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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科17巻5号

1982年05月発行

雑誌目次

視座

情報化社会に思う

著者: 東博彦

ページ範囲:P.423 - P.423

 現在はまさに情報過多の時代であり,この傾向は年ごとにますます拍車がかけられている.いつかは情報の渦の中に身を没し,自己の頭で物を考えることができなくなり,創像力を失ったコピー型人間になってしまうような危機感すら覚える.
 こういった時代への上手な対応こそ,これからの生活にもっとも重要な課題かも知れない.私どもの身の回りを見ても,整形外科における専門化・細分化が進み,ほんの一昔,二昔前とは比較にならないほど多くの量の情報が飛び交い,その内容も複雑で,多岐多様である.自分なりに処理し,取捨選択してはいるものの,結局はそれに振り回され慌しく日を送り,じっくり考える余裕が失われている今日この頃である.

論述

骨腫瘍切除術と機能再建

著者: 濱田秀樹 ,   青木康彰 ,   中嶋洋 ,   姜武 ,   栗崎英二 ,   小野啓郎 ,   水島哲也

ページ範囲:P.424 - P.432

 骨腫瘍の外科的療法は組織学的診断,部位,腫瘍のひろがり,年齢,初発か再発か,原発性か続発性かによって,腫瘍の切除方法,機能再建方法は異なってくる.良性腫瘍では,機能温存を重視し,悪性腫瘍では,腫瘍根治を主眼とした手術が行われている.近年,診断技術,生体材料,化学療法の長足な進歩によって,骨腫瘍の治療も大きく変りつつある.広範囲なあるいは再発性の良性腫瘍に対してはより根治的な手術が可能となり,high-grade malignancyに対してはradical en bloc resection,reconstructionが可能となってきている6,16,25)
 ここではわれわれが経験した症例を中心として,骨腫瘍(脊椎を除く)の切除術,機能再建術について検討を加えたので報告する.

小児骨折の最近の動向

著者: 杉浦保夫 ,   鈴木善朗

ページ範囲:P.433 - P.437

はじめに
 数年前から「最近子どもの骨折が明らかに多くなった」とか,「子どもの骨が脆くなり,何でもないような原因による"ポッキリ骨折"が多発している」とか,「骨折が多くなったのはコーラなどの清涼飲料水の多飲とか,インスタントラーメンを主体とするインスタント食品の多食が原因である」とかいった議論が学校関係者を中心としておこりはじめ,体育研究者や栄養学者なども加わって,マスコミに注目されるところとなり,今やこれらの議論が定説であるかのように,学校関係者のみでなく,一般社会人にも受け取られている.
 著者らはこれらの議論が果たして真実なのかどうかを,医学的,統計的に追求すべく,以下の3つの研究を行ったので,その大要を報告することとする.

いわゆる先天性橈骨頭単独脱臼の臨床像

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   三浪明男 ,   福田公孝 ,   加藤貞利

ページ範囲:P.439 - P.445

緒言
 先天性橈骨頭脱臼の中には,脱臼が単独で出現する場合と,同一上肢の奇形を伴って出現する場合がある.後者の場合は橈骨小頭脱臼を上肢先天性奇形の部分症と理解すると,その成因は先天性である確率が高い.しかし,橈骨頭脱臼が単独で出現した場合,先天性か,外傷性かの鑑別はしばしば困難である.研究者によっては単独の先天性橈骨頭脱臼の存在そのものを疑問視しているものもある2).一方,治療については,早期に手術を行うべきであるという考え8)と,本症に対しては手術はすべきでないとする考えがあり9,11),未だに議論のあるところである.著者らは,いわゆる先天性橈骨頭単独脱臼の臨床像の特徴を明らかにする目的で,本疾患の臨床像とX線像の分析を行った.また,未治療例の予後調査を行い,本疾患に対する手術療法の適応について検討した.

脊柱側彎症における術前矯正訓練法について—特発性側彎症におけるブランコ法の効果の検討

著者: 佐々木邦雄 ,   角田信昭 ,   黒瀬真之輔 ,   谷村俊次 ,   原田博文 ,   王享弘 ,   丸井俊一 ,   秋山徹

ページ範囲:P.447 - P.457

はじめに
 脊柱側彎症の手術的矯正および固定術を行うに際しては,神経合併症を生ずることなしに可及的最大の矯正および永続的な矯正位固定を獲得することが目標となる.
 1962年Harringtonがdistractionおよびcompression rodよりなるHarrington instrumentation systemを発表して以来11),側彎症の手術的治療は以前のcast correctionのみの時代よりさらに矯正および固定力ともに進歩した.その後現在に至るまでHarrington法(以下Ha法と略す)は広く普及している.Ha法使用の手術的治療の経験が多くつまれるようになり,最近では高度でないカーブ例においては術前矯正を行わない方法,何らかの術前矯正後Ha法を行う方法と2つの考え方があるようである.

