icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻4号

1984年04月発行

雑誌目次

特集 頸部脊椎症(第12回脊椎外科研究会より)

頸部脊椎症

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.326 - P.326

 第12回脊椎外科研究会は昭和58年6月4,5日の二日間にわたり大阪府立労働センターにおいて開催された.今回のテーマは頸部脊椎症で,発表された演題は98題であり,頸部脊椎症の成因,検査,臨床像,治療法などについて,活発な討議が行われた.本症は極めて普遍的な疾患であり,これまで多くの研究発表がなされており,特にテーマとして採り上げ討論するほどの問題点はそれ程多くないかとも考えたが,今回の発表を聞き特に検査,病態,手術等に関し,新しい概念が導入され進歩が見られたことは,この研究会にとり意義深いものであった.発表内容は充実して程度の高いものが多く,本邦の脊椎外科の水準の高さを立証するもので,喜ばしい限りであった.
 発表の要旨は各セクションの座長にそれぞれの総括を,また全体の総括を服部奨先生にお願いしたので,お読みいただければこの研究会の内容や進歩の様子が良く理解いただけるものと考える.特に目についた発表としては,脊髄誘発電位の診断への応用,頸部脊柱管狭窄,特殊な病像を呈する症例,脊柱管拡大術,観血的治療の遠隔成績や適応,成績不良例の検討などであった.

第12回脊椎外科研究会総括

著者: 服部奨

ページ範囲:P.327 - P.328

 酒匂崇教授が主宰された今回の第12回脊椎外科研究会は頸椎症が主題に選ばれ,同教授の大変なお骨折りにより,頸椎の前方固定術をいち早く発表されたBailey教授を特別講演に招かれ,100題に近い多数の演題を見事に整理され,基礎から手術の遠隔成績まで全般にわたり,実に内容の充実した発表を1会場で聴くことができ,また各座長の卓越された司会で討論も活発に行われ,非常に有意義な研究会であったと思います.今回の研究会の出席者は,主題に関しては国内は勿論,国際的にみてもup to dateの知識,問題点を知ることができたものと思います.
 病態に関して:このたび頸椎症について臨床的観察や,治療についてはかなり長いfollow upの報告が沢山見られるようになり,診断・治療に関し非常に詳しいことがわかり,進歩のあとが著しいものがありますが,基礎的病態に関しては明らかにされていない点も少なくないように思います.そういう意味からmyelopathyの病態に関する福田先生,小川先生の実験的研究は貴重なものと思います.

座長総括/Ⅰ.基礎および検査の部

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.329 - P.330

 頸椎症における脊髄症状がどのような機序で発現するか,その判断,評価基準などについて基礎的臨床的研究が報ぜられた.座長は辻,黒川である(文中敬称略).
 小川(回生病院)らは頸部脊髄症発症の動的因子の解明にイヌ頸髄腹側圧迫モデルを用い,前屈位,中間位での頸髄負荷応力を比較し,頸髄への応力は頸髄姿勢と密接な関係ありとの結果を得た.とくに椎間板高位での圧迫では応力は最大,かつ前屈位で更に顕著になるという.これに対し,池田(岐大)の頸椎運動下における脊髄の圧迫変形の程度と脊髄器質的変化の係り合い,また黒川(東大)の脊髄圧迫による髄内応力の時間的推移についての質疑があった.橘(北里脳外)はこのoverstretch実験はイヌと人とではanalogousとはなり難いとの意見を出した.福田(滋大)はこれまでの脊髄症発現に関する独自のデータを総括した.単なる全身血行障害のみでは脊髄症は起こらぬこと,脊髄前方圧迫率が40-50%になると,SEP異常と脊髄組織内PO2の低下をみること,これに低血圧状態を加味するとより著しい脊髄症が発生し,組織学的にも壊死を認めうること,等から,機械的脊髄圧迫と脊髄虚血は共存するとみるべしとした.これに対し,黒川(東大)は,実験的脊髄症成立は脊髄壊死出現で判定しているが,臨床的には可逆性である点からみて差異が存在するとのべ,中野(札幌)も可逆的脊髄循環障害を重視したいとの発言,また池田は軽度圧迫因子下では静脈うっ滞を考える必要ありとの発言があり,これに対し福田は密な静脈連結の理山からうっ滞は考えにくいとした.

