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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科16巻1号

1981年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第54回日本整形外科学会

著者: 土屋弘吉

ページ範囲:P.1 - P.2

 日本整形外科学会は,会員数8,300名余りを擁し,すでに巨大学会の1つとなつた.学会であるからには,まず第一に学術研鑚の場でなければならず,学術集会はその成果を全会員に問う檜舞台であるべきである.
 私は会長として何を為すべきかを考えたときに,日頃頭の中に描いていたことを集約して,まず次の3本の柱を想定した.それは分化と統合,1980年代を指向する整形外科の進歩,東南アジア近隣諸国との友好の3点である.

論述

脂質代謝からみた特発性大腿骨骨頭壊死の成因について—実験モデルと人との比較

著者: 広畑和志 ,   川井和夫 ,   丸野博敏 ,   黒坂昌弘

ページ範囲:P.3 - P.11

はじめに
 特発性非感染性大腿骨骨頭壊死(以下,骨頭壊死と略す)の患者はわが国だけでなく,諸外国でも最近20年間に可成り増加してきている.この病気が労働力の中核となる30歳〜50歳代の男子に多いので社会的にも問題がある.
 原因については,先賢の業績によると,外傷,炎症,アルコール中毒,血管系障害,肝機能障害,尿酸や脂質代謝障害などが挙げられている.いずれも骨頭壊死患者の生活歴,病歴や病像から得た情報に基づいて推定される因子であつて,決定的なものとはいい難い.それらの因子を明確にするために,骨頭壊死との因果関係の明らかな外因性の副腎皮質ステロイドの投与をはじめ,いくつかの動物モデルが作製されて来た.われわれもまたステロイドとアルコール投与により動物実験を行つて来たが,期待されるような骨頭壊死の変化は得られなかつた.

THR術後X線評価法(案)—その作製と応用

著者: 河内貞臣 ,   古屋光太郎 ,   山室隆夫 ,   長屋郁郎 ,   赤星義彦

ページ範囲:P.12 - P.21

はじめに
 人工股関節置換術(以下THRと略す)は除痛効果とほぼ正常に近い関節可動域を確保できること,さらに術後早期より起立,歩行が可能なため老人の股関節疾患に対する治療法として広くおこなわれている.しかし術後,感染や力学的因子によるlooseningを生ずることがあり,その場合人工材料の抜去や再置換などの対策が必要になる.高齢者にとり再手術の負担は非常に大きいとともに,関節および骨床の状態は初回手術時にくらべはるかに悪く,再置換術例の成績は初回手術例にくらべ低下するとされている1)
 このことからlooseningの症状が出現する以前にX線像の上でその可能性を予測することは重要であり,東京医科歯科大学,岐阜大学,京都大学,国立名古屋病院の4施設が共同し,THRの術後X線評価法(案)を作製した.また本評価法を用いて各施設の症例を評価し,臨床評価との関連性についても検討した.

悪性軟部腫瘍の予後と治療

著者: 姥山勇二 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   加藤貞利 ,   石井清一 ,   佐々木鉄人 ,   薄井正道 ,   八木知徳 ,   井須和男

ページ範囲:P.22 - P.30

はじめに
 悪性軟部腫瘍の予後は組織型によつて異なり,更に同一組織型においても予後に差がみとめられる.治療面では局所再発が多くみられ,手術方法によつても予後が異なるといわれている16).このような悪性軟部腫瘍の治療成績に影響をおよぼす因子を解明することは,今後治療を行う上で有益なことであり治療成績の向上にもつながる.今回,我々は四肢体幹に発生した悪性軟部腫瘍の予後に関与していると考えられる種々の項目について検討を行つた.

シンポジウム 胸椎部脊椎管狭窄症の病態と治療

視座/胸椎部脊柱管狭窄症

著者: 服部奨

ページ範囲:P.31 - P.31

 第53回日整会総会シンポジウムの1つとしてとりあげられた上記表題の司会を井上教授とともにつとめさせていただいた.このテーマは最近注目されて来た領域であるが,各演者の貴重な御発表と討論によつて,最近の進歩のあとを知ることができたと思う.
 次に,私なりにそのまとめと所感を述べたい.

