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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科16巻3号

1981年03月発行

雑誌目次

視座

メスをとるものの戒め

著者: 村地俊二

ページ範囲:P.219 - P.219

 私はもう10年ばかり重症心身障害児といわれる,心身の機能に重大な障害をもつ子どもの療育に関係しているが,その中には手術を受けた後にそうした重篤な障害を来たした例が少なからず見られる.それは心臓手術における脳虚血によつて起こつたもの,脳手術後のもの,脊髄手術によるもの等いろいろであり,少なくともその手術前には現在のような障害状態は全くなかつたものである.
 特に意識が全くなかつたり,知能が極度におかされたり,全く寝たきりの運動機能になつたり,それらが重複した重症心身障害の状態におちいつた子どもたちを見るとまことにいたましく,その手術はどうしてもやらねばならなかつたのかと,同じ医師でありながら,恨めしいような,やりきれない気持になるのである.

論述

変形性股関節症に対する臼蓋形成術—その適応と術式—骨盤骨切り術と臼蓋形成術(神中法)

著者: 加藤哲也 ,   増田武志 ,   伊藤邦臣 ,   平井和樹 ,   東輝彦 ,   深沢雅則 ,   紺野拓志

ページ範囲:P.220 - P.233

緒言
 変形性股関節症(以下変股症と略す)の治療適応は人工関節置換術が普及し比較的長期の有用性が確認されるに及んで高齢者に対する場合は非常に明快,単純になつた.しかし若年者の発症の多い本邦では人工関節以外の保存的手術が考慮されねばならない.変股症の治療目標は1)関節軟骨,骨組織の修復と2)股関節への荷重の軽減に2大別できよう.さらに後者においては①関節荷重面の拡大,②持続的圧迫の減少,③静力学的圧の減少があるが,広義先天股脱に起因する2次性の変股症が大部分を占める本邦では関節荷重面の拡大が重要な目標の1つとなる.そしてその最も有効な方法が広義臼蓋形成術である.
 われわれは変股症の治療方針を年齢と重症度とにより決定している11).臼蓋形成術は40歳までの比較的若年の前関節症,初期関節症を主たる対象としているが,進行期のものでは大腿骨骨切り術との合併において行うことが多い.Campbellによれば臼蓋形成術は,shelf operation(棚形成術)とacetabuloplasty(臼蓋造形術)に分けられる.

シンポジウムI Multiply operated backの心因性要因

外科手術を施行した心因性背痛の臨床

著者: 矢吹聖三 ,   洲脇寛 ,   池田久男

ページ範囲:P.234 - P.239

はじめに
 器質的あるいは機能的な身体病変がなく,神経系の刺戟伝達が何んら損傷されていないにもかかわらず生じてくる疼痛があり,一般に心因性のいたみpsychogenic painと称される.このような心因性のいたみは精神医学の立場からも古くから問題にされており,精神分析学の創始者であるFreudもヒステリーの転換症状conversion syndromであると指摘している5).また本来器質的な疼痛であつても疾患の慢性化に伴い神経症的な色彩や心因の加重が加わりmental careが必要となつてくるcaseはむしろ稀でない.Mayo Clinicの集計によると精神科に入院する患者の39%が疼痛を訴えており,またその中でも腰痛を主訴とする症例が最も多く40%に及んだという6).これら精神科治療を要する疼痛患者に対して我が国でも近年では心身医学の分野から数多くの注目すべき業績が報告されているが,方法論・診療体制共に満足すべき現状ではなく将来に多くの問題を残しているといえる.
 今回は心因性の加重を有する背痛患者で術後精神科治療が必要となつた代表的な2症例について臨床経過を紹介し,心因性背痛患者の治療やmultiply operated back(以下MOB)の予防や対策について日常著者らが経験し感ずることを出来るかぎり実践的かつ具体的に述べたいと思う.

Multiply operated backの心身医学的側面

著者: 蕪木初枝 ,   大谷清 ,   佐野光正

ページ範囲:P.240 - P.246

はじめに
 慢性疾患をもつ患者が自己の身体症状について,その消長に多大の関心をはらつていることは当然であるが,腰痛症例の場合,こうした内面的な精神心理学的動揺を診療者側はあまり意に介していない.多くの場合,精神的因子は身体症状と切りはなされ,神経症的傾向のある症例にとりあげられる程度であるが,実際には医師患者関係の基盤として,診療の第一歩からこのことは考えられねばならない
 腰痛を主訴とする症例の脊椎手術は絶対適応の範囲が限られており,多種多様な手術療法と保存療法との間に明確な一線がなく,治療法の選択権(手術を決定する権利)の一部を患者が濃厚に保有している場合が多いので,手術を奨める側と承諾し手術をされる側との間にはいわゆるinformed consentの確立がこと更に必要である.

