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雑誌目次

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臨床整形外科17巻4号

1982年04月発行

雑誌目次

特集 脊椎分離症・辷り症

脊椎分離症・辷り症

著者: 片岡治

ページ範囲:P.299 - P.299

 脊椎分離に関する最初の記載は1782年になされているといわれ,脊椎疾患としての歴史は古く脊椎辷り症とともに整形外科領域の重要研究課題として,過去において日本整形外科学会でも数を重ねてシンポジウムや主題として取りあげられてきた.最近ではその成因に関しては,過労性骨障害を重要視する説と椎弓の形成不全という遺伝的および先天的素因が関与するという先天的要因説とが主流を占めつつある.これは分離症,辷り症の分類にも反映して,分離や辷りのタイプをdysplastic typeとisthmic typeにわけ,さらにわが国には少なく欧米に多いspondyloptosisを別項に設けて論ずるようになっている.そしてなお,分離の成因,発生時期,発生時の病像,辷りの発生などに関する詳細には不明の点があり,また家系発生やスポーツ障害としての分離症の態度などを考慮すれば未解決の問題が多いといえる.一方,病態に関しては腰痛と神経根症状が中心に考えられてきたが,腰部脊柱管狭窄症の概念の導入とともに馬尾神経性破行などの阻血症状も重要視されてきた.このような最近の分類や病態に関する研究の結果は,当然のことながら治療面にも関連して,spondyloptosisのような高度辷りに対しては整復,除圧および固定の3要素を充足する方法が,またstabilityの有無により除圧のみか固定術の併用法がと,その症状・所見に対応した手術法選択がきめ細かく検討されるようになり,さらに手術適応に関するX線学的診断法を中心としたmyelography,radiculography,peridurographyまたCTなどの補助診断法の研究が進歩してきた.

総括/X線学的検討の部

著者: 片岡治

ページ範囲:P.300 - P.302

 筆者が座長として担当したセクションは腰椎分離・辷り症のX線学的検討である.この8施設の発表は別表のごとくである.以下,各発表の簡単な紹介と討論の要旨をまとめ,印象をのべる.
 Ⅰ-1の江島(以下敬称略)らは,腰椎辷り症を対象とし,腰椎下部形態異常を伴うA型と,分離のみのB型とに大別し,L5辷りは初診時年齢が若年時でA型が多く,L4は初診時年齢が30歳以降で椎間板変性の関与が多いこと,およびJacoby線がL5上1/3を通る型はL5辷りに多く,L4下1/3を通る型はL4辷りに多いこと,などを結論としてのべた.

総括/非手術例などの予後調査の部

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.302 - P.303

 このセクションでは,腰椎分離と分離辷り症の保存症例について長期経過観察について発表された.調査方法は直接検診或いはアンケートによる.まず木村浩氏らは17歳以下の32例について平均7年6月間における経過について述べた.臨床症状は,初診時腰痛や下肢痛がみられたが神経根症状のみられた症例はない.その後の経過では,症状の増悪した例はなく,腰痛や下肢痛を時々訴えているものがあるが,20例は無症状に経過している.
 発症の誘因としてはスポーツが多く,辷り度は20%以下で,治療は1例を除いて全て保存的に行われている.本邦においては欧米と違い,辷りが進行し高度になる症例は極めて少なく,多くは保存的治療や経過観察のみで手術の必要なものは少ないと強調した.

総括/病態と術式選択の部

著者: 平林洌 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.303 - P.305

 第1席の北島ら(上都賀)は,本症46例の中でとくに神経根症状を呈した12症例について検討を加えた.その結果,半数の6例では主にroot tunnelの狭窄が原因であったが,他の6例では椎間板ヘルニアまたは不明の原因であったという.前者は高位別には分離部狭窄型と分離部上位狭窄型に分けられ,狭窄を惹起する要因として椎体後縁の骨棘形成,椎体の回旋,椎間関節のO-A性変化をあげた.分離部狭窄型では分離椎の前後方向への辷り様運動が,上位狭窄型では分離椎を中心とした回転様運動が負荷となって狭窄性の変化を生じるとした.
 分離という力学的弱点は,分離部推間板をはじめとして当然椎間関節にも影響を及ぼす訳であり,X線の動態観察によるこの種の研究が今後症例を増やして一層発展することを期待したい.

