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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科18巻12号

1983年11月発行

雑誌目次

視座

"宇宙の意志"と医療従事者の役割

著者: 大塚哲也

ページ範囲:P.1127 - P.1127

 今年の3月18日に思いもかけず前立腺肥大症で入院の上,手術をうけた.私自身特に前立腺肥大症になりたいと思ったわけではなく,全く"私の意志"に反する出来事であった.即ち人には"自分の思い通りになる意志"とそうでない"宇宙の意志"(人は神とも仏とも言うが)とがあり,又"宇宙の意志"の方が上位にある事が分る.臨床的に我々医療関係者が全力を尽くしても命を救う事もできない例があるかと思えば,重大事故にあい,現場に長くそのまま放置されていたにも拘らず助かった例もある.とすると我々医療関係者が患者さんを治すものでないことが分る.もしその人達に"宇宙の意志"による寿命があるならば,我々としては身体的,精神的,経済的,社会的にその人のもつ最大の能力まで,できる限り早く,充分に回復させるというリハビリテーション医学の定義をそのまま実行に移すに過ぎないということになる.人は"精神的エネルギー"libidoと"身体的エネルギー"をもち,これがお互いにバランスを保ちながら,その人全体としてのエネルギーとなっている.従って一方のエネルギーが抑圧されると,他方のエネルギーに転換される.患者或は障害者の人達も外観は一見変らぬように見えても,精神面・心理面では刻一刻と変化している."心身症"の名に示すように心に色々とわだかまりがあると身体面に症状が現われ,又この反対の場合もあることも知られている.従って我々はこの人達の精神面・心理面についても充分満足させておかねば,いわゆる"はしご医者"の原因を作り,各病院を自分自身の納得いく所まで転々と渡り歩く結果を生むことになる.

論述

50歳未満の患者に対する人工股関節置換術

著者: 山室隆夫 ,   奥村秀雄 ,   浜渕正延

ページ範囲:P.1128 - P.1136

はじめに
 Charnley式人工股関節置換術(以下THR)の長期成績をみると,局所の条件がよく人工関節の器種の選択が合理的で手術手技が正しく行われた症例においては多くは日整会判定基準で90点以上の好成績を維持している7).しかし,骨の萎縮が強い場合とか亜脱臼位でソケットが挿入されるなど,悪い条件下においてなされたTHRは術後10年の間には成績がかなり低下する傾向がある8).また,high density polyethylene(以下HDP)のソケットの摩耗は確実に進み,われわれ8)の計測では年平均0.2mmである.これらの点より考えると,50歳未満の年齢でのTHRは20年後あるいは30年後にはいろいろの問題をきたすことが予想される.
 そこで,50歳未満の年齢において止むなくTHRを行った症例について術後の経過を観察し,その問題点について検討すると共に手術手技や器種の選択について考察を加える.

日本人晒骨標本を用いた脊椎分離症の解剖学的検討

著者: 高橋和久 ,   井上駿一 ,   松井宣夫 ,   渡部恒夫 ,   山縣正庸 ,   高山篤也 ,   里村洋一

ページ範囲:P.1137 - P.1142

はじめに
 従来,脊椎分離症の成因に関しては,人種的差異5,9),遺伝的先天的要因8),発育途上の椎弓の歪み1),生体力学的要因2,7),成長期における過度の力学的負荷4,6)などが指摘されているが,一般的には何らかの先天的要因の上に反復する力学的負荷が加わり,疲労骨折を生ずるものと推定されている10,11).本研究は日本人晒骨を用いることにより,分離腰椎の形態的特徴を検索し,さらにその病態および発生機序につき考察することを目的とした.

下肢の過労性骨障害と骨シンチグラフィ—早期診断への応用と過労性骨障害の診断の拡大

著者: 入江一憲 ,   熊野潔 ,   万納寺毅智 ,   横江清司 ,   村瀬研一 ,   張景植 ,   金子和夫 ,   大久保夫美子 ,   古田敦彦 ,   中嶋寛之

ページ範囲:P.1143 - P.1150

はじめに
 スポーツ障害領域において,使いすぎによる下肢の骨痛を訴える疾患は多い.過労性骨障害が代表的なものであるが,その他,shin splints,腱炎,腱鞘炎の一部,単なる打撲によるものなども含まれる.以前から過労性骨障害においてはRIのuptakeを示すことが知られていたが,我々は過労性骨障害を中心としたスポーツ障害領域における種々の骨痛を訴える疾患に対して,骨シンチを施行し,その結果を分析することによって,過労性骨障害の診断の拡大とその早期診断,確定診断への骨シンチの応用に関して,2,3の知見を得たので報告する.

骨の悪性線維性組織球腫—6症例の報告とその定義及び病理組織像と予後の関係の検討

著者: 荻野幹夫 ,   蜂須賀彬夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   小杉雅英 ,   瀬川満 ,   小出雅彦

ページ範囲:P.1151 - P.1162

はじめに
 骨原発性悪性線維性組職球腫(以下MFH of boneと略)の報告例は少なく,適切な臨床的処置(診断,予後の判定,治療法等)について一致した見解は確立されていない.自験6症例を報告し,MFH of boneとそのcounter partとしての良性骨原発性線維性組織球腫の定義と範囲について述べ,臨床像,病理組織像,特に病理組織像と予後の関係,治療法と予後について検討し,治療指針の一助とすることが本文の目的である.最初に症例を報告し,次に検討事項について述べる.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・17

ヘルニア・脊椎症に対する手術手技—前外側侵入法について

著者: 宮坂斉

ページ範囲:P.1163 - P.1174

I.はじめに
 頸椎椎間板の変性にもとづき二次的に発生した骨棘は,その発生部位により脊髄や神経根,椎骨動脈に障害を与える(図1).X線上認められる骨棘は無症候性のものが少なくないが,臨床症状が認められる例においてはそれが圧迫因子となり病的意義を有していることがある.同様に,椎間板組織も後方のみならず後側方に膨隆し,神経に対する圧迫因子となりうる.このような症例に手術が適応された場合,椎体の後側方に存在している骨棘や椎間板膨隆は,Cloward法やSmith-Robinson法で代表される通常の前方法では可及的切除にとどまらざるを得ない.したがって,椎体後側方の除圧を積極的に行うためには,前外側からのアプローチを採用し,椎骨動脈を確認,保護しつつ慎重に除圧する必要がある.

境界領域

慢性腰痛の心理社会的側面

著者: 山内祐一 ,   稲瀬正彦 ,   蝦名享子 ,   志賀令明 ,   山本光璋

ページ範囲:P.1175 - P.1182

はじめに
 整形外科領域において,腰痛は最も頻度の高い疾患のひとつである1).そのうち,急性腰痛は身体的処置により大半は治癒せしめうるとしても,慢性腰痛の場合往々にして病態は膠着状態に陥り,中にはポリサージェリーに追いこまれ悲惨な転帰をとる例さえみられる2).腰痛に限らず,一般に痛みの認知には神経生理学的要素と同時に,多かれ少なかれ心理的要因が含まれる3).そのため,疼痛患者には必ず心身医学的アプローチが必要である4).とくに,慢性腰痛ではたとえ何らかの器質的病変があっても,それと患者の愁訴とがすぐ直結するとは限らない5).筆者らの経験では,痛みに対する反応は個人毎に異なり,患者の病前性格,家庭環境,価値観および知的水準などの因子がむしろ重要な意味をもつように思われる.このことは補償神経症でとくに問題となりやすい6,7).労災事故や交通事故には補償問題がつきものとなった昨今であるが,これが未解決のままであると痛みが遷延しやすいもので,目常臨床上誰もが経験済みであろう.この領域の系統的な研究はまだ不十分であるため治療法も確立しておらず,心療内科でも大きな課題のひとつになっている.そこで,本稿では慢性腰痛患者がかかえる様々の心理社会的問題点を指摘し,心身医学的診断ならびに治療の現況と将来などに触れてみることにしたい.

整形外科を育てた人達 第10回

Julius Wolff(1836-1902)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1184 - P.1187

 昔は骨に活発な生命力があるとは思っていなかった.この骨に生命力があり状況に応じて形態的にも,内容的にも変化のあることを明らかにしたのはJulius Wolffで,骨の生理学を確立したので,整形外科学の基礎となる骨の研究に大きな足跡を残している.

