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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科15巻8号

1980年08月発行

雑誌目次

視座

乳幼児先天股脱の治療に関連して

著者: 中川正

ページ範囲:P.735 - P.735

 年長児や高位脱臼例が対象であつた年代には,観血整復はむろんのこと手術を要する症例はきわめて多く,Colonna capsular arthroplastyや臼蓋形成術,Chiari osteotomyなどを中心に観血療法に数多くの創意,工夫が加えられ,成績の向上に努力された先賢の業績を忘れることはできない.いわゆるLorenz徒手整復法にも多くの工夫や改善が加えられてきたがペルテス病様骨頭核変形の発現など予後は良好とはいえず,やがて乳幼児が治療対象を占めるに及び,関節造影法の活用によつて軟部組織の介入が整復障碍の主体をなすとの考えに基づき,前方経路による観血整復法が積極的に行われ,さらにLudloffの内側経路による関節包切開術が広く用いられ,時代と共に観血整復法の考え方や内容にも著しい変遷がみられるのである.
 1960年,鈴木良平教授によってRiemenbügel(R. B.と略す)法が紹介されるに及び,乳幼児先天股脱の治療体系や予後は大きく変貌するに至つた.第53回日本整形外科学会総会は,宮城成圭会長の卓越したご手腕によつて,綿密かつ充実した学術集会が盛会裡に開かれ,多大の成果を収められたが,鈴木良平教授司会のもとにシンポジウム「R. B.法不成功例の原因と対策」が行われ,R. B.法の全貌が討議された.

論述

Total condylar prosthesisによるRA膝置換術

著者: 宮永豊 ,   田川宏 ,   三井弘 ,   加幡一彦 ,   中村千行 ,   園崎秀吉

ページ範囲:P.736 - P.743

はじめに
 近年,慢性関節リウマチ(以下,RAと略す)に罹患した膝関節に対する外科的処置の最後の手段として人工膝関節置換術が盛んに行われている.しかし人工膝関節は選択に迷うほど多数の種類があり,しかも決定的なものがないのが現状である.したがつて現時点では手術適応や機種の選択には慎重な配慮がなされるべきであろう.我々はRA膝で高度な膝関節痛と関節破壊のため歩行不能あるいはそれに近い状態で保存的療法に抵抗し,手術により著明な機能改善が期待できる症例を手術適応と考えやむなく人工膝関節置換術を施行してきた.人工膝関節としては以前にはGeomedic typeを使用していたが今一つ満足すべき結果が得られず2年3ヵ月前よりTotal Condylar Knee Prosthesis(以下,TCKと略す)に変更し現在におよんでいる.現在はRAのみならず変形性膝関節症にも用いている.
 本論文ではRA膝に対するTCKによる置換例の臨床成績(術後6ヵ月以上経過した例)を報告し,人工膝関節の選択上の諸問題や手術操作上配慮すべき点について検討を加える.

脊髄腫瘍再手術例の問題点

著者: 山田均 ,   辻陽雄 ,   玉置哲也 ,   伊藤達雄 ,   大塚嘉則

ページ範囲:P.744 - P.754

はじめに
 脊髄腫瘍における予後は,一般に良好であるという理解は誤りではないが,ときに再手術を余儀なくされる症例もあり,脊椎管内という特殊な解剖学的条件下における再手術の予後は決して満足しうるものばかりではない.今回,われわれは,1953年〜1976年まで主として千葉大学および富山医科薬科大学で経験した109例の脊髄腫瘍のうち,再手術に至つた13例につき,予後ならびに予後不良因子について検討を行い,治療上の問題点につき論ずる.なお,これら症例の再手術の大多数は著者の一人(辻)により再手術が施行されたものである.

骨軟部腫瘍診療におけるxerographyの応用

著者: 川口智義 ,   和田成仁 ,   古屋光太郎 ,   網野勝久

ページ範囲:P.755 - P.766

はじめに
 骨,軟部・腫瘍診療面におけるxerography(以下Xero)の応用は,まだ日が浅く実際の診療にどのように活用していくかについては,現在試行錯誤の段階にあるといつて過言ではない.Xero撮影手技そのものは単純X線撮影と何ら異なるところはなく,患者に対しても苦痛を強いることはないので必要に応じて何回でも施行しうる.しかし被曝線量は多く,高電圧no grid撮影によりXero感度を上げても単純X線撮影に比し4倍程度は被曝量が多くなる.そのため,Xeroの適応範囲はその特質を考慮して施行されるべきであろう.そこで本稿では著者らがこれまで施行してきた骨軟部腫瘍診療におけるXero症例500例を通覧し本法の適応および所見の着眼点についてその概略を述べる.

手術手技

薄筋皮弁による坐骨部褥創の修復手術法

著者: 今井達郎 ,   原科孝雄 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.767 - P.770

脊損患者の褥創は易発性,難治性であり,局所のみならず全身的影響も少なくなく,重要な合併症の一つである.それゆえに褥創を予防する事が脊損患者の療護上で最も重要となる.しかし不慮にも一旦発生したら自然治癒は望み難く,外科的治療に頼らねばならない.ところで従来用いられてきた局所皮弁による修復手術は前回手術の瘢痕などに影響されやすいため困難であるばかりでなく,褥創の再発率も高い欠点がある.最近,良好な血行を有する筋肉皮弁により褥創を治療する方法が報告されている,我々も二例の坐骨部褥創に対し,薄筋皮弁を使用し良好な成績を得たのでその手術方法について紹介する

装具・器械

頸椎前方固定用開創器について

著者: 田島健 ,   高橋功 ,   山川浩司 ,   八子理 ,   坂本隆彦 ,   谷良久 ,   阿部三千男

ページ範囲:P.771 - P.772

 頸椎前方固定法には,Smith-Robinson法3),Cloward法1,2)などの他,多くの変法が行われている.我々は,数年来,もつぱら,Smith-Robinson変法を行つている.
 また,頸椎前方固定用開創器としてClowardの頸椎用レトラクター等があるが,気管,食道等,頸部内側部を安全かつ充分におさえることができず,介助者を必要とするなど,不備なところが多々見られる.一般的には,頸椎の開創に際し介助者を必要とし,介助者自身,筋鈎にて開創を維持するのに苦労する事も多く,手術野が狭いため,時として力がゆるみ,そのためにair drillにて軟部組織を引つかけたりする危険性もある.

臨床経験

滑膜切除術を施したRA手関節の経時的追究

著者: 牧野正晴 ,   東條猛 ,   村沢章 ,   羽生忠正

ページ範囲:P.773 - P.779

はじめに
 慢性関節リウマチ(以下RA)において,手関節が侵される頻度は高く日常生活動作(以下ADL)の障害を訴える患者は少なくない.このような患者に対して薬物療法を中心として,副子による固定,時にはステロイド剤の関節内注入等が行われた.それでも疼痛,関節の腫脹が続き,発症後半年以上経過している例に対して手術の適応ありと判断して手関節の滑膜切除術が行われてきた.この度我々は滑膜切除術後の経過について調査し,その一部は著者の一人である東条が第6回リウマチ外科研究会に発表したが,その後さらにレ線像の分析から若干の知見を得たので報告する.

Hereditary osteo-onychodysplasia(Nail-patella syndrome)の1家系例について

著者: 明穂政裕 ,   山上剛 ,   平川訓己 ,   前山巌

ページ範囲:P.780 - P.782

 形成外科的手術手技の向上とその知識の一般への普及により,整形外科外来を訪れる患者の中には先天性および後天性を問わず,四肢の奇形や醜状の形成術を希望し,その相談に来院するものも少なくない.最近我々は両手I,II指の爪の欠損を主訴として受診したhereditary osteo-onychodysplasia(Nail-patella症候群)の1家系例を経験したので文献的考察を加えて述べる.

前脊髄動脈症候群の1治験例

著者: 川岸利光 ,   原田征行 ,   近江洋一 ,   能登谷元 ,   塩野真弓 ,   斉藤皓

ページ範囲:P.783 - P.785

はじめに
 脊髄循環障害に基づく病変で,前脊髄動脈症候群の報告例は近年比較的多くみられるが,本症候群の発生原因,診断,治療に関して多くの問題がある.
 今回我々は急速に脊髄麻痺が出現し,selective spinal cord angiography施行後,著明な症状の改善をみた本症を経験したので,症例を紹介し若干の考察を加える.

側彎症を合併したmultiple epiphyseal dysplasiaの2例

著者: 奥野徹子 ,   渡辺良之

ページ範囲:P.786 - P.789

 Multiple epiphyseal dysplasiaは多発性,対称性の骨端骨化障害,四肢短縮型の小人症,短指が特徴とされ,脊柱に関しては異常がないと諸家の報告に述べられている.私達は最近,上記の3主徴に側彎症を合併した稀なmultiple epiphyseal dysplasiaの2例を経験した.1例は男性で変形性脊椎症を伴いspondyloepiphyseal dysplasia tardaとの鑑別が困難であつた.さらに他の1例は女性で13歳より10年間の経過を観察することができたので報告する.

McBride法施行後に生じた内反母趾の治療

著者: 君塚葵 ,   宮永豊 ,   黒川高秀 ,   田川宏 ,   高橋定雄 ,   中嶋寛之 ,   鈴木勝己

ページ範囲:P.790 - P.794

 150以上あるといわれる外反母趾の観血的療法のうちMcBride法は本邦で比較的よく用いられている,1928年にMcBride6)が母趾内転筋のconjoined tendonの移行により内転筋と外転筋とのバランスを獲得し,外側種子骨の摘出により前足部の横径を小さくして外反母趾を矯正しようとした方法である.その後の経験から1935年7)に短母趾屈筋の外側頭の移行は,槌趾変形を生じるので損傷しないようにすることと外側種子骨の摘出の適応の制限を追加している.
 当科でも昭和34年以降,主として本法を用いてきたが,過矯正のために生じた内反母趾を4例5別経験し,4趾に観血的治療を施行したので報告する.

先天性環椎椎弓欠損症

著者: 崔洙公 ,   小林慶二

ページ範囲:P.795 - P.799

はじめに
 頭頸移行部は脊椎奇形の好発部位であり,その中でも頭蓋底陥入症のように,中枢神経障害を遅発することがある奇形は広く注目されている.一方,先天性環椎椎弓欠損症は,それ自体では症状を呈さないとされており,頸部外傷や項部痛ないしは四肢の知覚運動障害などに際して,X線検査を受けて,たまたまその存在に気付かれるdevelopmental anomalyである.従来,余り関心が払われて来なかつたために,これがbenign variationとして認識されず,外傷の既往がある時には,環椎椎弓骨折と誤認され,いきおい過剰な検査や治療がなされやすい.
 最近,我々は種々の環椎椎弓欠損症を5例経験したので,これらをふまえて本奇形の発生機序,X線像,臨床的意義に関して検討した.

肺転移をきたした傍骨性骨肉腫の2症例

著者: 中村哲雄 ,   井上駿一 ,   長尾孝一 ,   高田典彦 ,   沢田勤也

ページ範囲:P.800 - P.804

はじめに
 1951年GeshickterとCopeland4)により臨床病理学的な特徴から"Parosteal Osteoma"という名で新しい疾患群として記載された傍骨性骨肉腫は,骨肉腫と比較し予後は良好とされている2〜4,6,8),我々は最近,肺転移をきたし死亡した傍骨性骨肉腫2例を経験したので,その概要を報告し考察を加える.

大きな腫瘤を形成し乳児線維性過誤腫が考えられた1例

著者: 北城文男 ,   秋吉一明 ,   山中健輔 ,   稗田寛 ,   入江康司 ,   森松稔

ページ範囲:P.805 - P.808

緒言
 乳児線維性過誤腫fibrous hamartoma of infancyは1965年Enzinger3)が初めて呼称し,2歳以内に皮下組織内に生ずる未熟な間葉系細胞の線維性増殖病変とされ,数例の類似例も含めると外国37例3,5,8,9,11,12)本邦8例2,7,13)の報告例を渉猟し得るにすぎない.腫瘤は拇指頭大の小さな例が多いとされているが10,13),我々は最近8ヵ月男児の左殿部に小児頭大の大きな腫瘤を形成し一部骨吸収像を認めたが生検後約4年3ヵ月の現在経過観察中であるがほぼ消失治癒して本症と考えられた線維性過誤腫の興味ある症例を経験したので報告する.

頸部硬膜外膿瘍の1例

著者: 近江洋一 ,   原田征行 ,   川岸利光 ,   能登谷元 ,   馬場正之

ページ範囲:P.809 - P.812

 Davidson4)によれば脊髄硬膜外膿瘍は文献上500例以上報告されている.我国では阿部1)の報告以来約30数例が報告されている.
 脊髄硬膜外膿瘍は稀な疾患とされているが,その早期診断,早期治療が遅れると麻痺が残り,不幸な転帰をとるとされている.しかもその診断は容易ではない.

気管無名動脈瘻の1例

著者: 菊地臣一 ,   野崎洋文 ,   田島健

ページ範囲:P.813 - P.816

はじめに
 気管切開の適応,利点,欠点については既に論じ尽されているが,その合併症に関してはまだ未解決な問題を多く含んでいる.そのなかでも気管無名動脈瘻(trachea-innominate artery fistula)は,稀ではあるが致命的な合併症として知られている.脊髄損傷を取り扱う機会の多い整形外科医にとつて,気管切開に伴う合併症は常に直面し得る問題である.我々は頸髄損傷の患者に本症を経験したが,残念ながら救命し得なかつた.ここにその症例を報告するとともに若干の解剖学的ならびに文献的考察を加えて報告する.

追悼

Sir Ludwig Guttmannを悼む

著者: 天児民和

ページ範囲:P.817 - P.817

 1980年3月18日Guttmannは80歳で他界した.脊髄損傷で運動機能に重度の障害のある人達をスポーツを楽しませ,それを基底として社会復帰の可能性を世界に示した功績は永く医学史の中に書き残されるであろう.
 彼は1900年SchlesiaのTostと言う小さな町に生れた.当時はドイツ領であつたが,今はポーランド領である.1923年Freiburg大学を卒業し,Breslau大学のFoerster教授の下で神経学,脳神経外科の勉強をした.一時Hamburg大学の精神病科で研究していたが,その後再度Foersterの下に帰つた.

座談会

慢性膝関節水腫

著者: 池内宏 ,   腰野富久 ,   今井望 ,   岩原寅猪 ,   広畑和志

ページ範囲:P.818 - P.826

 慢性関節水腫,わけても慢性膝関節水腫は日常的な病態であり,その対処は常に古くて新しい問題である.さきの第十回膝関節研究会において,主題"慢性膝関節水腫"の話を聴いていたく興味を覚え,広く世間にこれを紹介することの有意なことを感じた.研究会でこの主題の座長をつとめられた広畑教授に企画,司会をお願いして,この座談会を組み,読者の座右におくることにした.

カラーシリーズ 義肢・装具・7

下肢装具

著者: 渡辺英夫

ページ範囲:P.730 - P.733

はじめに
 「装具とは四肢,体幹の機能障害の軽減を目的として装用する整形外科的補助器具である」と定義されているが,実際的には次の4つの目的に分けて考えるとよい.①変形の予防,②変形の矯正,③病的組織の保護(炎症や障害のある組織を安静固定し,病勢の進行を止め治癒を促進する),④失われた機能の代償または補助(不適当な筋力や構造的に不安定な関節に対して代償または補助する.したがって歩行の介助や免荷も当然含まれる).
 下肢装具の適応を決め,適切な装具を処方するのは医師の仕事であるが,個々の症例について装具に何を期待するかを認識し,装具装着によって患者がうけるmeritとdemeritとを検討すべきである.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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