座長総括/Ⅱ.検査の部

著者: 河合伸也 ,   片岡治

ページ範囲:P.331 - P.333

 このセクションでは検査に関する13題の報告が行われた.頸部脊椎症の診断の確立や治療法の決定に各種検査が重要であることは周知の事実であり,脊髄血管造影,脳脊髄液検査,myelography,CTに関する手技・所見についての詳細な報告と活発な討議がなされた.
 Ⅱ-1で成瀬(小松島日赤)が頸椎症性脊髄症における選択的頸髄動脈撮影の有用性を豊富な経験を基にして述べ,臨床症状の詳細な検討のもとで応用すれば,頸髄血行障害や循環動態の解明の一助となり,補助的診断法として十分に役立つと結論づけた.

座長総括/Ⅲ.臨床像の部

著者: 竹光義治 ,   森健躬

ページ範囲:P.333 - P.335

 このセクションでは,臨床像の内やや非定型的,しかも病理学上興味ある神経症状,また,他条件の合併,更に病型分類の比較分析につき,活発な討議が行われた.
 Ⅲ-1.須藤らは65歳以上の頸椎症30例を追跡した結果,根症状については一般に1年以上経て殆んど鎮静化し,より若年者に比しむしろ良好であったが,脊髄症状はすべて持続または悪化していた.

座長総括/Ⅳ.治療(1)の部

著者: 原田征行

ページ範囲:P.336 - P.337

 このセクションは大阪大学小野教授と共に座長をさせて頂いた.
 演題1,2は牽引療法の報告で,庄はGood-Samaritan法が日常生活動作にあまり不便を感じないで持続的牽引が行われる利点があると述べ,藤谷はBarton-Cone牽引は装着が簡単にでき頑固なcervical radiculopathyに対して有効であったと報告した.Floorから森(東京厚生年金)が牽引の効果は頸椎の安静固定に意味があり強い牽引力は必ずしも必要でないとの意見が出された.

座長総括/Ⅴ.治療(2)の部

著者: 平林洌 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.337 - P.339

 第1席後藤は,transverse型の頸髄症を知覚障害から四肢型,glove & stocking型,四肢体幹型,左右差著明型に分類し,前2者は全例著明改善したのに対し,後2者の成績が劣ったことを報告した.秋山(九大)が劣った原因を質したが,paresthesiaがとれにくかったがその原因は不明であると答えた.
 第2席島は,神経根症(10例)の改善率70%,頸髄症(31例)69%と良好な結果を報告し,成績不良要因として脊柱管狭窄に伴う隣接椎間でのdynamic stenosisと不完全除圧をあげた.

座長総括/Ⅵ.治療(3)の部

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.340 - P.341

 治療(3)のセクションでは表のような9題の座長を勤めさせていただいたが,ここでは主として適応の問題が論じられた.
 歴史的に見て頸部脊椎症の手術療法はAllen,Brain(1952)の発表以来laminectomyが先ず発展しついでSmith-Robinson(1955)らの前方術式の発表があり,とくに我国では1960年以来myelopathyに対し前方術式の優秀性が論ぜられて来た.しかし脊柱管狭窄の概念,OPLLに対するwide laminectomy(桐田),頸椎管拡大術(服部法)の登場があって再び頸部脊椎症に対して後方術式の価値が問いなおされて来たのが現況である.このセクションでは主として長期経過例の遠隔成績を再検討し適応を論じた発表が多く,その意味で治療(2)の前方固定術と治療(4)の後方術式である広範椎弓切除ないし形成的脊柱管拡大術の間のつなぎのセクションと言えよう.

