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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科15巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

視座

成長期のスポーツ障害—整形外科医・学会の役割

著者: 河野左宙

ページ範囲:P.1015 - P.1015

 近年スポーツが小学生から社会人,老人まで普及したことは,健康増進と明るい環境作りに大変結構なことだと思う.その中で,先年京都で開かれたSICOTのおり,日本側委員がまとめた「健康のための十訓.整形外科〕には「子供のスポーツで過度高度のテクニックは危険」の提言がなされており,また最近の各地でのスポーツ医学研究会でも,各種障害とその対策が報告されている.しかし現実には,これらに係わりなく,少年スポーツは過熱高度化の一途をたどつている.
 このときにあたり,明春開催の日本整形外科学会総会で土屋会長が「成長期骨軟骨のスポーツ障害」をシンポジウムにとりあげられたことは,科学的資料に基づいてその障害の実態を明らかにし,正しい少年スポーツのあり方を周知させる上に,時宜を得た企画といえる.近着の整形外科専門誌上で,茂原重雄氏は,「スポーツ指導者に医学教育を」と論述しておられるが,その論旨に同感である.スポーツは年齢,性,体力などに応じて,適度に行われてはじめて健康増進に役立つ.発育期の肉体,特に骨軟骨は,成人と異なり,繰返し応力により傷つき易い弱点を内蔵していることを,一般スポーツ指導者の多くは知っていない.

論述

骨巨細胞腫組織中の宿主由来細胞について

著者: 笠原勝幸 ,   山室隆夫 ,   濱島義博

ページ範囲:P.1016 - P.1023

まえがき
 言い古されて来た言葉であるが,骨巨細胞腫ほど多くの論争を惹き起こし続けてきた疾患は少ない.とりわけ,骨巨細胞腫組織中の巨細胞の起源については,それが破骨細胞の腫瘍化したものだとする英国学派と,腫瘍細胞と直接の関係を持たない非特異的な巨細胞だとする米国学派に分かれて論争を続けてきた1).一方,十数年前までは,「腫瘍組織を構成するのは同一の起源を持つ腫瘍細胞であって,起源の異なる二種類の細胞が腫瘍組織を構成するのは非常に不自然である.」と考えるのが常識であり,これが英国学派の考え方の一つの基盤でもあつた.
 しかし,最近の免疫学の進歩は,腫瘍に対する宿主反応の詳細を明らかにし,腫瘍細胞は自己増殖を続ける一方で,血行由来のリンパ球やマクロファージの攻撃を受け,破壊され続けていることがわかった.つまり,腫瘍組織は分裂,増殖する腫瘍細胞と,血液中から侵入してきた宿主細胞とが,動的にバランスを保って構成していると考えられるようになつてきた.

悪性骨腫瘍に対する免疫化学療法

著者: 武内章二 ,   赤星義彦 ,   松岡正治 ,   兼松秋生 ,   鬼頭秀明 ,   北川洋

ページ範囲:P.1024 - P.1034

はじめに
 悪性骨腫瘍に対する合理的な化学療法と手術との併用により,その治療成績は明らかに向上しつつあるが,化学療法と宿主免疫能の相関は治療上極めて重要な問題である.
 すなわち開発途上にある現時点の化学療法剤では,その全身的な副作用との兼合から進行期悪性骨腫瘍細胞の完全制圧は困難であり,抗腫瘍性の強さに比例して免疫抑制作用が強く出現する.

悪性軟部腫瘍の化学療法

著者: 後藤守 ,   山脇慎也 ,   姥山勇二

ページ範囲:P.1035 - P.1040

はじめに
 悪性軟部腫瘍の治療成績を向上させるためには的確な病理組織診断に基づいた一貫した治療が専門医チームによつて行われるのが望ましいことはいうまでもない.手術,放射線,化学療法の各分野で確実な進歩がみられるが,化学療法についてはとくにアドリアマイシン(ADM)登場以前のものは治療の主体となる薬剤に乏しく,それ以後も一定の方式が確立されているとはいいがたい.症例数が少ないことは臨床研究上の大きな壁であり,性急な結論はさけるべきであるが,悪性軟部腫瘍に対する化学療法の今日的意義については明らかにしておく必要がある.今回我々は過去9年5ヵ月間,当科に入院治療した悪性軟部腫瘍患者のうち病理組織診のほぼ確定した80症例について,昭和55年4月の時点で治療成績とくに化学療法の効果判定を行つたので,その概要を述べ,今後の治療成績の向上に資したいと考える.

