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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科16巻5号

1981年05月発行

雑誌目次

視座

思いやりとからすの勝手

著者: 渡辺正毅

ページ範囲:P.441 - P.441

 1978年10月国立京都国際会舘で開催された国際整形災害外科学会の最終日に,京都大学名誉教授吉川幸次郎先生の「思いやりの哲学」と題する特別講演があり,論語を中心とする東洋思想の真髄をわかり易く話され,聴衆に多大の感銘を与えられた.
 孔子の弟子の子貢がある日孔子に向って,「いろいろの教えがあるが,ただ一つこれさえ守っておれば生涯過ちがないという教えは何か」と質問したところ,孔子は「それは,恕である」と答えた.恕とは「思いやり」のことで,他人の気持を推しはかつて同情することであり,わかり易くいえば「自分にしてほしくないことは,これを他人にしてはいけない」ということである.

論述

腰部脊柱管狭窄症の病態に関する史的考察

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.442 - P.452

I.骨性椎管の狭窄について
 脊柱管狭窄の概念についての理解は1954年Verbiestの7例の報告86)により本格的となった.すなわち,7例はすべて40歳以降の男性で中部腰椎から下部腰椎にかけてのミエログラムはブロックを示し,かつ起立,歩行によつて下肢症状が増悪し,安静によつて緩解するといういわゆる馬尾神経症候群を示すものであつて,彼はこれらの例におけるX線上にみたspondylosisの所見は病的意義に乏しく,その本体は"developmental"な関節突起形態異常による椎管とくにlateral recess部の狭小であると考えた.
 再び1955年Verbiest87)は独自に設計したカリパーを用いた術中椎管の計測を行い,Huizinga35)の正常骨格計測値と比較した結果,椎管の正中前後径も明らかに減じていること(測定値12mm以下が病的)を認め,この"developmental"という概念の正しいことを示す補足所見を明らかにした.術中少数例にみられた黄色靱帯の肥厚肥大は少なくとも病的意義の少ないものとの判断からこの独特の症候群の主因を骨性椎管の狭小においた.

手術手技 脊椎の手術・1

腰椎前方固定術—経腹膜法および腹膜外路法

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.453 - P.465

I.前方法に必要な解剖学
 1.腹壁筋層(第1図)
 腹直筋中央に白線(linea alba)があり下腹部ではこれが狭い.したがつて正中切開の際に臍部より上で切ると幅がひろいので判断しやすい.また内外腹斜筋(M. obliquus internus et externus)と腹横筋(M. transversus abdominis)の腱膜より成る腹直筋後鞘(posterior sheath of M. rectus abdominis)は臍部以下5〜10cm下にある弓状線(linea arcuata)から下では欠除しておりここでは腹横筋膜と腹膜が直接相接している.後述の腹膜外路法に際し正中切開の展開時留意すべき事項である.

症例検討会 骨・軟部腫瘍23例

症例1—左大腿骨腫瘍—Giant cell tumor of boneの疑い

著者: 田中宏和 ,   本多重信 ,   平野徹 ,   岩崎勝郎 ,   鈴木良平 ,   津田暢夫

ページ範囲:P.466 - P.470

 患者:49歳,男子.採炭夫.
 病歴:昭和54年12月18日,作業中わずかな外力で左大腿骨骨幹部を骨折した.なおその3週間前に左膝部を打撲した既往があり以後跛行が続いていたが抗内作業が可能であつた.同年12月19日当科受診時のX線像では骨折部を中心に約3×4cm大の骨透亮像がみられ境界不明瞭,骨皮質は菲薄化しており骨膜反応はみられなかつた(第1-1図a).その後仮骨は豊富に形成され約3週後にはほとんど骨折部に可動性はみられなくなつた(第1-1図b).同じ頃行つた血管造影では中等度の血管増生がみられるが悪性血管像はない(第1-1図d).また骨シンチグラムでは集積が強い(第1-1図c).血沈,血液生化学的には特に異常を認めない.骨折後1ヵ月目に広汎切除を行つた(第1-2図).骨折部には凝血塊がかなり存在していたがその周辺には弾性軟,褐色調の腫瘍塊がみられ骨との境界は不明瞭であつた.骨切除後は診断が確定するまで創外固定を行い短縮を防ぎ,1ヵ月後に骨移植と内固定を行つた.手術時,骨移植部の周辺にはいくらか仮骨形成がみられたが骨移植部には弾性軟,黄褐色の瘢痕様組織が充満しており,移植骨の一部はそれに巻込まれるようにして残存していた.これらは白色を呈しており硬く出血傾向はみられず生着していないものと考えられた(第1-3図).同部を掻爬し再び骨移植を行つて現在に至るが骨癒合は遅延している.なお肺転移などはみられない.