座長総括/Ⅶ.治療(4)の部

著者: 金田清志 ,   小野村敏信

ページ範囲:P.342 - P.344

 本セクションでは頸椎症性脊髄症(CSM)に対する後方除圧に関する14題が発表された.椎弓切除とその後の脊柱スタビリティー,彎曲変形出現,椎弓縦割反転と固定術の併用,脊柱管拡大術の術式が中心であった.中村はen-block wide laminectomyの追跡調査を10例に行い,40歳女性の1例に後彎形成,他の1例で前彎消失が起こった.中村の手術方法ではfacet jointは温存している.藤田は術後のmalalignmentの起こった例はなかったが,術前に椎間関節傾斜角の大きな部位では角状後轡や可動域増大傾向があった.宮地はen-block laminectomyに硬膜切開を加えた41例の報告で特別な変形や不安定性の出現も臨床成績にも問題がなく,wide laminectomy(facet jointの内側に溝を作っている)で安定した成績を得ている.円尾は33例の椎弓切除後の検討で局所後彎の発生を3例に認め,頸椎可動域(Niemyer-Penning法)で10°以上の減少を20例に,8例は不変,4例で10°以上の増加を認めた.宮崎は桐田法により正中で縦割した椎弓を左右へ反転し,両側の側溝に骨移植を行う力法で17例の結果を述べた.2例で後彎変形が増大,8例に骨移植の癒合不全椎間があり,このうち6例は術前不安定性の存在した椎間である.

座長総括/Ⅷ.治療(5)の部

著者: 井形高明

ページ範囲:P.344 - P.345

 治療(5)はCSMに対する観血的治療の成績ならびにその成績を左右する因子に関する演題であった.採用された手術法としては,前方路にするCloward法,Smith-Robinson法や椎体亜全摘術が後方路による椎弓切除術や椎弓拡大術の約6倍であったが,canal stenosisの概念が出された頃より,後方除圧術の採用が多くなってきている.総合的成績は平林による改善率で50%以上のようであった.論議の焦点は手術効果に影響する手術法の選択,年齢,罹病期間,病型や病態,とくにcanal stenosisとの関連に置かれていた.そこで,各演者の主旨を報告し,討論のポイントを総括する.
 Ⅷ-1は35症例(男23,女12),観察期間平均2年4か月の手術成績について述べた.総合成績は優,良(平林法より)で45.7%,手術法別には大差はなかったが,椎弓切除術の成績が比較的良好であった.また,罹病期間が2,3年以上では劣り,とくにdevelopmcntal stenosisを有する多椎間障宵が不良であったと述べた.

特別講演—Cervical Spondylosis

著者: ,   酒匂崇

ページ範囲:P.347 - P.352

 私が頸椎に関する諸問題に初めて興味を持ったのは,1952年ミシガン大学においてであり,当時Dr. LeRoy Abbotが整形外科の客員教授であった.その当時,我々が若い婦人の頸椎巨細胞腫の症例に対して,初めて頸椎前方固定術を行い,Dr. Badgleyと私が1959年のThe Meeting of the American Academy of Orthopaedic Surgeonsにおいて"Stabilization of the Cervical Spine by Anterior Fusion"と題して報告し,その翌年にJournal of Bone and Joint surgeryにその論文が掲載された.
 Dr. AbbotがSir Harold Stilesから教示されたthrust typeの移植骨を用いることによって,前方固定術が可能となった.この術式は手技的にも改良され,この外科的アプローチの適応は次第に拡大されていった.初期にはこの術式は再建術を要する重症例に対してのみ用いられ,成功しなかったが,適応範囲は次第に拡大されて,現在では本法による前方固定術の適応は,1.頸椎骨折,頸椎脱臼骨折,2.広汎椎弓切除術後の不安定椎,3.感染,4.新生物,5.頸椎椎間板障害,6.変形性頸椎症,7.前縦靱帯骨化による嚥下困難などであり,この講演では主に5,6について述べる.

頸部脊髄症の成因に関する実験的考察

著者: 福田眞輔 ,   望月與弘 ,   緒方正雄

ページ範囲:P.354 - P.360

 1950年代初頭から頸椎症に由来する頸部脊髄症の脊髄病理組織が諸家の剖検例1〜3)により報告され,ようやくこの疾患のentityが確立された.その頃からこの疾患の病因に関する研究が数多く報告され,各種の説が立てられた.大別すると脊髄圧迫説(反復外傷を含めて)と脊髄血行障害説(椎骨動脈,根動脈,前脊髄動脈,脊髄内小動脈など)とであったが,いずれも実証性に乏しかった.著者は動物実験によってこの病因の研究をし若干の知見を得たので,その大要を述べる.なお,個々の実験はすべて報告済みのものであることをお断りする.
 実験動物としては雑種成犬を用いた.イヌを使ったのは,もっとも入手しやすい大動物という理由だけであったが,のちの研究4)でイヌの脊髄の神経路の位置や走行がヒトと大差ないことがわかり,この種の実験には適当な動物であることが確かめられた.