総括/頸椎の分離・辷り症の部

著者: 金田清志

ページ範囲:P.305 - P.306

 本セクションでは比較的珍しい頸椎分離症と分離辷り症につき4題の報告があった.池田(岐阜大)は2,097例の頸椎レ線写真を調査し,2例の分離症と1例の分離辷り症をみつけた.3例の分離症・分離辷り症の頻度は0.15%であり,先天性癒合椎は1%にみられたと報告した.C4に1例,C6に2例で全てspina bifida occultaを有していた.中野(中野整外)は7例を報告,1例のみC7にあり他の6例は全てC6にあり,全例ともspina bifidaを有していた.このうち56歳男性のC6分離辷り症の1例は外傷を契機に脊髄症状が出現し,前方固定術を受けた.松井(日赤医療センター)は7例を報告,C2が2例,C4が1例,C6が4例で,神経症状の合併がC2の1例とC6の3例にあった,Spina bifidaはC2の1例とC6の4例にあった.いずれも保存療法のみで治療された.片岡は6例を報告したが,その後C7の1例はelongationで分離を認めなかったため訂正した.このうち41歳女はC2とC6に分離を認め,C6にのみspina bifidaがあった,16歳男のC6分離辷り症は神経症状の合併があり前方固定術を受けている.

総括/手術手技の部

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.307 - P.309

 このsessionは手術手技と題するもので9施設からそれぞれ手術法の工夫と成績がのべられ,多くの討論がなされた.座長は蓮江光男氏と私であった.
 脊椎分離症の症状発現機序,すべり症のそれには未解決の点を残しているが,現段階で各演者の理解を総括すると次のようになる.

総括/前方固定術の部

著者: 井形高明

ページ範囲:P.309 - P.310

 VI.セクションでば脊椎分離辷り症に対する前方固定術に関する5題が発表された.採用した術式はMercer法,Harmon法,独自の方法などであり,それぞれの臨床症状の改善,骨癒合の実態および骨癒合不全の原因,さらには生理的腰椎前彎や腰仙角の変化ならびに隣接椎間への影響などが詳細に分析,検討された.会場からも,各演題に対し活発な質疑,意見が寄せられ,本症に対する前方固定術の成績ならびに問題点が一段と明らかにされた.以下,その成果をとりまとめて報告する.
 VI-1の金沢大・島らは40例について,平均10年8カ月の予後調査結果を述べた.まず,成績では優,良が分離症78.6%,辷り症96.1%であり,ほとんどの症例が職業を変更していなかった.骨癒合状態は完全癒合例が少なく,その原因を移植骨と下部椎体との接触面積の狭さに求めていた.さらに,術後の脊柱変化を検討し,隣接椎間の狭小化や腰仙角の減少を指摘した.いずれにせよ,これらの変化や骨癒合不全は臨床症状に影響するものではなかったと報告した.

総括/後方および後側方固定術の部

著者: 竹光義治 ,   原田征行

ページ範囲:P.311 - P.314

 脊椎分離症,辷り症に対する手術的治療のうち後方,および,後側方固定術は実際上もっとも普遍的であるだけに適応,手技,成績まで広く活発な討議が行われた.まず各演題の要点から紹介したい.
 1.信州大南谷氏らは,分離症12,辷り症9例に対し河野慣用法を用い,2椎間18,3椎間3例の手術を行い,術後10年から19年の成績を調査した.結果は優8,良11,可1,不可1であり,分離部間隙の消失7,縮小11,また,椎間腔狭小化も11例にみられたが,成績との関係は認められなかった.

総括/各種手術法の比較の部

著者: 津山直一 ,   小野村敏信

ページ範囲:P.314 - P.316

 この研究会の最後のセッションでは,同一の術者,同一の施設,あるいは関連グループにおいていくつかの手術術式が行われてきた場合に,それらの術式の適応や成績を比較することを目的として掲げ,6題(演題Ⅷ-1は欠演)の発表が行われた(別表).
 成尾氏(成尾整形外科病院)の術式選択法は,分離症ではヘルニアの合併例またはdiscogram上変性像を認めpain response陽性であれば原則として前方固定術を行い,椎間板が正常,Kellgren's test陽性で保存的治療で治癒しなかったものには分離部骨移植術が行われている.辷り症では異常可動性のあるものには原則として前方法,椎間板にfibrosisのみられる辷り症性狭窄症には広範囲椎弓切除術が行われ,この適応による術後2年以上経過した37例では他覚的にgood以上が81%,自覚的には91%以上の満足度を得たと報告した.

