icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科15巻9号

1980年09月発行

雑誌目次

視座

日整会総会をふりかえつて

著者: 宮城成圭

ページ範囲:P.835 - P.835

 第53回日本整形外科学会総会を無事に終了して3ヵ月を経過した.会長として,総会のあり方を考えてみたい.
 かつて,学問が余り分化するとその学問は崩壊するのは過去の歴史が示していると聞いたことがあり,このことが深く脳裏に刻みこまれている.整形外科の領域では取扱われる対象が広範,多岐にわたり,その何れもが専門的に深く掘り下げられている.総会にはいろいろな意味があるが,分化した関連学会や研究会の成果を統合する場とすることに大きな意義があると考え,「分化と統合」をモットーに運営を企図した.そのため,でき得る限り多くの関連学会や研究会に出席し,内容を消化したいと考えたがを30を越す現状では到底不可能であることを悟つた.そこでプログラム編成に具現しようと考えて,各分野の専門家の方々にプログラム委員をお願いすることとしてリストアップすると100名に近くなり,一堂に会して討議することが困難となり,勢い書類審査の方法しかなくなつた.こうしてプログラムを編成したが会員諸士に意図が伝わつたかは疑問に思つている.

論述

慢性関節リウマチの膝屈曲変形と人工関節

著者: 鳥巣岳彦 ,   加茂洋志 ,   岩本幸英

ページ範囲:P.836 - P.841

 骨セメントや高分子ポリエチレンの開発や生体力学の進歩は,蝶番型の人工膝関節にかわる,靱帯をできるだけ温存した状態で膝関節を再建する小型の人工関節を可能にした.それにともない適応も拡大され従来は滑膜切除とdébridementが行われていた破壊の軽度な膝関節にも人工関節置換術が行われるようになつた.しかし臨床経験が増すにつれ,小型の人工関節では膝蓋大腿関節部分の疼痛が除去できないこと,また術前にはなかつた疼痛がその部分に新たに出現すること等が明確となり,最近では膝蓋大腿関節の置換も同時に行えるようなデザインに変りつつある.またその際に十字靱帯を温存すべきか切除すべきかは意見の分れる所である.
 さて慢性関節リウマチで関節破壊をともなう高度な膝屈曲変形に(第1図),人工関節置換術を行う際には,Wilsonの後方解離術12)を合せ行うべきかどうか,合せ行うとすれば置換術と同時に行つてよいものかどうか,あるいは後方の軟部組織の解離をまず行い,膝関節伸展の筋力を十分につけてから人工膝関節を行うべきかどうかは一つの大きな問題点である.当院では保存的治療で効果が上がらない高度な膝屈曲変形に対しては,まずWilsonの後力解離術を行い大腿四頭筋筋力の増強を行つて来た.しかし最近ではWilsonの後方解離術と人工膝関節置換術とが同時に行われている.

脊柱彎曲状態よりみた無分離脊椎すべり症

著者: 山本穰 ,   茂手木三男 ,   岡田征彦 ,   岡島行一 ,   古府照男 ,   横田昌幸

ページ範囲:P.842 - P.850

はじめに
 Junghanns5)が1930年椎間関節突起間部に分離のないすべり症の11症例を報告し,これをpseudo spondylolisthesisと呼称し,その成因は椎弓の水平化と椎間関節の前傾にあるとした.その後Friedl(1935年),Guntz(1937年)Macnab9)(1950年)等も同様の症例を報告し,これについてNewman12)は1963年椎弓角の増大はなく,椎間関節の著明な変性性変化を伴つていたところからdegenerative spondylolisthesisと呼称した.一方Rosenberg14)は椎間板変性に起因する椎体の異常動揺性が脊椎後方要素に変化をもたらす事をその成因にあげている.
 本邦においては1929年神中4)の報告以来数多くの報告がみられ,本症の成因について小泉7),村上11)等は椎間板変性による椎体の異常動揺性をあげているが,我々は本症の剖検例,すべり発現過程の検討等により椎間板変性よりはむしろ椎弓,椎間関節等後方要素の変化を1次的な発症要因と考えている.

Degenerative spondylolisthesisのX線学的検討

著者: 角田信昭 ,   黒瀬真之輔 ,   佐々木邦雄 ,   脇田吉樹 ,   丸井俊一 ,   秋山徹 ,   小野哲男 ,   芝啓一郎 ,   姫野信吉

ページ範囲:P.851 - P.859

緒言
 いわゆるdegenerative spondylolisthesisは一旦,発病すると長期にわたり症状の増強・緩解をくりかえす事が多く,一部は馬尾神経性間歇性跛行を呈するに至る.また,40歳以上の女性に多く通常辷り率は30%を越えず第4腰椎に多い事は周知の事実である.しかし,その成因に関しては種々の説が挙げられているとはいえ,未だ定説を見ない.著者らはdegenerative spondylolisthesis(以下DSと略す)の発生要因の探求を目的とし,先に屍体晒骨標本によつて得た形態学的特徴7)を同疾患184名にあてはめ,同疾患特有のものがあるか否かを検討すると共に,他のX線学的形態学的特徴,加齢的変化等の果す役割について検討した.