進行乳癌,とくに骨転移癌に対する化学療法の試み

著者: 梅田透 ,   高田典彦 ,   保高英二 ,   遠藤富士乗

ページ範囲:P.459 - P.469

はじめに
 乳癌は従来より経過が長く,しかも最も高頻度に骨転移を起こしやすい悪性腫瘍のひとつと考えられている.このため骨転移による疼痛,時には病的骨折,脊髄麻痺を生じ,われわれ整形外科を受診する症例も少なくない.しかしこれら進行乳癌は一般的に末期癌と考えられ,積極的かつ系統的に治療が行われることはほとんどなく,対症的治療にとどまることが多かった.そこで今回われわれは,他医にて原発巣手術後に骨転移または骨転移に肺転移を合併した進行乳癌症例に対して全身化学療法を中心とした治療を行い,比較的良好な成績を得たので中間的ではあるが,われわれの治療経験の概略を述べるとともに現在における進行乳癌に対する治療法について考察を行った.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・6

Degenerative spondylolisthesisに対する後方術式

著者: 蓮江光男 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.471 - P.478

I.はじめに
 Degenerative spondylolisthesisに対する手術術式は,辷り椎と下位脊椎間の固定術と,神経組織への圧迫の除圧術とに大別される.これらの術式を単独で用いるか両者を併用するか,侵入路は前方か後方か,辷りの整復をするかしないか,内固定すなわちspinal instrumentationを併用するかどうか,などにより術式は異なってくる.しかし,一般に腰椎部疾患について言えることだが,臨床診断名と個々の症例にみられる病態ひいては症状発現機序は,一対一の対応とはならない.一つの病名の下にいくつかの病態が含まれ,その中のいずれが症状の主因をなしているかにより,治療法特に手術術式を変更することがあるわけで,手術成績を論ずる場合にもどのような症例群を対象にしたかの吟味が重要である.
 本症の病因論には未だ議論の余地が残されており,病態も他疾患以上に多彩であるので,症例ごとに主たる病態を見極め,さらに年齢などの他の要素も考慮に入れて,もっとも適した手術術式を選択することが大切である.

手術手技 私のくふう

腱延長手技の改良とその応用

著者: 松尾隆 ,   佐伯千恵子 ,   佛淵孝夫 ,   岩切清文 ,   原寛道

ページ範囲:P.479 - P.485

 腱延長の手技には,四肢の変形・拘縮の矯正の手段としていくつかの方法があるが,それぞれの特性をもつと同時に,問題点も合わせもち,その改善にはいろいろな工夫が試みられて来ている.
 Z状延長は,延長後の確実な縫合固定が得られるものの,術後癒着,手技の煩雑さなどのために,特に,細小腱延長への応用に問題がある.

追悼

Paul R. Harrington教授の死を悼む

著者: 大木勲

ページ範囲:P.487 - P.489

 側彎症の手術法で世界中に知られたPaul Randall Harrington教授は1980年11月29日Texas州Houstonで心臓発作のため69歳の偉大な生涯を閉じた.
 著者が彼の死を知らされたのは去年1月であったが,彼の後継者であるDr. Jesse H. Dicksonによれば,月日を追うごとに世界各国から彼の死を悼む手紙や訪問者が絶えないという.これは彼の偉大な業績のためばかりでなく,彼の人間性豊かな人格によるものと思われる.慎んで彼の死に対し哀悼の意を表する.Montrealで開催された第16回Scoliosis Research Society MeetingでのHarrington Lectureの前に出席者全員が起立し,彼の死に対し1分間の黙とうが捧げられた.

臨床経験

Hereditary sensory radicular neuropathyの1例

著者: 沢口毅 ,   梅田真一郎 ,   沢田米造 ,   富田勝郎 ,   野村進

ページ範囲:P.491 - P.494

はじめに
 Hereditary Sensory Radicular Neuropathyは,指趾,足底の無痛性難治性潰瘍,四肢末梢のストッキング,グローブ状の知覚脱失,腱反射低下という症状を呈し,筋萎縮,運動麻痺を伴わない稀な疾患である.本疾患は1852年,Nelatonが最初に報告し,1951年,Denny-Brown1)が,病理解剖所見より,感覚性末梢ニューロンの障害を基盤としているとして,Hereditary Sensory Radicular Neuropathyと命名した.本邦でも,1963年の黒岩らの報告以来,二十数例を数える.
 最近,われわれは,本疾患の1例を経験したので報告する.