総括/特別セッション 腰痛・坐骨神経痛の評価法

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.317 - P.320

 今回の研究会では特別セッションとして「腰痛・坐骨神経痛の評価法」がとりあげられた.すでに頸椎症性ミエロパチーに対しては日整会案が広く用いられ共通の物指しで術前・術後の評価ができている点でその果す役割は大きい.
 腰痛疾患は腰痛・坐骨神経痛という自覚症状が大きな部分を占める点で評価法はむつかしいがしかしその必要性は切実である.疼痛・就労状況より判断する従来のいわばグローブな判定法に対し桐田,土方,中野,田島その他の諸氏によりそれぞれ独自に工夫された評価法が出されているが尚一般的ではない.今回の研究会において片岡会長より脊椎外科研究会として一定の基準案を作成すべきであるという意向がありこの特別セッションが組まれた次第である.

腰椎分離・辷り症の間歇性跛行に関する臨床的検討—とくにmyelogramおよびCT像の解析について

著者: 渡部恒夫 ,   井上駿一 ,   松井宣夫 ,   宮坂斉 ,   田中正

ページ範囲:P.321 - P.331

I.はじめに
 腰椎分離・辷り症の腰痛および下肢痛などを主体とした病態に関する報告は数多く見られ,詳細な検討がなされているが,これら症状において馬尾神経性間歇性跛行すなわち脊柱管狭窄症状を呈するものが少なからず見出だされている.今回われわれは過去10年間に千葉大学において手術的治療を行った腰椎分離症および分離・辷り症症例をもとに,かかる間歇性跛行の発生メカニズムについて腰仙部水溶性myelogramおよびCT像,レ線学的計測などより分析を加え,この間歇性跛行が腰椎前彎の増強,仙椎の立上がりによる硬膜管の後方シフト,さらに分離部のdegenerative change(骨棘形成など)や椎体の回旋性変化および椎間板ヘルニアの合併など様々の要素が関連して発生していると考えた.特に水溶性造影剤によるミエロ像では油性のそれと異なり,硬膜管内は充分に充盈されるため,油性造影剤では不充分であった後方要素の検索が可能となり,分離し,辷っているレベルよりも1椎上位の椎弓により著明に後方より圧排されている事実をとらえることができた.したがって,一見分離・辷りにより拡大しているかに見える脊柱管内においても硬膜管そのものは後方の狭窄部位へと移動せられ,不安定性によるspondyloticな変化が加わることにより脊柱管狭窄症状を呈するものと推察され,可及的に整復を図って腰椎前彎度の減少を目指すと同時に固定を加えることが本症改善のために非常に重要であると考えられた.われわれの教室においてはかかる症例に対し腰椎前方固定術を主として施行してきたが,術前後のミエロ像の比較によっても,椎体列の矯正や移植骨による椎間腔の開大などが腰椎の前彎度を減少させ,後方圧排像の消失を見,良好な結果を生んでいることが確かめられた.以下その詳細につき報告する.

17歳以下で発症した腰椎分離症およびすべり症(isthmic type)の長期観察

著者: 木村浩 ,   松田俊雄 ,   島崎和久 ,   裏辻雅章 ,   片岡治

ページ範囲:P.332 - P.339

はじめに
 腰椎分離症ならびにすべり症(isthmic type)17)は先天性素因の基盤のうえに後天性因子が加わり,乳児から成人に達するある時期に発生すると考えられている2,4,8,11,16).これら成長期に発生した腰椎分離症・すべり症の多くは無症状のまま経過し,20代,30代あるいはその後になって発症するが,なかには10歳以下で発症することもある17).成長期に発症した本症の自然経過や治療成績を知り,後年においていかなる因子が高度のすべり症や隣接椎間板の高度の退行変性発現に関与するか検討することは,本疾患の治療法を決めるうえで有意義なものと考えられる.
 著者らはこの目的のもとに,17歳以下で発症し,保存的治療を受けた31症例の長期経過を調査し,治療成績および予後に関与すると予測される因子について検討を加えた.

脊椎分離症,脊椎辷り症の予後調査

著者: 小田裕胤 ,   服部奨 ,   河合伸也 ,   今釜哲男 ,   宮本龍彦 ,   千束福司 ,   小谷博信 ,   酒井和裕

ページ範囲:P.340 - P.347

はじめに
 腰痛あるいは腰・下肢痛を訴えて外来を受診する患者の中には,X線検査により脊椎分離症あるいは脊椎分離辷り症の診断をうける例は少なくない.本症と診断された症例では,保存的に通院治療をうけるものが多く,その期間が長期にわたることも稀ではない.
 そこで,こうした腰椎部の椎弓に欠損を有する症例の長期経過例において,そのX線学的,または臨床症状の推移を検索することは極めて有意義と考える.今回,かかる症例の長期の予後調査を施行したので報告する.