臨床経験

教室における大腿骨転子部骨折の治療成績

著者: 横山巌 ,   室田景久 ,   中島育昌 ,   根本文夫 ,   串道昭 ,   藤井正和 ,   大森薫雄 ,   長谷川芳男 ,   川田英樹

ページ範囲:P.1041 - P.1049

はじめに
 大腿骨頸部骨折のうち,外側骨折は内側骨折にくらべ,骨癒合が比較的良好で(伊丹ら9)1971),保存的治療により十分な成績が得られることは,従来から強調されているところである(Murray19)1949,天児1)1961,西尾ら21)1971).しかしながら,老齢化社会が進み,頸部骨折患者の中でも,高齢化が目立ちはじめている現在,長期間の臥床中に発生する既往症の増悪や,新たに発現する続発症が高齢者の生命に及ぼす影響を考えると,可及的に早期離床が得られる治療法が,積極的に考慮されなければならなくなつている.
 我々が過去10年間に治療した,大腿骨頸部骨折331例のうち今回は,外側骨折151例につき,年齢,既往症および続発症,死亡率,手術侵襲,荷重開始時期などについて検討を加えた.また,6ヵ月以上の予後調査をし得た102例について,臨床成績とX線成績について検討したので報告する.

骨Paget病の合成ウナギカルチトニンによる治療

著者: 高橋貞雄 ,   満田基温 ,   井上雅裕 ,   坂井学 ,   小松原良雄

ページ範囲:P.1050 - P.1055

はじめに
 骨Paget病は,本邦では比較的稀な疾患で,最近までの報告は100例にみたない1,2)
 我々は4症例について,合成ウナギカルチトニン〔Asu1.7〕E・CTによる治療を経験したので若干の考察を加えて報告する.

Side-swipe fractureの人工肘関節置換による1治験例

著者: 今井秀治 ,   西本虎正 ,   鈴木康

ページ範囲:P.1056 - P.1060

 交通災害事故による傷害の程度や,その発生機転,部位は極めて多種多様で,新鮮例でも複雑な骨折型のために,解剖学的整復が困難であつたり,著明な軟部組織の損傷を合併するため著しい機能障害を残す症例も少なくない.
 著者らは,肘を車の窓から出して運転中,対向車と接触し肘部を強打した場合にみられる,いわゆるside-swipe fractureに対して人工肘関節置換術を施行し比較的良好な経過を辿つている1症例を経験したので報告する.

慢性関節リウマチに対するGeomedic型人工膝関節置換術の術後成績

著者: 宗広忠平 ,   ,  

ページ範囲:P.1061 - P.1066

 世界中で200種類以上の人工膝関節モデルがあると言われているが,なお新しいモデルが開発されている現状からしても,未だ決定的なモデルは存在しないようである.Geomedic型人工膝関節は1972年Coventryら1)によつて開発されたもので,これまでの多くの人工膝関節モデルのうちでは,世界中で最も広く用いられてきたものである.FinlandのRheumatism Foundation Hospitalでも260のリウマチ膝に対して本型人工膝関節を用いてきた.著者は1979年同病院に留学し,整形外科医長Pauri Raunioの許可および指導とStaffの協力により,術後2年以上経過した212関節について,その術後成績について検討する機会を得たので報告する.

閉鎖式股関節固定術の経験

著者: 星井浩一 ,   三国義博 ,   青柳孝一 ,   石垣一之 ,   寺島嘉昭

ページ範囲:P.1067 - P.1073

緒言
 人工関節をはじめ股関節に対する各種の新しい手術方法が進歩した現在でも,股関節固定術が適応となる症例は少なくない,その手術術式として古くから多数の方法が提唱されてきたが,今日では河野慣用法5),Watson-Jones14)の方法,A-O式cross-plate法9,10)などがよく行われている.これらの方法では,1)大腿骨頭と臼蓋の関節面の新創化,2)関節内骨移植,3)金属による内固定の3点を行うことが基本であるが,その手術手技は複雑であり手術侵襲も大きい.
 一方,Henssge3),Somerville11)などは関節部にまつたく侵襲を加えず,また関節内外骨移植もせずに,内固定金属の挿入のみを行つて股関節を骨性癒合させる方法を報告している.いわば閉鎖式股関節固定術と呼ぶべき方法である.

小児の手指切断皮弁再接着の1例—動・静脈吻合術のみでの生着例

著者: 西上茂樹 ,   川西康之亮 ,   広瀬保 ,   松田英雄

ページ範囲:P.1074 - P.1076

いとぐち
 マイクロサージャリーの普及により切断指再接着術は容易となつてきたが,適応の決定は難しい問題を含んでいる.私達は可能な限り再接着術を試みる方針で取りくんできた.今回,小児の手指切断皮弁の静脈に断端側の指動脈のみを吻合し,その生着に成功した.これまで母指切断皮弁の成功例の報告はMorrisonら8)により報告されているが,かかる動・静脈吻合による再接着例の発表はみられない.そこで,本例に考察と反省を加えて報告する.

