icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

視座

これからの医療

著者: 増原建二

ページ範囲:P.1077 - P.1077

 最近,シメチジン製剤の普及に伴って,胃潰瘍の手術患者数が急速に減少してきたようであるし,整形外科の領域でも,先天股脱の症例に出遭う機会が少なくなったという印象が強い.後者の現象については,新生児における発生率そのものが減ったのか,整形外科医の急激な増加によって,出遭う機会が減ったのか,全国的な統計をとらないと明らかにし難いが,医療や衛生知識の普及による環境条件の改善によって,治療の対象となる患児が減ったことは否めない事実のようである.一方,日本における高齢者社会への変貌は,医療の対象が変性疾患群へと方向転換しつつある現象を生ずるに至った.とくに外科系のなかで眼科,耳鼻科,歯科,整形外科などの領域では,変性疾患に対する再建手術が増加の傾向を示していることは疑うまでもないところである.
 今や医学は生物学,電子工学をはじめとした,あらゆる科学の分野からアプローチが試みられている.そして,この医学の進歩は,医療技術や医療機器の開発となって,臨床の場に次々と導入されつつある現状である.ME機器の開発が,診断学や治療学の様相を一変しかねない情勢である.

論述

アルミナ・セラミックスを用いた人工関節

著者: 大西啓靖

ページ範囲:P.1078 - P.1092

はじめに
 最近,物理的,化学的に極めて安定で,生体適合性に優れたアルミナ・セラミックス(Al2O3)が注目され,現在は股関節において,アルミナ・ソケット対アルミナ・骨頭の組合せのものとUHMWPE(Ultra-high molecular weight polyethylene超高分子量ポリエチレン)・ソケット対アルミナ・骨頭の組合せのものが用いられている.
 われわれは金属よりもアルミナに対するUHMWPEの耐摩性が優れるという利点を摩耗試験により確認し,アルミナ・骨頭対UHMWPE・ソケットの組合せの人工股関節を使用している.膝関節についてもシミュレーター試験により同様の結果を得ている.また,金属表面の粗さは凹凸様々であるが,アルミナの表面の粗さは凹んだ粗さであり耐摩耗性ばかりでなく,潤滑性にも優れている.しかし,アルミナに強度の問題があり,ステムには今も金属を用いている.一方,われわれは足関節に対して骨セメントを使用せず,骨との結合部をアルミナ,摺動部をアルミナ対UHMWPEの組合せの人工足関節を開発し,10数関節に使用し,最長5年を経過している.同様に肘関節にも約20関節行い,問題点を検討し,これらアルミナの特性,実験結果,臨床経験より,骨セメントを使用しないアルミナ人工膝関節を開発し,1981年11月より,約200関節に臨床応用してきた.

先天性橈尺骨癒合症—その臨床像の再検討と回転骨切り術の効果について

著者: 引野講二 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   荻野利彦 ,   三浪明男 ,   福田公孝 ,   加藤貞利 ,   塩野寛

ページ範囲:P.1093 - P.1099

緒言
 先天性橈尺骨癒合症は肘関節周辺の先天異常の中では最も多いものであり,その臨床像についてはいくつかの報告がある1,3,4,10,12).先天性橈尺骨癒合症の成因は不明であるが,母指の欠損に合併して出現してくることから近年本疾患を橈側列形成障害の部分症と考えるべきであるとの報告がある5,9).しかし,このような考え方については,まだ議論のあるところである.一方,治療については前腕の回旋運動を再建するために種々の試みがなされているが,現在まで安定した成績をあげるには至っていない.著者らのクリニックでは,三浪が1974年に20例の本疾患の臨床像および治療法について報告している10).今回はその後の症例について臨床像の分析を行い,特に本疾患が橈側列形成障害の部分症と考えうるか否かを検討した.また,最近,著者らが行っている回転骨切り術の術後の予後調査を行い,本疾患に対する回転骨切り術の有用性と適応を検討した.