脊椎分離症並びに脊椎すべり症の手術適応について

著者: 立岩正孝 ,   豊田敦

ページ範囲:P.348 - P.356

はじめに
 脊椎分離症並びに脊椎すべり症は,1853年Kilian, H. F.が命名記載して以来,多数の報告1,2)がある.整形外科医による研究は1920年以後であり,日本においても1926年西(謙),1929年神中(正)以来多くの報告がある.
 腰痛を主訴として開業医を訪れる患者についてレントゲン検査を行うと,しばしば本症が発見される.

脊椎分離症・辷り症の手術成績から見た手術術式の選択

著者: 松井宣夫 ,   井上駿一 ,   宮坂斉 ,   渡部恒夫 ,   三枝修 ,   田中正 ,   山県正庸 ,   大塚嘉則

ページ範囲:P.357 - P.366

 分離症において無愁訴発生が7〜10%に見られ,分離症・辷り症の疼痛発生機構につき注意深い検索が重要である.
 分離・辷り症の疼痛発現に関しては,種々の説がある.分離症に関しては,西16)の分離椎弓の背側浮上,背側神経枝の牽引痛,伊藤8)の分離椎弓動揺による腰神経後枝内側枝の刺激があり,Adkins1)は分離部の異常可動性が脊髄神経を刺激し,二次的炎症癒着を起こすためとしている.辷り症においては,Gill4)の分離部におけるfibrous tissueによる神経の圧迫やhyper extensionによるlaminaの根圧迫,硬膜と黄色靱帯の癒着をその原因としている.Macnab13)は,25歳以下の腰痛患者のうち他の年齢層に比し19%と有意に辷り症の発生頻度が高いことを指摘している.Macnabは本症の疼痛のメカニズムとして不安定椎,神経根のforaminal encroachment,神経根のforamen外方での圧迫,椎間板変性をあげている.

頸椎分離・辷り症について

著者: 片岡治 ,   庄智矢 ,   木村浩 ,   栗原章

ページ範囲:P.367 - P.375

 頸椎分離症および辷り症は稀な疾患で,1951年のPerlman & Hawes31)の1例が最初の報告例であり,歴史の新しいclinical entitiyである.著者らは5例6椎の本症を経験し,文献的に40例47椎を調査しえたので,自験例の紹介と自験例を含めた報告例の分析を行い,報告例の少ない本症の臨床像を論じたい.

腰椎分離症,辷り症に対する後方固定術と前方固定術の術後成績

著者: 宮崎和躬 ,   中井徹 ,   笠原勝幸 ,   松田文秀 ,   岩瀬方人 ,   斎藤哲文

ページ範囲:P.376 - P.385

I.はじめに
 脊椎辷り症については,1782年にHerbiniaux3)によって文献上はじめて記載され,1853年Bonnの婦人科医Kilian8)が脊椎辷り症と命名記載し,1880年Warschauの婦人科医Neugebauer18)がpars interarticularisの離断,すなわち脊椎分離症が本症の原因であると報告して以来,腰痛を起こす疾患として脊椎分離症および辷り症が注目されるようになった.そして下位腰椎のX線学的診断法の進歩とともに,その原因,病理および治療法に関して著しい発展をみ,邦外を問わず多数の報告がある.
 脊椎分離症の病因については,宮城14)の述べているように先天性素因を基盤とした後天的な持続的外傷説が有力である.その症状発現の機序については,Gill2)の分離部をみたす線維性軟骨組織による神経根の圧迫刺激説や同じくAdkins1)の分離部の異常可動性による炎症,癒着による神経根刺激説,西17)の前彎増強によるstatic lumbago説,西17),桐田9)の不安定説および伊藤6)の腰神経根後枝内側枝説などいろいろの説があるが,確立されていない.

