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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科18巻13号

1983年12月発行

雑誌目次

視座

関節鏡へかける夢

著者: 黒木良克

ページ範囲:P.1227 - P.1227

 1920年故高木教授によって初めて試みられた関節鏡は1931年第一号高木式実用膝関節鏡の開発に伴い,幾多の変遷をたどりながら数多くの先輩の地道な研究により,また渡辺,池内両大先輩の努力によって全世界に於いて確固たる地位を築くに至った.
 私も数年前からこれを他の関節の診断,治療に応用できないかと考え,種々試みてきた.現在おもに肩関節と股関節に用いて,その成果は関節鏡学会などに教室の筒井や扇谷らによって発表されている.軟骨や滑液膜,滑液包の変化を主体とする疾患の早期診断が主であるが,肩関節においては腱,腱板の一部の変化も充分に鏡視できることが判った.股関節においては前股関節症やペルテス病などに用い骨頭および臼蓋軟骨の変化がfibrilationから潰瘍,軟骨欠損の状態まで鏡視でき,骨切りなどの手術法決定にも応用している.また滑液膜の変化,例えば炎症性変化やP. V. S.などもよく観察ができ,その上biopsieやGelenkmausの摘出も可能である.またR. A.などの疾患では関節内洗浄効果も期待できそうである.先天性股関節脱臼の整復障害因子も鏡視下に切除できるのではないかと思い,症例を待っているところである.

論述

頸椎,頸髄損傷例における手術所見の検討—単純レ線との比較及び手術法の選択

著者: 佐々木邦雄 ,   角田信昭 ,   芝啓一郎 ,   権藤英資 ,   香月正昭

ページ範囲:P.1228 - P.1237

緒言及び目的
 新鮮頸椎,頸髄損傷に対する治療力針は諸家により異なり種々報告がある.我々は1979年当センター開設以来,本損傷に対して後述する適応に準じて手術的治療を行ってきた.我々の手術方針,手術法,成績等についてはこれまで報告してきた12,19,24〜26,31,32).手術的治療の目的は,脊柱アライメントの再獲得,脊椎管内迷入物の除去,外傷による脊椎の不安定性の除去による損傷脊髄に対する除圧であり,また,強固な固定により早期リハビリテーションを可能にすることにある.本損傷を上記目的で治療するにあたっては急性期の脊髄,脊椎への損傷の程度の把握および全身状態のチェックが重要な事柄である.脊髄の損傷の状態は神経学的所見よりある程度可能であり,脊髄誘発電位を利用することにより別の角度よりの機能の確認ができる14).損傷された脊髄病変が可逆的か否かは論争のあるところであり,損傷脊髄に対する治療的試みは外科的,内科的に行われているも一長一短があり確実なものはないと現時点では考えてよいであろう.脊椎の損傷の程度の把握は通常レ線所見にて行われ,分類は受傷メカニズムを加味したものが有用と考えられる20,34).損傷の程度をレ線学的に詳細に分類することは重要な面であるが1),治療を行うにあたっては損傷脊椎の安定化および損傷脊髄の除圧を考えることが必要となる.

変股症骨嚢包の発生および存在に対する生体力学的解析

著者: 上尾豊二 ,   中村孝志 ,   奥村秀雄 ,   山室隆夫 ,   堤定美

ページ範囲:P.1239 - P.1248

はじめに
 変形性股関節症は主に関節の力学的破綻によって生ずるものと考えられる.したがって,その力学的な破壊作用に対して生体よりの防禦的な反応が生じてくる.骨は増大する応力に対して強い骨梁を形成し,骨棘を形成して荷重面積を増大させようとする.ところで,もう一つの変股症の主な所見である骨嚢包はどのような生体力学的背景を持って形成され,そして形成された嚢包はどのような意味を持っているのであろうか.単に否定的な存在なのか,それとも防禦作用の一翼を担っているのかを明らかにするために,有限要素法を用いて理論的な解析を試みた.

新鮮小児上腕骨外顆骨折の手術適応決定におけるdisplaced fat pad signの意義

著者: 西島雄一郎 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   片岡玲典 ,   林松夫

ページ範囲:P.1249 - P.1256

序言
 小児上腕骨外顆骨折(以下,外顆骨折と略す)の治療において,末梢骨片の転位軽度な症例を保存的に加療すると,思わぬ結果を招くことがある.諸家2,4〜6)の報告によれば,転位軽度な症例に,より多くの偽関節や外反変形の発生を見るという.その原因は,転位軽度な例は,転位の強い例に比し,ギプス固定等の保存的療法により加療されることが多いためと言われている5,6).このような偽関節や,外反肘発生を防止するためには,受傷時の時点で,正確に手術適応を決定する必要がある.
 Holst-Nielsen6)は末梢骨片の回転転位を有する例を,又,Flynn4)は末梢骨片の側方転位が3mm以上のものを,それぞれ,手術適応であると述べているが,現在のところでは,本骨折を保存的に加療した場合,頻回にレ線撮影を行い,末梢骨片の転位が増強すれば,その時点で手術的治療に移行するといった考え方10,15)が一般的である.しかし,上記の手術適応の決定は,いささか姑息的で,本骨折がSalter-Harris type IV16)の骨端線損傷を伴う骨折であること,又,陳旧例の本骨折の手術成績が必ずしも好結果を得ていないことを考えるとき,受傷時の時点で,できるだけ正確に手術適応を決定する必要があると思われる.

シンポジウム 電気刺激による骨形成

Pulsing Electromagnetic Fieldsによる偽関節の治療

著者: 伊藤博元 ,   白井康正 ,   浜野昭彦 ,   藤沢裕志 ,   成田哲也

ページ範囲:P.1261 - P.1266

はじめに
 近年科学技術の発達はめざましくこの10〜20年間にすでに過去の疾患となってしまった疾病も数多く見られる.しかし骨折に関しては多少状況が異なっているようである.手術方法や手術器材・抗生剤等の著しい進歩発展がみられるものの,一方では高層ビルの林立による高所からの転落,交通事故の増加,特にhigh energyaccidentの増加により骨折の様相も変わってきているものと考えられる.そして遷延治癒骨折や偽関節の発生頻度についても従来の報告に比べてむしろ増加傾向にあるのではないかと思われる.
 一方骨に微弱な電流を流すと電気的仮骨が形成されてくることが報告16)されて以来,電気刺激により遷延治癒骨折や偽関節の治療が試みられるようになってきている.根本的には電気刺激療法は骨組織に電流を流す方法によって3つに大別することができる.すなわち電源と共に刺激電極を体内にうめ込んで刺激を行うinvasive type,ピン等を患部に刺入してこれを電極として刺激を行うsemi-invasive type,体外より刺激を行うnon invasive typeである.われわれはnon invasive typeの代表例でありBassett1)により発表されたPulsing Electromagnetic Fields(以下PEMFと略す)を用いて四肢長管骨における遷延治癒骨折および偽関節症例の治療を行ったので報告する.

交流電気刺激による電気的仮骨の特性

著者: 湯川佳宣 ,   津田欣徳 ,   古屋光太郎 ,   松本誠一 ,   水田隆之 ,   伏見昌樹 ,   青木秀希 ,   土屋正光 ,   五十嵐高

ページ範囲:P.1267 - P.1280

はじめに
 微小電気刺激あるいはパルス電磁場,変動電磁場による刺激が,骨増生や骨形成に極めて有効であることは内外の研究ですでに明らかになっている.これらの刺激療法は偽関節などの難治性骨折の治療に応用され,その効果の極めて大きいことに関する多くの報告がある.われわれはすでに日整会,骨と電気刺激の研究会において電気刺激が難治性骨折に対し高い治療効果を有すること,また新鮮骨折の骨癒合期間が短縮することなどを報告してきた.われわれは微小交流電気刺激法を行っているがその理由は,①生体内に流れている電気は交流的電気であるため,より生理的であること,②骨に交流を印加した場合,極性が交互に変化するため均一に骨増生,骨形成ができるという可能性,③諸家がしばしば行っている直流電気刺激において陽極酸化やその処理の問題を考慮することがないという便宜性,④交流であるために骨や骨周辺の電気的動態の経時的変化が客観的数値にて把握できるということである.今回は臨床治療成績,動物実験結果についてふれると共に,電気刺激によってできた電気的仮骨が日常臨床例で観察している"生理的仮骨"に比しいかなる特性を有するかに焦点をおき報告する.

長管骨偽関節の骨髄内埋込み式電気刺激治療の臨床的検討

著者: 三浦幸雄 ,   近藤順 ,   楠岡公明 ,   関口孝雄

ページ範囲:P.1281 - P.1290

はじめに
 近年骨折の外科的治療は一段と進歩したことは事実である.しかし一方では我々の臨床でも感染性偽関節や遷延治癒骨折など難治性の骨折に遭遇する機会も少なくなく,これらの治療に難渋させられることは今なお変りなく,整形外科の重要課題として残されている.近年は骨への微弱電気刺激の研究と臨旅応用が注目され,直流電気刺激の他に交流電気刺激,磁場や圧電膜などの各種電気刺激装置による臨床的治療が試みられている.我々は,1979年から微弱直流電流による電気的仮骨に関する基礎的研究と平行して骨髄内埋込み式の電気刺激装置(Osteostim)の臨床応用を行ってきた.今回は長管骨偽関節,遷延治癒骨折の治療経験を述べ,本法の特徴と共に若干の考察を加え報告する.我々の本治療法を試みた最大の目的は可及的早い骨癒合の獲得と早期の社会復帰を可能にする事の2点である.