胸椎部脊柱管狭管狭窄症の診断と脊髄誘発電位測定の応用について

著者: 黒川高秀 ,   津山直一 ,   田中弘美 ,   小林正之 ,   町田秀人 ,   中村耕三 ,   飯塚正 ,   星野雄一

ページ範囲:P.32 - P.42

緒言
 胸椎部において脊柱管を狭窄する主要な骨性因子(脊椎症・後縦靱帯骨化1)・黄色靱帯骨化2))はいずれも古い記載のある病態であり,これに起因する胸・腰髄障害も我国では手術例が以前から報告3,4)されていた.しかも実際には日常遭遇する頻度のかなり高い疾患6)でありながら,胸椎部脊柱管狭窄症はごく最近まで比較的稀と一般には考えられていた.かえりみると,これはこのような病態の存在が知られていなかつたからではなく,本症の診断に必要な基本事項に知識の不充分な点があつたためではないかと思われる.またそれにはそれ相当の理由があるはずであり,他の類似疾患にはない複雑さが基本事項にふくまれている可能性もありうる.
 そこで本症の診断の基礎となる胸椎部脊柱管狭窄因子のX線学的特徴,神経学的診断の要点,脊髄障害高位判定の問題点等を知る目的で過去5年間の自験例を検討し,併せて脊髄誘発電位測定の診断的価値を検討した.

胸椎部脊柱管狭窄に伴う脊髄症—脊髄循環障害の見地より

著者: 井形高明 ,   竹内錬一 ,   米沢元実 ,   高田広一郎 ,   成瀬章 ,   山岡賢児 ,   八木省次

ページ範囲:P.43 - P.50

はじめに
 最近,胸椎部における脊柱管内靱帯骨化,脊椎症などによる胸椎部脊髄症を扱う機会が多くなつてきた.本症は上位では頸髄症,下位では馬尾神経障害との併発が認められるなど極めて複雑,多彩な臨床像を呈する.このため,病態把握や診断に難渋し,治療,とくに手術療法の成績も期待はずれになることが少なくない.われわれは,これまで脊髄循環の立場より本症の病態ならびに治療に関して検討を加えてきた.

胸椎部脊柱管狭窄症に対する手術的治療法の適応と限界

著者: 藤村祥一 ,   樋口正隆 ,   中井定明 ,   渡辺俊彦 ,   満足駿一 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.51 - P.62

いとぐち
 胸椎部脊柱管狭窄症は頸椎部,腰椎部のそれに比して臨床上遙かに稀れな疾患であり,しかもその病態は未だ明確にされていない.
 近年,本症に対する研究がすすめられつつあるが,その原因疾患が多岐にわたること,確定診断の下し難いこと,また治療上の問題点も多いことなどにより臨床上その対策に苦慮することがある.また本症に対する手術治療法も進歩にともない,良好な治療成績を期待しうることもあるが,ときに改善しえぬものもある.

脊柱靱帯骨化による胸椎脊柱管狭窄症

著者: 金田清志 ,   佐藤栄修 ,   樋口政法 ,   野原裕 ,   小熊忠教 ,   本間信吾 ,   光崎明生 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.63 - P.74

 脊柱管狭窄は,頸椎部では頸髄症出現との関係で,腰椎では間歇性跛行(neurogenic intermittent claudication)との関連で比較的早くから注目されていた.しかし,胸椎部の脊柱管狭窄による脊髄症の研究は真新しい.頸椎後縦靱帯骨化の研究が進むにつれ,胸椎から腰椎部にかけても靱帯骨化があり,しかも重度の脊柱管狭窄による脊髄圧迫性麻痺を招来することがわかつてきた1).胸椎部では頸椎部と異なり,後縦靱帯のほかに黄色靱帯の骨化(OYL)が重要な役割を演じており,さらに胸椎柱は後彎を有し胸廓に補強され,そのstabilityは頸椎とは異なり,脊髄症出現の病態も頸椎とは異なつたものが考えられる.
 当科での後縦靱帯骨化(OPLL)および黄色靱帯骨化(OYL)による胸椎脊柱管狭窄症31手術例を調査し検討したので報告する.

臨床経験

骨折に合併せる末梢神経損傷について—221症例の臨床的検討

著者: 平沢泰介 ,   井上敦夫 ,   藤田隆生 ,   小島修 ,   榊田喜三郎

ページ範囲:P.75 - P.82

はじめに
 骨折に伴う末梢神経損傷の頻度は,比較的少ないが無視することのできないものである.しかし,臨床的には骨折のみに目を奪われて神経損傷が見逃されやすく,また発見されても損傷状態の把握が困難で,予後の判定がつけにくい場合が多い.一方,末梢神経損傷の観点からその合併損傷としての骨折をみるとかなり頻度が高く,また末梢神経損傷発生の最も多い原因の一つと考えられている7,11,12)
 このような神経麻痺の発生メカニズムをみると,骨折受傷時に神経も同時に損傷を受けるもの,骨折時には神経損傷がなくても骨折整復操作などによつて発生するもの,また,骨関節損傷の二次的変化によつて遅発性に発生するものなどがある.その治療法に関しては以前より種々の報告があり,Seddon8)らは症例の80%は自然回復が認められるので保存療法で充分な成果が得られるが,中には神経損傷状態を適確に把握してタイミングの良い観血的療法を行つて良好な成績を得る症例もあると述べている.