臨床経験

著明な四肢麻痺を来たした陳旧性環軸椎脱臼の1治験例

著者: 宮田隆一 ,   樋口雅章 ,   川岸利光 ,   本道洋昭 ,   杉山義昭

ページ範囲:P.1189 - P.1194

 頭蓋頸椎移行部では,個体発生的にも系統発生的にもその発生の複雑性から様々な先天性奇形や移行形が発現する.そして,その後の発育や生後の2次的要因により,その解剖学的特異性から多彩な臨床症状を呈してくる.このため現在なお診断がつかず放置されたり,他の神経疾患と誤診されることも多い.
 今回われわれは,約30年にわたる経過で進行性に多彩な臨床症状を呈した陳旧性環軸椎脱臼の症例を経験し,観血的治療にて術後著明な症状の改善が得られたので,その経過の概要などについて若干の文献的考察を加え報告する.

胸髄不全損傷を伴った第6胸椎脱臼骨折の1症例

著者: 茶谷賢一 ,   岩破康博 ,   川上登 ,   田中昭彦

ページ範囲:P.1195 - P.1200

 胸椎は頸・腰椎に比し外力に対し構築学的に安定性を得ており,その脱臼骨折は稀とされている.我々は胸髄不全損傷を伴う第6胸椎脱臼骨折の1症例を経験したので,胸椎脱臼骨折およびそれに伴う胸髄不全損傷の発生機転について若干の文献的考察を加えて報告する.

軟骨終板ヘルニアともいうべき腰部椎間板ヘルニアの1例

著者: 福秀二郎 ,   細川昌俊 ,   芦田多喜男 ,   崎原宏 ,   阿部均

ページ範囲:P.1201 - P.1205

 腰部椎間板ヘルニアの手術に際して,軟骨終板の付着した腫瘤が摘出される症例は必ずしも稀ではないが,われわれは,主として軟骨終板が脱出して神経症状を呈した症例を経験したので報告する.

Myotonic dystrophyの4例

著者: 浜西千秋

ページ範囲:P.1207 - P.1212

 1876年Thomsenは彼自身とその家系にまつわる筋硬直疾患を記載しこれをMyotonia Congenita(Thomsen病)と名づけた.Steinert(1909)29)は筋硬直に筋萎縮と内分泌障害を合併する疾患を報告し,Curschman(1915)6)はこれをThomsen氏病とは別の疾患と考え,これをDystrophia Myotonica(Myotonic dystrophy)と名づけた.この頃よりこの疾患が全身の多くの諸器管に極めて多彩な病像を呈するmultisystemic diseaseである事があきらかとなってきた.著者は母と2人の息子例,及び孤発例と考えられる婦人例を経験したので文献的考察を加え報告する.

会陰部瘻孔を伴った大転子部結核性滑液包炎の1例

著者: 田口保志 ,   田村清 ,   井上紀彦 ,   吉岡秀夫 ,   大寺和満 ,   高矢康幸 ,   小野敏通

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 抗結核化学療法の発達と共に,整形外科領域での結核性疾患も激減して来た観を呈する.われわれは,最近では極めて稀なる大転子部結核性滑液包炎の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

Duchenne型進行性筋ジストロフィー症児の骨格筋シンチグラフィー

著者: 阿部正隆 ,   猪又義男 ,   新渡戸剛 ,   浅井継 ,   登米祐也 ,   岩崎隆夫 ,   千田直 ,   遠藤重厚

ページ範囲:P.1217 - P.1220

 筋ジストロフィー症における筋の荒廃の病因的役割をなしていると考えられる1つに,筋細胞膜異常が挙げられている1).筋細胞膜異常により,カルシウムイオン(Ca2+)が流入し,筋細胞を壊死に陥らせるといわれる.このCa2+の病因的役割を確かめる手始めに,テクネシウム-99m-メチレン・デイ・ホスフォネート(99mTc-MDP)による筋シンチグラフィーをDuchenne型進行性筋ジストロフィー症(PMD)児に試みた.その結果,右下腿筋に異常集積を認めたので,その意義について考察を加えた.

乳児指趾線維腫症の1例

著者: 張景植 ,   高橋定雄 ,   安藤正 ,   高見博 ,   金田英明 ,   小谷貢一 ,   鈴木勝己

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 乳児指趾線維腫症infantile digital fibromatosis(以下IDFと略す)は乳幼児の指趾に発生する線維腫症であり,強い再発傾向をもつ稀な疾患である.我々は,術後8年間の経過観察を行った1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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