骨盤骨腫瘍の手術療法について

著者: 大幸俊三 ,   中辻清員 ,   水谷正昭 ,   鳥山貞宜

ページ範囲:P.1101 - P.1109

はじめに
 近年の医学の進歩に伴い,骨盤に発生した腫瘍に対しても積極的な手術療法が行われるようになってきた.しかし,骨盤に発生した悪性腫瘍の患肢温存を目的とした切除術は解剖学的特殊性より,あまり容易ではない.
 われわれは1962年から1982年までの21年間に当科で手術療法が行われた21例の骨盤骨腫瘍症例について調査し,それらの診断,手術療法,治療成績などについて検討したので,その概要を述べる.

変形性膝関節症に対する人工関節置換術の検討

著者: 守都義明 ,   井上一 ,   宮田輝雄 ,   周鉅文 ,   林充 ,   田辺剛造

ページ範囲:P.1111 - P.1121

はじめに
 近年変形性膝関節症(以下OAと略す)の病態に関する研究が急速に進んでおり,OAには多くの基礎疾患の存在が知られるようになった.OAの分類についても,1977年Mitchell and Cruess12)はその病態に主眼をおいて新しい分類法を提示した.これらの中にはなお病態解明が不十分な疾患も含まれるが,OAの診断と治療にあたっては,この程度の分類は常に考慮されるべきであろう.現在までに当科で人工膝関節置換術(以下TKRと略す)を受けた症例の中で,OAと診断されたものが29例35膝あった.うち28膝の滑膜,半月板,切除骨標本の組織学的検討を行い,また6ヵ月以上の術後経過について追跡,18例21膝を直接検診した.これらの症例についてOAの病態と術後成績について検討したので報告する.

踵骨骨折の予後成績の検討

著者: 岡田正人 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   西島雄一郎

ページ範囲:P.1122 - P.1131

はじめに
 踵骨骨折は日常しばしば遭遇する骨折で,種々の治療法が試みられているにもかかわらず多くの後遺症が続発し,治療に難渋する骨折である.著者らは3年以上経過した24例,25足について予後調査を行いBöhler角,距踵関節面の適合性,踵骨横径と成績との予後関連性について若干の知見を得たので報告する.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・23

胸椎および胸腰椎移行部 脊椎カリエス,化膿性脊椎炎に対する手術

著者: 百町国彦

ページ範囲:P.1133 - P.1147

はじめに
 脊椎カリエス(以下,カリエスと略す)と化膿性脊椎炎との間で,手術手技には,とくに大きな差はない.但し,術中所見の相違点として,化膿性脊椎炎の場合,以下のようなものが挙げられる.即ち,胸椎部では,病巣周辺で壁側胸膜と肺胸膜とが癒着していることがあるが,カリエスと違って,これは通常薄く,容易に剥離できる程度の線維化であることが多い.椎体周辺の腫脹部に,しばしば,浮腫や充血をみる.この壁を開くと,壊死化肉芽組織が現われるが,膿はほんの少しか,あるいは全く認めないことが多い.病巣内には,当然,乾酪変性組織はなく,腐骨片や椎間板壊死片がみられるが,椎間腔は高度の狭小化を示し,周囲の骨硬化が著明である.本症による脊髄麻痺は,従って,膿によるよりは,椎体の圧潰,そして腐骨や壊死椎間板,肉芽組織の脊柱管内への突出で起こることが多い.

整形外科を育てた人達 第20回

Christian Georg Schmorl(1861-1932)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1148 - P.1151

 はじめに Schmorlは整形外科医ではない.彼は病理学者で,特に骨の病理に研究を集中し,脊椎の病理の研究のために,Dresdenの市立病院に於て病理解剖する時には脊柱を取り出し一大脊椎標本室を設立した.そしてレントゲンの専門家であるHerbert Junghannsの協力を得て脊椎の生理的な変化と病的な変化を詳しく判別した.その業績により整形外科に於て脊椎疾患の診断は急速に進歩したと言っても過言ではないと思う.筆者の恩師神中正一先生が昭和4年の第4回日本整形外科学会の宿題報告「脊椎畸形」に於て,Schmorlの研究業績を日本人の脊椎について確かめ,新しくレ線撮影法も考案し,特に脊椎分離症では斜方向の撮影により診断をしやすくされたことを思い出す.