Multiply operated backの精神科的要因についての対策とその問題点—3症例を中心にして

著者: 平林洌 ,   片山義郎 ,   丸山徹雄 ,   石田暉

ページ範囲:P.247 - P.253

いとぐち
 腰痛疾患に対する保存的および手術的治療の成績は,病態の究明や手術手技の進歩によつて着実に向上しているが,その反面少数ながらも愁訴が持続し,予期したほどの改善をみない症例に悩まされることもある5,7).その結果として,ともすればmultiply operated back(MOB)に移行する危険性をはらむものとなつてくる.
 われわれはMOBをもたらす原因的事項について,腰椎疾患,わけても腰部椎間板症を主として,その診断上および手術手技上の諸問題,さらにはpsychogenicoverlayに関してすでに指摘してきた6)

主として腰痛を訴えたmultiply operated caseの精神科的アプローチについて

著者: 井上敞

ページ範囲:P.254 - P.261

はじめに
 一般に腰痛は,ごくありふれた症状の1つであつて原因も多種多様であり,整形外科をはじめとして各科にわたつて診療されている.しかも個人個人の感受性に著しく差がみられ,その訴え方もさまざまである.また客観的に腰痛の程度を正しく把握することも仲々困難なことで,他覚的評価がむつかしく,一方痛みの発生機序も十分に解明されていないこともあつて,的確な判断を下し治療することが必ずしも容易でない現状である.
 また腰痛症例全体の割合よりみると極めて少数ではあるが,腰痛のために何回か手術を重ねしかも完治し得ないで治療が続けられている症例もある.そのような症例をみると整形外科的にその症状を説明し理解できるものもあれば,精神科的に説明し理解できるものもあるし,またいずれでもはつきりし得ない症例もある.

腰痛患者を手術するに際しての精神科医より整形外科医への要望

著者: 片山義郎

ページ範囲:P.262 - P.263

I.整形外科医へのアドバイス
 1.病気ではなく,病人を治そう
 まず,愚者の抱く不安や恐怖を可及的に除去するよう常に念頭に入れておいて欲しい,と思います.例えば,整形外科医にとつてみれば極めて手慣れた比較的容易な手術であつても,患者の手術に対する不安や恐怖は,通常極めて大きなものであります.したがつて,患者の疑問や質問に関しては"心配するな"の一言ではなく,時間をかけて,誠心誠意,具体的な説明を行い,身体的な病態にもとづいた心理・社会的な葛藤を解決して欲しい,と思うのです.これは術後の問題に関しても当てはまることだ,と思います.
 医師→患者関係は1対multiであるのが実情ですが,患者サイドからみた患者→医師関係は1対1という絆(きずな)をもつて心情的コミュニケーションをもとうとしているのが患者の心理です.この点を再認識して,よく理解しておいていただきたい,と願います.いわゆる"医師—患者関係を大切に",ということはよく口にも出し,また,耳にもすることですが,その関係を表面的にではなく,もつと深い意味合いで理解しておくことが重要なことと思われます.さらに,患者の家族に対しても,同様な対処が望ましいことになります.

シンポジウムII Riemenbügel法不成功例の原因と対策

Riemenbügel法不成功例の原因と対策—特にR. B.成功,不成功ということの意義

著者: 岩崎勝郎

ページ範囲:P.264 - P.266

はじめに
 Riemenbügel(以下R. B.と略)による整復不成功例の発生率は10〜20%というところが大かたの諸家の報告で一致している1,5〜10).これらR. B.不成功の原因と対策を考える場合に,R. B.を装着すれば何故脱臼が整復されるのかということの解明がどうしても必要である.この整復のメカニズムに関してはすでに報告しているように,R. B.装着下での下肢の重量の作用によつて股関節が開排位をとることにより,脱臼が整復されるものと考えている2).この整復理論にのつとつてR. B.不成功の原因を検討してみると,当然の事ながら,上記の理論に反した装着法は不成功の原因となり,逆に,これを理論にかなうように処置をすることが,対策となるのである.このような観点にたつた,R. B.不成功の原因と対策についてはすでに報告してきたので3,4),本論文ではその要約をのべると共に,R. B.による整復を成功させるために行った入院R. B.法の経験などより,R. B.による成功あるいは不成功ということの意義を考えてみたい.