高度腰椎辷り症の整復と固定法の適応について

著者: 大木勲

ページ範囲:P.386 - P.393

I.はじめに
 歴史上初めて脊椎辷り症がとりあげられたのは,1782年ベルギーの産婦人科医Herbiniaux3)によってであり,彼は第5腰椎が仙椎前面に落ち込んでいる症例をとりあげ,出産の障害になることを指摘した.その後,1854年にKilian9)が脊椎辷り症spondylolisthesisなる用語を使用して,この原因を腰仙椎椎間関節の亜脱臼によって起こることを記載してから,外科医の関心を集めるようになり,その後も次々にRobert24),Lambl12)およびNeugebauer19)ら主としてその病態の問題を中心に,ヨーロッパの外科医の深い関心を集めてきた.そして同時に治療法についても多くの興味が持たれていたが効果的治療法が見い出せずに年月がすぎてきた.1936年Jenkins8)がはじめて牽引により辷りを整復して前方椎体固定術により治療した一例を報告して注目を集めた.しかしこの方法も手技上の困難さとその後の偽関節形成の多さなどから,整復と固定の問題はかえりみられずに30年も過ぎた.1966年Lance13)により大腿骨直達牽引により整復した後に後側方固定を行う方法が発表されて,再び辷った脊椎を整復することについての関心が高まり,Daymondは1969年にHalofemoral tractionで整復して後方固定術を行う方法を発表した.

脊椎辷り症に対する分離部骨移植併用脊椎後方固定術の治療成績

著者: 矢野楨二 ,   田平史郎 ,   矢野荘一 ,   内尾伸行 ,   松山雅人 ,   樋口理

ページ範囲:P.394 - P.399

はじめに
 脊椎辷り症に対する脊椎固定術の適応および術式については論議があるところである.久留米大学整形外科教室では1958年以来,保存的療法に抵抗性の脊椎辷り症に対して,分離部骨移植併用脊椎後方固定術を行ってきたので,その治療成績を調査し,本法についてのわれわれの見解を述べる.なおここで述べる脊椎辷り症は椎弓分離を伴う脊椎辷り症(spondylolytic spondylolisthesis)に限定する.

腰椎分離辷り症に対するSpinal Instrumentation

著者: 金田清志 ,   野原裕 ,   小熊忠教 ,   佐藤栄修 ,   藤谷直樹 ,   鐙邦芳 ,   樋口政法 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.400 - P.410

はじめに
 腰椎分離辷り症における疼痛発現病態として17,19,26),(1)分離部骨性支持欠損による脊椎機能運動単位諸靱帯への異常ストレス,(2)分離辷り椎間板の変性と椎間不安定性,(3)分離部を架橋しているfibrocartilagenous massによる神経根圧迫,(4)辷りが高度(50%以上)となった場合の分離部中枢端と下位椎(通常は仙椎)との間での神経根のbony impingementや椎弓根による神経根圧迫(pedicular kinking),(5)椎間板ヘルニアの合併(通常は辷りの上位椎間に発生)などがある.最も一般的症状の腰臀部痛は(1),(2)のinstabilityに基づくものである.
 本疾患の手術療法としては,不安定椎のstability再建を日的として,後方固定,後側方固定,椎休間固定や神経根除圧のためGill法6)など多くのものがある.後方固定は偽関節形成率の高いことから2,4,7),後側方固定がより確実であるとされてきた20,23,24,26).Gillは分離i部fibrocartilagcnous massによる神経根圧迫に着目し脊椎固定を行わない分離椎弓切除術を発表,その後多くの追試がなされた.Bosworth2)はGill法は脊柱のstabilityを障害し術後の辷り増加をきたすとし,後方H-graftを考案した.Marmor & Bechtol18),Taillard22),Wiltse25)らもGill手術後の辻りの増加を報告した。Amuso et al.1)はGill手術後の長期観察例を調査,33人中12人(36%)が不満足な結果であり,その原因分析で,本手術後のinstabilityによるmechanical back painと分離椎弓切除部硬膜周囲への瘢痕侵入による持続性ないし再発性腰痛や下肢痛をあげ,脊椎固定術併用の必要性を論及した.

脊椎分離症,辷り症に対する長期手術成績の検討

著者: 四方実彦 ,   若林詔 ,   玉木茂行 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.411 - P.419

はじめに
 脊椎分離症,辷り症の成因,病理,治療法に関し古来数多くの研究発表があり,先人の業績は枚挙にいとまがないが今日なお未解決の問題が残されている.観血的治療法に関して今まで前方固定術,椎弓切除術,後方固定術,後側方固定術など,数多くの術式が発表され改良が加えられてきた.京都大学整形外科においても昭和17年より多くの術者達により分離症,辷り症に対して多種多様な観血的治療が行われてきた.
 今回われわれは長期の遠隔成績について調査を行い各手術術式について,比較検討を行った.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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