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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科16巻8号

1981年08月発行

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視座

脱臼ペルテスとペルテス病

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.725 - P.725

 脱臼ペルテスもペルテス病もあるいはMeyer(1964)のdysplasia epiphysealis capitis femoris(capital dysplasia)も病変の直接の原因は大腿骨骨頭を栄養する血管の閉鎖によると考えられている.しかし,これらの疾患の修復過程には著しい相違がみられる.その相違が何に起因するのかは大変興味深いところであるので,最近,私の考えていることを述べてみたい.
 先ず,脱臼ペルテスとペルテス病の違いについてみると,前者は1歳6ヵ月位以下の先天股脱に対して無理な肢位で保存的治療を行つた場合に発生し,年齢が低いほど著明な骨頭変形を残し,大腿骨近位部の著明な成長阻害をきたす.これに反して,後者は4〜7歳に好発し,初期には疼痛や滲出液の貯留などのsynovitisの症状を呈し,発症年齢が低いほど予後は良好で,一般に大腿骨の成長阻害は軽微である.要するに,両者を比較すれば発症年齢と病因の違いによつて予後が大きく左右されていると考えられる.

シンポジウム 脱臼ペルテスとペルテス病

脱臼ペルテスとペルテス病—そのX線像変化の検討

著者: 廣橋賢次 ,   神原俊和 ,   鳴嶋真人 ,   李善介

ページ範囲:P.726 - P.736

はじめに
 先天股脱治療中に合併するいわゆるペルテス病様変化(以下脱臼ペルテスという)は,それが一旦発生すると大腿骨頭および頸部に変形を遺残するとともに,脱臼によつて生じた臼蓋形成不全の修復能は著しく低下し,さらには時間の経過とともに再脱臼,あるいは亜脱臼をきたし,二次性変股症への進展の可能性は極めて高くなる.したがつて,先天股脱の治療の目的は,単に脱臼を整復するにとどまらず,いかにしてこの合併症の発生を減少せしめ,機能的・解剖学的により正常に近い股関節に発育せしめるかにある.先天股脱の治療の歴史は,これらの目的に対する各人の工夫の歴史でもあろう.
 しかし,各種治療法における脱臼ペルテスの発生率の報告は実に多岐にわたつている1,5,6,9,10,19,20,29,30).このことは,脱臼ペルテスと判断し,その予後を予想すべき基準が明確でなかつたことによると考えられる.

ペルテス病とペルテス様変化における静脈循環動態のちがい

著者: 岩崎勝郎 ,   鈴木良平 ,   宮田定倫 ,   山本登 ,   井上喜博 ,   島内良三 ,   野口雅夫

ページ範囲:P.737 - P.745

はじめに
 ペルテス病と先天股脱治療中に発生する骨端核変形(以下ペルテス様変化と略)とは,X線学的にも組織学的にもその表現型においては類似点が多く存在するし,その本態は大腿骨骨頭epiphysisへの血行障害によるischemic necrosisであるとする説が一般的である3,9,12,14).しかしこの血行障害発生のメカニズムやその後の血行再開の様態などについてはいまだ不明の点が多く,これら究明のために,動物実験によるsimulationの作成,RIによる研究,組織学的研究,血管造影など多岐にわたる研究が行われてきている.
 骨髄造影による大腿骨骨頭の静脈循環動態に関する研究は1958年のHulth4)以来多くの報告があるが,ペルテス病に関しては斯波15),Mizuno11),Suramo16),岩崎6,7)などにより報告されており,またペルテス様変化に対しても竹内ら17)の研究がある.

ペルテス病およびペルテス様変化における股関節の求心性について—とくに扁平内反股をめぐって

著者: 姫野信吉 ,   藤井敏男 ,   川井忠彦 ,   竹内則雄

ページ範囲:P.746 - P.753

はじめに
 小児股関節の成長に障害を与える二大疾患は,先天性股関節脱臼とペルテス病である.いずれも骨頭ないし臼蓋に大きな変形を遺し,関節の安定性を失わせて,変形性股関節症(以下変股症)の発症につながつてゆく.
 治療の原則は,失われた股関節の安定性(求心性)を可及的に回復させ,力学的環境の改善により変股症の発症を予防することである.この点については従来より多くの努力がなされており,徐徐に病態の解明や治療法選択についての合意が得られつつある.しかし,定性的な議論が主となつているため,原則論では一致していても,個々の実際の症例に関しては意見が分かれる事が少なくない.

ペルテス病と脱臼性ペルテス様変化に対する股関節内肝油注入法の効果と限界

著者: 野村忠雄 ,   辻成人

ページ範囲:P.754 - P.762

はじめに
 ペルテス病および脱臼性ペルテス様変化(以下ペルテス様変化)の経過は極めて遷延性で幼少児期から学童期の小児に長期の治療を強いるものが多い.また,その治療成績に関しては,比較的予後が良好とされてきたペルテス病は,長期予後調査が報告されるにつれ変形性股関節症(変股症)への進展の危険がかなり高いものであることが知られてきた.小野ら12)の報告では36例中,既に変股症となつたものは6例であつたとされており,松永ら7)はX線学上全く正常に復していたものは23.8%にすぎず,28.6%は比較的早期に変股症への進展が予想されると述べている.一方ペルテス様変化は,先天股脱の治療にRiemenbugel(R. B.)が用いられるようになつてから,その発生は極めて少なくなつたとはいえ,少数ながら発症例を認め,絶滅したわけではない.例えばR. B.によるペルテス様変化の発生率は鈴木14)によれば1.3%である.また新生児検診や脱臼予防活動の普及により,石田6)の述べる後天性因子による脱臼の発生率は減少し,逆に先天性因子の加わつた難治性の脱臼例の割合が多くなりつつある.難治性脱臼の症例の中には経過中ペルテス様変化を呈する症例が多く認められ,これらに対する治療上の種々の問題点は今後も必ずしも容易には解消しないと考えられる.

Dysplasia epiphysealis capitis femoris(Meyer)について

著者: 稲松登 ,   矢野悟 ,   金原宏之

ページ範囲:P.763 - P.769

緒言
 大腿骨骨頭核の壊死範囲に応じたペルテス病のX線学的病型分類がCatterall1)をはじめ数多く発表されている.ペルテス病の予後が初診時のX線学的病型分類のほかに,発症時年齢,性別,治療までの期間そして治療の有無により左右されることが指摘されてきた.一般的に,Catterall分類第1型で代表されるpartial typeは年齢や治療の有無に拘わらず予後が良好であるため長期の治療を必要としない.一方,低年齢では病型分類に関係なく放置される症例も多い.換言すれば,低年齢発症のpartial typeのペルテス病はその予後が極めてよい.
 一方,片側性ペルテス病と診断されたものの中にそのX線経過がいわゆる,cyclic changeを示さなかつたり,反対側の大腿骨骨頭核異常を呈したり,他方,両側性ペルテス病と診断した一側の大腿骨骨頭にcyclic changeのない症例が報告されている.いずれも予後が極めて良好である非定型的なペルテス病の存在が明らかになり,報告者により種々の名称で記載されてきた5,6,8,11,12)

ペルテス病の初期病理像

著者: 船山完一 ,   大内郁夫

ページ範囲:P.770 - P.779

 ペルテス病は1910年頃,Waldenström,Legg,Calvé,Perthesらによつて報告されてから,すでに70年も経たが,なお阻血機序の解明が不十分のままである.X線像の諸変化や,各種の(保存的)治療に関しては,短・長期にわたる詳細な観察結果が多数報告されている.しかし,X線像上の所見を解釈する組織学的な検策の裏付けは,大変乏しいままである.
 本疾患がのちにAxhausenやPhemisterの強調した大腿骨頭のaseptic (ischemic) bone necrosisと認知される1930年頃まで,切除骨頭の大標本による組織学的検策の報告が続いた.本邦でも,長坂による8例の貴重な報告があり,西尾によって再吟味されている.

論述

骨・軟部腫瘍の鑑別診断としての電子顕微鏡像

著者: 花岡英弥

ページ範囲:P.780 - P.790

I.はじめに
 最近の組織学の教科書にはたくさんの電顕像が図示されており,病理学でも病変の解明や診断の鑑別に電顕像が必要とされることが増えて来た.
 骨・軟部腫瘍の電顕的観察も数多くなされ,その電顕的特徴が明らかとなつている.

悪性骨腫瘍に対する広範切除術と機能再建術について—特にextracompartmental surgeryの意義

著者: 荻原義郎

ページ範囲:P.791 - P.799

緒言
 四肢の骨悪性腫瘍の治療において罹患肢を切断する事なく治癒せしめる事が可能ならば四肢悪性腫瘍を有する患者にとってそれは極めて大きな福音であろう.しかし実際に生存率を全く低下させる事なく罹患肢の温存が可能であろうか? この問に対しWatts24)らは"現在においては可能であろう"と答えている,患肢を温存しようとするpioneer的な努力はLexer9,10),(1908,1925),Linberg11),(1928),Phemister20)(1940,1951),Ferguson8)(1940)などによって古くより報告されていた.Bowden3),Dahlin4),McKenna16)らの報告によると当時の切除術の成績は切断術にはるかに劣り,決して良いものではなかった.ところが1960年代以降は,化学療法,放射線療法などの分野での飛躍的な進歩があり,これらの療法の支援の下に四肢温存の手術の成績も次第に改善されて来ている.
 そして現在では,従来,患肢の切離断に完全に依存していた四肢骨悪性腫瘍の治療体系は四肢温存の可能性を追及して大きく変動しつつあるといっても過言でない.しかしもちろん,この方法が全ての骨悪性腫瘍に対し,全ての発生部位のものに対し,また全てのstageにおいて全面的に可能であるという訳ではなく,腫瘍の組織学的悪性度,発生部位,大きさなどによってその適応は厳選されねばならない.

検査法

脊髄動脈造影

著者: 唐澤淳 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.800 - P.807

はじめに
 近年X線装置の改良により大容量,小焦点,再現性および操作性に富む装置が普及してきた.これらの条件は,対象血管が細い事,手技が煩雑である事等の脊髄血管造影における困難性を幾分でも解決しつつあるといえる.
 脊髄血管造影を歴史的にみると,脊髄動静脈奇形の診断の目的のために発達してきた.当初大動脈造影により太く血流量の多い導入血管を造影していた.しかしこの方法では先の条件を満たさない動静脈奇形は造影されないこと,大量の造影剤が必要な事等の欠点があり,1967年頃からDi Chiroら1),Djindjianら4)により選択的脊髄血管造影,すなわち脊髄動脈へ流入する根動脈を分岐する動脈へ直接カテーテルを挿入して少量の造影剤で造影する方法が開発され,脊髄血管造影は飛躍的進歩をとげた.これにより脊髄動静脈奇形の診断のみならず,脊髄腫瘍,椎間板ヘルニアをはじめ脊椎の退行性変性の診断にも応用されるようになつた.しかし脊髄動脈の造影の恒常性,とりわけ解剖学的にバリエーションの多い後脊髄動脈の造影率はきわめて悪く,脊髄静脈像の診断への有用性も鮮明な像が得にくいため診断に困難を感じることもしばしばある.これらの欠点が現在脊髄血管造影による診断の限界となつている.しかし最近,後脊髄動脈造影,脊髄静脈像8)などの論文が発表されるようになり,脊髄動脈造影の弱点が近い将来解決していくものと思われる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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