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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科15巻3号

1980年03月発行

雑誌目次

特集 脊椎腫瘍(第8回脊椎外科研究会より)

巻頭言/脊椎腫瘍,診断と治療—その現状と動向

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.215 - P.215

 原発にせよ続発にせよ,こと脊椎腫瘍の臨床における困難性は,その診断から治療にいたる全経過を通じて四肢のそれと比較できない側面をもつている.それは脊椎が体幹にあつてそれ自体複雑な形態をもつていることのみならず,脊髄神経を包含していること,および,これと密接に関連しつつ常に脊柱の支持性運動性が要求されることにもとづく.
 脊椎腫瘍の外科という点についてみても,したがつて,自ずから手技上の限界は将来にわたって残されることであろうし,ましてや腫瘍患者の予後は腫瘍本来の悪性度如何とともに,基礎から臨床にいたる一貫した進歩に俟たねばならないとみるべきであろう.しかし今や,基礎腫瘍学も長足の進歩をみせ,多くの抗腫瘍薬剤の開発,新たな放射線治療,さらに近い将来には腫瘍免疫学の発展実用も夢ではなく,また,われわれ整形外科医のひたむきな外科的挑戦の歴史は脊柱構築の再獲得と腫瘍根治に格段の進展をもたらしてきた.

Needle biopsyによる脊椎腫瘍の診断について

著者: 山口芳英 ,   服部奨 ,   河合伸也 ,   西嶋雋嘉 ,   吉田義夫 ,   千束福司 ,   多原哲治 ,   小山正信 ,   開地逸朗 ,   河野清 ,   平田晴夫 ,   森脇宣允

ページ範囲:P.216 - P.223

はじめに
 脊椎腫瘍はX線上多彩な形態を呈し,結核,椎間板炎等の炎症性疾患や椎体の圧迫骨折,骨粗鬆症など他の疾患との早期鑑別が必要である.脊椎腫瘍の補助診断法として最近,骨シンチ,断層撮影,CT scanなどが実施されているが,これらの検査のみで確定診断が得られるとは限らず,病巣部を直接穿刺して病理組織学的検査ができれば診断の有力な手がかりとなる。椎体のneedlebiopsyの目的は目的とする部分から小さい侵襲で必要十分な組織を安全・確実に採取して診断を確定することにある.私達はまず椎体のneedle biopsyを確立するために,屍体(30体)で椎体周囲の位置的関係を調査し12),その上で安全な穿刺方法を確立し,昭和40年より現在まで229例241椎体に実施してきた.今回はその中から脊髄腫瘍74例の診断結果と椎体のneedle biopsyの一般的手技についてのべる.

脊椎腫瘍—過去15年間の治療法の検討

著者: 檜垣昇三 ,   立石昭夫 ,   津山直一

ページ範囲:P.224 - P.231

はじめに
 脊椎に発生する腫瘍は,比較的少なく,東大整形外科骨腫瘍登録例1,900例中,約150例余で1割にも満たず,なかんずく,原発性脊椎腫瘍はめずらしい.しかも,X線学的に診断が難しく,脊椎の解剖学的構造の特殊性により治療に難渋する場合が少なくない.今回,当科における脊椎腫瘍を検討し,脊椎腫瘍の臨床像,治療法について検討したので報告する.

原発性脊椎腫瘍—64治療例の検討

著者: 金田清志 ,   樋口政法 ,   野原裕 ,   小熊忠教 ,   本間信吾 ,   佐藤栄修 ,   松野丈夫 ,   山脇慎也 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.232 - P.241

緒言
 脊柱は体幹の中心支柱としての支持機構の役割と,脊柱管内で脊髄や馬尾そして根などの神経組織を保護する役割とを担っている.そのため脊椎が腫瘍でおかされると複雑な問題を提起してくる.臨床症状は変性疾患や炎症疾患と類似しており,その鑑別診断が重要である.原発性脊椎腫瘍は転移性脊椎腫瘍と比較すると頻度は少ないが重要である.原発性良性脊椎腫瘍は小児や若年者に多く,原発性悪性脊椎腫瘍は壮年層に多い.転移性脊椎腫瘍は如何なる悪性腫瘍からもおこり得るので(Francis & Hutter,1963)4),脊椎疾患診断にあたっては慎重を要する.過去20年間で当科にて治療経験した原発性脊椎腫瘍の検討をした.

