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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科17巻6号

1982年06月発行

雑誌目次

視座

骨形成のメカニズムを追って

著者: 下村裕

ページ範囲:P.529 - P.530

 我々整形外科医が日々診療しながら抱く疑問の中で,「骨は如何にして作られるか?」ということは最も基礎的なものの1つであろう.これまでの成書の中でこの問題が納得のゆくような形で説明されたことはなかったように思われる.
 骨形成という言葉にかわって,近年は骨誘導という言葉がよく用いられる.あえて骨誘導といわねばならない理由はどこにあるのだろうか? 骨が形成される様式として組織学的に膜内骨化と内軟骨性骨化が区別されている.この2つは根本的に違うものなのだろうか? 成長軟骨,骨折における仮骨の形成,異所性骨化,電気刺激による骨形成,骨軟骨腫症など,軟骨や骨の作られ方はそれぞれの場合に応じて異なっているために形成のメカニズムの一元的な理解は不可能なのであろうか?等々,1枚の骨折のレ線フィルムを前にしてもつぎつぎと疑問は湧いてくる.

論述

骨肉腫予後因子の検討(第1報)—多変量解析の導入

著者: 井須和男 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   姥山勇二 ,   中里哲夫 ,   石井清一 ,   佐々木鉄人 ,   薄井正道 ,   八木知徳

ページ範囲:P.531 - P.539

はじめに
 骨肉腫の予後は,原発巣の根治手術と平行して行う系統的化学療法の導入により,大きく改善されつつある.われわれの経験した症例においても,化学療法により単なる延命のみでなく治癒率の向上も期待できることを報告した4).化学療法の治療効果を判定するとき,対照群に対する化学療法群の生存率の向上が指標となる.その際,両群の特性の偏りを考慮しなければ,真の化学療法の効果を判定することは困難である.すなわち,骨肉腫の予後に影響を与える因子を明らかにし,その予後因子について両群の差を評価する必要がある.
 一方,現在の化学療法は,症例毎の差を無視した画一的なスケジュールで行われている.従来の系統的化学療法を行わなかった症例でも約20%の治癒率のあったこと4),現在の化学療法でも早期より肺転移の出現してくる症例のあること7),また化学療法の副作用も決して無視できないことなどを考えると,個々の症例の特性に応じた化学療法の実施が理想である.そのためには,適切な抗癌剤を選択するスクリーニング・テストとともに,予後因子の解明が不可欠である.

膝蓋下脂肪体の形態学的観察

著者: 長谷川清 ,   宮坂芳典

ページ範囲:P.540 - P.550

緒言
 膝関節周辺の脂肪体は3つに区分できる.ひとつは大腿骨前面に位置する脂肪体で膝蓋上包や大腿四頭筋腱の下層にあり,主に膝伸展装置の滑動に寄与する.第2は膝関節後面の脂肪体であり内部に重要な神経,血管を包みこれを保護する.そして第3は膝関節腔内の脂肪体であり主に膝蓋下脂肪体とそれに連続する膝蓋骨周辺の脂肪体より構成され,膝関節腔内の空間を満たす(図1).
 この膝蓋下脂肪体は半月板や靱帯などのように膝関節の主要な構成要素ではないため,臨床的にもあまり興味を持たれなかったし,その役割も等閑視されていたようである.

特発性大腿骨頭壊死の血管病変に関する病理組織学的研究

著者: 大内郁夫 ,   船山完一 ,   安倍吉則 ,   若松英吉

ページ範囲:P.551 - P.556

I.はじめに
 成人の無腐性大腿骨頭壊死の病因はなお明らかでないが,罹患骨頭の病理組織学的所見は骨頭内の阻血性壊死の結果であることを強く示唆している.しかし循環障害の原因は不明であり,とくに本疾患のうちの特発性群においては全身の血管系や血流動態の変化をもたらすような明らかな背景因子に乏しいことから,大腿骨頭内およびその周辺に原因が局在することも推測される.さらに骨頭内の壊死域がかなり広い症例も多いことから,その領域を支配する血管に原因を求めるとしても,むしろ骨頭外まで遡った近位に病変の存在することも考えられる.これらの問題点に立脚して,大腿骨頭栄養動脈の骨頭内およびその周辺における病変を病理組織学的に検索するため以下の研究を行った.