頸部脊柱管狭窄症の脊柱管前後径に関するX線学的検討

著者: 肥後勝 ,   酒匂崇 ,   鈴木悠史 ,   松本玲子 ,   伊藤博史 ,   小桜博幸 ,   西百香里 ,   野口義雄

ページ範囲:P.361 - P.366

はじめに
 頸部脊椎症の発症因子として従来,椎間板の膨隆,骨棘による脊髄圧迫,動的不安定椎18),歯状靱帯による牽引11),黄色靱帯の肥厚や膨隆20),脊髄の血行障害21)等の種々の因子の関与があげられている.この他に重要な因子として脊柱管前後径が重要なfactorを占めていることはWolf23),PayneとSpillane17)が指摘した.Hink7,8)はこの脊柱管狭小という状態はdevelopmental anomalyであり,developmental canal stenosisの状態にあると,脊髄は脊柱管内にあって余裕を失い,椎間板ヘルニア,軽微な頸椎症性変化あるいは黄色靱帯肥厚などの後天的要囚により,容易に脊髄圧迫障害が出現するとした.
 Developmental canal stenosisの診断は一般には,頸椎X線側面像で椎体後縁部と棘突起基部間の距離を測定し,固有脊柱管前後径として表現されるが,その数値に関しては報告者により多少の差異があり,いずれの値をもって脊柱管狭窄とするか不明瞭な点がある.このような理由より,developmental canal stenosisの固有脊柱管前後径の値に検討を加える目的で,正常人,頸肩腕症候群,頸部脊椎症の症例で測定を行い,検討を加えたので報告する.

頸椎症性脊髄症のcomputer-assisted myelographyにみられる頸髄の形態について

著者: 岩崎洋明 ,   浅野正文 ,   横田英麿 ,   石井元章 ,   神原幹司 ,   植田百合人 ,   藤井繁昌 ,   増原建二 ,   上田喜生 ,   仲西康豊

ページ範囲:P.367 - P.374

はじめに
 頸椎症性脊髄症においてcomputer-assisted myelography(以下,CAM)にみられる脊髄自体の形態の変化と症状との関連性についての報告は少ないのでこれを調査し,その診断的価値を検討したので報告する.

頸部脊椎症におけるmetrizamide CTの診断的価値について—特にmetrizamide myelographyと比較して

著者: 本間隆夫 ,   中村敬彦 ,   五味渕文雄 ,   間庭芳文

ページ範囲:P.375 - P.382

はじめに
 神経症状を伴った頸部脊椎症において,その診断を確定し,治療に必要な神経組織の詳細な圧迫状態を観察する方法として従来,myelographyが第1に用いられてきた.一方最近の急速なCT scannerの普及とmetrizamideの出現によりmetrizamide CT1〜3)(以下MCTと略す)による形態観察も有用な方法として行われつつある.そこで本症におけるMCTの診断的価値について,同時に行ったmetrizamide myelographyと比較して検討した.

Brown-Séquard型知覚障害とCervical spondylosis

著者: 菊地臣一 ,   松井達也 ,   星加一郎 ,   蓮江光男 ,   井上聖啓

ページ範囲:P.383 - P.387

はじめに
 Cervical spondylotic myelopathyはその症例の多さもあり,今日では日常診療上ありふれた疾患の一つとなっている.しかし,典型的な例は問題ないが,時には他の疾患との鑑別上非常に困難を感じる例も少なくない.その際,知覚障害の有無が大きな鑑別点になる.今回は知覚障害という面に焦点を当て,その中でも特異的なタイプの一つであるBrown-Séquard型を示す症例を選び出し,このタイプの知覚障害が有している診断,治療上の意義について検討したので報告する.

