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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科17巻10号

1982年10月発行

雑誌目次

視座

ロボットと熟練工

著者: 室田景久

ページ範囲:P.965 - P.965

 最近,科学技術の目覚しい進歩によって産業界では種々の変革が起こりつつある.工場にロボットが導入され,長年勤続の熟練工の職がおびやかされているなどの事もその一つであろう.
 我々の整形外科の世界においても同様の事がみられはしないであろうか.手術器械の進歩により,最近の整形外科の手術は高度かつ多岐にわたるようになり,さらに一昔前では,経験深い,手術に熟達した整形外科医が冷汗三斗の思いでやっと成し遂げたであろう手術も,最近ではその手術のために特に開発された器械の使用法さえマスターしていれば,さして経験のない者でも危な気なく行うことができるようになっている.この事自体は非常に喜ばしいのであるが,問題はこのような便利な器械のうえにあぐらをかき,自分の手術の技倆が超一流の域に在ると錯覚し,手間ひまかかる整形外科医としての基礎的習練を軽視する,心ないロボット的な若い医師が輩出し始めたという点にある.

論述

Segmental spinal instrumentationとその考察

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.966 - P.983

 脊柱に対する後方からのinstrumentatin surgeryとして1960年以来のHarrington手術が標準術式として依然広く用いられているが,最近第2の方法としてメキシコのLuqueらによるsegmental spinal instrumentation(SSI)が登場し,現在北米を中心として盛んに応用されつつある8〜12)優れた着想の手術であり,今後わが国でもこの手術を用いる人が次第に多くなって来ると思われるので,以下本手術の紹介と現在迄の千葉大学におけるいささかの経験を述べ,あわせて文献上の成績の大要を記し,皆様の御参考に供したいと考える.
 Luque segmental instrumentationはメキシコのDr. Luque9)により1975年以来行われるようになったもので,1976年Scoliosis Research Societyではじめて公表され,その後術式に幾度か工夫が加えられた.本術式の普及にはテキサス大学などのAllen1,2),Wenger15,16),Herring5)らによる所が大きい.

変形性膝関節の関節造影像—関節軟骨の変化について

著者: 戸松泰介 ,   冨士川恭輔 ,   田中義則 ,   柴崎昌浩 ,   松林経世 ,   伊勢亀冨士朗

ページ範囲:P.985 - P.994

緒言
 日常の臨床においては,変形性膝関節症の診断は主に臨床所見及び単純X線像を中心に行われている.関節症は近年,関節軟骨の一種のwear andtearであるとの考え方も有力であるが,日常臨床においてはこの疾患の主たる場である関節軟骨の病態と単純X線上の変形性変化との相関性については,必ずしも十分に把握されているわけではない.そこで我々は変形性膝関節症患者に膝関節二重造影を行い,関節軟骨の病態につき検索し,単純X線所見と関節造影でみられる関節軟骨の変化と対比し,検討を加えたので報告する.

下肢におけるcompartmental syndromeの合併症について

著者: 菊地臣一 ,   星加一郎 ,   奥津一郎 ,   五百木勉 ,   松井達也 ,   岩波正陽 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.995 - P.1001

はじめに
 下肢における阻血性拘縮においては,急性期における適切な治療如何がその機能的予後を決定すると言っても過言ではない.しかし,急性期に阻血性変化の程度,その阻血性変化が可逆性なのか不可逆性になっているのかを的確に判断するのは必ずしも容易ではない.我々が現在まで直接検診し得た下肢の阻血性拘縮は51例である.このうちcompartmental typeは22例を占める.22例中3例に重篤な合併症を経験したので反省点を含めて報告する.

Cefamycin系抗生物質の骨皮質および骨髄内への移行濃度について

著者: 井川譲 ,   林雅弘 ,   高柳誠 ,   浜崎允 ,   佐本敏秋 ,   須田昭男 ,   大島義彦 ,   渡辺好博

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 近年,整形外科領域において人工関節置換術が広く行われるようになり,以前にもまして手術時の感染予防の観点から,抗生物質投与の意義に関心が払われるようになってきた.しかし,これら抗生物質の骨移行の動態についての報告は少ない.
 われわれは,骨・関節感染症の治療という目的から,できるだけ新しい,広範囲の菌に作用する抗生物質として,Cefamycin系抗生物質であるCefmetazole(CMZ)を使用し,血清中の濃度と骨皮質,骨髄中濃度との関係および臨床症例について検討したので報告する.

頸椎部ミエログラフィー—MyodilとAmipaqueとの比較検討

著者: 松岡彰 ,   服部奨 ,   河合伸也 ,   今釜哲男 ,   小田裕胤 ,   多原哲治 ,   矢野博

ページ範囲:P.1011 - P.1022

はじめに
 頸椎・頸髄疾患において手術的治療を考える上で頸椎部ミエログラフィーの意義は大きく,手術の適応や術式の選択,手術部位の決定等に多くの情報が得られる8,9,11,20,26).従来,本邦では頸椎部ミエログラフィーには油性造影剤のethyl iodophenyl undecylate(Myodil)が広く用いられていたが,1981年よりMyodilの発売が中止されたため,水溶性造影剤metrizamide(Amipaque)を使用せざるを得なくなっている.
 水溶性造影剤は,油性造影剤に比較して造影能が良好で,吸引排除の必要がなく,arachnoiditisの発生も少ないという点で優れており10),主としてスカンジナビア諸国で開発された.最初の水溶性造影剤はAbrodil(1931年)で,スウェーデンで開発されたものであるが,神経刺激性が強く広くは用いられなかった.1963年,Conrayが,続いてDimer-Xが開発されたが,いずれも腰椎部のみに使用されていた.

