその1例であり,治療方針に難渋する場合が少なくない.
 最近われわれは電気鉋により,示指橈側部を骨に達するまで削りとられた1例を経験し,一次的に靱帯,腱の修復および神経血管付dorsal finger flapによる植皮を施行し,良好な結果を得た.本症例の受傷機転および治療に際して得られた若干の知見について考察を加え報告する.

原発性副甲状腺機能亢進を示した2症例

著者: 荻野幹夫 ,   蜂須賀彬夫 ,   村瀬孝雄 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   小坂正 ,   小杉雅英

ページ範囲:P.952 - P.956

はじめに
 原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism)は1926年Aubによつて最初に命名されて以来,Albright1〜3),Cope7〜10)等によつて急速に病態生理が明らかにされた疾患である.本症は整形外科,内科,泌尿器科各領域に関係のある疾患で,副甲状腺ホルモン(PTHと略)の分泌過剰が直接の機序であるが,副甲状腺自体の病変のみならず,多くの腫瘍による同腺の刺激物質やPTH様物質の産生によつてもおこり得る.本症の頻度は,中検検査部生化学所見で高Ca血清を示すものより推定すると,5000〜6000検体に1例の割合39)で,我国全体では,人口比0.01%として10000人前後と考えられる35,39).本文の目的は,本症の2例を報告し,文献的考察を加える事である.

ペルテス病の治療成績

著者: 奥野徹子 ,   渡辺良之 ,   江崎正孝

ページ範囲:P.957 - P.963

はじめに
 ペルテス病の発症年齢は予後を左右する重要な因子で,年齢が若いほど良い成績が得られることはMindell,Evans,Katzらをはじめ多くの報告がなされている.他方1959年O'Garraはペルテス病を2つのグループに分けて骨頭の前方部のみ壊死に陥る前方部ペルテス病は骨頭全体が壊死に陥るペルテス病に較べて修復が完全に行なわれ,治療しなくても治癒するように思われると報告した.
 さらに1971年Catterallは97例のX線像を4つのグループに分けて年齢別,性別,治療群,非治療群の成績を報告した.

カラーシリーズ

Luschka関節の局所解剖

著者: 林浩一郎

ページ範囲:P.852 - P.855

 1858年LuschkaはDie Halbgelenke des Menschlichen Körpersなる本を著し,その中で頸椎の終板の間に3個の関節が存在すること,すなわち中央のSynchondroseと2個のSeitengelenkであると述べた,第5図は彼の原著にのったシェーマである.頸椎椎体を前頭面で切ったものであるが,椎間板両側端に小さな裂隙をもった関節が描かれている,第1図にX線と大切片でその存在部位を示した.
 以来100年余りたった現在でも,彼の言うSeitengelenkとは一体何なのか,端的に言うなら,これは関節なのか,椎間板変性によってたまたま生じた亀裂に過ぎないのか,議論が絶えない.この部は椎間孔の前壁を成し,骨棘の突出などで神経根障害を来たすので,臨床上重要な場所であることが,多数の関心をひいたと考えられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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