Riemenbügel法不成功例の原因とその対策—R. B.再装着例を中心として

著者: 植家毅 ,   高井康男 ,   鬼武義幹 ,   堀田厚志 ,   池田威 ,   舩橋建司 ,   高柳富士丸 ,   宗宮正典

ページ範囲:P.267 - P.270

はじめに
 われわれは,昭和48年10月以降Riemenbügel(以下,R. B.と略す)整復不能例に対して,一旦R. B.を除去した後に一定期間を経て再装着する方法を試み,その成績の一部は既に発表している.これら再装着例の病態と治療経過は,R. B.による整復のメカニズム,R. B.装着が股関節に及ぼす影響,さらには整復不能例への対策を考える上で多くの示唆を与える.以下,再装着法を中心に,R. B.法不成功例の原因と対策についての見解を述べる.

Riemenbügel法難航例の原因と対策

著者: 坂口亮 ,   原勇 ,   岩谷力

ページ範囲:P.271 - P.274

I.原因
 1歳以下の乳児先天股脱に無選択的にRiemenbügel(以下R. B.と略す)を装着させると,約85%のものが自然整復されて順調な経過をたどるが,残りの約15%では整復がえられず,その対策が問題となる.われわれの15年を越える経験,特に観血整復の際得られた所見から,R. B.で自然整復されない原因は,骨頭の寛骨臼への整復還納を阻むものの存在で,具体的には,関節包肥厚(峡部形成),円靱帯肥厚,関節唇内反が大部分を占める,R. B.がこれらをscreeningしたと考えれば,R. B.法の不成功あるいは失敗という表現は,適切ではなく,われわれは単にR. B.難航群と称して,R. B.だけで順調な軌道を歩むものと区別している.

Riemenbügel法不成功例の原因と対策

著者: 矢野楨二

ページ範囲:P.275 - P.277

はじめに
 乳児先天股脱の治療でRiemenbügel(以下R. B.と略す)法が第1選択である現状では,R. B.法不成功の原因と対策が重要視されることは当然であろう.これまでの乳児先天股脱治療についての経験をもとにこの問題を検討した.

先天股脱のRiemenbügel法不成功例の原因と対策

著者: 山田勝久 ,   蜂谷将史 ,   杉本康三 ,   平井三知夫 ,   土屋弘吉 ,   古橋一正 ,   山本真 ,   山下勇紀夫

ページ範囲:P.278 - P.284

はじめに
 今世紀前半においては,先天股脱の治療に対する幾多の先人の業績が,そのまま整形外科学の進歩の歴史であるといつても過言ではなかろう.そして後半に入つてからは,早期発見,早期治療が一般化し,先天股脱の多くは乳児期に治療されるようになつたが,治療成績は必ずしも良好なものばかりではなかつた.しかるに,Pavlikの考案したR. B.法の出現によつて,従来では考えられないような治療成績が得られるようになつた.特に骨頭変化の減少は顕著で,最近では骨頭変化の症例報告もみられる程である.しかし,それでも先天股脱のすべてがR. B.法で整復されて完全治癒するはずはなく,内外の報告をみても,完全脱臼の整復率は50%〜90%で,85%前後のものが最も多い.そしてR. B.法のみで自然整復されたものの方が整復されないものより治療成績が良いことも共通している.そこで自然整復率を上げれば,成績は更に向上するであろうと整復法に工夫を加えようと考えたのは自然の成り行きであろう,屈曲を強めたり,膝の下にpaddingをしたり,腹臥位をとらせたり,開排をつよめるように後面に補助バンドをつけたりしたのもそのあらわれであるが,後二者のように骨頭変化を助長するような結果になつたものもある.

装具・器械

肩関節用半坐位手術台とレトラクター

著者: 小川清久

ページ範囲:P.285 - P.287

 われわれは,簡便な肩関節用半坐位手術台とレトラクターを試作し,各種肩関節手術に際して有効なので紹介する.

臨床経験

経皮的穿孔術による孤立性骨嚢腫の治療

著者: 久保山勝朗 ,   紫藤徹郎 ,   原田敦 ,   横江清司

ページ範囲:P.288 - P.293

はじめに
 孤立性骨嚢腫についての記載は,今より一世紀さかのぼつたVirchowの時代よりなるが,その成因については,現在でもまだ確立されていない.治療法についても,現在一般に行われている掻爬骨移植術は,その大きな侵襲に加えて高い再発率を示しており,その対策に苦慮しているのが一般の現状である.
 今回われわれは,Jaffe1)のいうactive stage 2例,latent stage2例の計4症例の上腕骨孤立性骨嚢腫に対し,needle biopsyの際に使用する外径2mmのtrephineを使用して骨皮質を穿孔する事により減圧し,また,正常骨髄への穿孔により血行再開をもくろむ事により骨新生をうながし,良好な成績を得たので報告する.

