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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科18巻10号

1983年09月発行

雑誌目次

視座

医学以前のこと

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.907 - P.908

 例の鞭打ち症が,このところ,ほとんど姿を見せなくなった.追突事故の件数は減ったわけではないし,即効的な治療が開発されたとも聞かない.解決されたのではないが,しかし,正体がわかってくるにつれて騒動が自然とおさまってきたとみてよいのではないか.つまり「えたいの知れぬ症状が,関係者の間に,やたら,不気味さをかきたてていた」ということである.
 経験も知識も役に立たない,えたいの知れない病気を前に立ちすくむ,こんな体験を持たない医師はおそらくあるまい.幸いなことに医学は姑息的治療を用意してくれているし,時もまた,しばしば,医師に味方するものだ.しかしそうした事態にこそ医師は真価を問われる.医師としての真価にとどまらず背景をなす教育や合理精神,つまりは民族の科学性まで問われるということが鞭打ち騒動の一つの教訓かと思う.同じことが白ろう病にもあてはまる.

論述

頸髄の急性損傷と慢性圧迫—人脊髄微細血管造影について

著者: 新宮彦助 ,   木村功 ,   那須吉郎 ,   塩谷彰秀 ,   益永恭光

ページ範囲:P.909 - P.916

はじめに
 人脊髄の急性損傷と慢性圧迫の病理像をmicroangiographyをもちいて比較し,前脊髄動脈や前中心溝動脈,脊髄内の細動脈の分布状態を観察し,脊髄組織壊死範囲との関連を検索し,脊髄循環状態にどのような形態的な差があるかを観察しようと試みた.動物実験では多くのmicroangiography研究が報告されているが,人の損傷脊髄や脊髄症のmicroangiography研究報告は少ない.両者の疾患の死亡例について,剖検時micropaqueを注入し,脊髄病理について検索したので報告する.

骨肉腫の肺転移に対する治療法—とくに開胸手術の意義について

著者: 梅田透 ,   高田典彦 ,   保高英二 ,   沢田勤也 ,   関保雄 ,   石田逸郎 ,   桑原竹一郎 ,   遠藤富士乗 ,   藤田正

ページ範囲:P.917 - P.927

はじめに
 近年,骨肉腫に対する治療成績はAdriamycin(ADR),High dose Methotrexate(HD-MTX)を中心とする系統的全身化学療法の効果により著しい向上を示しつつある14).しかし一方,全身化学療法に抗して治療経過中,肺転移の出現をみることは多く,また多くの骨肉腫患者も肺転移により死亡している.我々は骨肉腫治療成績のより一層の向上には整形外科の立場からも肺転移巣に対する治療,とくに開胸手術についての正しい認識をもち,その適応と評価を行うことが重要と考えた.

浸潤性脂肪腫の臨床病理学的検討

著者: 青山茂樹 ,   藤内守 ,   西川洋三 ,   井形高明

ページ範囲:P.929 - P.933

はじめに
 浸潤性脂肪腫は四肢の深部軟部組織に発生する良性の間葉性腫瘍であり,組織学的には骨格筋に浸潤する成熟脂肪細胞からなり,異型性を有する脂肪芽細胞を認めないのが特徴的であるとされている.また本腫瘍には,浸潤型態により筋肉間脂肪組織より発生する筋肉間脂肪腫と筋肉内脂肪組織より発生する筋肉内脂肪腫に分けられている.四肢の深部に存在し摘出不完全例には,しばしば再発がみられたとの報告はあるが,悪性変化を示したという症例はない.本腫瘍の報告は非常に古く,1853年Paget2)の報告が最初のものと考えられるが,その後の報告例は少なく本邦では,いまだ5症例の報告をみるのみである.
 今回,私達は浸潤性脂肪腫と考えられる3例(筋肉間脂肪腫1例,筋肉内脂肪腫2例)を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

特別寄稿

骨肉腫に対するHigh-Dose Methotrexate with C.F. Rescue療法について

著者: ,   古屋光太郎 ,   小野澤初男

ページ範囲:P.935 - P.940

 従来,骨肉腫に対する有効な抗癌剤はほとんどないと考えられてきた.Phenylalanine mustard,Mitomycin C,Cyclophosphamide及び5-Fluorouracilを投与して効果があったと時折報告されていたが1〜4),それらの有効症例も,5年生存率では5〜23%程度であった5)
 これらの結果は,それ迄実施されてきた早期の切離断術又は,放射線療法後選択的に行われた晩期の切断術の治療結果とは独立した異なったものである6〜7).外科的療法・放射線療法のみで治療した患者の大多数が,治療6〜9ヵ月後にはX線上に肺転移が認められ,1年以内に死亡している.

整形外科を育てた人達 第8回

Richard Volkmann(1830-1889)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.942 - P.945

 Volkmannの名は整形外科では阻血性拘縮で広く知られているが,彼の人物については詳しく知られていないと思う.ところがスイスのHans DebrunnerがVolkmannの人柄・業績を詳しく報告している.これは1932年のArch. Orthop. Unfallchir. Bd. 29に88ページに亘って発表せられている.科学者であると共に文才にも恵まれた人間味豊かな人柄について少しく紹介してみたい.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・15

ヘルニア・脊椎症に対する手術手技—前方進入法について(Smith-Robinson,Cloward)

著者: 森健躬

ページ範囲:P.947 - P.955

はじめに
 前方進入法による頸椎の脊椎症や椎間板ヘルニアに対する手術は,Smith and RobinsonやClowardが,それぞれ独自に1958年前後に報告したのが始まりである.しかし,この人達は初めは神経学的脱落症候がない痛みに対する治療として行っていた.SmithやClowardは神経外科医であるので,神経障害のある症例にもこの方法を応用していったが,第47回日本整形外科学会に柏木会長の招待で来日したRobinsonは,Smith & Robinson法は,神経障害のあるときには適当でないとくりかえし主張し,最もよい適応は椎間板の変性で,洞・脊椎神経のC繊維が刺激されておきた痛みであるといっていた.整形外科医である彼の立場を示唆する考えといえる.Smithの後継者であるAronsonが,Smith & Robinson法でも正中位の椎間板ヘルニアによる頸髄症に対応できると報告した1970年までは,神経障害のある症例にこの方法を応用して良い成績をあげていたのは,日本の整形外科医が独占していたといってもよい.Clowardでさえ,彼の方法による頸髄症や神経根症の治療成績を発表はしていない.
 われわれがこれまで行ってきた,前方進入法の手術手技について改めて紹介することにする.

手術手技 私のくふう

Dorsalis pedis flapの治験

著者: 緒方茂寛 ,   藤井徹 ,   土田廣 ,   古賀雄二 ,   迎伸彦 ,   田中直樹 ,   伊藤孝徳

ページ範囲:P.957 - P.963

 交通事故,とりわけタイヤにひかれた,いわゆる轢創は足関節部から足背にかけて多く,骨折及び骨,関節の露出を伴った皮膚欠損創を呈しやすい.また下腿は骨髄炎に罹患しやすい部位の一つであり,下腿前面に脛骨の慢性骨髄炎による難治性潰瘍及び瘻孔の形成を認める症例にしばしば遭遇する.このような症例に対して従来,cross-leg flapによる修復が多くなされてきたが,cross-leg法は不自由な肢位の問題,また手術回数が多く治療期間が長いなどの欠点をもっており,このため最近では,musculocutaneous flapや,muscle-flapと遊離植皮の併用,あるいはmicrosurgeryによるfree flap transferなどもよく行われているようである.
 一方,1975年,McCrawら8)は下腿下部から足関節,足部の皮膚欠損創の修復にa.dorsalis pedisを含めたaxial pattern flapの使用を報告した.我々も,下腿中央部のものから足背に於ける骨,関節,腱露出をきたした症例に対し,本法を適応し良い結果を得ている.

境界領域

Aneurysmal Bone Cyst 3例の光顕的および電顕的観察

著者: 太田信夫 ,   島田啓史 ,   望月一男 ,   石井良章 ,   河路渡 ,   福住直由 ,   平野寛

ページ範囲:P.965 - P.970

はじめに
 Aneurysmal bone cyst(以下ABC)は,giant cell tumorの1つの亜型と考えられていたが,1942年,JaffeおよびLichtensteinが一個の独立した骨疾患としてABCと命名した9).ABCは,一見動脈瘤を想像させるような骨の"blow out distension"と肉眼的には血液を含む嚢腫状を示す事から動脈瘤様骨嚢腫と命名された.巨細胞腫異型説5),血管腫説6),局所循環障害説11),などさまざまな説が唱えられてきているが,本態に関しては現在尚不明である.今日までABCに関して,臨床的,病理組織学的に多くの報告がなされているが2〜4),超微形態的には詳細な報告は散見されるにすぎない2,3).今回我我は,ABC 3例を光顕ならびに電顕的に検索したので報告する.

臨床経験

脊髄神経鞘腫による脊髄性クモ膜下出血の1例

著者: 大浜満 ,   新宮彦助 ,   木村功 ,   那須吉郎 ,   塩谷彰秀 ,   益永恭光

ページ範囲:P.971 - P.975

 脊髄の出血性病変としての脊髄性クモ膜下出血の原因は,特発性のものやA-V malformationなどの血管性病変によるものが多く,脊髄腫瘍による出血は比較的稀とされる.1930年,Andrè-Thomasによるependymomaからの脊髄性クモ膜下出血例の報告以来,いくつかの報告例を散見するのみである.Iobら(1980年)は脊髄腫瘍のunusual onsetとしてのクモ膜下出血例をまとめ,自験例を含め報告している.これらの報告によると,原因となる脊髄腫瘍はependymomaやneurinomaが多く,他にmeningioma,astrocytoma,sarcoma,hemangioblastomaがあり,一般に若年者に多発し,発生部位としては脊髄円錐部から馬尾神経にかけて多くみられるとされている.
 最近,我々は脊髄円錐部のneurinomaを原因として発症した脊髄性クモ膜下出血の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

若年者に見られた軟部骨肉腫の1例

著者: 吉田顕 ,   石井清一 ,   佐々木鉄人 ,   薄井正道 ,   八木知徳 ,   小林三昌

ページ範囲:P.977 - P.980

 軟部骨肉腫はWilson(1941)8)が最初に報告して以来約100例の報告をみる.本邦においてはKubo(1934)5)の報告以来僅か7例をみるのみである.しかも本腫瘍の発生年齢は中年以降に多く,10歳以下の発生例はきわめて稀である.著者らは今回9歳男児例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

慢性関節リウマチにみられた上腕二頭筋長頭腱断裂の1例

著者: 岡田陽生 ,   山際哲夫 ,   丸山俊行 ,   原邦夫 ,   立沢喜和

ページ範囲:P.981 - P.983

 慢性関節リウマチ(RAと略記す)にみられる特発性腱断裂は,指伸筋腱にはしばしば発生するが,上腕二頭筋長頭腱に発生することは稀である.
 今回,われわれは,RAにみられた上腕二頭筋長頭腱の皮下断裂を手術する機会を得たので,その成因について若干の文献的考察を加えて報告する.

骨盤骨に原発せる非分泌型骨髄腫(IgG-κ)の1剖検例

著者: 松井寿夫 ,   藤井保寿 ,   大内純太郎 ,   高野祐 ,   舘崎慎一郎 ,   高野治雄 ,   浦山茂樹 ,   北川正信 ,   深瀬真之

ページ範囲:P.985 - P.989

 多発性骨髄腫において腫瘍性形質細胞の分泌する異常免疫グロブリンは単クローン性で,通常血清または尿中,あるいはその双方に証明される.単クローン性免疫グロブリン(以下M成分と略す)が証明される通常の骨髄腫に対して,血清および尿中にM成分が証明されない非分泌型骨髄腫があり骨髄腫の約1%を占めるとされている2).今回,著者らは骨盤骨に発生し生検で骨髄腫が疑われたが血清および尿中にM成分が証明されず,死亡2週前になってはじめて血清中にM成分(lgG-κ)が認められた骨髄腫の1剖検例を経験したので報告する.

培養検査陰性の術後感染症

著者: 和田野安良 ,   林浩一郎

ページ範囲:P.991 - P.996

 Clean orthopedic surgeryにおける術後感染は,その手術結果に重大な影響を与えるため感染防止に種々の努力が払われてきた,抗生物質の登場により,術後感染の問題が改善されたことは明らかであるが,現在でも整形外科領域での術後感染症の報告は諸家により,多少差異あるものの,多くは1〜3%と言われている3,5).しかし,予防的抗生物質の投与が広く行われている今日において1),術後感染症も大いに変貌をとげている6,7,9).今回,我々は術後感染症と診断し,再手術を行ったが,術中細菌培養陰性であった3例につき検討した.

骨肉腫の皮下組織への転移について

著者: 石田俊武 ,   大向孝良 ,   田中治和 ,   増田宗義 ,   伊東貞直 ,   奥野宏直 ,   石川博通 ,   高見勝次 ,   宋景泰

ページ範囲:P.997 - P.1002

 骨肉腫の転移については,従来より,血行性に,殆んどの症例で肺または胸膜に発生し,骨・リンパ節へは少なく,肝・腎などの内臓諸臓器には極めて稀であると言われてきた3,5,7).しかし近年施行されるようになってきた制癌剤の多剤大量投与は,骨肉腫の転移の様相を変えつつあるとの報告もみられる7).著者らも,現在までにあまり記載のされていない皮下組織への転移2)を発生したと思われる2症例を経験したので,考察を加えて報告する.

両肩関節重度外転拘縮を呈した三角筋拘縮症の1治験例

著者: 西村憲市郎 ,   矢部裕 ,   山田俊明 ,   佐藤正也

ページ範囲:P.1003 - P.1007

 約80°の両肩関節外転拘縮を示した三角筋重度拘縮症に対して,停止部における延長術を行い,箸明な症状の改善をみたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

遊離筋移植にて治癒した左第1足指末節骨に発生したepidermoid cystの1症例

著者: 木次敏明 ,   坂田勝郎 ,   児玉芳重

ページ範囲:P.1009 - P.1012

 Epidermoid cyst(類上皮嚢腫)は,主として手や指の掌側面の軟部組織に好発するが,骨に発生することは稀である.本邦においても,指骨に発生した報告例があるが,足指骨に発生したものは極めて稀である.最近,我々は左第1足指末節骨に外傷性に形成されたと考えられる1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

両側同時骨盤骨切り術による姿勢矯正の経験

著者: 石田勝正 ,   山室隆夫 ,   三河義弘 ,   一坂章 ,   大浦好一郎

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 多発性骨端形成不全症の結果生じた前屈姿勢に対して,Salter骨盤切り術2)を応用した両側同時骨盤楔状骨切り術(Wilson P. D.ら,1969)4)を行って,満足な結果を得たので報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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