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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科16巻9号

1981年09月発行

雑誌目次

視座

疾患の自家体験に思う

著者: 近藤鋭矢

ページ範囲:P.811 - P.811

 昭和22年4月,終戦後最初の日本外科学会が東京駿河台の日本医師会館で開かれた時,私は「坐骨神経痛」と題して宿題報告を行つたが,その内容は主として椎間板ヘルニアの診断と手術的療法を中心としたものであつた.この頃応召していた教室員は次々と帰つてきたので,ある日曜日,復員した教室員と琵琶湖に大学のボートを出して瀬田川を漕ぎ下つたが,夕方帰途につくころ風が出て波も立つてきたので,力漕しながら艇庫に帰つてきた.その時私はグキッという音と共に腰を痛めてしまい,爾来10数年間頑固な腰痛に苦しめられた.昭和34年4月東京で開催された第15回日本医学会総会から帰宅するや,あくびをしてさえ右坐骨神経に沿つて走る激痛に堪えられなくなつて,早速桐田良人助教授に執刀を頼み,我々が考案した骨形成的部分的椎弓切除術をもつて椎間板ヘルニアを手術してもらつた.私はこうして当時深く研究的興味を注いでいた椎間板ヘルニアにつき10余年にわたつてその症状の推移や疼痛対策を身をもつてつぶさに観察することができた.また沃度油ミエログラフィーによる術後の遺残疼痛についても,その鎮痛法を身をもつて考案して他の患者にそれを伝授した.自分の手術後3年して拙妻が同じく椎間板ヘルニアを起こしたので,私が自ら手術してやり,昭和38年5月私の定年退官の際の最終講義には,拙妻をも講堂に呼び出して学生に供覧しながら椎間板ヘルニア治療の遠隔成績を解説するのに役立てた.

論述

骨軟部腫瘍に対するRI-Angiographyの診断的応用について

著者: 山本日出樹 ,   井上駿一 ,   有水昇 ,   梅田透 ,   高田典彦 ,   油井信春 ,   曽原道和

ページ範囲:P.812 - P.821

はじめに
 四肢の骨軟部腫瘍に対するangiographyは,1950年Dos Santos4)により手技として確立され,現在では腫瘍の悪性度の判別,進展範囲の決定など,腫瘍の病態診断に不可欠な検査となつている9,17).しかし,ヨード造影剤による組織刺激性,連続撮影時の比較的多い放射線,あるいは検査手技自体の侵襲性の高いことなど,いくつかの臨床利用における問題点を残している.
 近年に至り,イメージング装置の発達とともに,心血管系や脳循環系などの各領域でRI-angiographyが臨床応用されるようになり1,2,10),非観血的かつ非侵襲的な手技で有用な情報が獲得されており,その診断的価値は高く評価されつつある.

人工膝関節置換術—1.人工膝関節の変遷と現況

著者: 山本純己 ,   八野田実

ページ範囲:P.822 - P.828

はじめに
 人工膝関節置換術はより歴史の古い人工股関節置換術にくらべ,まだ成績が不安定だといわれている.はたしてそうであろうか.私たちの経験では,むしろ逆で,正しい手術が行われるならば,人工膝関節置換術のほうが安定した信頼のおける手術になつたと思われる.
 安定した,信頼のおける成績をえるためには,①人工膝関節のデザイン,②正確な手術手技,③患者の選択,について総合的に理解する必要がある.これらの3点の見地から,人工膝関節置換術の現状と問題点とされているところを述べる.第1編では,とくに人工膝関節置換術の変遷および現在の人工膝関節のデザインについて述べたい.

関節炎とプロスタグランディン

著者: 徳永正靱 ,   力丸暘 ,   若松英吉 ,   大内和雄 ,   鶴藤丞

ページ範囲:P.829 - P.834

はじめに
 関節炎の症例に対して,その消炎と鎮痛が治療の主な部分を占めることが多い.また薬剤として日常多用されている非ステロイド系抗炎症剤には,その薬理作用が,炎症のchemical mediatorとされるプロスタグランディン(prostaglandin,以下PG)の生合成阻害作用によるという薬剤が多い.しかし,臨床的にこのPGが,どのように作用するか,あるいは抗炎症剤によつてどのような影響を受けるのかはPGの正確な測定が大変難しいこともあつて意外に判つていない.
 一方,悪性腫瘍の骨転移による骨吸収17),あるいはRAなどの炎症性の骨吸収8,15)の際に,PGが積極的に関与する2)という報告を見ると,整形外科領域の疾患の病態のプロセスの中で,PGが活発に作用し,病勢を変化させているケースが予測される.