上肢の筋萎縮を主症状とする頸部脊椎症の病態と治療成績

著者: 西原伸治 ,   中原進之介 ,   田辺剛造 ,   今井健 ,   島田公雄 ,   村川浩正

ページ範囲:P.389 - P.394

はじめに
 頸部脊椎症に上肢の筋萎縮をみることは稀ではない.その多くは頸部神経根脊髄症によるものであり,脊髄前角から椎間孔内のradicular nerveに至る下位運動ニューロンの障害が筋萎縮の直接の原因と考えられている.この2次ニューロンが単独に侵されれば,上肢の解離性運動障害が出現する.しかし,通常はこれに脊髄白質や後根の障害が加わるため,long tract signや知覚障害が出現し,臨床像は多彩に修飾される.したがって,治療に際しては,脊髄症状と根症状の鑑別,および正確な神経根圧迫部位の決定が極めて重要である.しかし,今日までそれらの病態を詳細に鑑別しうる診断技術は確立されておらず,幾つかの検査を総合的に判断することでそれらの不確実性を補ってきた.
 このたび,われわれは上肢の筋萎縮を主症状とする頸部脊椎症の観血的治療例をふりかえり,神経学的検査およびX線検査よりその病態を検討し,手術成績との関連を追求したので報告する.

頸部脊椎症性神経根症および脊髄症に対するGood-Samaritan頸椎牽引法—その施行法と成績について

著者: 庄智矢 ,   西林保朗 ,   片岡治

ページ範囲:P.395 - P.399

はじめに
 頸部脊椎症性脊髄症(以下,CSMと略す)および頸部脊椎症性神経根症(以下,CSRと略す)の,とくにCSRに対する頸椎牽引療法の治療効果については,すでに詳細な報告がなされている.しかし牽引法についての理論的な説明,すなわちその目的,種類,適応,長期治療成績などについての記述は少ない.そして非常に安易に非理論的な頸椎牽引が施行されているのが現実の姿である.著者らは過去数年来,これらの症例の保存的治療に,臥位でも坐位にても正確な頸椎屈曲位を保持しつつ,持続牽引が施行しうるGood-Samaritan頸椎牽引法を常用しているが,その施行法と特徴につき説明し,本法を施行したCSMとCSRの89例に対する治療結果と追跡結果を報告して,あわせて本法の成績を左右する諸因子につき論じたい.

頸部脊椎骨軟骨症の非手術例の長期追跡調査の検討

著者: 押領司光雄 ,   酒匂崇 ,   森本典夫 ,   米和徳 ,   上原裕史 ,   吉留鶴久

ページ範囲:P.401 - P.407

緒言
 頸部脊椎骨軟骨症の非手術例の長期follow-upについての報告は少なく,本症の自然経過については不明の点がある.特に脊髄症状例では,脊髄麻痺は慢性に徐々に進行,悪化するとの意見があるが,一方,自然軽快例もあるとの意見もあり,異論のみられるところである.
 今回我々は本症の自然経過を調査する目的にて,当科外来で頸部脊椎骨軟骨症や頸肩腕症候群と診断され,初診時以来5年以上経過した症例について,アンケート及び直接検診による調査を行い,臨床症状,経過,X線所見などについて検討を加えたので報告する.

単一椎間固定例からみた頸部脊椎症の神経症状—とくに頸髄症の高位診断について

著者: 平林洌 ,   里見和彦 ,   若野紘一

ページ範囲:P.409 - P.415

いとぐち
 頸部脊椎症やsoft discにみられる頸髄症は,脊髄に加わる機械的圧迫とそれよりさらに広範囲にわたる循環障害によって惹起されることから,神経根症とは異なり,その神経症状はX線上みられる頸椎の病変高位とは必ずしも一致しないとされている.この点すでに安間(1967)9)は,脊髄症を神経根の障害高位で表現することの問題性を提起している.
 又,運動と知覚との間にも,gapがあり,この不一致性の要因としては,最近では都築(1983)7)が報告しているように,前根付着部と後根付着部の解剖学的変異があげられている.

頸椎症性脊髄症における責任椎間板高位の神経学的診断

著者: 国分正一

ページ範囲:P.417 - P.424

はじめに
 頸椎症性脊髄症における脊髄症発症の椎間板高位,すなわち責任椎間板高位の神経学的診断については,神経根症の場合と異なり推定が困難であるという否定的見解が多い3,5,13).確かに,頸椎症性脊髄症の症状と所見は多様かつ複雑である.しかし,障害髄節の灰白質に由来するsegmental signを捉えることで,神経学的診断は可能であると考えられる.
 昭和42年(1967),安間16)は単一椎間板障害の頸椎症性脊髄症44例の上肢症状を,初めて責任椎間板高位決定の視点から神経学的に分析した結果を報告し,上肢症状はおのおのの障害高位の特徴を示しており,症状から責任椎間板高位が推定できる症例が多いと結論した.その後,福田ら4)の類似の報告がみられるが,しかし,いずれの論文も明確な診断指標を呈示しておらず,神経学的高位診断に否定的な見解を打ち破るには至らなかった.