二分脊椎の脊髄造影所見について

著者: 山根友二郎 ,   山下武広 ,   中川武夫 ,   松岡明 ,   住吉徹是 ,   高橋英世 ,   真家雅彦 ,   大川治夫

ページ範囲:P.557 - P.567

はじめに
 本邦における脊髄髄膜瘤の発生頻度は欧米に比べ,約1/10の1,000の出生に対して0.2〜0.4人とされ,決して多いものではないが,近年,整形外科領域で次第に大きな注目を集めつつある.これには2つの主な理由がある.1つはポリオなどの感染症による後遺症が激減したこと.他の1つは開放性脊髄髄膜瘤の超早期閉鎖手術13)と水頭症に対するシャント手術などにより救命率が著しく上昇したこと.生存率が高くなった反面,一方では神経症状などの重大な合併障害が今後の問題として残されたことである.このため欧米では重度の症例の超早期閉鎖手術を行うべきか否かの治療選択の問題がとりあげられるにいたっているが,本邦では幸にLorber6)のあげるadverse criteriaに相当する症例は極めて稀であり,われわれは,1968年以来10),超早期閉鎖手術を基本的方針として治療を行ってきた.一方,閉鎖型の脊髄髄膜瘤,脊髄膜瘤に対しては神経症状などを考慮しつつ手術を行っている.手術に先だち神経学的評価は極めて大切であり,多くの方法が行われている17).また,脊髄の異常を伴う本症では脊髄,根の状態を把握しておくことも大切である.脊髄造影は脊柱管内状態について種々の情報と神経学的評価についての重要な資料を提供してくれる.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・7

脊椎分離すべり症に対する後方固定術式

著者: 茂手木三男 ,   岡島行一

ページ範囲:P.569 - P.578

はじめに
 脊椎分離すべり症に対する後方固定術は,1912年FitchがAlbee法を行ったのが最初で,その後Hibbs法,Henle法,BosworthのH-graft法,Watkinsの後側方固定法,またはClowardによる後方からの椎体固定術など多くの術式が報告されている.
 本邦では,光安の棘突起側方と分離部への骨移植法,河野の棘突起鋼線固定と1側骨片移植法,浦田のHenle変法,岡田,蒲原らのE-Graft法などの他,最近ではHarrington-rodやKnod-rodなどを用いた固定術も行われている.以上のごとく数多くの術式がありそれぞれに良い治療成績が報告されているが,これはいかなる方法によってでも後方要素が固定され,脊椎の異常動揺性が防止されれば,それなりの効果があげられることを示している.したがっていかなる術式を選択するかは,手術手技が簡単で侵襲が少なく,しかも慣れた方法がよいということになろう.そこで脊椎分離すべり症の愁訴発現機序についての考えと,われわれが行っている後方固定術について述べる.

検査法

非脱灰骨組織標本の作成方法ならびに整形外科的骨疾患に対する応用

著者: 渡辺正美 ,   佐々木佳郎 ,  

ページ範囲:P.579 - P.584

 非脱灰骨標本は骨をできるだけ生体に近い状態で観察できるため,種々の代謝性骨疾患を初め,骨腫瘍,リウマチ,変形性関節症,ならびに大腿骨骨頭壊死などの整形外科的疾患の骨病変に関して,特に骨のremodelingを主体とした組織学的検索や付随した実験的研究に有用である.
 通常の骨の脱灰標本による観察では,電気脱灰,またはEDTAや酸による脱灰操作により,骨組織中の無機質の性状が損われてしまうため,特に代謝性骨疾患に関しては,正確な組織学的診断を下すには十分であるとは言い難い.つまり脱灰骨標本の欠点としては,骨と類骨の判別が困難であり,したがって骨梁の表面に骨芽細胞が存在していても,そこで正常な石灰化が行われているかどうか不明であること,また,骨細胞腔の大きさや形状が,脱灰操作により変化してしまい,例えば,正確なosteocytic osteolysisの状態などが把握できないことなどである1)

