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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科18巻5号

1983年05月発行

雑誌目次

視座

術後感染防止と抗生剤の使用

著者: 河路渡

ページ範囲:P.483 - P.483

 術後感染がおこる場合,生体側の条件としては,患老の年齢,全身状態,合併疾患,手術手技などの全身的,局所的な因子があげられ,これらは患者自身の感染に対する抵抗力として総合される.一方,細菌側の条件として菌の種類およびその病原性,数などがあり,この両者の条件が複雑にからみあって感染がおこるか否かが決定される.感染を抑止するためには,生体側の抵抗力を増強するか細菌の方の条件を弱めるかの何れかによらねばならず,後者の場合には抗生剤の予防投与が行われるわけである.
 整形外科領域においては,近年の傾向として,人工関節置換術のような巨大な異物を使用する機会が少なくないし,また,高齢者社会を迎えた現在では,これら高齢者でもかなり侵襲の大きな手術をうけることが多くなり,患者も高齢である程,当然種種の合併症を伴っており,術後の感染は致命的なものになりかねない.

論述

全広背筋のbipolar transferによる肘flexor-plasty

著者: 平山隆三 ,   小澤一広 ,   稲尾茂則 ,   竹光義治

ページ範囲:P.484 - P.490

はじめに
 広背筋移行による肘屈筋形成術には,neurovascular pedicleを温存して中枢側,末梢側の両方を切離して上腕に移行するbipolar transferと末梢側のみを移行するunipolar transferがある.Bipolar transferは1950年Schottstaedtら13)が初めて報告して以来,1973年Zancolliら17)が8例につき報告,よりpopularな方法として知られるようになった.一方vascular territoryの研究発展により,musculocutaneous flapとしても安全に移行することが確認されて以来,上腕部の筋肉,皮膚同時欠損の機能再建にも応用され,Stern(1982)14),Brones(1982)ら2)によるmusculocutaneous flapによる筋肉,皮膚同時欠損の上腕部屈曲機能再建例の報告をみる.
 最近われわれが経験した全広背筋のbipolar transferによる肘屈筋再建術の症例につき文献的考察を加えて報告する.

痙性股関節障害に対する軟部手術の効果—特に重複障害児について

著者: 沖高司 ,   村地俊二 ,   野上宏 ,   篠田達明 ,   夏目玲典 ,   山田正人

ページ範囲:P.491 - P.498

はじめに
 股関節周囲筋の痙直性による筋力不均衡のため起る痙性股関節障害は,起立および座位バランスに影響を及ぼし,運動発達に支障をきたす.これらの痙性股関節障害は内転,内旋筋群のpassive stretchingとか装具等による保存的治療に抵抗を示すことが多い12〜15).そのため,内転筋群の解離および閉鎖神経の処理等による軟部手術が広く行われている1,3,5,9,10,12,14).これらの手術は術後の筋力低下とか外反股等骨変形の継続といった問題点を残してはいるが,一般に良好な治療成績が多数報告されている.しかし,知恵おくれ等を合併した重複障害児においては,手術による効果が直接運動発達に結びつくことが少なく,手術すべきか判断に苦慮することが多い.
 今回,我々は昭和47年から53年までの7年間に施行した軟部手術100例の中,1年以上経過観察でき,かつ立位での移動手段が確立されていない67例,121関節について,X線上の変化と運動機能面での追跡調査を行ったので報告する.

小児の脊髄損傷

著者: 飯島謹之助 ,   若野紘一 ,   小林慶二 ,   平林洌 ,   千野直一

ページ範囲:P.499 - P.507

はじめに
 小児の脊髄損傷は成人に比べると発生頻度が低く,X線上では明らかな脊椎の骨傷が認められないことが多く,また成因,病態,予後においても成人とは異なることが多い.そして,文献上にもまとまった報告が少なく,そのため本症の成因や病態には解明すべき点が多く残されている.
 今同われわれは,慶應義塾大学病院ならびに関連病院において経験した分娩時外傷を含む8歳以下の小児の脊髄損傷11例について,その成因,病態,およびリハビリテーションの問題について検討し,若干の文献的考察を加えて報告する.

膝関節anterolateral rotatory instability(ALRI)に対する動的制動術「腸脛靱帯補強術」について

著者: 史野根生 ,   川崎崇雄 ,   広瀬一史 ,   井上雅裕 ,   後藤一平 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.509 - P.514

はじめに
 膝関節のanterolateral rotatory instability即ちALRIは,外側脛骨プラトーの前方亜脱臼を本態とし,主に前十字靱帯機能不全に起因する不安定性であるが,瞬時に起こる外側脛骨ブラトーの亜脱臼,およびその整復現象がgiving wayとして自覚されるため,disabilityが大きく,本病態に対する再建手術もひろく行われるようになりつつある.
 しかしながら本病態に対して,前十字靱帯の解剖学的再建術のみを行った場合,再建靱帯の引っ張り強度が,いかなる方法を用いても不充分であるというのは,諸家の報告4)より明らかであり,また,陳旧例では"secondary restraint"7)である外側関節包靱帯(lateral capsular ligament)などが弛緩していることが多く,外側構成体に対する何らかの補強を,解剖学的前十字靱帯再建術に追加することが望ましいと考えられる9)
 我々はALRIに対して外側での関節外追加手術として,「腸脛靱帯補強術」を考案し用いている.本術式の意義を検討する為に,本術式を用いた症例の成績の検討を行った.

若年者における重度扁平内反股の治療—大腿骨外反骨切り術と骨盤骨切り術併用の試み

著者: 伊藤邦臣 ,   須永明 ,   鈴木愉 ,   波木卓夫 ,   児玉吉伸 ,   宝住与一 ,   加藤哲也

ページ範囲:P.515 - P.522

はじめに
 先天性股関節脱臼(以下先天股脱と略す)の初期治療後や稀にPerthes病後に遺残した20歳前後の若年者の亜脱臼や臼蓋形成不全は日常の外来で時に遭遇することがあるが,それらに対してどのように対処すべきかという点については諸家により見解が異っており,その治療は必ずしも容易でない.遺残骨頭変形が軽微で臨床症状が顕著でなければ,積極的に手術的治療を選択する必要はなく経過観察で十分であろう.しかし骨頭変形が著明で強い亜脱臼と臼蓋形成不全を伴う症例は,変股症としての症状は軽くても早晩に変股症が進行する可能性は高いと考えられるため可及的に正常な股関節に再建する必要があろうと思われる.
 とくに骨頭が茸状に変形している症例は,骨頭の曲率と臼蓋のそれとが著しい不整合を呈していることが多く放置すると予後は不良である.このような重症遺残変形症例に対して,我々は大腿骨外反骨切り術と骨盤骨切り術(Chiari法)を同時に併用する手術的治療法を選択している.本法で治療された症例の経過観察期間はまだ短期であるが,ほぼ満足すべき成績を得ているので報告する.

先天性下腿彎曲症手術例の長期成績

著者: 青木喜満 ,   佐々木鉄人 ,   須々田幸一 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   石井清一 ,   薄井正道

ページ範囲:P.523 - P.530

緒言
 先天性下腿彎曲症は,生下時および生後より下腿の彎曲がみられ,それらの症例の多くば病的骨折を起こし偽関節を生ずる.特に脛腓骨の偽関節は整形外科的疾患の中でも最も難治性であり,これまで多くの手術方法が考案され追試されているが確定的なものは無い.また,その発生要因や病態についても,諸家により報告があるが,未だ不明な点が多い.
 我々の教室では,これまで15例の先天性下腿彎曲症の治療を行っており,このうち先天性脛骨腓骨偽関節症には全て外科的治療が施行されている.今回,これらの症例について,手術方法および術後成績を検討し,更に成績に関与する因子について若干の考察を加えた.

楔状足底装具(足底板)の動的評価について(第1報)

著者: 山崎裕功 ,   宮永豊 ,   矢野英雄 ,   黒沢尚 ,   加倉井周一 ,   数藤康夫

ページ範囲:P.531 - P.540

はじめに
 変形性膝関節症は日常診療で頻繁に扱う疾患であり,経過が長く治癒が期待できないために,整形外科医にとって常にやっかいな疾患の一つである.変形性膝関節症の多くは,内側関節裂隙が狭小化して内反変形を生じており,さらに軽度の屈曲拘縮と側方動揺が加わって,膝関節の痛みと腫脹が主症状となっている.この疾患に対する保存的治療法として楔状足底装具(以下「足底板」とする.)を装着する方法が1〜4),近年注目されてきている.この療法は,足底板装着により下肢アラインメントの矯正を図り,膝の痛みを軽減させることを目的としたが,その除痛効果のメカニズムについては,静力学的立易から言及したものが大部分5〜8)で,歩行時の除痛効果を解明するには自ら制約がある.内反変形を示す患者に足底板を装着させて歩行させた時,しばしば「歩き易い」,「足の運びが軽い」と訴えるが,これは下肢アライメントの矯正が立脚期全体を通じて生じているものと考えられる.このことから楔状足底板の作用機序を歩行解析装置を用いて,運動学および運動力学的に検討することとする.