アテトーゼ型脳性麻痺に合併して発生した頸部脊椎症性脊髄症の手術症例の検討

著者: 大木勲 ,   大井淑雄 ,   須永明

ページ範囲:P.425 - P.433

はじめに
 脳性麻痺は通常非進行性疾患と考えられているが,アテトーゼ型脳性麻痺例では,特有のアテトーゼ運動が頸椎の変形を誘発し,比較的成人早期より頸部脊椎症性脊髄障害を惹起させることが知られている.この障害も高いレベルに発生し易く,肩甲上腕型の筋萎縮を伴い易く,また多椎間にわたった障害が多いなど問題も多い.それ故,保存的治療では効果なく,観血的治療法にも種々の問題が存在して治療に難渋を来たすことが多い.ここでは最近著者らが経験した3例の手術症例を報告し,その問題点につき検討する.

頸椎症に対する椎体前方固定術術後長期(10年以上)経過群の臨床X線的検討

著者: 坂巻皓 ,   黒田重史 ,   鍋島和夫 ,   伊藤豊 ,   伊藤達雄

ページ範囲:P.435 - P.440

 初めて頸椎前方固定術の報告があって以来20有余年を経た今日,その手技または術後成績に関して秀れた多くの報告があるが,直近の術後X線上の骨癒合や隣接椎間の変化との相関に係るものが多く,術後X線の長期遠隔調査に関するものは少ない.
 術後遠隔成績の推移について,Crandallは術後改善された状態が持続するものの,6〜8年後にプラトーの低下を見る事が多いとして,種々のパラメーターとの相関を報告している.

頸部脊椎症に対する前方固定手術後の長期経過例のX線学的検討—特に固定範囲内の骨棘の変化について

著者: 野原裕 ,   金田清志 ,   小熊忠教 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   遠藤康治

ページ範囲:P.441 - P.448

はじめに
 頸部脊椎症の観血的療法として,頸椎前方固定術は最もよく使われている術式である.頸椎前方固定術は1952年にBailey & Badgley2)が頸椎巨細胞腫の症例に後方固定術と併用し施行したのが最初であろう.その後,頸椎椎間板ヘルニアや頸部脊椎症に対しても前方固定術が応用されはじめ,Robinson & Smith13),Cloward3),Bailey & Badgley2),Simmondsら16)の報告が相次いだ.当時,頸椎前方固定術は主として頸部痛や上肢症状の治療に対し施されていた.本邦では,近藤ら8)が頸部脊椎症性Myelopathyへの前方固定術を述べ,恩地ら12)はこの治療成績について報告し,前方固定術の優秀性を示した.以来,本邦でも広く応用されるに至り,さらに整形外科領域にair drillが導入されてから椎間板摘出固定だけでなく,椎体亜全摘,骨棘の切除が積極的に行われるようになった6,7).しかし,Robinson14,15)は骨棘は切除せず,椎体固定が完成すると骨棘はremodelingされ吸収されていくとし,これに同調しているものも多数あり1,4),骨棘切除の必要性に関する議論が生まれた.この結論はいまだ不明である.

頸椎椎間板ヘルニアおよび頸椎症による脊髄症の術後神経症状悪化例の検討

著者: 米延策雄 ,   冨士武史 ,   藤原桂樹 ,   小野啓郎 ,   岡田孝三

ページ範囲:P.449 - P.455

はじめに
 頸椎椎間板ヘルニアおよび頸椎症による重度の脊髄症に対して一般に外科的治療法が選択され,比較的安定した治療成績があげられている.しかし,なかには予期せぬ経過をたどる例を経験する.これらについては長期成績報告の一部として報告されているのをみるが,詳細な検討をしたものは少ない.これら術後神経症状の悪化例について調査し,その原因・対策について検討することは手術成績を向上させる意味からも重要である.
 われわれは過去13年間に手術治療した症例について,この面から分析しその対策について考察する.

頸椎症性脊髄症における手術術式の適応と選択—CT-myelographyにおける頸髄形態を中心として

著者: 小林彰 ,   井上駿一 ,   渡部恒夫 ,   永瀬譲史 ,   原田義忠 ,   千賀啓功 ,   重田博夫 ,   宮坂斉

ページ範囲:P.457 - P.464

はじめに
 頸椎症性脊髄症に対する手術的治療法は前方法と後方法に大別されるが,我々の教室では1960年以来,本症に対して主として前方法を採用し良好な成績をおさめてきた6,12,13).しかしながら脊柱管狭小例において手術成績のやや劣る傾向が認められ10,12),又,長期経過において大多数の症例は安定した成績をおさめているものの極く一部に徐徐に成績の低下している症例がみられる9,11).他方,後方法においても脊柱管拡大術が行われるようになり,頸椎症性脊髄症に対する手術術式は多様化し,再検討すべき時期に入っている.
 一方,水溶性造影剤metrizamideの登場,高解像力CTの出現によりCT-myelography(CTM)を行うことが可能となり,脊髄の形態の変化を直接的にとらえる事ができるようになった2,14,15).今回,筆者は教室において手術療法を行った頸椎症性脊髄症症例についてCTMにより脊髄の形態的変化を観察し,臨床症状の推移との関連を求めた.更に脊髄形態の変化より手術術式を検討し,多様化している現在の手術術式の選択に関する考え方を述べると同時に,手術成績向上のための手術手技の改善につき報告を行うものである.

高齢者の頸部脊椎症における手術適応の問題

著者: 斉藤正史 ,   平林洌 ,   大平民生 ,   若野紘一 ,   里見和彦 ,   白石建 ,   大熊哲夫

ページ範囲:P.465 - P.472

はじめに
 頸椎症性脊髄症の治療成績についての報告は枚挙にいとまがなく,手術成績に影響を与える諸因子に対してもさまざまな検討が加えられている.中でも年齢は手術成績を左右する重要な因子と考えられ,教室ではすでに大平ら1)が60歳以上の高齢者の治療上の問題点を検討して報告したが,諸家の報告2〜6)でも高齢者は一般に治療成績が不良で,そのため保存的治療が優先される傾向がある.
 しかし,我国が世界でも有数の長寿国となった現在,脊髄症状を有する高齢者に対して,我々は今まで以上に積極的に取り組む必要があると考えている.

頸椎後方除圧時の後側方固定術症例の手術成績

著者: 宮崎和躬 ,   多田健治 ,   中山裕一郎 ,   日浅浩成 ,   中野彰夫 ,   杉谷繁樹 ,   中井徹

ページ範囲:P.473 - P.482

はじめに
 頸部脊椎骨軟骨症の術後1年以上経過した椎弓切除術例90例の術後成績と頸椎後縦靱帯骨化症の術後1年以上経過した椎弓切除術例129例の術後成績を比較検討すると,同じ術者が同じ広範同時除圧椎弓切除術を行っているにかかわらず,前者は有効以上75.2%,後者で86.8%と両者の間に成績の差が10%以上もあることがわかった.さらに,頸部脊椎骨軟骨症の90例について頸椎の不安定性増強の有無を検索すると,検索出来た症例77例中術後不安定性増強例は13例16.9%で,これら13例中3例が術後成績悪化例であった.これは頸部脊椎骨軟骨症90例中の術後成績悪化例6例のうちの50%に当る.このように,頸椎症性脊髄症の椎弓切除術症例において,術後の不安定性増強の有無が術後成績を左右する大きな要因のひとつであると思われる.そして,頸部脊椎骨軟骨症は,頸椎の運動性が減少している頸椎後縦靱帯骨化症に比べて頸椎の運動性が大きいうえに,さらに不安定性の要素が加わって術後の頸髄に悪影響を与えて,頸椎後縦靱帯骨化症より術後成績が低下しているのでないかと思われる.
 以上の理由から,頸椎症性脊髄症において,術前の頸椎の機能撮影にて不安定性が証明されて椎弓切除術を行う必要のある症例に対して術後の不安定性の増強を予防するために,また,若年者の頸髄腫瘍の症例に対しても腫瘍摘出後の頸椎のswan-neck変形を予防する目的で,頸椎の後方除圧時に後側方固定術を加味した手術法を考案した.

頸椎症性脊髄症に対する棘突起縦割法脊柱管拡大術

著者: 黒川高秀 ,   津山直一 ,   田中弘美 ,   町田秀人 ,   中村耕三 ,   飯塚正 ,   星野雄一

ページ範囲:P.483 - P.490

緒言
 頸椎症性脊髄症には,脊柱管の狭窄範囲が広いために,充分な除圧をはかるには施術範囲に制約のない後方侵襲の方が好ましい例がある,そのような例は椎弓切除術の欠陥を克服する目的で考案された脊柱管拡大術のよい適応である.小山・服部ら1,2)の創始したこの術式は,近年平林の片開き式脊柱管拡大術3)をはじめ多くの変法が提案され実際に試みられている4〜8).棘突起縦割法9)はそのひとつであるが,長い棘突起を正中部に残す点と,椎間に可動性を残すか骨片で棘突起を連結して固定するかを自由に選ぶ点とに特微がある.以下は頸椎症性脊髄症に対して行ったこの方法の短期成績に関する考察である.検討すべき主要な問題は,第一に後方除圧術として神経学的障害に対する充分な効果があがっているか,第二に温存した棘突起および骨片による椎間固定に破綻を生じていないかである.

頸部脊椎症に対する頸部脊柱管拡大術

著者: 富村吉十郎 ,   酒匂崇 ,   森園良幸 ,   宇都宮健治 ,   藤善卓朗 ,   田中信次 ,   泊一秀

ページ範囲:P.491 - P.497

はじめに
 頸椎症性脊髄症に対する観血的療法の一つとして,近年服部・平林らにより従来の椎弓切除術にかわって,脊柱管拡大術が考案され,その後諸家により,その術式は多少異なるものの,その有効性が次第に報告されつつある.
 脊柱管拡大術は,脊柱の後方要素の一つである椎弓を温存して,従来の椎弓切除術後に生じていた瘢痕や癒着による脊髄の絞扼および脊柱の不安定性を防止して,易損性の脊髄を保護しようとする目的で始められた.しかし,その適応や結果については未だ明白でない点が多い.

頸椎椎管拡大術(服部法)とその追跡調査成績

著者: 河合伸也 ,   今釜哲男 ,   千束福司 ,   中村修二 ,   松岡彰 ,   柿原晃 ,   野中昭宏 ,   砂金光蔵

ページ範囲:P.499 - P.507

はじめに
 頸髄の後方除圧に際して昭和46年服部名誉教授は従来の椎弓切除の欠点を補うべく脊柱管の再建を加味した頸椎椎管拡大術を開発した.それ以後,頸椎の後方除圧と共に構築的再建を行う種々の方法が工夫され,現在では多くの施設でこの理念に基づく拡大術が採用されるようになっている.
 私達の教室では頸椎椎管拡大術(服部法)を一貫して続けており,すでに12年を経過し,100例を超える症例に本術式を行っている.術後成績は良好で,脊柱管腔の狭い多椎間障害で,しかも比較的若い年代によい適応であると考えている.頸椎症性脊髄症や頸椎後縦靱帯骨化症が主体であるが,頸髄不全損傷や頸髄腫瘍においても症例によっては本術式を用いることがある.

頸部脊椎症性脊髄症に対する手術法の選択と手術成績

著者: 白石建 ,   平林洌 ,   若野紘一 ,   里見和彦 ,   斉藤正史 ,   大熊哲夫

ページ範囲:P.509 - P.515

はじめに
 頸椎症性脊髄症の治療成績は,その手術法の発展に伴って向上してきた.とくに,本来radiculopathyに効果があるとされていた前方除圧兼固定術が,air drillの開発によって,従来椎弓切除術の適応であったmyelopathyにも広く行われるようになり,治療成績は飛躍的に向上した.従って昭和40年代は,ややもすれば前方侵襲法一辺倒になりがちであった.しかし,それらによる成績不良例や再手術を余儀なくされた症例が蓄積されてゆくに従い,50年代には改めて後方侵襲法の適応が再認識されるに至り,症例によって両法を使い分けるようになってすでに久しい.
 我々の教室でも既に報告してきた通り4,6,7,17),本疾患に対する手術法にこのような変遷を辿りながら,治療成績の向上に努力してきた.今回も,我々が行ってきた手術法の選択がはたして妥当であったかを検討するために,最近8年間の手術例を調査し,いささかの知見を得たのでここに報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら