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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科15巻12号

1980年12月発行

雑誌目次

視座

運動神経支配機構の可塑性

著者: 津山直一

ページ範囲:P.1111 - P.1112

 ヒトの運動神経の支配様式はでき上れば一定不変というものでなく融通のきく可塑性が十分存在し,このことが運動練習や学習の効果の上がる基礎となつており,整形外科の機能再建,PTやOTの機能訓練,治療体操もこの原理にもとづくものである.先天的に上肢機能の失われたサリドマイド児や,脳性麻痺児が如何に巧みに足指を使つて巧緻な作業を遂行するかは驚くべきものがあり,筆者は両足を使つてラジオを組み立てた脳性麻痺児を経験している.これらの人々の日常生活動作はほとんど足を使つて行つているが,このような人では当然大脳皮質の中心前回にある運動野のPenfieldの機能局在図は変化し,大きな手指の中枢に代つて足指の中枢が少なくとも機能的には大きくなつているであろう.
 これらは運動神経支配機構の可塑性を端的に物語るものであるが,運動神経中枢が完成した成人においても認められるこのような可塑性は,現段階ではニューロンのシナップス前線維末端から放出される伝達物質の量が変化することに関係があるとされ,くりかえし使われるシナップスでは伝達効率がよくなると考えられており,効果の持続の長いシナップスの存在も知られている.また,ニューロン自体の形態学的な変化すなわちシナップスの成長や肥大が起こるとする考えや,記憶を保持するにあずかる特殊な物質の増加が可塑性を与える因子の一つであるとする仮説もある.

論述

股関節のidiopathic chondrolysis

著者: 岩崎勝郎

ページ範囲:P.1113 - P.1121

はじめに
 股関節のchondrolysisは種々の起炎菌による感染性股関節炎やリウマチ性疾患の一症状として,あるいは大腿骨骨頭辷り症の合併症としては,しばしばみられるものであるが,これら疾患を伴わないものをJones(1971)8)はadolescent chondrolysis,Wengerら(1975)17)やDuncanら(1979)5)は,idiopathic chondrolysisという名でそれぞれ9例,2例および8例を報告している.その他にもHeppenstall(1973)7),Golding(1973)6),柘植ら(1977)14)なども,大腿骨骨頭辷り症とは関係なく発症したchondrolysisを記載しているが,われわれもこれらと同じ範疇には入ると思われる4例4関節を経験したので,それらの概要を報告すると共に,その発生原因,治療,鑑別診断などにつき検討を加える.

膝関節のanterolateral rotatory instability(ALRI)の病態と治療法について

著者: 史根生 ,   那須範満 ,   福島文雄 ,   川崎崇雄 ,   広瀬一史 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1123 - P.1129

はじめに
 膝関節の靱帯や,関節包の損傷によるRotatory,InstabilityはSlocumのAnteromedical Rotatory Instability(以下AMRIと略す)に関する報告15)以来,とりわけ本邦では,AMRIにのみ意を注いできた感がある.しかしながら,疼痛および怖さ("Apprehension")を伴い,Giving wayを生じるAnterolaterl Rotatory Instability(以下ALRIと略す)も,またまれなものではない.1971年のGalway4)の報告以来,その病態や,診断法は徐々に明らかにされつつあり,またその手術法も,多数,発表されている.
 このALRIという呼称は,主にHughston7)により,提唱されているもので,Galwayらは,"Pivot shift syndrome5)"と呼んでおり,また中嶋は,「前十字靱帯機能不全症候群13)」("Anterior cruciate ligament insufficiency syndrome")と呼んでいる.一方,Kennedyは,最近の著書9)の中で,"Anterolateral Rotatory Instability approaching extension"という表現を用いている.これらはいずれも同一の病態を指すものと考えられ,こういつた呼称の混乱は,膝関節の靱帯性不安定性(Ligamentous Instability)の分類の確立と共に,整理される必要があろう.

膝半月切除の長期予後—単純レ線変化を中心に

著者: 姫野信吉 ,   光安知夫 ,   豊永敏宏 ,   近間英明

ページ範囲:P.1130 - P.1139

はじめに
 膝関節半月板切除術後において,単純レ線上多くの変化(いわゆるosteoarthritic changes:以下OA様変化)が出現してくることは良く知られている.しかし,その病的意義,特に臨床症状との関連は必ずしも明確でない.
 本報告において,われわれは術後平均21.2年の長期経過例の観察に基づき,1)半月切除後のOA様変化の起こり方の特徴,時間的経過,2)OA様変化の病的意義,とくに臨床症状との関連,の二点に焦点を合わせ分析を進める.