臨床経験

頸椎に脊椎症性変化を伴った頸髄損傷について

著者: 米山芳夫 ,   柴崎啓一 ,   大谷清 ,   藤井英治

ページ範囲:P.1153 - P.1157

 人口の高齢化に伴って,高齢者の頸髄損傷も増加する傾向がみられる.高齢者では大なり小なりの頸椎の脊椎症性変化を伴い,脊椎症性変化の存在が頸髄損傷の臨床像に何らかの影響を与えていると考えられ3),その意味からも今後頸椎に脊椎症性変化を伴った頸髄損傷患者の診断,治療はますます重視されてくるものと思われる5).今回本院で経験した症例27例について考察と伴せて報告する.

Klippel-Feil症候群に伴う頸髄損傷の1治験例

著者: 平野典和 ,   海木玄郷 ,   本江卓 ,   伊藤達雄 ,   神代靖久

ページ範囲:P.1159 - P.1163

 Klippel-Feil症候群(以下KFSと略)は短頸,毛髪低位,頸部運動制限を3徴とする先天性奇形であるが,それらの所見はいずれも頸椎の先天的癒合に基づいている.この症例は頸椎のhemivertebra,spina bifida,およびspinal canal stenosisを有するKFSであり,軽微な外傷によって頸髄損傷を生じた稀有な症例である.その治療の経過を報告しあわせて文献的考察を加えた.

頸椎,胸椎に同時に発生した急性化膿性脊椎炎の1例

著者: 小柳博彦 ,   四方実彦 ,   清水克時

ページ範囲:P.1165 - P.1169

 化膿性脊椎炎は,比較的まれといわれてきたが,近年その報告例は増加してきている1,2,9,12,14,15).我々は,遠隔部位に同時に発生した,きわめてまれな急性化膿性脊椎炎の患者を手術する機会を得たので,報告する.

著明な神経肥大がみられた母指巨指症の治療経験

著者: 清水端松幸 ,   矢部裕 ,   彦坂一雄

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 最近我々は著明な神経肥大を伴う,稀な母指単独巨指症の手術経験をもち,良好な手術結果を得たので,主にその手術法について考察を加えて報告する.

Developmental Coxa Varaの5例

著者: 高橋賢 ,   松野誠夫 ,   増田武志 ,   東輝彦 ,   長谷川功 ,   松野丈夫 ,   平井和樹 ,   深沢雅則 ,   紺野拓志

ページ範囲:P.1177 - P.1181

 比較的稀な疾患であるDevelopmental coxa varaの5例を報告する.小児期に初診し,観血的治療を行った3例について,1.8年より20年にわたる術後経過を観察し,また,成人になってから初診した2例についての検討より,本症の経過と手術法について考察を加えた.

特発性距骨体部無腐性壊死の1治験例

著者: 大森孝収 ,   小林明正 ,   塚本行男 ,   山下勇紀夫 ,   高山俊政

ページ範囲:P.1183 - P.1188

 骨の特発性無腐性壊死の報告例は,近年増加の傾向がみられ,とりわけ大腿骨骨頭における報告研究が多い.一方,距骨の無腐性壊死は,その骨折,とくに脱臼骨折後に高率に発生することが知られているが,特発性壊死についての報告はきわめて少ない.われわれは最近27歳の女性の距骨体部に発生した,特発性無腐性壊死と思われる1症例を経験したので報告する.

再発を繰り返した足趾に発生せるchondromyxoid fibromaの1例

著者: 石井要 ,   倉上啓介 ,   植家毅 ,   高井康男

ページ範囲:P.1190 - P.1194

 Chondromyxoid fibromaは1948年Jaffe & Lichtenstein1)によって命名された比較的稀な腫瘍で,30歳以下に好発し10歳未満には少ない.また,本疾患は局所再発が比較的多く,再手術の必要性も高いとされている.我我は初発時年齢6歳の本疾患を経験し,3回の再発,4回にわたる手術を行い,現在経過良好な1例を経験したので報告する.

多発した腱鞘の巨細胞腫の1例

著者: 永山盛隆 ,   佐藤太一郎 ,   七野滋彦 ,   秋田幸彦 ,   片山信 ,   三浦由雄 ,   山本英夫 ,   加藤庄次 ,   羽根晃

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 腱鞘に発生する巨細胞腫は良性で単発することが多い.我々は両足底に多発した症例を経験したのでこれを報告し,多発例について文献的考察を加える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら