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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻2号

1984年02月発行

雑誌目次

視座

先天性骨疾患と悪性腫瘍

著者: 鶴田登代志

ページ範囲:P.111 - P.111

 先天性骨系統疾患と悪性腫瘍の合併の実態はよく知られていない.この実態を探るために国内の全整形外科学教室および10人の外国人学者に質問状を送ったところ,111例の症例が回答された.これらのうち,単発あるいは多発性骨軟骨腫と軟骨肉腫の合併(74例),内軟骨腫症と軟骨肉腫の合併(6例),Maffucci症候群と軟骨肉腫の合併(3例),fibrous dysplasiaと骨肉腫(8例),線維肉腫(4例),軟骨肉腫(2例)の合併はすでによく知られている合併組み合わせである.
 その他に少数ながら従来あまり知られていない組合わせが含まれていた.すなわち,Osteogenesis imperfectaと骨肉腫の合併が3例あった.この合併はRutkowskiが文献中に8例みられると記載しているが,シドニー大学のSillence教授は250例,ケープタウン大学のBeighton教授は300例の骨形成不全症患者中に1例の悪性腫瘍の発生もみていないと回答しているので,両者の合併を偶然以上のものとは即断し難い.Ostcogenesis imperfectaには,病的骨折の過剰仮骨が骨肉腫と誤診され易いという問題も付随しているので,今後の研究が要求される.Rothmund-Thomson症候群と骨肉腫の合併は3例の回答があった.この他に文献上Roschlau,Dick,Daviesらの症例報告があり,さらに本症候群との類縁性が示唆されているWerner症候群62例に6例の悪性腫瘍合併例があり,そのうち4例が肉腫であったというPerloffの報告,Hutchinson-Gilford progeriaと骨肉腫の合併を記載したKingらの報告もRothmund-Thomson症候群と骨肉腫との間になんらかの相関があることを示唆していると思われる.Metaphyscal chondrodysplasia,type McKusickと悪性リンパ腫との合併は2例あった.この骨系統疾患は下床に一次性免疫欠陥をもっていることが知られているので,免疫欠陥を接点とした悪性リンパ腫との相関が蓋然である.Spondyloepiphyseal dysplasia tardaでは,骨肉腫合併の自験例に加えて軟骨肉腫の合併が1例回答された.文献中にはこの骨系統疾患に悪性腫瘍が合併したという報告が見当らないので,この合併の意義は現1時点では不明である.Gardner症候群は骨腫,消化管ポリープ皮脂嚢腫に加えて線維腫,デスモイド,線維肉腫の合併が知られているが,回答された1例は舌骨の軟骨肉腫であり,その意義は不明である.

論述

Peroneal flapの試み

著者: 吉村光生 ,   石田敏夫 ,   井村慎一 ,   宇賀治行雄 ,   本田敬宣 ,   島村浩二 ,   山内茂樹 ,   野村進 ,   黒田邦彦 ,   樋口雅章

ページ範囲:P.112 - P.120

はじめに
 Microsurgeryを応用した遊離皮弁移植の利用はますます盛んとなり,一般的な手術手技となりつつある.同時にこれに利用するdonorの開発も進み,移植される部位,大きさ,形状などに応じて,かなり自由に,donorの選択が可能となった.今回我々は新しい再建法として,腓骨動・静脈およびそのbranchをpedicleとし,下腿外側の皮膚を用いるflap(以下peroneal flapと呼ぶ)を考案した.このflapは①free flapとして,②free vascularized fibular graftの際吻合血管の開存状態をチェックするmonitoring flapとして,③free vascularized fibular graftの際皮膚と共に移植し,骨と皮膚を同時に修復,④peroneal vascular island flapとして利用するなど,目的に応じて使いわけられる以外にも,多くの利点を有したすぐれた方法であるので報告する.

非定型的骨肉腫(Unusual Osteosarcoma)について—自験例9例の検討

著者: 網野勝久 ,   川口智義 ,   磯辺靖 ,   松本誠一 ,   古屋光太郎 ,   和田成仁 ,   真鍋淳

ページ範囲:P.121 - P.129

はじめに
 自験例の骨肉腫の病理組織学的所見について検討してみると,通常とは異なる臨床経過を示し長期生存した例の中に,悪性所見の乏しい組織像を示した症例群と,異型巨細胞が多数出現し類骨形成の少ない組織像を示した症例群があった15),これは,腫瘍性の骨新生を示す悪性腫瘍であるという点で含まれていた従来の骨肉腫例の中に,予後の異なる亜型が存在することを示唆するものであると考えた.これらの症例を非定型的骨肉腫(Unusual Osteosarcoma)として,その病理組織像の詳細と,レ線像,臨床経過と問題点について述べる.なお,本論の要旨は第15回骨・軟部腫瘍研究会(1982年7月,東京)で発表したものである.