症例2—左第III中足骨腫瘍

著者: 藤原祐三 ,   百名克文 ,   石井正治 ,   山室隆夫 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.470 - P.474

 患者:16歳,男性.数日前から走行時に左前足部痛があると訴え来院.54.6.初診.初診時左足背にほぼ5.5×4.5cm,境界不鮮明な軽度の膨隆があり,表面は平滑で一部弾性軟,一部骨様硬,局所熱感を伴う.レ線像では左第III中足骨のほぼ全長にわたつて骨吸収と骨硬化の混在した像がみられ,骨皮質のballooningは著明ではない.血管造影所見としては軽度の血管新生early draining veinがみられるが,encasementはみられない.淡いtumor stainは骨のみならず周囲軟部組織にも認められる.99mTc-MDPによるscintigraphyでは左第III中足骨に一致してup take ratio 2.0程度の異常集積をみる.血液血清所見には著変をみない.54.8.生検.左第III中足骨に接した骨間筋内に暗赤色弾性軟の腫瘍を認めこれの一部を採取した.

症例3—右大腿骨下端部骨腫瘍

著者: 山本雅英 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   村本潔 ,   西島雄一郎 ,   石野洋 ,   佐々木雅仁 ,   岡田正人 ,   谷和英 ,   小西二三男 ,   武川昭男 ,   安念有声 ,   松能久雄

ページ範囲:P.474 - P.478

 最近,われわれは再発を繰り返し,組織学的に悪性化傾向を示したため,切断術を余儀なくされた右大腿骨に発生した組織学的診断の困難であつた骨腫瘍の1例を経験した.
 症例は41歳の女で,昭和44年初発,初発時,主訴は右膝関節痛,X線像では右大腿骨下端のmetaphysisからdiaphysisにかけて,約7cmにわたる不規則な骨透明層および外側後方の骨皮質破壊,内側には骨膜反応を呈していた.掻爬,骨移植術を受け,術中迅速凍結標本にてchondromyxoid fibromaと診断された(第3-1図).以後,昭和50年に2回,局所再発し,その都度,掻爬,骨移植術を受けた.昭和54年1月29日,再発のため当科へ入院した.現症では右膝関節部の骨性硬の腫瘤および屈曲,伸展制限を認め,臨床検査成績ではLDHの上昇,LDHisozyme 4,5の上昇,好中球の増多がみられた.

症例4—右大腿骨骨腫瘍(Osteosarcoma)

著者: 桑原竹一郎 ,   中島陽子 ,   高田典彦 ,   保高英二 ,   長尾孝一 ,   井上駿一

ページ範囲:P.478 - P.481

 患者:S.N.,7歳,女子.
 現病歴:昭和54年11月,誘因なく右大腿下部の腫脹および疼痛が出現した.近医を受診,X線所見で右大腿骨下端の骨破壊像がみられたため,生検を行つた.その後,千葉県がんセンター整形外科を紹介され入院した.

症例5—左大腿骨骨頭部に発生した骨腫瘍(Clear cell chondrosarcoma)

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   和田成仁 ,   北川知行 ,   町並陸生 ,   古屋光太郎 ,   網野勝久 ,   荒井孝和

ページ範囲:P.481 - P.483

患者:29歳,女性
主訴:左轡部痛

症例6—右下腿腫瘍(Synovial sarcoma)

著者: 恒吉正澄 ,   遠城寺宗知 ,   篠原典夫

ページ範囲:P.483 - P.486

 患者:27歳,女.
 臨床経過:昭和45年(17歳),右膝の前内側の母指頭大の軟部腫瘤を摘出し,昭和47年,1回目の再発腫瘤を摘出した.昭和48年3月,2回目の再発で,鳩卵大腫瘤を摘出した.昭和51年,右脛骨下に骨転移巣を生じ,切除後骨移植を施行した.昭和53年,転倒して同部の疼痛を来たし,血管造影でtumor stainが確認され,再切除を行い,銀行骨移植とキュンチャー釘による固定を行い,アドリアマイシンを投与し退院した.昭和55年,5回目の再発を来たし,大腿切断術を施行した,昭和55年6月現在,遠隔転移は認められず健在である.

症例7—右下腿軟部腫瘍

著者: 姥山勇二 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   加藤貞利 ,   宮川明

ページ範囲:P.486 - P.489

 患者:74歳,女性.
 既往歴:甲状腺癌(昭和50年11月).

症例8—右膝窩部腫瘍

著者: 石田俊武 ,   奥野宏直 ,   松田英樹

ページ範囲:P.489 - P.491

 12歳,女子.約7ヵ月前に右膝窩部の圧痛に気付き,4ヵ月前より同部の腫瘤を触れるようになつて昭和54年7月来院した.右膝窩部で,約7.5×5.5cmの膨隆した比較的柔かい腫瘤をふれる.X線像の側面像で,膝関節の後部関節包に接して腎臓型の腫瘍陰影がみられ,その陰影の辺縁部に線状の石灰沈着像を認める.血管造影では膝窩動脈は外方に圧排され狭窄像を示す.67Gaシンチで取り込み増加がみられる.
 手術を施行したところ,腫瘍塊は,後方に圧排された膝窩静脈・脛骨神経の深部にあり,はつきりした被膜はなく,関節包に密に癒着し,外側では膝窩動脈に癒着すると同時に筋肉内に浸潤していた.一塊として切除しようとしたが破れ,空泡化した内部より淡黄色の液が少量出てきた.可及的に切除したが,腫瘍はブタマンジュウのように中が空洞化し,外を分厚い結合組織で囲こんでいる型になつていた.組織像では,周辺を分厚い結合組織が取り囲み,その内部の腫瘍細胞群は特定のpatternをとることなく密集している.

症例9—前胸部軟部悪性腫瘍

著者: 高木敬三 ,   名倉直良 ,   福島博 ,   別府諸兄 ,   田口義文

ページ範囲:P.491 - P.493

 患者:42歳,男性.
 主訴:左前腕のシビレ感.疼痛.筋力低下.

症例10—左大腿軟部腫瘍

著者: 八木知徳 ,   石井清一 ,   佐々木鉄人 ,   薄井正道 ,   三浪明男 ,   井須和男 ,   松野丈夫 ,   井上知秋

ページ範囲:P.493 - P.496

 患者:48歳,男子,左大腿軟部腫瘍.
 臨床経過:昭和54年10月頃左大腿中央前面に鶏卵大腫瘤出現.昭和55年1月当科受診し,左大腿軟部悪性腫瘍の診断で入院した.入院時,左大腿前面に10×8cmの腫瘤が存在し,その性状は表面平滑で弾性硬,境界は比較的明瞭で皮膚・基底との癒着はなかつた.血液検査では異常を認めなかつた.

症例11—上腕神経叢の軟部悪性腫瘍

著者: 柴田大法 ,   切目勲 ,   森良樹 ,   河合潔 ,   泉春暁 ,   四方伸明

ページ範囲:P.496 - P.498

 患者:40歳,男,会社員.
 主訴:右上肢運動知覚麻痺.

症例12—左殿部・大腿軟部腫瘍(Extraskeletal myxoid chondrosarcoma)

著者: 須田昭男 ,   渡辺好博 ,   高橋信英 ,   高橋知香子 ,   笠島武 ,   今井大

ページ範囲:P.498 - P.500

 患者:47歳,女性.主訴は左大腿部痛.昭和44年頃,左大腿部後面の硬い腫瘤に気付いたが,疼痛が無いため放置.その後,腫瘤は徐々に増大し,昭和49年12月,某医で数個の超鶏卵大の腫瘍摘出を受け,chondromyxoid fibromaの病理組織診断を受けている.昭和52年3月頃,左殿部および左大腿部に腫瘍が再発し,左大腿部痛が出現したため,昭和53年1月当科に入院した.入院時検査成績は,軽度の血沈亢進のほか異常が認められなかつた.胸部X線写真で両肺野に多数の小結節状陰影がみられたが,昭和50年の胸部X線写真では異常がみられなかつた.Gaシンチグラフィーで異常集積像はみられず,血管造影で悪性像がみられなかつた.左大腿部腫瘍の生検を行い,myxomaの組織診断を受けたあと,約1,700gの巨大な腫瘍を前回手術による瘢痕組織,大腿筋膜の一部および大殿筋付着部を含め摘出した.
 腫瘍と坐骨神経の癒着はみられなかつた.

