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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻11号

1984年11月発行

雑誌目次

視座

物を知らざる者,発見多し—松岡道治著,「人體畸形矯正学」を復刻して

著者: 島津晃

ページ範囲:P.1203 - P.1204

 子供の頃「松岡整形外科病院」が大阪・北浜の電車通りにあり,ギブス包帯を巻かれた子供が病院の近くを通っているのを見受け,松岡教授という京都大学の立派な先生が居られ,むつかしい病気の人が行く病院だと商売人であった私の親から聞きました.そして,学生時代の外科総論の講義のとき,京阪神の整形外科のルーツは松岡道治先生だと教えられました.
 さて,3年前に,「先天性内反足の歴史」の原稿依頼があり,同じ書くなら日本の歴史をと,古書をしらべ,華岡青洲とその門下生によって,内反足に対する矯正包帯・手術が行われていたのには驚きました.同時に松岡先生が明治43年に「人体畸形矯正学」を出版されているのを知り,実物を探し,京都大学の細菌学教室の図書室の一隅に見付けることができました(整形外科 Mook,17,1〜10).

論述

放射線照射後発生した骨軟部肉腫10症例の臨床病理学的検討

著者: 和田成仁 ,   川口智義 ,   網野勝久 ,   磯辺靖 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   北川知行 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.1205 - P.1217

はじめに
 放射線照射後に悪性腫瘍の発生をみることは,放射線が発見され医療をはじめ広く応用されてより比較的早い時期に気付かれていた.すなわち,放射線の発見後12年目の1907年には,Porterら11)が放射線操作に4年間従事した男性の手に扁平上皮癌の発生した例を報告している.また,骨軟部の肉腫の発生についてみると,1922年Beckら2)の報告が最初のものとされている.
 放射線が近代医療の診断治療において果たした恩恵には測り知れないものがある.しかし,その一方で放射線は様々の副作用をももたらし,ことに放射線照射後の悪性腫瘍は頻度こそ少ないが後遺障害としてはきわめて重篤であり見過すことのできないものである.

母指多指症に対するBilhaut-Cloquet法の長期成績

著者: 加藤博之 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   荻野利彦 ,   三浪明男 ,   福田公孝 ,   村松郁夫

ページ範囲:P.1219 - P.1226

緒言
 母指多指症においては橈側母指が形成不全を示すことが多い.そのため治療に際しては,形成不全を示す橈側母指を切除し尺側母指を再建する方法が一般的である.しかし重複した母指が,それぞれ同じ大きさの場合は,橈側母指と尺側母指を併合して新しい母指を形成するBilhaut-Cloquet法(以下Cloquet法と略す)がしばしば行われる8).Cloquet法では,術後に爪の変形,骨の成長障害,さらに関節可動域の制限などが生ずると言われている.しかし,術後の長期経過観察を行い,これらの問題点について詳細に分析した報告はほとんどない.著者らは,昭和45年以来Cloquet法に術式の改良を加えて手術を行ってきた.今回は,著者らの方法でCloquet法を行った症例のうち長期経過観察が可能であった7例の術後成績を分析し,本法の手技上の問題点と手術成績に影響を与える諸因子について検討した.

Sprengel変形の治療

著者: 野口康男 ,   藤井敏男 ,   松元信輔 ,   西尾篤人

ページ範囲:P.1227 - P.1236

はじめに
 Sprengel変形は先天性に一側あるいは両側の肩甲骨が正常よりも高い位置にあるもので,先天性肩甲骨高位症ともいう.肩の運動制限を認めることが多く,またしばしば脊椎,肋骨,上肢などに奇形を伴っている.その記載は1863年のEulenburgの3例の報告に始まり,1891年にSprengelが先天性奇形として詳細に報告して以来一般に認められるようになった.本邦においては1908年の田代に始まり,現在まで70余例の報告例がある.
 本症に対して保存的治療は一般に無効であり,現在まで数多くの手術術式が試みられてきており,本邦では約40例の手術例が報告されている12,13,16).その約半数はWoodward法であるが,その他の術式も含めまとまった報告は少ない.われわれは現在までに本症の10例に対し観血的治療を行ったので,その結果を報告する.