滑膜肉腫の臨床経過の検討

著者: 篠原典夫 ,   増田祥男 ,   中馬広一 ,   諫山哲郎

ページ範囲:P.131 - P.137

 軟部肉腫は組織学的に多くの種類に分けられ,それぞれ臨床的な性格も異なっている.数が少ないためか,軟部肉腫として括めて治療法,とくに手術方法が論じられることが無きにしもあらずだが,同じく切除を行うにしても組織型別に,その留意すべき点は異なるものであろう.我々は少数例ながら,それぞれの腫瘍について,自験例の治療経過から,手術の程度,補助療法の必要性などについて検討しつつある.すでにいくつかの腫瘍については報告を行ってきたが,今回は滑膜肉腫について検討し,いくつかの特徴に気づき,それをもとにして治療法について考察を行った.
 滑膜肉腫は従来,比較的稀な腫瘍とされていたが,最近の報告では遠城寺5)は軟部肉腫中6位であったとし,Enzingerら7)は過去10年間に345例あり,脂肪肉腫,MFH,横紋筋肉腫についで4位であったと述べており,それほど少なくもないと思える.

腰部脊柱管狭窄症における機能的ミエログラム—馬尾神経の動的変化について

著者: 本江卓 ,   辻陽雄 ,   玉置哲也 ,   伊藤達雄 ,   海木玄郷 ,   浦山茂樹

ページ範囲:P.139 - P.146

はじめに
 腰部脊柱管狭窄症は1954年Verbiest14)により最初に紹介されて以来,多くの報告をみる.しかし症状発現に直接関与する馬尾神経の病態に言及した論文は比較的少ない6,7,9).われわれは本症における馬尾弛緩(redundant nerve roots,以下RNRと略す)に注目し,その実態について逐次報告してきた9〜13).今回,メトリザマイドミエログラムを分析し,本症における馬尾神経の静的,動的変化をより詳細に明らかにし,さらにRNRと馬尾性間欠跛行など臨床症状との関連についても検討を加えた.

急性中心性頸髄損傷症候群(非骨傷性)の検討

著者: 新井永実 ,   円尾宗司 ,   高岩均 ,   中野謙吾

ページ範囲:P.147 - P.155

はじめに
 急性中心性頸髄損傷症候群の概念は,1954年にSchneiderら16)により報告された.しかし本症候群の定義,治療に関しては,いまだ明確ではない.しかも,本症の本邦での報告10,12〜14,21〜23)は数少ないが,実際は日常,頸髄不全麻痺などとして取り扱われている場合もあり,決してまれなものとは思われない.
 そこで,今回我々は,骨傷を伴わない本症例に関して検討する機会を得たので,若干の考察を加え報告する.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・19

頸椎腫瘍に対する手術手技

著者: 米延策雄 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.157 - P.163

はじめに
 頸椎腫瘍は比較的稀な疾患であるが,腫瘍としての性格,頸椎の解剖学的特異性からしばしば重篤な神経症状を惹起,あるいはその可能性がある.従って,多くは手術的治療が適応となる.その手術的治療の目的は腫瘍組織の切除,頸椎支持性の再建,神経組織の除圧である.この目的を達成すべく手術手技が選択されるが,腫瘍の組織・局在は様々であり,その手技に定型的なものはないし,単一の手技ではかたづかないものも多い.今までにこの手術手技シリーズで述べられてきた各種手技の応用編といえよう.また,特に悪性腫瘍については外科的療法は化学療法・放射線療法を含めた総合的な治療計画の一部であることを認識し,そのなかで適切な時期と手技とを選択する必要がある.

整形外科を育てた人達 第13回

Guillaume Dupuytren(1777-1835)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.164 - P.167

 Dupuytrenはその名を冠した疾患や骨折もあり,先天性股関節脱臼の研究でもAdolf Lorenzよりも早く着手しており,フランス外科の先達であった.又,その研究の領域は今日の整形外科的な疾患,外傷が大部分であった.
 誕生はLoireの上流にある小さな村であるPierre-Buffiereで1777年に生れた.父は弁護士で子供の教育には熱心であったので,Dupuytrenは幼年期より父の教育を受けた.学校の成績も良かったが,当時村に駐在していた軍人にも可愛がられ,能力も認められParisのLa Marche Collegeに入学させてもらった.その軍人がこの学校長の兄弟であったので,大変都合よく入学できたのであった.学校の成績も良く,特に哲学の成績が良かった.

臨床経験

Silastic Sponge Implantによるキーンベック病治療の経験

著者: 阿部正隆

ページ範囲:P.169 - P.175

 キーンベック病の治療法は実に多彩であった(表1)が,現在その主流となっているものに,関節形成術と前腕骨骨切り術とが挙げられよう.
 関節形成術については,月状骨摘出術5),背側弁関節形成術6),月状骨摘出後インプラント挿入術3),その他があり,なかには殆ど省みられなくなっているものも少なくない.またいずれの方法をとってみても多少の問題点があるように覗われる.そこでわれわれは,1978年以降Silastic® scleral spongeを用い,独自の方法で関節形成術を行って一応の目的を達しているので,その方法について述べてみたい.