小児大腿骨頸部骨折と骨頭壊死

著者: 岩崎勝郎

ページ範囲:P.1023 - P.1034

はじめに
 小児大腿骨頸部骨折の合併症として,骨頭壊死,骨端線早期閉鎖,内反股,骨癒合不全などが挙げられているが,中でも骨頭壊死は予後に大きく影響するという点で最も重要な合併症である.この骨頭壊死の発生頻度は,Carrell and Carrell2)によれば33%,Ratliff14)42%,Lam10)17%,Canale and Bourland1)43%などの報告からして,成人の頸部内側骨折のそれに匹敵する数である.しかし小児の頸部骨折そのものはそう多く発生するものではなく,ましてそれに続発した骨頭壊死は更に数が少なくなるため,その原因や病態あるいは治療法などではまだ未解決の点が多く残されている.そして,これとペルテス病との異同に関しては,同様の病像だとする説と,異なるものだとする説にわかれて論議されているのが現状である.
 本論文では,骨頭壊死を起した自験例の5例と文献上にみられる例を分析して,小児頸部骨折後の本合併症の原因,病態,治療法さらにペルテス病との関連などにつき検討を加える.

境界領域

Arnold-Chiariの奇形,脊髄空洞症の診断およびその外科的治療について

著者: 鈴木俊久 ,   白馬明 ,   白旗信行 ,   西村周郎 ,   宮崎元滋 ,   樫本龍喜

ページ範囲:P.1035 - P.1047

はじめに
 Arnold-Chiariの奇形(以下Chiariの奇形)に関しては,1891年Chiariが「Über Veränderungen des Kleinhirns infolge von Hydrocephalie des Grosshirns」と題する論文で,先天性水頭症に伴う後脳の奇形としてはじめて報告した6).脊髄空洞症については,1546年Estienneによって「脊髄の空洞」と言う名称ではじめて記述され,1827年Ollivierによって「syringomyelia」なる用語が使用された17).そしてその後Chiariの奇形とsyringomyeliaとの関係が注目されるようになった4).また1958年Gardnerが,Chiariの奇形に伴うsyringomyeliaに対する新しい手術方法(後頭下開頭術と筋肉片による中心管の閉塞)を発表して以来,その治療成績は向上した13,14).しかし,本邦においては本疾患に対する関心度が低いためか,多数の症例についての報告は少ない9,19,25)

臨床経験

半膜様筋滑液包炎の1例

著者: 正田悦朗 ,   鵜飼和浩 ,   武部恭一

ページ範囲:P.1049 - P.1052

 膝関節周辺には,多くの滑液包があり,その障害についての報告は多くみられる.最近,その中では,比較的まれと考えられる半膜様筋滑液包炎の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

学童の膝関節痛について

著者: 清水正章 ,   嘉悦博 ,   吉野陽三 ,   丹生譲治 ,   上原信生

ページ範囲:P.1053 - P.1056

 最近になって本邦でも我々整形外科医の間に,その存在が認識され,関心が持たれるようになった疾患に膝蓋軟骨軟化症があるが,欧米においては1906年Büdingerの報告以来,非常に数多くの本症に関する論文が発表されている.
 このchondromalacia-patellaeの特徴は,①若年女子に多い,②関節弛緩を基盤に持っていること,③外傷の既往が多い,④病変あるいは圧痛の部位がpatellaの内方あるいは内下方に多い,⑤このほか,症状と関連づけうる軟骨病変を膝蓋骨関節面に認めるもの,に限っているが,しかしその成因についてはなお諸説が対立したまま今日まで定説が確立されていない.

神経病性関節症を呈したcongenital sensory neuropathy with anhidrosisの1症例

著者: 長谷川幸治 ,   山田順亮

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 Congenital sensory neuropathy with anhidrosis全身無汗無痛症は,無痛とともに正常な汗腺組織が存在するにもかかわらず,全身の発汗がみられないきわめて稀な疾患である.
 われわれは左膝関節に神経病性関節症を呈したcongenital sensory neuropathy with anhidrosis全身無汗無痛症の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

サボテンのとげによる正中神経損傷の1例

著者: 岡田正人 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   村本潔 ,   西島雄一郎 ,   石野洋 ,   山本雅英 ,   佐々木雅仁 ,   谷和英 ,   玉田安彦

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 外傷性末梢神経損傷の報告例は多いが,停留異物が原因で生じた外傷性末梢神経損傷の報告例は少ない.筆者らは,サボテンのとげによる正中神経損傷の1例を経験したので報告する.

骨盤輪不安定症に対する恥骨結合固定術の経験

著者: 田中宏和 ,   鈴木良平 ,   岩崎勝郎 ,   篠田侃

ページ範囲:P.1067 - P.1072

はじめに
 寛骨と仙骨で形成される骨盤輪において,その連結部に不安定性が起ると腰・臀部痛,下肢痛などが生ずるが,われわれはこれを骨盤輪不安定症という概念のもとに包括できると主張してきた.そして治療としては,骨盤固定装具などによる保存的治療をfirst choiceとして行っており,約80%の症例に有効であった.しかし,あとの20%は無効であったりかなり長期間装具を装着しても外すと疼痛の再現をみた.そのため,このような症例のうち6例に恥骨結合固定術を行った.
 この論文では手術法およびその症例を紹介し,本手術の意義,問題点,適応などについて検討する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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