足関節果部骨折の治療成績について—多変量解析を利用しての検討

著者: 山下泉 ,   小野沢敏弘 ,   竹光義治 ,   内田幹也

ページ範囲:P.1237 - P.1246

はじめに
 足関節果部骨折は,日常の診療に際しよく遭遇する骨折であるが,治療法の進歩にも拘らず,その予後は必ずしも満足できるものばかりではない.Burwell(1965)2)以来,予後成績に影響する因子として解剖学的整復の重要性が強調されてきたが,それ以外の因子について統計学的検討をほどこしながら言及している報告は少ない.
 本論文の目的は,(1)予後成績と予後に影響を与えると思われる因子の関係を統計学的に解析する,(2)多変量解析(multivariate analysis)を用いて,将来の疼痛と可動域制限の程度を推定する予測式を作成しながら,それら因子の予後成績に対する寄与の度合を判断することにある.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・24

胸椎および胸腰椎移行部 胸椎部椎間板ヘルニアおよび脊椎症に対する手術手技

著者: 藤村祥一 ,   土方貞久

ページ範囲:P.1247 - P.1258

はじめに
 胸椎部椎間板ヘルニアおよび脊椎症は頸椎部,腰椎部のそれに比較して稀であり,臨床上扱う機会は少ない.しかし本症は脊髄症を招来し,重度の脊髄麻痺へと進行し得るので早期診断と早期治療が要請される.しかるに本症の確定診断は必ずしも容易ではなく,神経学的所見と検査所見の詳細な検討が必要であり,また治療にあたっても保存治療がほとんど無効のため,手術治療以外にはなく,しかも当該部に脊髄があるために手術法の選択に苦慮することも少なくない.
 本症は1911年にMiddletonらの報告にはじまり,手術治療は1922年にAdsonが椎弓切除術を行って以来,専ら椎弓切除術のみが行われたが,手術成績は不良で改悪するものも多かった.1958年にCrafoordらが,本邦でも池田ら,大谷が前方侵襲法を報告して以来,手術成績は飛躍的に向上した.本症の手術治療は前方除圧・椎体固定術が原則であり,椎弓切除術は避けるべきである.我々の17例の手術例も全症例に前方侵襲法を採用したが,その手術成績は良好で,悪化例がなく,かつ持続的な手術効果が得られている.

整形外科を育てた人達 第21回

Sir William Arbuthnot Lane, Bart.(1856-1943)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1260 - P.1263

 近代的な骨折治療の先駆者は,先ずSir William Arbuthnot Laneの名を挙げねばならないであろう.Listerが1867年Antiseptic Surgeryを開発し手術的療法の範囲が急速に拡大した.骨に対しても観血的に骨接合を試みたが,金属の腐蝕のために成功しなかった.これを成功さすべく努力したのがLaneである.
 誕生 1856年7月4日に北部ScotlandのInvernessに生れた.父はBenjamin Laneで軍医であった.母はCaroline Arbuthnot Erwingで病院の監察官の娘であった.父が軍医であったのでその任地が度々変わったが,常に父母と共に各地で生活した.やっと中部ScotlandのBridge of Allanという小さな町のStanley Hauseの学校に人学できた.学業成績は優秀であった.ただスポーツが好きになり,あまり熱心にスポーツをやるので父は学業成績が下がらないかと心配していたが,色々の賞を受けEdinburgh大学に入学できた.しかし医師になる決心をして1872年にはEdinburghを去り,父がLondonのWoolwichに転任になったのを機に近所にあるGuy's Hospitalで医学生として勉強させてもらうことになった.そのとき彼は16歳であった.その上に特に若く見えたが研修は熱心で学生の中では秀れた才能を認められた.

臨床経験

胸郭成形術後のParaffinomaによる脊髄麻痺の1例

著者: 大野和則 ,   山根繁 ,   大脇康弘 ,   河合雅毅 ,   今均 ,   光崎明生 ,   宮本一成 ,   堤正樹 ,   小野寺信男 ,   村松郁夫

ページ範囲:P.1265 - P.1269

 パラフィンは1830年K. L. Reichenbachにより発見され4),生体反応が少ないため19世紀末から顔面,胸部,四肢の形成外科領域の組織充填物として利用されてきた.しかしパラフィン注入後の問題点の一つに,長期経過により周囲組織に異物反応として肉芽腫すなわちParaffinomaを生ずるという問題がある,今回我々は肺結核に対する充填式胸郭成形術後,充填したパラフィンが脊柱管内に流入し,術後20年してParaffinomaによる脊髄の圧迫麻痺を生じた極めて稀な症例を経験したので報告する.

三重複癌の1例

著者: 鈴木勝美 ,   荻原義郎 ,   鶴田登代志

ページ範囲:P.1271 - P.1274

 同一個体内の離れた場所に組織像の異なる悪性腫瘍が重複して発生することは稀であり,さらに悪性腫瘍に対する放射線治療後に発生する放射線誘発肉腫の報告も少ない.今回我々は乳癌・S状結腸癌に放射線誘発肉腫を合併した症例を経験したのでここに報告する.