症例13—右恥骨腫瘍 CTで特徴的な所見が得られた動脈瘤様骨嚢腫

著者: 葉山泉 ,   岩崎宏 ,   高岸直人 ,   松崎昭夫 ,   宮崎直和 ,   諫山照刀 ,   桜井日出也 ,   菊池昌弘

ページ範囲:P.501 - P.504

 患者:54歳,女性.
 臨床経過:昭和48年5月誘因なく右鼠径部痛が出現,それ以来同部に強い痛みを生じるも放置.49年9月某病院外科にて右股関節炎の診断で投薬をうけた事がある.54年2月より疼痛は持続的となり,10月当科初診,右恥骨腫瘍の診断にて入院.全身所見に異常なく,局所所見は右鼠径部に骨性膨隆を認める.軽度の圧痛を有するが発赤・熱感などはなく,股関節の可動域も正常である.検査所見では血液・生化学・尿検査では異常はない.単純レ線で恥骨の殆んど全域に骨梁分画を伴つたスリガラス様の骨吸収陰影が認められ,骨皮質の非薄化,膨隆も著明である.5年前に比べかなり進行している(第13-1図).血管造影では閉鎖動脈が圧排され動脈相でpooling様のvascular stainを形成し,静脈相で病巣部内壁を濃染するtumor stainが認められる.CTでは恥骨体部から恥骨下枝にかけて骨皮質の膨隆がある.弓状部では骨皮質の欠損はあるが周囲軟部組織との境界は明瞭である.

症例14—右肩関節部腫瘍

著者: 丹菊臣生 ,   赤星義彦 ,   武内章二 ,   菱田豊 ,   常田昌弘 ,   兼松秋生 ,   長沢博正 ,   北川洋 ,   下川邦泰 ,   尾島昭次

ページ範囲:P.504 - P.507

 患者:32歳,主婦.昭和46年10月頃より右肩関節の運動時痛に気づいたが放置.昭和49年1月,出産後より同部の疼痛は増強し,その後右肩関節の挙上障害を来たしたため,同年10月2日当科に入院した.
 局所所見:右肩関節背面に弾性軟の境界明瞭で,深部と強く癒着した3×3cm大の半球状の腫瘤を触知した.単純X線像で肩甲骨頸部に骨破壊像を認めたが(第14-1図a),入院時諸検査では赤沈30mm,LDH 290IU/l,ALP 93IU/lとやや高値を示したほか,とくに異常を認めなかつた.悪性骨腫瘍の診断の下に,3800radsの60Co照射とADR 90mgの全身投与後,広範切除術を施行した.

症例15—右大腿骨下端の腫瘍(Malignant lymphoma)

著者: 水谷正昭 ,   渋谷茂夫 ,   矢作宏 ,   後藤典彦 ,   大幸俊三 ,   小林定夫 ,   鳥山貞宜 ,   根本則道 ,   登坂朗 ,   桜井勇

ページ範囲:P.507 - P.510

 患者:82歳,女性.
 昭和53年8月下旬より誘因なく右膝関節痛出現,9月中旬某医受診し,レ線上,右大腿骨下端の異常陰影を指摘され紹介にて10月17日入院となる.

症例16—多発性骨病変を示した症例

著者: 檜垣昇三 ,   仲田実生 ,   佐藤茂 ,   立石昭夫 ,   今村哲夫 ,   町並陸生

ページ範囲:P.510 - P.513

 患者:39歳,女性.
 現病歴:昭和54年3月誘因なく,両手,両肘,両膝部の疼痛を覚え,徐々に痛みが増強するため,都立府中病院受診,多発性骨病変を指摘され,当科に紹介された.来院時検査所見では,血沈25mm/hと中等度の亢進を見,BUN 25.1mg/dl以外には著変を認めなかつた.X線所見では,左示指,中手骨,橈骨遠位端では,骨皮質の破壊が見られ,その他,両上腕骨外顆,両脛骨遠位端部に骨病変が見られたが(第16-1図),皮膚病変もなく,多尿眼球突出もなかつた.

症例17—全身骨に多発性打ち抜き像を呈した骨病変

著者: 高桑俊文 ,   品川俊人 ,   牛込新一郎

ページ範囲:P.514 - P.515

 症例は,50歳女性.家族歴に特記すべきことなし.既往歴には先天性梅毒があり,現在でも血清反応は,陽性を示している.昭和50年,数回にわたり原因不明の発熱があり,また手指の骨折を起こした.昭和51年,近医にて白血球増多を指摘されたが,放置していた.昭和52年1月,両側鎖骨および胸骨部に圧痛出現し,精密検査の目的で当大学病院内科へ入院.入院時,理学的には著変を認めず,検査所見で,高度のリンパ球増加を伴う白血球の中等度増加(WBC 22000,Ly 81%)とAl-Pの上昇が注目され,Al-P isozymeで骨由来が確認された.梅毒血清反応は,STSおよびTPHA法共に陽性で梅毒性疾患の存在を示唆した.骨髄の検査では,リンパ球の中等度増加が認められたが,白血病については否定的であつた.全身の骨X線検査では,頭蓋骨,長管骨,手指骨に境界が多少不鮮明な多発性の骨打ち抜き像がみられた(第17-1図).尺骨および肩甲骨の2ヵ所より,生検が行われ本質的には,ほぼ同様の組織学的所見を示した,すなわち著明なる細胞増殖と骨の破壊が基本的変化と考えられた.増殖細胞の殆んどは,大型の類円形の細胞で,円形もしくは楕円形の,時に切れ込みを有する明るい核を有しており,一部には,著明な核小体を認めた(第17-2図).

症例18—右下腿軟部腫瘍(Extraskeletal osteosarcoma)

著者: 森本兼人 ,   稲田治 ,   古瀬清夫 ,   前山巌 ,   明穂政裕 ,   湯本東吉

ページ範囲:P.516 - P.518

 症例は75歳女性.昭和54年2月転倒し右下腿の疼痛をきたした,同年3月右下腿の腫脹に気づき某整形外科受診.エックス線像所見(第18-1図a)および血液検査所見に異常なく,保存的療法をうけた.同年4月肺炎にて治療をうけ軽快した.同年5月右下腿に鶏卵大の腫瘤を触知し,エックス線像で右腓骨骨幹部に骨破壊像を認め,生検にて肉腫と診断されたが,生検後腫瘤が増大し,同年6月本学整形外科に紹介され入院した.入院時エックス線像(第18-1図b).腓骨骨幹部は破壊され腓骨全体に骨膜反応像を認め,鵞卵大の軟部腫瘤陰影が存在した.入院後再び肺炎症状悪化し,全身状態不良となり同年8月1日死亡した.
 剖検にて右下腿軟部に20×11×5.5cmの腫瘍を認め一部腓骨に浸潤していた.割面は黄白色充実性で,中心は赤褐色で出血壊死を伴つている(第18-2図).なお遠隔転移は認められず,肺炎のため呼吸不全で死亡した.

症例19—坐骨神経に発生したmalignant nerve sheath tumor

著者: 多田豊曠 ,   岸本英正 ,   杉浦勲 ,   山田順亮 ,   中村隆昭

ページ範囲:P.518 - P.520

 患者:43歳,男.初診の一年前より発症した右大腿から足背にかけての知覚障害を主訴に来院.同側下腿への放散痛を伴うが運動麻痺はない.Café-au-lait spotなどの皮膚の異常色素沈着や結節の形成は認められずRecklinghausen's diseaseを疑わせる所見は無い.手術により右大腿近位部の坐骨神経幹に鶏卵大・弾性硬・充実性の腫瘤を認め塊状摘出した.骨格筋や骨への浸潤は認めないが,周辺の脂肪組織へは軽度の浸潤を示す,
 肉眼的所見:腫瘤は坐骨神経幹に一致して存在し,既存の神経線維束は圧排あるいは部分的断裂を示す.割面は淡黄白色充実性.第19-1図は健常な坐骨神経幹から腫瘤への移行を示し,本腫瘤は坐骨神経幹内に発生したものであると考えられる.

症例20—左下腿再発性軟部腫瘍(Mesenchymal chondrosarcoma)

著者: 亀田典章 ,   土谷一晃 ,   福永昇 ,   平沢精一 ,   原山国秀 ,   福岡良樹

ページ範囲:P.520 - P.522

 患者:34歳,男性.主訴:左下腿軟部腫瘤.
 現病歴および経過:昭和51年11月初め,左下腿中央内側部の小腫瘤に気付くも放置.1ヵ月後,疼痛の出現と腫瘤の増大により整形外科を受診.入院時,全身状態および血液・尿検査成績に異常はなく,局所的には左下腿中央部脛骨内後方に表面平滑な4×5cm大,骨性硬の腫瘤を触知し圧痛を認めた.

症例21—頸髄髄外腫瘍

著者: 舘崎慎一郎 ,   辻陽雄 ,   玉置哲也 ,   小林健一 ,   小泉富美朝

ページ範囲:P.522 - P.525

患者:20歳,男性
 現病歴:昭和51年(17歳),右肩甲部痛出現.その後,右三角筋萎縮にはじまる右上肢筋萎縮と脱力で急速に症状進行.昭和53年,前医初診.諸検査の結果(第21-1図),頸髄硬膜外腫瘍とくにextradural hemangiomaが疑われ,栄養血管結紮につづいて椎弓切除術が行われた.腫瘍は主に硬膜外に位置し,境界不鮮明で易出血性であり,hemangioma cavernosumと肉眼的に診断され,摘出不能であつた.術後,右上肢筋の著明な改善がみられ,通学可能であつた.しかし,約1年後,再び右肩の挙上困難が出現.以後,右上下肢の弛緩性麻痺と左上下肢の知覚障害が進行し,昭和54年10月,当科へ転院.神経学的に右C5〜8を中心とした著明な脱力をともなうC5 Brown-Séquardの脊髄症状を呈していた.入院時検査所見(第21-2図):myelogramでは,前後像でC3〜5にわたる右側の広範な骨破壊吸収像に一致して,硬膜外腫瘍陰影がみられ,側面像でC4椎体下縁からはじまる硬膜内腫瘍に特徴的なcappingがみられる.

症例22—左大腿軟部腫瘍

著者: 中西純夫 ,   稲葉博司 ,   檜沢一夫 ,   松森茂 ,   大久保英朋

ページ範囲:P.525 - P.527

 患者:27歳,女性,
 主訴:左大腿軟部腫瘍.

症例23—背部に発生した紡錘型細胞肉腫の1症例

著者: 藤沼彰 ,   大野藤吾 ,   阿部光俊 ,   小坂井守

ページ範囲:P.527 - P.530

 患者:37歳,女性.
 主訴:右背部腫瘤.

学会印象記

第1回西太平洋整形外科学会脊椎外科分科会—1st Congress of Spine Section, Western Pacific Orthopaedic Association—に参加して

著者: 山本博司

ページ範囲:P.531 - P.533

 11月末日の肌寒い成田を飛び立つたわれわれは,3時間後には,30℃の熱帯の暑い日射しの照りつけるマニラに着いた.
 昭和55年12月1日より4日間,W. P. O. A., spinal sectionの第1回会議がメトロマニラのマカテイ市のIntercontinental Hotelで開催された.

Letters to the Editor

術者の弁—Hinge型人工膝関節折損例について

著者: 花岡英弥

ページ範囲:P.534 - P.535

 本誌第15巻第10号988頁,1980年.の斉藤らの論文「関節破壊の著しい膝関節に対する慶大式人工関節置換術の経験」中に下記のごとき,記述がある.
 「高度の関節破壊,内外反屈曲変形と,著明な不安定性のある膝関節に対しては,一般に,膝のstabilityを得る目的で,hinge型人工膝関節が適応とされている.しかし,hinge型人工膝関節は関節のstabilityを得る点ではhingeless型に勝る事はいうまでもないが,骨切除範囲が大きく,一軸性のために,gliding,rolling,slippingやscrewhome movementなどの膝関節運動には応じ切れず,短期的予後は良くても,長期間観察では,人工関節自体の破損(第7図a,b),stemのloosening,骨折やあるいは逸脱などの,種々の続発症が少なくなく,必ずしも満足できる結果を得ていない.特にhinge型に対するsalvage手術は困難であり,最終的に,切断を余儀なくされる事も少なくない.」

座談会

肢体不自由児施設における整形外科医の役割

著者: 小池文英 ,   寺澤幸一 ,   金原宏之 ,   松尾隆 ,   上原朗 ,   坂口亮 ,   佐藤孝三

ページ範囲:P.536 - P.547

 全国で70をこえる肢体不自由児施設に働く整形外科医の現状について,一般の整形外科医の認識はまだ浅い.施設で働く整形外科医はどのような役割を演じているか,現在どのような問題をかかえているかを論じ,小児整形外科の拠点としての展望を繰り広げていただいた.「臨床整形外科」編集室

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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