臨床経験

Benign chondroblastomaの1例—Aneurysmal bone cyst様変化を伴った巨大なchondroblastomaの1例

著者: 栗崎英二 ,   原田育生 ,   青木康彰 ,   中嶋洋 ,   姜武 ,   浜田秀樹 ,   水島哲也

ページ範囲:P.585 - P.588

 上腕骨の近位に発生し,組織学的には円形ないし多角形のchondroblastとgiant cellを基本的な細胞成分とする腫瘍をCodman1)はepiphyseal chondromatous giant cell tumor,またEwing3)はcalcifying giant cell tumorと呼称したが,1942年Jaffe & Lichtenstein5)が骨巨細胞腫と分離し,他の部位の同様な組織をもつものも含めてbenign chondroblastomaと呼称して以来,独立した良性骨腫瘍として取り扱われている.
 今回,われわれは右腸骨にaneurysmal bone cyst様変化を伴って発生した巨大なchondroblastomaの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Aneurysmal bone cyst,とくにその成因について

著者: 石田俊武 ,   田中治和 ,   奥野宏直 ,   大向孝良 ,   石川博通 ,   宋景泰

ページ範囲:P.589 - P.596

緒言
 Aneurysmal bone cystは,それまではgiant cell tumorの一つのvariantと考えられていたものに,1942年JaffeおよびLichtensteinが命名して5),一個の腫瘍として独立させた骨疾患である.しかし1950年Lichtensteinは8),本疾患の成因として,静脈血栓や,arteriovenous malformationのような血流の異常を起こさせるような状態が起こり,それが静脈を拡張させて本疾患を惹起すると述べ,また1962年Jaffeは6),non-ossifying fibroma,fibrous dysplasiaおよびchondromyxoid fibromaから二次的に発生したと考えられるaneurysmal bone cystの症例を報告し,本疾患のprecursorの存在を初めて主張した.以後aneurysmal bone cystの成因に関して種々な考え方が発表されているが,一般的には,本疾患を真の骨腫瘍と見做さないこと,および本疾患には一次性13)と二次性の発生が考えられ2〜4,9),二次性の症例では,先行する骨疾患(precursor)があって1,7),それによって局所的な血管の異常が発生し,そこに血流の異常状態が惹起されて本疾患が発生すると考える人が多い1,8,10)

結核性左第1中足趾節関節炎の1例

著者: 清水勉 ,   勝見泰和 ,   今井亮 ,   平沢泰介

ページ範囲:P.597 - P.599

 われわれは比較的まれと思われる左第1趾結核性中足趾節関節炎の一例を経験したので報告する.

手の短小指屈筋皮弁移行の1例

著者: 生田義和 ,   杉田孝 ,   若狭雅彦

ページ範囲:P.601 - P.604

はじめに
 筋肉が何本かの動静脈系によって栄養され運動神経によって支配されていることは古くから解剖学の常識ではあるが,主栄養血管と神経を茎として残し,筋肉の働きを移行して失われた運動を回復させようとする考え方には,大胸筋を肘屈曲に用いるClark法(1946)胸鎖乳突筋を肘屈曲に用いるBunnell法(1951),小指外転筋を母指対立に用いるHüber-Littler法(1921,1963)7)などがある.これらの手術は,前腕末梢部における腱移行術と同様の方法と考えられがちであるが,最近行われている遊離筋肉移植3)の考え方と臨床への応用に関して理論的根拠と刺激を与えたという意味で大きな差がある.また遊離皮弁移植(free flap transfer)の臨床応用1)と発展2)は,筋肉や皮膚の血行をもう一度見直す引きがねにもなり,筋肉皮弁移植(musculo-cutaneous flap transfer)の臨床的応用の普及8)へと発展していった.筋肉皮弁そのものの臨床応用は1968年のOrticocheaの報告6)が最初であるが,最近のmicrosurgeryの進歩による組織移植の一般的興味は,有茎とか遊離とかをあまり厳密に規定しない,もっとdynamicな組織移植へと発展している4)
 本論文で発表する症例は,手のintrinsic muscleのひとつである短小指屈筋を皮膚とともに移行したものである.

末端肥大症にみられた手根管症候群の1症例

著者: 佐藤進 ,   武部恭一 ,   鵜飼和浩

ページ範囲:P.605 - P.608

はじめに
 われわれは末端肥大症にみられた手根管症候群(以下CTSと略す)の1症例を経験したので報告する.

腰部椎間板ヘルニア様症状を呈し,左心房に転移性腫瘤を認めた悪性神経鞘腫の1剖検例

著者: 望月一男 ,   相原忠彦 ,   石井良章 ,   加藤正 ,   河路渡 ,   金光弘 ,   平田俊吉 ,   石川恭三 ,   小俣好作 ,   福住直由

ページ範囲:P.609 - P.616

 悪性神経鞘腫は軟部悪性腫瘍の約3%と比較的稀な腫瘍で,多くは四肢に発生する.今回われわれは,腰部椎間板ヘルニア様症状を呈し,左心房に転移性腫瘤を認めた稀有な症例を経験したので,剖検所見と併せて報告する.

右第2楔状骨に発生した類骨骨腫の1例

著者: 藤田直己 ,   木村浩 ,   広畑和志

ページ範囲:P.617 - P.620

 右第2楔状骨に発生した類骨骨腫の1例を経験した.発生部位として極めて稀な症例であるので,若干の考察を加えて報告する.

学会印象記

第16回Scoliosis Research Society meetingから

著者: 山本博司

ページ範囲:P.621 - P.624

 Montrealは,東部Canada,Quebecの中心都市であり,生活もフランス語で営まれ,フランス風の文化が,歴史を通して今も生づいているところである.1981年9月16日〜18日,第16回Scoliosis Research Society(SRS)meetingは,Canada,Quebec州,Montreal市で,Gordon W. D. Armstrong会長のもとで開催された.会場は町の中心にあるMedrien Hotelであり,この美しいフランス風ホテルの内部だけで小さな町を構成しており,French flavorを味わうに十分であった.
 学会は例年のごとく3日間にわたり,約400名(member 186名,guest 193名)の参加があり盛会であった.Scoliosis Research Society(以下SRSと略す)の現状を簡単に紹介する.本会は1966年に創設され,アメリカ合衆国,カナダ領国の専門医がActive fellowsとして運営してきている.Active fellowsは現在179名であり,11名のEmeritus fellowと14名のHonorary membersがいる.このHonorary membersには,1977年に日米側彎症合同会議を開催した山田憲吾名誉教授も含まれている.SRSはアメリカ,カナダにとどめることなく,広く国際的立場から研究,治療の情報を交換し,発展させるため,世界29ヵ国から70名のCorresponding membersが選ばれており,毎年,世界各地からのspecialists authoritiesが集い,学問の進展に大きな役割を果たしている.わが国からも,6人がCorresponding membersとして加わり,活躍している.

第1回 国際ワークショップ—The Design and Application of Tumor Prosthesis for Bone and Joint Reconstruction

著者: 荻原義郎 ,   高田典彦

ページ範囲:P.625 - P.627

 1981年10月5日より7日までの3日間,表題のタイトルにて国際ワークショップが米国Minnesota州Rochester市のKahler Hotelを会場に開催された.Workshop ChairmenはMayo Clinic,整形外科のF. H. Sim, M. D.と同Biomechanical ResearchのE. Y. Chao, Ph. D.の両者であった.
 ここ数年来,整形外科医やバイオ・エンジニーア達が腫瘍切除後の骨・関節欠損部の再建のため,特別なprosthesisのデザインやその適応に興味を示してきていたが,これらの研究者達は世界各国にばらばらに散在しており,いろいろな情報交換や協同研究を行うのは困難であった.したがって将来の開発,協力を目的として第1回ワークショップがここに開催される運びとなった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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