脊椎分離症,辷り症および偽性辷り症の治療について

著者: 加藤正 ,   中村克司 ,   和田尋二 ,   相原忠彦 ,   河路渡

ページ範囲:P.83 - P.89

 近年は脊椎分離症,辷り症の手術法について,後方固定術は古典的な方法で前方固定術こそは現代的で合理的な方法であると主張するむきも一部にある.また,人目をひくような観血的治療法にのみ関心が示されて,保存的療法についての検討や十分な配慮がなされない傾向がないとはいわれない.
 これらの問題に関して,我々は160例の保存的療法例,30例の観血的後方脊椎固定術例について治療成績を検討する機会があつたので,その結果について考察を加えて報告する.

踵骨前方突起単独骨折について

著者: 生越英二 ,   冨永積生 ,   馬庭昌人 ,   保野浩之 ,   多原哲治 ,   村上哲朗 ,   白石伸明

ページ範囲:P.90 - P.93

緒言
 踵骨骨折は日常しばしば遭遇する骨折の1つであるが,中でも踵骨前方突起単独骨折は,比較的報告も少なく,いまだ関心がはらわれていない感さえある.
 最近我々はこの骨折を4例経験し,さらに本症と鑑別診断を要するcalcaneus secundariumを経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

巨大な後腹膜悪性神経鞘腫を生じたvon Recklinghausen病の1例

著者: 大久保和彦 ,   吉沢英造 ,   鈴木俊明

ページ範囲:P.94 - P.97

 我々は比較的稀とされる後腹膜に巨大なmalignantschwannomaが発生し剔出術を施行したが局所再発を来たし死の転帰をとつたRecklinghausen病を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

学会印象記

第2回日独整形外科学会

著者: 上野良三

ページ範囲:P.98 - P.99

 去る9月15日,ドイツでは珍しい秋晴れの1日,第67回ドイツ整形外科外傷外科学会に先立つて第2回日独整形外科学会がMunster市において開催された.日本側からは天児名誉教授をはじめ,約60名,ドイツ側からはMatthiass会長ほか約100名が参加し,主題側彎症の関連演題16題,一般演題16題(日本側16,ドイツ側16題)が発表され,活溌な討論を挾んで盛会であつた.本学会は第1回がSICOT京都のpostcongressとして開催され,今回Matthiass教授の非常な熱意によつて第2回が実現した訳で,両国の整形外科領域における情報交換,学術交流の重要性を指摘され,本学会の健全な発展を希望された会長のメッセージで学術集会を終了した.
 主題の側彎症については,Schmitt(Homburg)は特発性側彎症の静力学的,筋電図学的調査を報告し,速やかな彎曲の進行は,11〜12歳で30°以上の彎曲を示すものに多く,凸側の肋間筋の活動性の増加を筋電図で認めた.Exner(Marburg)は乳児期側彎の特色についてのべ,乳児期側彎は特発性側彎の前段階ではなく,胎生期ならびに生後の神経筋障害によるものであろうとした.

追悼

Prof. F. Pauwelsを悼む

著者: 上野良三

ページ範囲:P.100 - P.100

 Pauwels先生は,1885年Aachenの機械工場主を父として出生され医学教育をうけられた後,Dresden,WienでLorenz,Schanzのもとで整形外科の研修を終えられ,その後Aachen市立病院整形外科を創設,75歳まで研究,臨床に従事された.1942年ドイツ整形外科学会の推薦により大学とは関係なく教授の称号を授与され,1953年名誉工学博士,1957年名誉医学博士,1966年ドイツ1等功労章を授与され,昨年1月19日95歳で病没された.
 1927年すでに大腿骨頸部偽関節の治療に成功され,先天性内反股,さらに股関節症の治療に生力学の原理を応用された.先生の生涯を貫くテーマは支持組織の機能的解剖学であり,近代生力学の開拓者でLebenswerkとなつた"Atlas zur Biomechanik der gesunden und kranken Hüfte"は正確かつ精密な思考と臨床への応用が完壁な形で紙面を飾つている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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