原発性脊椎腫瘍にたいする手術療法の検討

著者: 松井宣夫 ,   井上駿一 ,   館崎慎一郎 ,   勝呂徹 ,   高田典彦 ,   保高英二 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.242 - P.251

はじめに
 原発性脊椎腫瘍の発生頻度は,四肢に発生せる骨腫瘍のそれに比しては少ない.脊椎の複雑な解剖学的特殊性により,その早期診断はきわめて困難である.しかし近年の診断法10,14,16,17,25,27〜29)ならびに脊椎外科における進歩1,4,5,10,21,22,29)により,本腫瘍の病巣直達手術がかなり積極的に行い得るようになつて来た.とくに椎体の構築学的破壊のあるものでは体内固定としてハリントン手術4)など各種のinstrumentation surgeryの導入やmethylmethaacrylate cementの使用21)により,より強固な脊柱の支持性の獲得が可能となつてきたことなどにもよる.
 著者は過去15年間に当科において手術が行われ,かつ予後の判明している原発性脊椎腫瘍手術症例につき述べ,本腫瘍の手術適応,術式,成績などにつき検討を行つた.

脊椎の骨巨細胞腫

著者: 川津伸夫 ,   山本利美雄 ,   荻野洋 ,   児島義介 ,   岡田孝三 ,   浜田秀樹 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.252 - P.258

はじめに
 骨巨細胞腫は長管骨骨端部,とりわけ大腿骨遠位部,脛骨近位部,橈骨遠位部に好発し,脊椎に発生することは稀である.諸家の報告では,骨巨細胞腫の中で脊椎のそれの占める割合は2〜7%で,仙骨を除いた脊椎に発生することは一層稀である(第1表).特に1940年Jaffe7)らによつて骨巨細胞腫の概念が確立され,動脈瘤性骨嚢腫aneurysmal bone cyst,孤立性骨嚢腫solitary bonecyst,良性軟骨芽腫benign chondroblastoma等のいわゆる"giant cell tumor variants"がはつきりと区別されるようになってからは,脊椎の骨巨細胞腫の報告は少ない.文献的に,脊椎の骨巨細胞腫を詳細に報告しているのはWhalley13)(1958)の4例,Berman(1964)1)の5例,Larsson(1975)8)の5例,Dahlin(1977)3)の31例,他にHess(1960)5),Sterner(1971)12),笹井(1961)18),加藤(1963)15),宇賀(1967)20),加藤(1968)16),井上(1977)14)らの1例報告を見るにすぎない.

Histiocytosis X—とくに脊椎の変化を中心として

著者: 大岩俊久 ,   村上宝久 ,   熊谷進 ,   井上慶三 ,   小出亮

ページ範囲:P.259 - P.265

はじめに
 Histiocytosis Xは主として小児期にみられる疾患であり,そこに特殊性があるといえる.すなわち,成長期にある患児は回復能力が大きい反面,診断・治療のために徒らに大きな侵襲を加えれば,その影響は成人と比べて多大となり,決して得策ではない.幸い,一部のものを除いて一般に全身的予後は良好であり,また骨病変の予後も同様に良いと考えられており,なおさら過剰な検査・治療に陥らないようにしなければならない.
 一方,脊椎は本疾患の好発部位の1つであり,その報告例も少なくない.特に1954年Compereら1)が,Calve扁平椎様X線像を呈した4症例が,すべて本疾患によるものであることを組織学的に確認してから,histiocytosisXにより特徴的な扁平椎が惹起されることが,広く認識されるようになつた.しかしその病態に関してはいまだ不明の点が多く,また治療についても種々なる方法が経験的におこなわれているのが現状である.