踵部軟部組織に発生した骨外性軟骨肉腫の1症例

著者: 三井宜夫 ,   宮内義純 ,   玉井進 ,   増原建二 ,   丸山博司 ,   小西陽一

ページ範囲:P.294 - P.297

はじめに
 骨外の軟部組織に原発した軟骨性腫瘍については1870年のPaget8)の記載を嚆矢とし,以来多くの報告がみられる.しかし,これらの大部分は良性軟骨性腫瘍あるいは腫瘍類似疾患であり,軟骨肉腫の報告例は極めて少ない.
 われわれは踵部軟部組織内に発生した骨外性軟骨肉腫の1症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

内反凹足に対する踵骨骨切術(Mitchell法)の一経験

著者: 黒羽根洋司 ,   沢海明人 ,   高橋公

ページ範囲:P.298 - P.301

 足部の変形のうち,凹足はそれ程稀なものでなく,spina bifidaをはじめとした低位脊髄,あるいは先天性内反足,麻痺足の隋伴症状もしくは一要素として認められ,また,外傷後遺症としてこれを伴うこともある.今回,われわれはさまざまな基礎疾患を疑い諸検査をすすめるも,診断の決め手にかけるまま,本態性凹足として踵骨骨切術(Mitchell1)法)を施行した症例を経験したので報告する.

Engelmann病(Progressive diaphyseal dysplasia)の1例

著者: 橋口重明 ,   江口正雄 ,   貝原信紘 ,   柴田堅一郎 ,   松隈雄弘

ページ範囲:P.302 - P.306

 X線上,骨硬化像を示す先天性骨系統疾患は種々のものがあるが,中でも対称性に長管骨骨幹部の紡錘状肥大,骨皮質肥厚をきたすEngelmann病は稀有な疾患である.今回,われわれは本症と思われる1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

前後3回の手術を要したgiant cell tumor of tendon sheathの1例

著者: 長谷川幸治 ,   稲垣善幸 ,   榊原榮 ,   渡辺鍾蔵

ページ範囲:P.307 - P.309

 われわれは最近腫瘍の摘出をうけ以後2度の手術を要したgiant cell tumor of tendon sheath腱鞘巨細胞腫の症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

頸部黄色靱帯石灰化腫瘤により脊髄症状を呈した1例

著者: 木田浩 ,   田畑四郎

ページ範囲:P.310 - P.313

はじめに
 頸椎伸展時黄色靱帯による動的な後方圧迫が頸椎症性脊髄症の成因の一つとして関与することは,これまでも注目されて来たことである.しかし頸部黄色靱帯が限局性に肥厚,石灰化し,あたかも硬膜外腫瘍のごとき様相で脊髄症状を呈した症例の報告は,われわれの調べ得た範囲では見当らない.われわれは頸部黄色靱帯石灰化腫瘤により脊髄症状を呈した症例に手術を施行し好結果を得たので報告する.

骨原発性悪性血管外皮細胞腫の1例

著者: 姥山勇二 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   宮川明 ,   光崎明生

ページ範囲:P.314 - P.317

緒言
 血管外皮細胞腫(hemangiopericytoma)は稀な腫瘍であるが,近年各方面からの報告が増加している.しかしその大部分が軟部発生例であり,骨発生例はきわめて少ない.われわれは上腕骨に発生した悪性血管外皮細胞腫の1例を経験したので報告する.

高年齢で発見された癩腫型癩の1例

著者: 吉峰史博 ,   青木善昭 ,   高田知明 ,   伊藤恵康

ページ範囲:P.318 - P.321

はじめに
 癩病は1873年ハンセンにより発見された抗酸性桿菌である癩菌の感染によりおこる,きわめて慢性の伝染性疾患であり,ハンセン氏病とも呼ばれる.日本における癩患者数,新発生数とも漸次減少し,ここ数年,年間届出患者数はおよそ60人となつている(第1表).そのうち沖縄およびその出身者の占める率は,約60%であり,沖縄以外の土地での癩新患は,非常に少ない.癩患者の著しい減少と重症患者の殆んどが収容されている事から,本症に遭遇する機会は,きわめて稀であり,一般に癩に対する関心も薄いため,診断不明のまま看過され,確実な診断が遅くなつているのが現状である3,6,8)

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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