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慢性腰痛の心理社会的側面
著者: 山内祐一1 稲瀬正彦1 蝦名享子1 志賀令明2 山本光璋3
所属機関: 1東北労災病院心療内科 2山形女子短期大学 3東北大学医学部脳疾患研究施設神経生理
ページ範囲:P.1175 - P.1182
文献購入ページに移動整形外科領域において,腰痛は最も頻度の高い疾患のひとつである1).そのうち,急性腰痛は身体的処置により大半は治癒せしめうるとしても,慢性腰痛の場合往々にして病態は膠着状態に陥り,中にはポリサージェリーに追いこまれ悲惨な転帰をとる例さえみられる2).腰痛に限らず,一般に痛みの認知には神経生理学的要素と同時に,多かれ少なかれ心理的要因が含まれる3).そのため,疼痛患者には必ず心身医学的アプローチが必要である4).とくに,慢性腰痛ではたとえ何らかの器質的病変があっても,それと患者の愁訴とがすぐ直結するとは限らない5).筆者らの経験では,痛みに対する反応は個人毎に異なり,患者の病前性格,家庭環境,価値観および知的水準などの因子がむしろ重要な意味をもつように思われる.このことは補償神経症でとくに問題となりやすい6,7).労災事故や交通事故には補償問題がつきものとなった昨今であるが,これが未解決のままであると痛みが遷延しやすいもので,目常臨床上誰もが経験済みであろう.この領域の系統的な研究はまだ不十分であるため治療法も確立しておらず,心療内科でも大きな課題のひとつになっている.そこで,本稿では慢性腰痛患者がかかえる様々の心理社会的問題点を指摘し,心身医学的診断ならびに治療の現況と将来などに触れてみることにしたい.
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