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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科17巻8号

1982年08月発行

文献概要

視座

老人医療について

著者: 中野昇1

所属機関: 1中野整形外科医院

ページ範囲:P.743 - P.743

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 医学が進歩し死亡率が減少する一方で,少数出産の傾向があるため,わが国は高齢化社会に向って確実に進んでいる.それにともない病院を受診する老人が増え,"病院が老人によって占領されてしまう"と一部でささやかれるほどになった.その結果として健康保険が赤字になり,国鉄などとともにわが国の経済を圧迫しているため,その対策として老人保健法案が国会に提出され審議されている.私はここでこれら政治にかかわる議論をしようとは思わない.ただ老人医療について日頃考えていることを少し述べてみたいと思う.
 昭和33年ケンタッキーダービーで有名なルイヴィル大学に留学していたある金曜日の夜,若い夫婦が大腿頸部骨折の老人を連れてきた.手術の必要があったので入院させたが,よろしくと言って帰ったきり自分達の親であるその老人を見舞にきたことはなかった.当時の日本では戦争に負けたといってもこのようなことは考えられなかったので,驚くとともにアメリカの友人に日本ではこのようなことはないと自慢したものである.しかし,最近では家族で旅するからその間入院させてほしいとか,冬の間だけでも入院させておいてと,入院が必要でないほどの些細なことでも大げさに言ってくる人がいる.また一方ではいわゆる大きい老人病院を作り,入院させ,なかなか退院させない病院がある(医者以外の経営者が多いが).田舎で自分の息子と住んでいた義父が老人性痴呆で老人病院に入院したが,はじめあった意識も薬のため次第になくなり,朝夕点滴され,しまいに褥瘡ができたので退院さぜるように言ったら,何かあっても診てやらないと言われ,死亡するまで同じような治療(?)を受けながらその病院に人院していた。親を大切にするという考えがあったり,老人を金儲けの対象から除外する考えがあれば我国の老人医療ももう少し変ってきているのではないだろうか.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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