骨肉腫に対するMethotrexate大量療法の経験—Methotrexate血中濃度と副作用との関係について

著者: 横川明男 ,   富田勝郎 ,   島巌 ,   宗広忠平 ,   中村孝 ,   清水俊治 ,   野村忠雄 ,   山田義夫 ,   千葉英史

ページ範囲:P.1077 - P.1084

緒言
 骨肉腫は,切断術を施行することにより,完全に病巣部を除去できるにもかかわらず高率に肺転移をきたし,死の転帰をとる予後不良の腫瘍である.骨肉腫の治療上,最大のポイントはいかにして肺転移を予防し,また治療するかにあるが,現段階では化学療法に頼らざるを得ない.
 近年,欧米諸国で,high dose Methotrexateの骨肉腫に対する有効性が報告されて以来,本邦でも積極的に採用されるようになつてきた.われわれも,昭和52年より骨肉腫患者に対して,Adriamycin+Vincristine+high dose Methotrexate-Citrovorum Factor rescue(A+V+MTX-CF)療法を中心とする化学療法を試みている11).効果に関しては有効であるという印象を持つているが,まだ日も浅く,症例も少ないので判定するには至つていない.

右後仙腸靱帯より発生した稀な巨大ガングリオンの1例

著者: 広畑和志

ページ範囲:P.1085 - P.1087

はじめに
 ガングリオンは関節包,腱鞘,靱帯や半月板,骨など中胚葉性組織のある部位から発生するが,70〜80%は手部に好発する.大関節ほどガングリオンは大きいといわれている.
 最近,著者は右仙腸関節部より発生し殿部にまで達していた稀な巨大ガングリオンを剔出する機会があつたので報告する.

手掌部に発生したepithelioid sarcomaの1例

著者: 須田曉 ,   渡辺誠 ,   西川英樹 ,   肥留川道雄 ,   宇佐美文章 ,   子田純夫 ,   金子仁

ページ範囲:P.1088 - P.1092

はじめに
 Epithelioid sarcomaは1970年Enzinger3)がgranulomaまたはcarcinomaに類似した非定型的な肉腫を臨床病理学的に再調査し,新しいカテゴリーとして発表した.その後米国での報告1,2,6〜9)が続いてみられるが,本邦での報告は殆んどない.我々の症例は1974年第397回整形外科集談会東京地方会12)で口演した本邦嚆矢の1例であるが,今回その臨床経過を述べ,若干の文献的考察を加えて報告する.

術前CTが有効であつた脊髄脂肪腫の1例

著者: 町田英一 ,   清村忠雄 ,   後藤典彦 ,   松崎浩己 ,   鳥山貞宜

ページ範囲:P.1093 - P.1097

はじめに
 Computerized tomography(CT)は1972年,英国のG. N. Hounsfield5)により開発され,1974年whole body CT8)が実用化されて以来,整形外科領域でも骨変化を伴う脊椎疾患を中心に有用性が確立されつつある.しかし,軟部組織である脊髄疾患に関しては,今まだその利用度は少ないように思われる.
 今回,我々は比較的稀な脊髄脂肪腫で,特異的な術前CT像を得た一症例を経験したので若干の文献的考察を加え,その診断的価値について検討した.

大腿骨内顆に原発したfibrous xanthomaの1例

著者: 吉岡裕樹 ,   渡辺優 ,   八尾修三 ,   戸祭喜八

ページ範囲:P.1098 - P.1101

はじめに
 69歳の女性でX線像では大腿骨内顆に巨細胞腫に似た陰影を示しながら,組織学的にfibrous xanthoma of boneと診断され加療された1症例について文献を引用しながら骨腫瘍診断の難しさを考察し報告する.

カラーシリーズ 義肢・装具・10

動力義肢装具

著者: 加倉井周一

ページ範囲:P.1010 - P.1013

I.定義および歴史
 動力義肢装具とは義肢または装具をコントロールするためのエネルギー源を外部の源泉(電気,空圧,油圧等)に依存するものである.
 歴史的にみると第二次世界大戦後にまず動力義手の開発が各国で着手されるようになった.1952年に西ドイツ・ハイデルベルク大学のHäfner,Lindemann,Marquardtらによる圧縮炭酸ガスを用いたガス義手の開発3)4),1945年にリヒテンシュタインのVaduzにいたWilmsの電動義手(筋の動作自体をスイッチにしたもの,感覚フィードバックも備えており,後にフランスで改良を加えてVaduz Handとして市販された),ソビエトのモスクワにあるロシア共和国社会保障省直属の中央義肢装具研究所が1960年に世界で初めて実用化に成功した前腕用筋電義手などがあげられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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