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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科18巻9号

1983年08月発行

雑誌目次

視座

説明と理解

著者: 森健躬

ページ範囲:P.793 - P.793

 先年,滞米中の従妹から,その長男の中耳炎の治療にあたって,医師から渡されたきわめて詳細な,説明のための印刷物を見せてもらったことがある.外国人にも理解できるように,平易な文章で,なるほどこれを渡してあれば,治療に先立って説明しなかったという,我々の周辺でみられる患者とのごたごたの一つはさけられるなと思った.無論,渡された方には,それを充分理解できないこともあるだろうが,ともかく,説明したという医師の責任ははたされたわけである.
 先日亡くなった里見弴氏は,奥さんに理解できない文章は,絶対に編集者には渡さなかったといわれている.言葉や文章が平易であっても,その内容まで充分に理解できるということは,専門が違えば可成り教養の高い人でもきわめて難しい.われわれが,新聞の経済面を読んでも,理解できない所があるのと同じである.

論述

隆起性皮膚線維肉腫—7症例の臨床病理学的検索

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   和田成仁 ,   磯辺靖 ,   真鍋淳 ,   古屋光太郎 ,   網野勝久 ,   北川知行

ページ範囲:P.794 - P.801

はじめに
 隆起性皮膚線維肉腫は,再発性はあるが転移は稀な良性悪性のborderlineに位置する腫瘍であり,その臨床所見はきわめて特徴的である.しかし一般医家には必ずしも充分に知られているとは言えない.そこで本稿では,これまで我々が経験した隆起性皮膚線維肉腫7症例を紹介し,さらに皮下腫瘤45例を検索し,その中に本症の前駆疾患とも考える症例を見出したのでその類似性についても報告する.

膝関節後十字靱帯新鮮損傷の治療について

著者: 水島斌雄 ,   岩田清二 ,   佐々木孝 ,   高山真一郎 ,   中邨裕一 ,   根本哲夫 ,   柳本繁 ,   磯田功司 ,   大岩俊久 ,   小山明 ,   伊勢亀冨士朗

ページ範囲:P.803 - P.812

はじめに
 後十字靱帯(以下PCLと略す)は膝関節を構成する靱帯中最も強靱なもので,前十字靱帯(以下ACLと略す)の2倍以上の太さと強度を有している4,6).PCLは従来ややもすると,ACLや内側側副靱帯(以下MCLと略す)等に比べてその機能が軽視されていたが18),最近の膝のbiomechanics1),診断法3,5,8,10,12,14,20,21),手術法の進歩に伴って,basic stabilizerとしての機能が高く認識されてきた.PCL損傷では,膝関節運動の回旋中心に偏位が生じ3,4),反張膝,屈曲位における脛骨の後方亜脱臼やinstability等の重度機能障害を起こしてくるので,受傷時における正しい診断と処置が予後を決定する重要な因子となる.
 われわれは今回20例のPCL新鮮損傷手術例について検討を加え,若干の知見を得たので報告し大方の参考に供したい.

特発性軽度側彎症の悪化要因について—椎体楔状化の意義

著者: 篠遠彰 ,   井上駿一 ,   北原宏 ,   南昌平 ,   大塚嘉則

ページ範囲:P.813 - P.822

 学校保健法施行規則の一部改正が1979年4月に施行されてより,毎年学童の脊柱検診が全国的に行われ,脊柱側彎症の早期発見に努力が払われている.その結果,多くの学童が側彎症の疑いで整形外科医を訪れている.一般にCobb角15°以上の側彎は,小学生で0.5%,中学生で1.5%8)であるが,このものの中にも姿勢不良など一過性のものが含まれており,これらから真の側彎症を見分け,しかもそれらが進行するか否かを判別するのは往々困難であり,いたずらに患者及び家族に不安を抱かせる事になりかねない.側彎症の初期段階でその予後を知る事は,治療上はもちろん社会的にも重要であるが,不幸にして未だ確実な方法はない.
 筆者らは,千葉大学整形外科を訪れた軽度側彎のX線像より,予後判定の指標が得られるかどうかを調べる目的で,特発性軽度側彎100症例の経過を観察し,その進行様相についてX線学的検討を行った.その結果についてはすでに筆者10)が一部報告しており,側彎増悪の可能性が高いriskfactorとして次の4つを挙げた.(1)初診時,側彎度が15°以上である.(2)ダブルカーブパターンや,シングルカーブでは,右胸椎型や左上位胸椎型,(3)Iliac apophysisがRisser 3以下.(4)椎体のwedgingとrotationが共に認められる.

シンポジウム 悪性軟部腫瘍の病理診断をめぐって

軟部悪性腫瘍の肉眼的特徴と組織像

著者: 下田忠和 ,   山下広 ,   石川栄世 ,   姥山勇二

ページ範囲:P.823 - P.830

はじめに
 悪性軟部腫瘍(以下肉腫)の正確な病理組織学的診断が治療法の選択および予後の判定に大きな影響を与える.最近肉腫の病理組織診断に電子顕微鏡的観察,組織化学,免疫組織化学的手法1)が用いられるようになり多くの診断困難例が正確に診断されるようになってきている.しかし,これらは何れも補助的診断方法であり,これらのみで肉腫の組織診断が可能になるものではない.むしろ組織発生を知る上で重要な手掛りを与えている.このようなことから肉腫の診断は先ず正確な光顕的診断が重要であるが,このためには病理学的診断の基礎となる肉眼所見の詳細な観察が充分に行われる必要がある.肉腫には発生年齢,発生部位に特徴的なものがあり,ある程度診断の手掛りを得られるものもある.多くの肉腫は肉眼的には類似しており,個々の肉腫の肉眼的特微を詳細に記載した報告はほとんどみられない2,3).本誌面では種種の肉腫の肉眼像と組織像を対比しながら,正確な組織診断を行う上で手掛りとなるような肉眼像の特徴に検討を加えて述べていく.肉腫全般に亘って述べることはできないので,最も頻度の高く,かつ組織学的診断もときに問題となる脂肪肉腫と悪性線維性組織球腫(MFH)を中心にし,以下筋原性,血管原性腫瘍等,また脂肪肉腫とMFHについては繰り返す再発が臨床上大きな問題であるがこの点についても肉眼像,増殖・浸潤形式よりその相異について述べる.

免疫組織化学及び組織化学的アプローチ

著者: 向井万起男 ,   高桑俊文

ページ範囲:P.831 - P.837

はじめに
 悪性軟部腫瘍の組織学的診断には,従来より用いられている各種の染色が,極めて有効であることは言うまでもない.H-E染色をはじめ,銀染色,PAS染色,PTAH染色などの組織化学的検索の意義,有用性については,すでに広く知られており,今更言及する必要もないと思われる.
 しかしながら,これら各種染色の結果から適切な組織学的診断を下すには,しばしば豊富な経験が必要とされるということも良く知られるところである.こうしたことは,あらゆる分野の病理診断に際して当然のことであるが,とくに悪性軟部腫瘍の診断に際して強調されるところである.限られた専門家の経験に委ねられる範囲をできるだけ少なくし,より多くの人々に理解し得る客観的マーカーを見出すことが待たれるわけである.今回は,酵素組織化学及び免疫組織化学的検索の悪性軟部腫瘍の診断における意義と有用性について検討した.

軟部肉腫の電子顕微鏡的アプローチ

著者: 恒吉正澄

ページ範囲:P.839 - P.846

 軟部肉腫の診断には臨床的事項および光学顕微鏡的所見が基盤となり最も重要であるが,時に電顕的観察が細胞起源の判定その他に役割を果たすことがある.電顕的観察に際しては腫瘍細胞の形,細胞質内小器官,細胞間基質の性状等の所見の総合的解析並びに特異的な構造物の検出が肉腫の診断の手助けとなる(遠城寺1982).
 ここでは当教室で新鮮な手術材料が得られた軟部肉腫90例の電顕的観察をもとに,超微形態上の鑑別診断の要点を述べる.なお便宜上肉腫を細胞並びに組織形態から6群に分け,電顕的所見を順次取り上げる(表1).

軟部の肉腫様良性病変の臨床病理

著者: 橋本洋

ページ範囲:P.847 - P.854

はじめに
 病理医が日常従事する腫瘍の組織診断に際し,軟部肉腫と混同する恐れのある良性病変のうち,代表的なものを取り上げて臨床病理学的に検討した.この主題は1981年に来日されたワシントン・AFIPのFranz M. Enzinger博士が福岡その他で講演されたが,今回これを参考にして,私どもの成績をもって順次述べてゆきたい.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・14

後縦靱帯骨化症および脊柱管狭窄症に対する前方除圧法—骨化浮上術,脊柱管前方拡大術について

著者: 山浦伊裟吉

ページ範囲:P.855 - P.868

I.術式適応
 1.適応理念
 圧迫原因が脊髄の前方にある場合に,この障害物を前方に浮上させて,狭隘な脊柱管を拡大し,脊髄の除圧と機能回復をはかる.骨化浮上術あるいは脊柱管前方拡大術のもつそのほかの意義は(ⅰ)手術侵襲度の削減,(ⅱ)神経組織への近接と損傷の危険を回避すること,(ⅲ)骨化進展の停止などである.
 2.適応疾患
 OPLL,cervical spondylotic myelo-radiculopathy,cervical disc hernia,脊柱管狭窄症など.

整形外科を育てた人達 第7回

Percivall Pott(1714-1789)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.870 - P.873

 私達の若い時代は結核が甚だ多く,背痛・腰痛もまず結核を考えて診察しなければならなかった.その頃Percivall Pottの名は親しみ深く,脊椎カリエスもPott病と言う人も少なくなかった.しかし脊椎結核も最近では非常に減少してPottの名も整形外科医の間でも次第に忘れられてきた.彼は英国の外科学の開拓者であるWilliam Cheselden(1686-1752)の門下であるが,師に劣らない名声を後世に残している.その上業績の大半は整形外科の領域である.

境界領域

実験骨髄炎とプロスタグランディン

著者: 日下部明 ,   ,  

ページ範囲:P.875 - P.883

はじめに
 1930年,ヒト精液中に子宮を収縮させる物質の存在することが発見され,はじめこの物質は前立腺で作られると考えられたため,プロスタグランディン(Prostaglandin)と名付けられたが,その後,精のう腺で作られることがわかってからもそのままの呼び名が使われてきた.このプロスタグランディン(PG)は生体の中のいろいろな組織内で必要なときに即座に極く微量作られ,その付近で働いた後,その近くで破壊されるか,また血流に入った場合,肺を通過する際に肺の中の酵素によって,ほぼ完全に破壊されてしまうという特性をもっているため,"局所ホルモン"と呼ばれて特に注目されている物質である10).PGは一種の生理活性物質で,非常にわずかの量(10-7〜10-10M)で多様な効果を生体に及ぼすことが知られている6,14).最近では,PGは炎症の重要なchemical mediatorの一つとして知られ23),また骨吸収作用も明らかとなり6,14).整形外科領域でも興味を持たれはじめている21)

検査法

膝半月板傷害に対する透視下二重造影法

著者: 山上剛 ,   前山巌 ,   鱸俊朗 ,   益永恭光

ページ範囲:P.885 - P.891

はじめに
 膝内障のなかでも最も頻度の高いものとして半月板傷害があげられる.半月板傷害の診断にあたっては注意深く行う必要があるが,詳細な病歴の把握と理学的所見によって診断可能なものも多い.しかし,明らかな外傷のないもの,病歴の不明瞭なもの,半月板傷害が強く疑われるが確定しえないものに対する確定診断,あるいは傷害の部位や状態を知るためには関節造影は欠くことのできない補助診断の一つである.
 膝関節造影法はWerndorff & Robinson(1905)に始まりBircher & Oberholzer(1934)の二重造影法を経て種々の改良が加えられてきた.そしてLindblom(1948),Andren & Wehlin(1960)3)によって一応の確立をみたと思われる.しかし,さらに診断適中率を向上させるためには,より簡単手技で読影に耐えうる造影像を描出すべき努力が必要となる.Butt & McIntyre4),Ricklinら20)による透視下二重造影法やFagerberg,Anderson & Maslin2)による断層造影法も一つの試みと思われる.

臨床経験

先天性恒久性膝蓋骨脱臼の1治療経験

著者: 中川研二 ,   後藤直史 ,   武田丘 ,   清水端松幸 ,   中西東

ページ範囲:P.893 - P.898

 膝蓋骨脱臼には種々な程度がある,これまでに数多くの論文が習慣性脱臼について発表されており,最近では亜脱臼症候群と大腿膝蓋関節症についての論議も盛んである.しかし先天性恒久性膝蓋骨脱臼の報告は少ない.われわれは14歳の1例にTavernier法に準ずる観血的整復術を行い,良好なる経過を得ている.本症の病態,治療法について文献的考察を加え報告する.

Infantile Cortical Hyperostosisの1例

著者: 森尾泰夫 ,   古瀬清夫 ,   前山巌 ,   三村節子

ページ範囲:P.899 - P.903

 Infantile cortical hyperostosisはRoske(1930年)19)が新疾患として報告し,Caffey & Silverman(1945年)6)がその疾患概念と共にその名を記載して以来,欧米においては多数の報告をみるが,本邦においては現在まで織田17)の報告に始まり約20例の報告をみるに過ぎない稀な疾患である.最近我々は悪性骨腫瘍,骨髄炎との鑑別に苦慮したその1例を経験したので若干の文献的考察と共に報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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