出血性椎体腫瘍に対するembolizationと術前spondylectomyについて

著者: 有馬亨 ,   今井望 ,   森謙一 ,   町田信夫 ,   渡部恒也

ページ範囲:P.266 - P.272

 出血性椎体腫瘍の手術療法はいずれの方法でも危険が多いことは周知の事実であり,単なる除圧目的でも相当量の出血に遭遇することがある.とくに椎体に直達するspondylectomyではなおさらで,その成否の鍵はひとえに出血対策にかかつている.
 近年selective angiographyの技術が確立されて脊椎腫瘍にとつて栄養動脈の情報が正確に得られるようになつた.これに伴つて脳神経外科領域で主としてarteriovenous malformationの治療に開発されたarterial embolizationが,1970年以後脊椎外科にも導入されるようになつた.本法は易出血性病巣の栄養動脈を人工的に塞栓するもので,これにより椎体腫瘍の出血対策にも新たに活路が開かれた.我々はさきに頸動脈球腫瘍の脊椎転移例を経験したのをきつかけとして出血性椎体腫瘍の術前embolizationについて,第27回東日本臨床整形外科学会および第6回西太平洋整形外科学会で発表して来たが,今回自験3症例をまとめて報告し,その有用性ならびに今後の問題点などについて述べてみたい.

脊椎の転移性腫瘍における脊髄病変

著者: 荻野洋 ,   小野啓郎 ,   浜田秀樹 ,   岡田孝三 ,   山本利美雄 ,   児島義介

ページ範囲:P.273 - P.282

はじめに
 脊椎の転移性腫瘍によるmyelopathyの発生原因は,脊髄静脈系の灌流不全によるうつ血浮腫であるといわれている.その脊髄病変は白質の変化が強く,いわゆるstatus spongiosa,edematous malaciaといわれる浮腫性変化や1,3〜8),後索部にみられる軟化融解像4)が主である.今回,著者らは生前における臨床像を詳細に観察し,その脊髄病変との関連性を求め,転移性腫瘍によるmyelopathyの発生機序について検討を行つた.

転移性脊椎腫瘍の単純レ線・骨シンチおよびCTスキャンの検討

著者: 石村俊信 ,   小野村敏信 ,   遠藤紀 ,   山本定 ,   倉重哲也 ,   坂田恒彦 ,   関本巌

ページ範囲:P.284 - P.291

はじめに
 近年,悪性腫瘍原発巣に対する診断,治療法は,めざましい進歩を遂げつつあるが,転移巣の診断,治療に難渋することが少なくない.海綿骨は肺・肝と共に転移頻度の高い臓器として知られている.特に脊椎は転移の好発部位であるが,脊椎のレ線像は他臓器と重なるために,転移などが小病巣の場合は診断がつきにくいことも多く,その早期発見は容易でない.
 99mTcリン酸化合物による骨シンチグラフィーは,この物質が骨組織に親和性が強く,短時間で良好な全身像が得られるため,骨転移の早期発見に非常に有用である.また最近開発された全身CTスキャンは,脊髄像の描写は困難であるが,脊椎およびその周囲組織を十分に鮮明に描写することができ,脊椎疾患の診断に応用されている.

転移性脊椎腫瘍と脊椎カリエス—X線所見からみた鑑別診断

著者: 満足駿一 ,   渡辺俊彦 ,   中井定明 ,   藤村祥一 ,   柴崎啓一 ,   大谷清 ,   野町昭三郎

ページ範囲:P.292 - P.300

はじめに
 今日,脊椎疾患の分野においては,X線検査法以外にも種々の診断方法が開発されており,それらの普及と共に,診断の精度は著しく向上した.しかし,どのような方法を採るにせよ,確定診断を委ねられる程の特異性と精度の両方を兼ね備えた単独の方法というものは今もつて無く,現状ではそれぞれの方法も,あくまでも補助診断法としての一定の役割を持つに留つている,成程一部には,悪性腫瘍の検索は,従来の全身骨X線検査法に替つて,最早,骨シンチグラフィーによるべきであるという主張もある程に,骨シンチグラフィーは,病巣の発見やその局在と範囲に関しては,秀れて鋭敏に感知するが,しかし残念ながら,いまだ疾患の性状を充分識別するに至つていない.また,たとえ骨生検によつてさえも,組織学的あるいは細菌学的に陽性所見を得るまでは,確定診断を下し得ないことは周知の通りである.さて,後に示すように,近年わが国では,脊椎カリエス(以下,単にカリエスと略す)の患者は,着実に減少の一途を辿つており,陳旧例を除けば,新鮮な実際の症例に接する機会は一般には極めて少なくなつた.

転移性脊椎腫瘍の治療とその成績について

著者: 川口智義 ,   荒井孝和 ,   和田成仁 ,   金田浩一 ,   杉山丈夫 ,   古屋光太郎 ,   網野勝久 ,   山浦伊裟吉 ,   奥山武雄

ページ範囲:P.301 - P.313

はじめに
 転移性骨腫瘍は,全国骨腫瘍患者登録一覧表(昭和39年〜昭和52年)においても6076例32)の登録がなされており登録骨腫瘍中最も頻度が高く全登録骨腫瘍の約30%にあたる.しかし癌腫の骨転移例の大部分は,原発巣の治療を行つている外科系各科にて扱われていることが多く登録されたこれら症例はその一部に過ぎない.そのため転移性骨腫瘍の実数ははるかに多いと考えられ,その実態の把握は難しい.中でも脊椎骨は転移性骨腫瘍の最も好発する部位として知られる.それだけに整形外科日常治療に際しては,しばしば治療法の適切な選択が要求されている.しかし,これら治療法は根治性に乏しいこともあり,これまで我々臨床家の興味はむしろ原発性骨腫瘍に向けられていたとの感が強い.これまでの治療法について反省してみると,全くの対症療法に終始したり,手術後数ヵ月で死亡し,手術適応を間違つたと反省させられる例が認められる.これらの反省より本稿では,これまで主として癌研および東京医科歯科大学で扱つた転移性脊椎腫瘍中全経過を通じ臨床データと各種治療法の効果や予後の判明している症例を選び検討し転移性脊椎腫瘍の治療方針なるものに考察を加える.

脊髄圧迫を生じた転移性脊椎腫瘍にたいする除圧手術と保存療法の比較

著者: 岡村博道 ,   加藤文雄 ,   安藤義治 ,   林弘道 ,   岩崎三樹 ,   山田博隆 ,   松田弘彦

ページ範囲:P.314 - P.317

はじめに
 脊椎の悪性腫瘍により脊髄圧迫麻痺を生じた場合,手術的に圧迫を除去して麻痺を回復させようと試みることが妥当であろうか.
 最近われわれが経験した数例の印象では,椎弓切除術をおこなつた症例で期待したような麻痺の回復が得られず,むしろ死期を早めた可能性があり,反対に保存的に治療した症例で予想外に麻痺の回復がみられたものがあつた.そこで当科に入院した脊椎悪性腫瘍のうち,脊髄圧迫を生じて歩行困難となつた症例の治療結果について調査した.

総括

脊髄腫瘍の部

著者: 平林洌

ページ範囲:P.318 - P.320

 このセクションでは,脊髄腫瘍の診断ならびに治療について,各施設から貴重な症例や多数の経験例に基づいた興味深い報告がなされ,本症治療上のいくつかの問題点,あるいは今後の課題が浮き彫りにされた.
 Aセクションは辻教授の司会により,個々の症例を中心とした報告がなされた.

原発性良性脊椎腫瘍Aの部

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.321 - P.322

 II-Aのセクションでは,脊椎に発生したeosinophilic granulomaについての3題,fibrous dysplasiaについての3題,desmoplastic fibroma 1題が発表された.それで個々の疾患別に,総括を述べることにする.

原発性良性脊椎腫瘍Bの部

著者: 大谷清

ページ範囲:P.323 - P.324

 II-B-1の東京医大呉氏らは頸椎の黄色靱帯石灰化の4例を報告した.いずれも50歳〜60歳台の女性である.本症はX線写真のみでなく,CT像が診断を確実にしている.脊髄症状を呈した3例にenbloc laminectomyを行い,石灰化層を摘出している.頸椎に発生する本症は比較的稀であるが,新潟大本間氏はmyelopathyを呈した本症の5例を経験したと追加し,無症状のものを含めればかなりみられるのではないかと述べている.
 II-B-2の神奈川リハビリテーションセンター林氏らは脊髄症状を伴つた第5,6胸椎椎間関節より発生した軟骨腫に後方進入で腫瘍を摘出し,軽快した1例を報告した.軟骨腫はよく手指骨にみられるが,脊椎に発生することは稀で,めずらしい症例である.岐大池田氏は脊椎に発生する軟骨腫は悪性化がみられることがあるので,長期follow upの必要があることを追加した.

原発性脊椎腫瘍の治療Aの部

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.325 - P.327

 原発性脊椎腫瘍に対しては,腫瘍の完全な除去をめざしてより徹底した外科処置と,これを可能にするさまざまの工夫がこらされている現況を深く印象づける研究会であつた.
 A-sessionの内容は興味深い症例の報告(新城,八木,森,鈴木および和田の諸氏),出血対策にselective arterial embolizationを採用した経験(渡,酒勾および有馬の諸氏)および手術成績の評価(角田,丸井および里見の諸氏)からなつている.

原発性脊椎腫瘍の治療Bの部

著者: 片岡治

ページ範囲:P.328 - P.330

 著者が座長として担当したセクションは原発性脊椎腫瘍(B)である.この7施設の発表は演題一覧表のごとくで,これらの発表の共通点は,良性および悪性原発性腫瘍の比較的多い手術症例を対象として,治療法とくに手術法と,対象例の病理組織学的分類を行つている点である.以下各発表の簡単な紹介と討論の要旨をまとめ,著者の印象をのべる.各施設の症例数およびその内容は第1,2表を参照されたい.

脊髄障害,剖検の部

著者: 金田清志

ページ範囲:P.331 - P.332

 脊髄障害,剖検のセクションで5題の発表があり,脊髄障害例での膀胱内圧と神経機能回復,誘発脊髄電位による脊髄モニタリング,転移性脊椎腫瘍に伴う頑固な疼痛への対策としてのコルドトミー,転移性脊椎腫瘍による脊髄麻痺の病理解剖について報告された.
 土田(虎の門病院)は各種脊髄疾患の膀胱内圧測定を術前後について行い,さらに膀胱内留置カテーテル法と間歇的導尿法施行例での尿沈渣所見と膀胱内圧測定から,手術後の排尿障害の回復は他の神経学的所見の回復に先んじて現れること,間歇的導尿施行例ではカテーテル留置例よりも尿沈渣所見に与える影響が少なく,かつ膀胱機能の回復がより生理的であると述べた.大島(登別厚生年金病院)の神経因性膀胱の改善だけの目的で手術適応があるかとの質問に,術前のcystometryの型により手術可否の決定したものでなく,術後の神経徴候回復に比し膀胱機能がどのように回復するかをcystometryでみたとのことであつた.術後の脊髄機能回復で膀胱機能と他の神経機能の回復との関連については言及されなかつた.

原発性悪性脊椎腫瘍の部

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.333 - P.335

 このsessionでは原発性悪性腫瘍のうち,血管内皮腫,軟骨肉腫,骨肉腫,骨芽細胞腫,alveolar soft part sarcoma,細網細胞肉腫,骨髄腫,その他(不明2)など計8題の発表と討議が行われた.主たる問題点は診断と手術適応であつたが,以下その要約をのべる.
 V-1.安福氏らの症例(25歳,女)はC3椎体を破壊し,硬膜外腔をC2-C4まで増殖して椎骨動脈を包理した腫瘍で,C3椎体を含めほぼ全摘された.組織学的には血管内皮腫で比較的low malignancyであつたこと,手術が成功したことから,経過は良好である旨報告された.これに対し,古屋氏(東医歯大)は,組織像は正常のendothel,周辺に結節状に腫瘍細胞の増殖がありhaemangiopericytomaとした方がよいのでは?と異議があつた.易出血性で部位的にも困難な手術が成功したことは誠に幸であつた.