胸腺細胞移植により発症するマウス実験的関節炎の発症機序について

著者: 越智隆弘 ,   田辺鎮雄

ページ範囲:P.1140 - P.1146

 慢性関節リウマチ(RA)その他の慢性関節炎の発症および慢性化のメカニズムについては長年の多くの研究にもかかわらず不明なことが多く残されている.その解明のための一つの手段として実験的関節炎の開発とその解析が行われてきている.一つの問題はいかにしてRAに類似した関節炎をつくるかであり,さらにはいかにすれば炎症を持続させえるかである.マイコプラズマなどの病原体を用いる実験的関節炎1)の他,アジュバント関節炎2),連鎖状球菌の細胞壁を用いる関節炎3),II型コラーゲンをアジュバントとともに注射することによる関節炎4),さらに予めアルブミンやフィブリンなどの抗原にアジュバントを加えたもので免疫した動物の関節内に抗原を注入することによるAntigen induced arthritis5,6)などが代表的なものであり,それぞれ,多くの研究成果をあげている,それらはいずれも,アジュバント,コラーゲン,細菌壁などの難溶で生体内から除去されにくい物質による遅延型アレルギー反応によるものと考えられている.
 われわれは近交系のBALB/cマウスの活きた胸腺細胞をやはり近交系のC3H/Heマウスの腹腔内に注入することにより,RAに酷似した所見を示す慢性多発性関節炎を誘発させえることを見出しその詳細の解明とともに発症メカニズムについての研究を続けているので7)関節炎発症および慢性化の解明への一つのアプローチとして概略を述べる.

J-O式プレートについて

著者: 田中潔 ,   伊丹康人 ,   吉田孝太郎 ,   布村成具 ,   肥後矢吉

ページ範囲:P.1147 - P.1155

緒言
 骨折の観血的整復術には,多数の内固定法がある.なかでも,プレートは最もしばしば使用されており,従来から多くの臨床経験に基づいて,いろいろなタイプのものが考案されてきた.しかし,未だその固定力,骨に与える影響など,基本的問題に関する研究が十分になされているとは言い難い.
 この点に鑑み,当教室では数年前より,工学部の専門家の協力を得て,プレート固定法におけるいくつかの問題点,ならびに理想的なプレート固定法の条件,などについて検討してきた.その結果,慈大型(J-O式)プレートを開発したので,若干の考察を加えて紹介する.

腰痛疾患における下肢の血行障害について

著者: 荒井三千雄 ,   阿部栄二 ,   斎藤晴樹

ページ範囲:P.1156 - P.1162

はじめに
 椎間板ヘルニア,変形性脊椎症,脊柱管狭窄症などの腰椎疾患に伴う下肢の症状は,単に神経根の刺激や圧迫による痛み,脱力だけではなく,下肢の冷感など血行障害を思わせる訴えをもつものが少なくない.また,脊柱管狭窄症に特徴的な症状とされている間歇性歩行障害も症候のうえからは動脈の閉塞性疾患のものと区別しにくく,下肢の冷感とともに,これらの腰椎疾患においては下肢に何らかの血行障害を伴つている可能性が考えられる.この問題について若干の検討を加えて考察してみたい.

頸椎後縦靱帯骨化症脊髄症に対する保存的治療の検討

著者: 冨永積生 ,   保野浩之 ,   生越英二 ,   馬庭昌人 ,   多原哲治 ,   村上哲朗

ページ範囲:P.1163 - P.1171

はじめに
 私共は本症に対し,進行性の症例に対しては,症状,椎管狭小度がいかんであれ,前方椎間固定術にて手術的に対処してきた.
 第1図の症例は45歳の女性で歩行不能,C2-3-4,C6-7の混合型骨化で,これらの部で椎間可動性は減少,とくにC6での骨化は椎管を60%も狭小させ,すなわち40%の狭小椎管となるも,椎間可動部のC4-5,C5-6間の固定で正常な歩行まで回復した.

対立可能な三指節母指—末節骨の多指変化について

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   福田公孝

ページ範囲:P.1172 - P.1175

緒言
 三指節母指は,対立運動が可能なものと不可能なものに二大別される3).後者は,母指球筋の形成障害を高率に合併し,母指形成不全の一型と考えられている9).一方,対立可能な三指節母指は,しばしば母指多指症や裂手症を伴うところから,これらの奇形との関連性も論じられているが,推測の域を出ていない1,6,7,10).とくにHaas2)は1939年に,単独に発生した三指節母指の末節骨に重複変化を観察し,これを"かものはしのくちばし"と形容して,多指症との関連性を示唆したが,広く注目されるまでにはいたつていない.著者らは今回,対立運動の可能な三指節母指の単独発生例の末節骨のX線像を観察し,重複変化が高率に発生していることを確認した.三指節母指の成因を考えるうえで興味ある所見と思われるので報告する.

臨床経験

環軸関節後方脱臼と椎骨動脈閉塞を伴つた慢性関節リウマチの症例

著者: 樋口正隆 ,   中川智之 ,   宮本銈造 ,   里見和彦

ページ範囲:P.1176 - P.1180

はじめに
 慢性関節リウマチ(以下RAと略す)患者は,しばしば上位頸椎病変を伴うが,われわれは,極めて稀な環軸関節回旋後方脱臼により,椎骨動脈閉塞を認めた症例を経験し,治療する機会を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

野球中half swingでおこった遠位上腕二頭筋腱皮下断裂の1例

著者: 広畑和志

ページ範囲:P.1181 - P.1184

はじめに
 遠位上腕二頭筋腱の皮下断裂の報告は外国では比較的多いが,本邦では安田,浜田らの2例に過ぎない.
 野球の打撃中に起こつた1例に手術を行い,1年6ヵ月経た症例を報告し,2〜3の問題点について検討を加える.