Juxtacortical chondroma(Jaffe)の1例

著者: 堀田芳彦 ,   今井卓夫 ,   今村哲夫

ページ範囲:P.495 - P.498

はじめに
 組織発生学的に軟骨細胞を母地とする骨腫瘍は臨床上よく経験し,そのほとんどが骨髄腔に発生する.しかし骨膜あるいは傍骨組織に起原を有すると思われる軟骨性腫瘍は極めて稀である.われわれは基節骨に発生した同腫瘍の1例を経験したので,Jaffeに従いjuxtacortical chondromaの名称で報告する.

膝窩部滑液包に発生したosteochondromatosisの1例

著者: 志鎌明大 ,   串田一博 ,   井上哲郎 ,   萎沢利行

ページ範囲:P.499 - P.502

はじめに
 関節内に発生するsynovial osteochondromatosis(あるいはchondromatosis)は,Reichelの報告以来,数多くみられるが,関節外synovial osteochondromatosis(あるいはchondromatosis)の報告は少ない.われわれは,最近,popliteal bursaに発生したbursal osteochondromatosisの1例を経験したので報告する.

ステロイド剤局所注射により全身反応を呈した1例

著者: 水田博志 ,   石川浩一郎 ,   北川敏夫

ページ範囲:P.503 - P.506

はじめに
 今日,整形外科領域において,ステロイド剤の局所注射はRAやOAにおける関節内注入を始めとして,日常診療に広く使用されている.一方最近になり,ステロイド剤の静注でアナフィラキシーショックを始めとするアレルギー反応を呈した例が報告されるようになり,ステロイド剤に対する過敏性が注目されるようになってきた.最近われわれは,右手関節内および周囲軟部組織へのステロイド剤局所注射後,ステロイド剤に対するアレルギー反応によると考えられる全身反応を呈したきわめてまれな症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

陳旧性膝関節前十字靱帯損傷によるanterolateral rotatory instability(ALRI)に対する手術成績の検討—腸脛靱帯を用いた再建術式を中心に

著者: 史野根生 ,   川崎崇雄 ,   広瀬一史 ,   井上雅裕 ,   後藤一平 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.507 - P.511

はじめに
 膝関節の前十字靱帯損傷が主因と考えられるanterolateral rotatory instability(ALRL)は,膝関節20°〜40°屈曲位で瞬時に起こる外側脛骨プラトーの亜脱臼,およびその整復現象として近年,本邦でも注目されるようになった.
 したがって,N-テストやpivot shiftなどのALRI signが認められれば,前十字靱帯断裂が強く示唆されるわけであるが,この事実はなお充分に認識されていない.しかしながら,スポーツ活動の支障や,階段下降の際の不安定感が,実はALRIそのものによるという症例も少なくない.

右上肢の巨大化を主訴としたRecklinghausen病の1例

著者: 土井恭平 ,   小林勝 ,   沢村誠志

ページ範囲:P.513 - P.516

 Recklinghausen病は皮膚腫瘤,皮膚色素斑,末梢神経腫瘍を三主徴とする.その他に脊柱変形,下腿偽関節,四肢の巨大症などを併発することもあって,整形外科の治療対象となることが多い.
 今回,右上肢が象皮病変化を併って巨大化したRecklinghausen病の1例を経験したので報告する.

学会印象記

第20回先天股脱研究会(小児股関節研究会)

著者: 山田勝久

ページ範囲:P.517 - P.525

 前回京都で行われた研究会から小児股関節研究会というサブタイトルがつけられたが,今回も踏襲した.11月は学会や研究会が多い時期であり,せめて土曜日に開催する予定であったが会場の都合で日曜日になり会員にご迷惑をおかけした.しかし,それでも500名余りの会員により夕方遅くまで熱心な討論が続けられた.内容的にみると特に新しい発表は少なかったが,研究会特有のかなり激しい討論が交された.今回のテーマは難治例および失敗例であったが,このようなテーマは何回でも取りあげて正式学会にないような詳細な点まで論議することが望ましい.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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