骨疾患に対する電気刺激法の適応

著者: 井上四郎 ,   大橋俊郎 ,   梶川究 ,   茨木和博 ,   佐々木博幸 ,   多田道彦

ページ範囲:P.1291 - P.1298

はじめに
 保田による"骨の圧電気現象"41)および"電気的仮骨"42,43)の発見以来30年が経過し,急速に骨と電気の関係が理解されるようになってきた.実用化されている電気刺激法と治療対象である疾患の適応について論及する.

微弱直流による電気刺激の骨折及びその他の疾患に対する応用

著者: 酒匂崇 ,   清水恒光 ,   吉永一春 ,   牧信哉 ,   吉国長利 ,   貴島稔 ,   吉留鶴久

ページ範囲:P.1299 - P.1304

はじめに
 骨に電気刺激を与え骨形成を促進する試みは1953年,保田23)の発表により注目を集め,近年偽関節の治療に応用されるようになり,手術した結果あるいはそれ以上に良好な成績が報告されている.骨に対する電気刺激の応用は,これまでは主に遷延治癒骨折や偽関節についてであったが,著者らは骨折以外の症例にも電気刺激を行い効果の認められたものがあり,電気刺激の応用を広げつつある.
 この論文では,遷延治癒骨折や偽関節に対する著者らの経験を主に述べ,骨腫瘍類似疾患(bone cystなど)や腰椎後側方固定などにも応用しているので,それらの結果に検討を加えた.

整形外科を育てた人達 第11回

Friedrich von Hessing(1838-1918)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1306 - P.1310

 整形外科はStromeyerが皮下切腱術で足の変形を矯正したが,この程度の手術で人体の変形を矯正し得たものは少ない.Listerが制腐手術法を発表したのは1867年であるので,それまでは器械的に矯正するよりほかに余り良い方法はなかった.その頃Hessingは義肢,補装具を考案・作製して名声を高め,Hoffaもその技術を高く評価している.しかしHessingは医師の資格もなく,制腐手術から無菌手術へと手術技術が進歩してもこの方面に知識のないHessingの治療には進歩がなかったので19世紀の終りから20世紀にかけて活躍したMünchen大学のProf. Fritz Lange(1864-1952)の自伝の「Ein Leben für die Orthopädie(1959)」の中にDer Kampf gegen Hessingの一項があり,医師でない者の旧態依然とした治療に反対した.然し今日でも整形外科では補装具は重要であり,義肢は切断者にとって不可欠である.この方面で活躍したHessingを無視することには問題がある.そこでFriedrich von Hessingについて記述するのも有意義と私は考える.

臨床経験

椎間板後方脱出が原因で頸椎脱臼整復後に脊髄麻痺の悪化をみた1例

著者: 米山芳夫 ,   大谷清 ,   柴崎啓一 ,   藤井英治

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 外傷性頸椎脱臼に対しては,可及的早期に頭蓋直達牽引あるいは手術により頸椎の解剖学的整復をはかり,損傷部の安静を保つことが早期治療の基本原則である1,2,4).しかし外傷に伴う脱出椎間板などによる脊髄の圧迫は,脱臼の整復によってむしろ脊髄圧迫を強め,脊髄麻痺を増悪する可能性がある7).今回われわれは,外傷性頸椎脱臼の観血的整復により,後方脱出した椎間板によって脊髄麻痺の悪化を取た症例を経験したので考察と反省を加えて報告する.

長母趾屈筋腱皮下断裂の1例

著者: 佐藤圭子 ,   須川勲 ,   森脇正之

ページ範囲:P.1317 - P.1320

 足部の腱断裂の報告は,手指の腱断裂にくらべ比較的少ない,なかでも,長母趾屈筋腱の皮下断裂について,私達が調べ得た範囲では,Sammarcoら(1979年)6),Krackow(1980年)4)とGarth(1981年)2)の報告のみである.今回,私達は,右母趾基節骨部の骨折に伴い,同部の長母趾屈筋腱皮下断裂を呈した1例を治療する機会を得たので,若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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