頸髄砂時計腫を呈した悪性リンパ腫の1例

著者: 陶山哲夫 ,   林浩一郎 ,   矢吹武 ,   田淵健一

ページ範囲:P.1185 - P.1188

はじめに
 脊髄砂時計腫は比較的まれなものであり,硬膜下腔および椎管の内外にまたがり,その脱出部で絞扼されて砂時計状をなすものをいう.
 砂時計腫には神経鞘腫や神経線維腫などの神経性腫瘍が多いが,最近私達は頸椎部に発生した砂時計腫で,悪性リンパ腫と診断したまれな症例を経験したので報告する.

小児の頸椎椎間板石灰化症の2例

著者: 吉岡裕樹 ,   戸祭喜八 ,   庄智矢 ,   金原宏之

ページ範囲:P.1189 - P.1192

はじめに
 小児の椎間板石灰化症は現在までの症例報告の積み重ねによりしだいにその実態が明らかにされ,もはや珍しい疾患ではなくなるのは時間の問題と思われる.今回2例を報告し,病態を文献的に考察した.

殿筋拘縮症の治療経験

著者: 和田文夫 ,   野村茂治 ,   佐田博己 ,   近藤正一 ,   佐伯満 ,   大石年秀

ページ範囲:P.1193 - P.1200

はじめに
 殿筋拘縮症は正坐すると股が開く,椅子に坐つて膝が組めないなどの症状を呈する大殿筋を中心とした股関節伸展および外旋筋のfibrosisである.すなわち正常股関節では屈曲位で約30゜程の内転が可能であるのに殿筋拘縮症では正中位あるいは内転位での屈曲が制限され,さらに屈曲しようとすると開排位をとる(第1図).
 殿筋拘縮症の患者は三角筋拘縮症とともに稀で,1970年に豊田13),Fernandez1)が国内外で最初に報告している.以後発表件数は少なく我が国では約10件の手術報告があるにすぎない.1977年よりわれわれは3名の殿筋拘縮症を診断し,手術を行い経過も良好であるので症例を報告し考案を加える.

橈骨神経深枝が橈骨頭の背側へ圧排され,麻痺をきたしたMonteggia骨折の治療経験

著者: 西口健二郎 ,   矢部裕 ,   山口修 ,   彦坂一雄 ,   大久保和彦

ページ範囲:P.1201 - P.1204

はじめに
 Monteggia骨折は1814年Monteggiaにより初めて報告されて以来,本邦でも多数の報告がなされ,合併症として椀骨神経麻痺のみならず,尺骨神経麻痺,遅発性後骨間神経麻痺の報告もなされている.
 最近われわれは,前外方へ脱臼した橈骨頭の背側に橈骨神経深枝が転位し,同神経麻痺を呈した興味あるMonteggia骨折を経験したので若干の考察を加えて報告する.

カラーシリーズ 義肢・装具・11

骨格構造義肢

著者: 青山孝

ページ範囲:P.1106 - P.1109

 従来,義肢の名称は,上腕義手やPTB義足のように切断部位やソケットの形式,あるいは特有な機能などから与えられて来たが,1960年代の終り頃に新しい名称(分類)が登場した.内骨格型義肢(endoskeletal prosth.)がそれである.それまでの義肢は,すべて,外表部に支持強度を受け持たせた外骨格型(exoskeletal or crustacean type)であるのに対して,内骨格型は,生体のように中心部に支持構造をもち,その周辺を軟部組織に当る伸縮性を持った軟らかい材料でおおって四肢の形に似せる.当然,外骨格型のような外表面の硬さ,つや,冷たさがなく,自然肢に近い外観上の有利性を備えている.以上は義肢の形に対して与えられた名称であるが,同じ頃,義肢の構成に与えられた名称も新たに加わった.モジュラー義肢(modular prosth.)がそれであり,義肢を継手や手先,足部などの構成単位(module)の集合体として設計し,いくつかの,互換性のあるモジュール間の連結方法を工夫することで,簡単な工具を使って短い時間で義肢に組み立てたり分解したりができるようにしたものがある.このモジュラー義肢の発展したものがシステム義肢(system proth.)と呼ばれ,名の示すとおり,機能やサイズの異なったモジュールを各種とり揃えていて,個々の必要に応じた義肢を作ることができる.

整骨放談

保存科

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.1205 - P.1205

 わたくし事で甚だ恐縮であるが,わたくしは青池勇雄名誉教授のお口添えで,この春から東京医科歯科大学の歯学部第二保存科の砂田又男教授のご厄介になつてきた.
 元来,わたくしは歯性の良いことが自慢で,下世話でいうハ,○,メはわたくしにおいてはメ,○,ハだといつて笑つてきたものである.事実,一両年前まではどんなかたいものでも噛んで食べられ,しかもそれが全部自分の歯でできたものである.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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