股関節の求心性と接触圧分布について—第1報:小児股関節をめぐつて

著者: 姫野信吉 ,   西尾篤人 ,   川井忠彦 ,   竹内則雄

ページ範囲:P.835 - P.845

はじめに
 小児期における股関節外科の最大の治療目標は,種々の疾病によつて失われた股関節の求心性を回復させ保持させることにより,将来の変形性股関節症の発症を予防することにあるといつてよい.現在までに多くの治療法が提案され,この治療目標に対する効果が検討されてきた.しかしながら,適応決定の問題,特に個々の症例に関して最善の治療法は何であるかを決定する点については議論が多く,容易に意見の一致をみないのが実情であろう.
 著者らは,この混乱の最大の原因は,個々の股関節の求心性の良し悪しを定量的に評価する方法論の欠如にあると考える.すなわち,たとえば第1図aに示す7歳男児Perthes病例において,
 ①大腿骨頭が関節外に抜け出ようとする力(=脱臼力(仮称);求心性の悪さ)はどの位であるか?

頸椎後縦靱帯骨化の骨化増大に関する研究—特にヒト成長ホルモンとの関係について

著者: 岡田征彦 ,   茂手木三男 ,   岡島行一 ,   藤田隆一 ,   池田勝 ,   古府照男 ,   田部秀山 ,   入江実 ,   井上和子

ページ範囲:P.846 - P.854

はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL)の症例は,1960年教室月本12)が脊髄症状を呈した1剖検例を報告して以来本骨化に対する関心が高まり,診断技術も向上し,最近では決してまれな疾患ではなく,日常の診察においてしばしば遭遇する疾患である.本骨化の発生や骨化増大因子として,全身性因子の他に頸椎における局所性因子が考えられているが,その病態は未だ十分には解明されていない実情である.われわれは本骨化の発生および増大に関与する局所因子を解明すべく,臨床的および動物実験的検索を行い,度々報告してきたが,今回は全身性骨増殖因子の1つと考えられているヒト成長ホルモン(HGH)と本骨化増大との関係について検索を行つたので報告する.

手術手技 私のくふう

仙骨部褥創に対する点状遊離皮膚柱植皮術の応用

著者: 見松健太郎 ,   杉浦晧 ,   蟹江純一 ,   笠井勉

ページ範囲:P.855 - P.859

はじめに
 褥創をmyocutaneous flapにて覆う良い方法が最近脚光を浴びている4).筋肉および豊富な皮下組織がクッションの役割を果たし,再発の危険が少ない点,有用な手術方法であろう.しかし比較的手術侵襲が大きく輸血も必要であり適応としない症例も多い.
 皮膚科領域でバイオプシーや植毛術に使用されているトレパンを用いて褥創に全層遊離植皮術を応用してみた.手技が簡単で皮膚の生着率が良いのでその手技を報告する.

シンポジウム 義肢装具をめぐる諸問題

骨格構造義肢

著者: 土屋和夫

ページ範囲:P.860 - P.865

はじめに
 昭和56年度より,身障福祉法による義肢支給の基準枠にモジュラー(骨格構造)義肢が加えられることになつた.これにより,わが国では,労災,厚生年金も含めて全面的にモジュラー義肢の市民権が認められることになる.1960年代終期に出現したモジュラー義肢が僅か10年余にしてここまで生長したことは,画期的な現象といえよう.
 しかし,一般的にみると,現実的にはモジュラー義肢はすなわち骨格構造義肢であるという短絡的な思想が普遍化しているようである.

義肢装具をとりまく問題

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.866 - P.876

 義肢装具に関する諸問題については,すでに昭和47年に日本リハビリテーション医学会義肢装具委員会が将来計画1)を作成し多くの提言を行つた.これに対する行政側の対応として,厚生省においては身体障害者福祉審議会に補装具小委員会が,労働省においては義肢装具協議会が設置され,これにより義肢装具が初めて行政の土俵のなかで討議されることとなつた.具体的に改善された問題としては,厚生省,労働省共催による医師の卒後研修,通産省においては,義肢装具のJIS用語化,義肢装具のパーツの規格標準化,切断者・義肢・下肢装具の全国的な調査,厚生省側での価格の標準化などがその成果としてあげられる.10年前を振り返ると隔世の感がある.
 しかしながら,この義肢装具の周辺には,なお縦割り行政の壁を主な阻害因子とする多くの問題が残されている.そこで今回は,現在日本において残された義肢装具の周辺にある問題をさぐり,若干の提言を加えてみたい.

上肢切断術とリハビリテーション

著者: 中島咲哉

ページ範囲:P.877 - P.886

はじめに
 切断術直後義肢装着法が,従来の下肢切断者のリハビリテーションの在り方を根本的に改め,画期的な変革をもたらしたことは明らかなことである.
 しかし,こと上肢切断に関しては,Sarmiento Childressら,わずかな報告に,切断術直後義肢装着法の上肢切断への応用が試みられたにとどまり,大勢を改めるには至つていない.

義肢装具製作技術者よりみた諸問題

著者: 川村一郎

ページ範囲:P.887 - P.893

はじめに
 わが国におけるこの10数年間のリハビリテーション医学の発展はまことに目覚しいものがあり,その重要な一環を担うべき義肢装具の分野でも数多くの研究開発が進み,骨格構造義足や各種のプラスチック製下肢装具のように障害者の社会復帰に大きく役立つているものも少なくない.しかし他方では,障害者リハビリテーションチームにおける義肢装具製作技術者の著しい立ち遅れを指摘されて久しいにも拘らず1,3,5),その改善は遅々として進んでいないかに見えることも事実であろう.現在,義肢装具製作技術者のおかれている状況を,自らの立場から率直に報告し,当面している諸問題を提起して諸先生方のご批判を仰ぎたい.

臨床経験

所謂"Low grade central osteosarcoma"の1症例—骨肉腫のsubtype分類の必要性に関して

著者: 松野丈夫 ,   石井清一 ,   佐々木鉄人 ,   薄井正道 ,   三浪明男 ,   八木知徳 ,   井須和夫 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   姥山勇一

ページ範囲:P.894 - P.899

緒言
 Low grade central osteosarcoma(以下LGCOS)は,1977年Unniらにより27例が報告され18),従来の骨肉腫と異なり発生年齢は20歳以降に好発,いずれも組織学的にはlow gradeであり,良性骨腫瘍との鑑別を必要とするとされている.また臨床的に予後は良好であり,彼等の報告例の内,死亡例はわずか3例(11%)に過ぎない.
 今回われわれは骨肉腫の中でも極めて稀とされるLGCOSの1例を経験したので報告すると共に骨肉腫におけるsubtype分類の必要性を組織学的・臨床的に検討する.

尺骨神経内ガングリオンの1例

著者: 櫛田和義 ,   高橋定雄 ,   安藤正 ,   高見博

ページ範囲:P.900 - P.903

 ガングリオンは日常しばしば遭遇する疾患であるが,神経内ガングリオンソは稀であり,本邦の報告は10数例を数えるにすぎない.今回,われわれは尺骨神経内ガングリオンの1例を経験し,その発生について若干の知見を得たので報告する.
 症例:34歳,男子,職業:とび職.

CPの股関節脱臼について

著者: 奥野徹子 ,   日野紀典 ,   渡辺良之

ページ範囲:P.904 - P.909

はじめに
 脳性麻痺(以下CPと略す)の股関節脱臼の発生率は,対象となつたCP児の重症度や年齢に影響される.私達11)は重度CPの比較的少ない施設のCP児を対象にしたところ,100名200関節中に脱臼7例,亜脱臼9例で股関節脱臼の発生率は8%であつた.そして,脱臼例のほとんどは先天股脱を合併したと考えられる症例であつた.そこで,今回重心病棟を含めてCP歩行可能児と歩行不能児の股関節について調査を行い,脱臼,亜脱臼,臼蓋形成不全が認められた症例では,股関節の外転角度,外転筋力,前捻角などを計測して脱臼の発生原因を検討したので報告する.

前骨間神経麻痺と後骨問神経麻痺を合併した一例

著者: 渡辺康司 ,   武部恭一 ,   水野耕作

ページ範囲:P.910 - P.913

はじめに
 前骨間神経麻痺や後骨間神経麻痺は比較的稀な疾患とされているが,両神経麻痺の合併例はさらに稀と考えられる.今回われわれは,同時に両神経のentrapment neuropathyが生じたと考えられる症例を経験したので,発生機序などにつき検討を加え報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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