頸椎・脊髄損傷の頸椎脊柱管CT像

著者: 木村功 ,   新宮彦助 ,   那須吉郎 ,   塩谷彰秀 ,   大浜満

ページ範囲:P.541 - P.551

 脊髄損傷の初期治療において脊髄をとりまく脊柱管の形態を把握することは,治療法を選択する上に重要な事項の1つである.損傷を蒙った瞬間の脊髄と脊椎の位置関係は分らないにしても,受傷後早期の脊椎CT像で或る程度の判断は可能である.
 従来の映像診断法に加えて,早期診断にCTを導入し,脊柱管の変形,横断面積の狭小化,クモ膜下腔形態異常など損傷病態をより三次元的に観察した.

整形外科を育てた人達 第4回

William John Little(1810-1894)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.552 - P.555

 Stromeyerに皮下切腱術を受け内反足を矯正してもらったLittleはやがてHugh Owen Thomasと共に英国の整形外科の指導者となった.Thomasは骨折,関節炎方面の開拓者であり,Littleは内反足よりやがては脳性麻痺の研究者となっている.

臨床経験

大腿骨頭すべり症を合併したKallmann症候群の1例

著者: 山本恵央 ,   玉井昭 ,   大根田豊 ,   山下正道 ,   藤原博 ,   三井宜夫 ,   増原建二 ,   上野良三 ,   岡本新悟 ,   西田師子 ,   塚本昇 ,   辻井正

ページ範囲:P.557 - P.563

 Kallmann症候群は1944年Kallmannら5)によって詳細に報告された疾患で,低ゴナドトロピン性類宦官症に無臭症を伴うことが特徴とされている.本邦ては1972年土持ら8)が報告して以来,約30例の報告がみられるが4),大半は内科領域からのもので,内分泌学的に興味が注がれているものの,骨病変に関しての記載はほとんどみられない.最近,著者らは歩行障害を主訴として当科を受診し,大腿骨頭すべり症と類宦官症様体型を指摘され,内分泌学的精査の結果Kallmann症候群と診断しえた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

中足部離断後の尖足変形に対する距骨下関節矯正骨切り術の1例

著者: 尾池徹也 ,   菅井博哉 ,   白岡格

ページ範囲:P.565 - P.567

 Symc離断は臨床的に安定した結果が得られることはよく知られている.一方,中足部離断に対してはその長期的な報告も少なく,確立されたものはない.今回,中足部離断後の尖足変形に対し,跛骨下関節ての楔状矯正骨切り術を行った症例を経験したのて報告する.

左右で程度の異なる両側先天性大腿骨短縮症に対する装具療法の1例

著者: 北岡和雄 ,   井沢淑郎 ,   亀下喜久男 ,   陣内一保 ,   松沢博

ページ範囲:P.569 - P.573

 先天性大腿骨短縮症は,起立・歩行など下肢機能に障害をきたすほか,高度の両側例の場合には低身長も問題となる.本症の治療には装具の果たす役割が大きいが,われわれは左右で程度が異なり他の先天異常の合併もあって,装具の処方,製作,装着訓練に苦慮した両側例の1例を経験したので報告する.

根性坐骨神経痛症状を呈したGanglioneuromaの1例

著者: 吉矢晋一 ,   渡辺康司 ,   園田万史 ,   藤田久夫 ,   吉田憲一

ページ範囲:P.575 - P.578

 最近我々は,根性坐骨神経痛症状を呈したganglioneuromaの1例を経験したので報告する.

追悼

Prof. Dr. Karl von Chiariへの追悼

著者: 天児民和

ページ範囲:P.579 - P.579

 Prof. Chiariは先天性股関節脱臼の臼蓋形成のために独創的な骨盤骨切り術を開発せられて日本でも有名となったが,昨年の1982年1月28日こ逝去せられた.70歳であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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