脊椎腫瘍の診断の部

著者: 井形高明

ページ範囲:P.336 - P.337

 脊椎腫瘍の診断は必ずしも容易ではない.頻度においては脊椎癌転移が多いものの,原発巣が不明な症例では原発性腫瘍,さらには脊椎カリエス,骨粗鬆症や圧迫骨折などとの鑑別にしばしば難渋する.このセクションに寄せられた10題は脊椎腫瘍の診断,特に脊椎癌転移に関係したものであり,一般臨床像,レ線像,骨シンチグラム,CTスキャンならびにbiopsyなどによる診断と問題点についてそれぞれ的をしぼって発表された.これらの内容のあら筋を紹介し討論の焦点をまとめてみる.
 まず,熊本大,高木氏らから転移性脊椎腫瘍の診断に当ってはmyelomaや脊椎カリエスとの鑑別を念頭におく必要性が説かれ,レ線上脊椎病変の明らかでない転移性脊椎腫瘍の存在をも示された,加えて,名古屋大,杉浦勲氏は組織学的診断上困難であった症例を①Round cell group,②Histocytic group,③Neurogenic group,④Other rare groupに分け,それぞれの鑑別点が述べられた.

転移性脊椎腫瘍の治療Aの部

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.338 - P.340

 筆者が座長を担当した転移性脊椎腫瘍の治療Aセクションには表のごとき10名の演者の方々により構成された.まず西嶋氏(山口大)は甲状腺癌の頸椎転移例に対し腫瘍摘出,前方固定手術を行い術後4年経過良好例を報告した.侵入路には特に不自由はなかつたが椎体後方は血管に富み完全切除は困難であつた由である.長嶋教授(埼玉大脳神経)は脊髄圧迫症状を有するものは緊急手術の対象である事,直腸癌C1,C2転移例に対する病巣切除,後頭顆よりC3,C4にわたるK-wireとセメントを用いた大胆な再建手術について述べられた.江川氏(東邦大)はホルモン治療について述べ乳癌脊椎転移例に対して閉経前,閉経後1年未満のものには卵巣剔出,一部に副腎摘出,閉経後5年以上を経た老には大量のエストロージエン療法,その中間の閉経後1年より5年までのものにはアンドロージエンまたは抗エストロージエン療法を行う.前立腺癌転移に対しては抗男性ホルモン療法と除睾術を行い一時期ながら全例効果が得られたと述べた.福間氏(国立がんセンター)も乳癌に対しほぼ同様の見解を追加した.

転移性脊椎腫瘍の治療Bの部

著者: 小野村敏信

ページ範囲:P.341 - P.343

 第8回整形外科研究会の最後のVII-Bの部では,前のセッションに引きついで転移性脊椎腫瘍の治療の問題がとりあげられた.ここには10題の演題が寄せられ,主として手術の適応と方法を中心に討議が行われたが各演者の間でほぼ共通した問題点がとりあげられていた.すなわち手術によつて何が期待できるかということが問題となり,脊髄の除圧迫,除痛効果,支持性の再獲得,日常生活動作の改善などに関する手術の効果が繰返して検討された.またこのような個々の症状に対する期待度とは別に,手術を行うことがはたしてその患者の延命効果とつながるものであるかどうかも基本的な問題の一つとして存在した.手術法に関しては前方法,後方法,この両者の合併法,脊椎固定術,骨セメントの価値などが討論されたが,手術手技そのものよりも,いろいろの手技を行いうるものとしてどのような例に手術の適応があるかという点が議論の中心であつた.
 以下,簡単に各演者の発表と討論の要旨を紹介したい.本症では症例によつて原腫瘍の性質や転移の形が様々であるために一定の明確な方針を導きだすということは容易ではないが,現在試みられているいろいろの方法とその成績を通じて,いくつかの有益な示唆が得られるものと思う.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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