骨腫瘍における99mTc-methylene diphosphonateの集積部位とテトラサイクリン沈着部位との比較について

著者: 奥野宏直 ,   石田俊武 ,   林俊一 ,   高見勝次 ,   石川博通 ,   野村正 ,   大向孝良 ,   田中治和 ,   宋景泰

ページ範囲:P.860 - P.874

緒言
 99mTc-リン酸化合物が悪性骨腫瘍,一部の良性骨腫瘍,骨の炎症,骨の壊死や骨折などの部位に集積することは良く知らられている.しかし,集積像については疾患特異性がなく,またその集積部位や集積機序についても十分には解明されていない.我々は骨腫瘍における99mTc-diphosphonateの集積部位について検索し,99mTc-diphosphonateは,腫瘍性骨形成部位や軟骨の骨化および石灰化の部位に多く集積し,さらに腫瘍辺縁にて反応性に形成されている新生骨形成部位に強く集積すると報告したが7),さらに今回,骨腫瘍症例において,99mTc-リン酸化合物の集積分布と新しく石灰化しつつある骨組織や軟骨組織に沈着するといわれているテトラサイクリンの標識分布とを比較し,その結果から99mTc-リン酸化合物の集積機序に考察を加えたので報告する.

脛(腓)骨列形成不全と裂足症の発現様式

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   八木知徳 ,   加藤貞利

ページ範囲:P.875 - P.881

緒言
 O'Rahilly5,20)は先天性の四肢欠損あるいは形成障害の分類にtransverse deficiencyとlongitudinal deficiencyの概念を導入した.Swanson23)はlongitudinal deficiencyに属する上肢の奇形に対して,発生軸を想定して橈(尺)側列形成不全と中央列形成不全に分類した.一方,下肢奇形についても,脛(腓)骨列形成不全と中央列形成不全に分けるのが妥当と考えられている11,25)
 これらの奇形の発現様式をみると,橈(尺)側列形成不全では,橈(尺)骨の形成障害が末梢の橈(尺)側指列にも波及して奇形が形成される.しかし,中央列形成不全に含まれる代表的な奇形である裂手症の発現様式は,橈(尺)側列形成不全の形成機序とは異なるとの報告10,12,14,18,19,24)が最近注目されてきている.すなわち,裂手症は中央指列のlongitudinal deficiencyではなく,指列の分離異常によつて形成されるとする説で,著者らも臨床像の分析と動物実験からの裏づけで,この考えの妥当性を支持している.

手術手技

上腕骨頸部骨折に対する螺線ピンの使用経験

著者: 矢野悟 ,   篁進 ,   小林郁雄 ,   柏木大治

ページ範囲:P.883 - P.891

はじめに
 上腕骨頸部骨折は比較的まれで,若年者には少なく,50歳を境として年齢の増加とともに頻度が高くなると言われている.Neerによれば上腕骨頸部骨折の80%は転位が少なく,保存的治療法により早期より運動ができるため肩関節の拘縮を残すことなく骨癒合が得られ,予後は良好である.
 しかし骨折の転位が大きく保存的に整復ができなかつたり,骨折がunstableで整復位保持が困難な場合には観血的整復により内固定が必要となる.特に高齢者の場合では骨粗鬆症のため上腕骨骨頭の骨質,海綿質がもろくなつており,螺子,プレート,Rush pin,Zuggurtung法のような材質では整復位の保持が困難であり,必ずしも強固な固定を得ることができず,外固定を必要とすることが多い.従つて早期関節運動を行えず肩関節の拘縮を残すことが多い,私達はできるだけ小さな材質で,しかも大きな固定力を持つ螺線ピンを開発した.その特徴は骨折部を閉鎖的に(整復不能な場合は観血的に)整復し,螺線ピンを顆上部より髄腔を介し骨頭内に捻じ込み,骨折部を圧迫固定することにある.本法では術後より外固定の必要がなく早期に肩関節の運動を行うことができる.既に8例の上腕骨頸部骨折に本法を用い,すぐれた治療成績を修めたのでその術式,症例および力学的問題点を報告する.

境界領域

骨疾患と血清電解質の異常

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.892 - P.896

はじめに
 骨は無機物(主としてカルシウムと燐)および有機物(主として膠原線維と多糖類)から成るので,骨疾患の際に見られる血清電解質の異常は主として鉱質即ちカルシウムと燐の異常であるが,その他に酸塩基平衡の異常の際にも骨の変化が見られ,電解質の中ではクロールの変化をみることがある.
 骨疾患の中でも血清電解質の変化をおこし易いものは,いわゆるびまん性のものまた代謝性骨疾患といわれるもので,Albrightの定義によると「全身の骨の何処をとつてみても正常の部分がないもの」である.また,有機物としての膠原線維や,ムコ多糖類の変化によるものよりも骨塩に異常のみられる疾患に多いのは当然予想される所である.