再発性多発性軟骨炎(Relapsing Polychondritis)によって生じた大腿骨頭骨端線離開の1例

著者: 橋口重明 ,   太田正紀 ,   萩原博嗣 ,   坂本央 ,   江口正雄 ,   吉田雄司 ,   広沢元彦

ページ範囲:P.177 - P.181

 再発性多発性軟骨炎(Relapsing Polychondritis,以下RPと略す)は,耳介,鼻,関節,気管等の全身の軟骨に疼痛性炎症を生じる疾患である.従来より,比較的稀な疾患とされてきたが,近年増加傾向にある.
 今回,本症により,大腿骨頭骨端線離開を生じたと思われる6歳の小児例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

切断肢再接着術後にmultiple organ failureを来した1例

著者: 土井一輝 ,   河合伸也 ,   中村修二 ,   前川剛志 ,   坂部武史

ページ範囲:P.183 - P.187

 切断肢再接着術後におこってくる重篤な全身合併症としては,再接着術直後におこるreplantation toxemia17)と,その後,亜急性におこってくるDICとcrush syndrome9,14)が報告されている.特に,大腿切断再接着術後においては,crush syndromeの合併は必発であり文献上,報告9,14)の見られる症例は全例crush syndromeのために死亡している.腎不全の治療法が進歩した今日においては,crush syndromeの急性腎不全の診断・予防は困難でなく,致命率を高めている原因は,急性腎不全に続いておこる全身主要臓器の合併症の有無にあると考えられる.このcrush syndromeの末期状態をEiseman3)が複数の臓器が同時あるいは連続的に機能不全をおこしてくる状態に対して命名したmultiple organ failure4,16)としてとらえ,早期診断,早期治療を行えば,救命することは可能であり,更に近い将来,大腿切断の再接着も安全に行える時がくるものと思われる.
 今回,報告する自験例は,再接着の目的は達し得なかったが,multiple organ failure(以下,MOFと略す)の治療には成功し救命しえたので,今だ,整形外科領域において報告の見られないMOFの概念と治療原則について,自験例の反省も含めて報告する.

特発性一過性大腿骨頭骨萎縮の1例

著者: 白土修 ,   依田有八郎 ,   佐久間隆 ,   橋本友幸 ,   後藤英司

ページ範囲:P.189 - P.191

 特発性一過性大腿骨頭骨萎縮は,1959年,Curtissら2)が,"Transitory demineralization of the hip in pregnancy"として報告したのが初めてであるが,現在まで報告例は少なく,海外では30数例1,2,5,9,10,13〜15),本邦でも8例4,7,11,16)を数えるにすぎない.今回我々は,本症と考えられる1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

高度脊柱変形を伴ったvon Recklinghausen病の1剖検例

著者: 田中昭彦 ,   大谷清 ,   中井定明 ,   鈴木実

ページ範囲:P.193 - P.197

 von Recklinghausen病は1882年von Recklinghausenにより多発性皮膚腫瘤,神経線維腫,色素斑を3徴とする神経系疾患として報告された.その後,1901年Adrianにより種々の骨病変を伴うことが報告された.以来,整形外科領域では脊柱変形を中心として数多くの報告をみる.
 我々は高度の脊柱変形とそれに伴う脊髄麻痺を呈した症例を剖検する機会を得たので考察を加えて報告する.

右手根管症候群を伴うScaphotrapezial-trapezoidal arthrosisの1例

著者: 井手隆俊 ,   有吉護 ,   志波直人 ,   徳安英世 ,   田尻正博 ,   角茂男 ,   井上博

ページ範囲:P.199 - P.202

 Scaphotrapezial-trapezoidal jointにおける変形性関節症は,Carstamら1)がその臨床像につき初めて報告しているが,本邦においては稀な疾患と思われる,われわれは両側に発生し,しかも片側に手根管症候群を合併した本疾患の1例を経験したので報告する.

肩鎖関節脱臼を伴う烏口突起骨折について

著者: 船渡朋久 ,   新名正由 ,   内田淳正 ,   下村裕

ページ範囲:P.203 - P.207

 肩鎖関節脱臼を伴った烏口突起骨折はきわめて稀であり,その報告例は本邦ではこれまでに7例6,7,9,10)を数えるに過ぎない.最近我々は,その4例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

腸骨延長骨切り術の経験

著者: 石田勝正 ,   山室隆夫 ,   琴浦良彦 ,   一坂章 ,   川那辺圭一

ページ範囲:P.209 - P.212

 先天股脱の初期治療でひとたびヘルテス様変化を来すと,成長と共に多くの障害を残す.(1)臼蓋形成不全,(2)亜脱臼,(3)脚長差,(4)脊柱側彎,などである.
 これらペルテス様変化による4つの障害を1回の手術で大幅に改善することができた.一挙四得の手術である.それはソルターの手術からヒントを得た腸骨延長骨切り術で,すでにMillis, M. B.が1979年に報告している1).われわれもこの手術により良好な結果を得たので報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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