胸椎部Dermoid Cystの1例

著者: 四方實彦 ,   三河義弘 ,   岩下靖史 ,   浜淵正延 ,   琴浦良彦 ,   浜上洋 ,   松本学 ,   山室隆夫 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 脊椎管内に存在する皮様嚢腫または類表皮嚢腫の大多数は腰仙部に発見,報告されてきた.我々はcongenital dermal sinusを伴った極めて稀な胸椎部dermoid cystの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

腰椎椎間関節から発生した色素性絨毛結節性滑膜炎(PVS)

著者: 中村隆二郎 ,   天野正文 ,   河野来三 ,   松本哲夫 ,   伊原勝雄

ページ範囲:P.1281 - P.1284

 色素性絨毛結節性滑膜炎(以下PVSと略す)は,関節滑膜から発生し腫瘍性に増殖する良性の肉芽形成疾患であり,膝関節に好発する.
 我々は腰椎椎間関節から発生したPVSの症例を経験したので報告する.

Acrosyndactylyに合併したepidermoid cystの1例

著者: 荻野利彦 ,   薄井正道 ,   菅原誠

ページ範囲:P.1285 - P.1288

 手部に発生する軟部腫瘍の中でepidermoid cystは腱鞘よりの巨細胞腫,血管腫およびグロームス腫瘍と並んで発生頻度の比較的高い腫瘍である1,13〜16).Epidermoid cystの原因としては,一般に外傷による上皮組織迷入あるいは,胎生期の上皮組織の残存が考えられている.一方,King7)は外傷によりできた血腫あるいは慢性の炎症病巣が原因になりepidermoid cystを形成する可能性を指摘しており,その成因については未だ議論のあるところである.ひるがえって,acrosyndactylyは先天性絞扼輪症候群の表現型の一つであり,胎生期における指放線形成後の障害により成立することが明らかにされている8).先天性絞扼輪症候群の合併症としては,種々のものが報告されているが,epidermoid cystを伴った症例の報告はみられない9).今回,著者らはepidermoid cystを合併したacrosyndactylyの1例を治療する機会を得たので,本症例におけるepidermoid cystの発生原因に検討を加え報告する.

肘関節離断性骨軟骨炎の術後長期検討

著者: 片岡紀和 ,   鈴木勝美 ,   塩川靖夫 ,   荻原義郎 ,   鶴田登代志

ページ範囲:P.1289 - P.1295

 肘関節部離断性骨軟骨炎は関節内遊離体を生ずる代表的な原疾患であるが,その治療成績については過去数々の報告がなされている.しかし,長期間の経過観察をしたものは少ない.そこで最近我々の教室では,遊離体摘出後平均20年以上経過した5症例6肘関節について検討を加えたので,若干の文献的考察と共にここに報告する.
 症例は表1の如く5症例6肘関節であり,初診時の年齢は14歳から48歳であった.なお,32歳,48歳の症例は10歳代から肘に自覚症状があったものの,その年齢まで放置していた.スポーツ,職業との関連では野球を行っていた者2名,テニス,柔道が各々1名,山林業従事者が1名であった.発生部位は右肘3例左肘1例,両肘1例であり,両肘発生例を除き全例利き手側に発生している.発症より手術までの期間は最短2年,最長12年であり平均6年であった.

橈骨骨幹部骨結核の1例

著者: 渡辺勝利 ,   望月一男 ,   石井良章 ,   河路渡

ページ範囲:P.1297 - P.1300

 骨結核が長管骨骨幹部に原発することは極めて稀であり,われわれの渉猟し得た限りでは,本邦報告例は今日まで4例を数えるに過ぎない.今回われわれはこの様に甚だ稀な橈骨に発生した本症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

高度の膝蓋大腿関節症を伴ったアルカプトン尿症の1例

著者: 石川卓志 ,   新名正由 ,   下村裕 ,   松山重雄

ページ範囲:P.1301 - P.1306

 Ochronosisは,ホモゲンチジン酸オキシダーゼの先天性欠損により,ホモゲンチジン酸の体内貯留をきたし,軟骨等の組織の黒化を呈する常染色体劣性遺伝疾患として知られる.今回我々は,膝蓋大腿関節症の手術に際し,はじめて本症と確診された1例を経験したので,組織学的,生化学的考察を加えて報告する.

Ganglionにより生じた足根管症候群の1例

著者: 多田誠 ,   宮本繁仁 ,   村田英之 ,   井上哲郎

ページ範囲:P.1307 - P.1309

 足根管症候群はよく知られたentrapment neuropathyであるが,臨床上遭遇することは比較的稀である.今回我々はganglionによる本症を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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