臨床経験

第1/2胸椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 塩谷彰秀 ,   新宮彦助 ,   木村功 ,   山崎堯二 ,   那須吉郎

ページ範囲:P.897 - P.900

はじめに
 腰椎部における椎間板ヘルニアは日常よく遭遇する疾患であるが,胸椎部におけるそれは比較的稀で,上位胸椎部における発生は更に症例が少ない.我々は最近第1/2胸椎椎間板ヘルニア(T 1/2)の症例を経験したので報告する.

後縦靱帯—椎体間に遊離・移動した腰部椎間板ヘルニア例の臨床的観察

著者: 江川正 ,   朝長圀夫 ,   河野昌文 ,   松尾弘二 ,   岩永博隆

ページ範囲:P.901 - P.905

はじめに
 腰部椎間板ヘルニアの手術的療法は今日一般に広く普及し,成績も一応満足すべきレベルにあるが,中には,術前の予想に反し成績不良な症例もあることは否めない事実であり,Reynoldsは11.1%5),Brownは6.3〜11.2%3),Ross 2.4%2)のpoor resultを報告している.
 また,成績向上のために種々の手術術式が工夫されているが6),かかる不良例中には,単にtechniqueや術後の支持性の問題ばかりでなく,ヘルニア腫瘤の見落しも原因の一つにあげられる.特に,椎間腔より遊離した髄核が原位置より移動している場合には見逃し易い危険性があり,Armstrong4)も不満足例の原因の一つに上げている.

頸髄損傷に合併した尿崩症の1例

著者: 杉浦昌 ,   梅沢健司 ,   藤田興一

ページ範囲:P.906 - P.909

 頸髄損傷患者においては,著明な発熱や多尿をきたして全身管理に困難を感ずる場合をしばしば経験する.特に受傷初期には経口摂取ができず,水・電解質の管理は補液に頼ることになるが,輸液量が適切であるか否かの判断に迷うことが多い.また合併する尿路感染症や褥創面からの体液漏出が正確な水分バランスの把握を困難にしている場合もある.
 最近我々は頸髄損傷に続発して著明な多尿をきたし,精査の結果尿崩症と判明した1例を経験したので考察を加えて報告する.

距骨下外方脱臼の1症例

著者: 生越英二 ,   冨永積生 ,   馬庭昌人 ,   保野浩之 ,   中村修二 ,   多原哲治

ページ範囲:P.910 - P.912

 我々は比較的まれな距骨下外方脱臼の症例を経験し,非観血的整復を行い,1年半の経過を観察し得たので若干の文献的考察を加え報告する.

膝蓋靱帯断裂の治験例

著者: 岩瀬剛 ,   池田彬 ,   芦田多喜男

ページ範囲:P.913 - P.915

 本邦における膝蓋靱帯断裂の報告は少なく,30例にみたない.とりわけ剥離骨折を伴わぬ靱帯のみの皮下断裂は極めて稀である.われわれは最近その1例を経験し,観血的治療により良い成績を収めたので,文献的考察を加えて報告する.

慢性関節リウマチ肘関節に対するskin(cutis)arthroplastyの経験

著者: 石川浩一郎 ,   忽那龍雄 ,   坂口満 ,   岡元勉

ページ範囲:P.916 - P.921

はじめに
 肘関節形成術の歴史は古く,既に1882年Ollier18)により報告されているが,近年,特に慢性関節リウマチ(RA)患者に対して,1)RAの活動期でも安全にかつ十分な手術効果が期待できる6,21).2)RAでは頸椎,肩関節,手関節に運動障害を伴いやすく,肘関節機能が重要となる6,21).3)RAでは重労働を要する症例が少ない,などの点から肘関節形成術が広く適用されるに至つている.しかしながら,その手術方法は様々であり,骨切除のみによる方法4,6,11,12,20,22,25)や,種々の中間挿入膜,即ち,JK膜5,9,13,17),皮膚(Cutis)3,6,7,8,19,25),大腿筋膜5,10,14,20,23),OMS膜16)を用いたもの,更には中間挿入物として皮下脂肪24)またはsilicon cap12)を利用したものなどが挙げられる.我々は皮膚(Cutis)を中間挿入膜とした肘関節形成術施行後,2年以上が経過したRA患者5例7関節を検討したので若干の考察を加えて報告する.

カラーシリーズ 義肢・装具・8

靴型装具

著者: 村田秀雄

ページ範囲:P.830 - P.833

 靴型装具には,普通の木型から作られた靴を目的に応じて補正したものと,処方に合わせて成形された特別な木型から作られた靴(整形外科靴)とがある.欧米のように特別な靴の技術者のいない我が国では,前者が一般的である.市販の靴を補正する場合は,あらかじめ装具として適したものを選ぶことが大切である.最近では,装具の補正用として作られた靴が市販されているので,これを求めて補正するのが簡便である.靴の中に挿入して用いるシュー・インサートや,下肢の装具に付ける靴も,靴型装具としての基本的理解の下に処方されなければならない.
 靴型装具の処方とは,患者の状態に応じた補正の組合せを指示することである.そのためには,靴の基本構造と各部の機能を十分理解し,各部に行い得る補正手段とその効果を熟知しておくことが必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら