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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻5号

1984年05月発行

雑誌目次

視座

学術論文にのぞむこと

著者: 榊田喜三郎

ページ範囲:P.519 - P.519

 日整会誌の編集や認定医の資格認定に当っての論文審査や教授選考に関係する度に学術論文の定義に苦慮すると共に改めてそのあり方に関心がもたれる.一体,学術論文というのはどう定義し,何を目標にして論文であるか否かを区別するのであろうか.国語辞典によると論文とは意見を述べて論議する文とあるが,学術論文は少なくとも自分の独創的な発想や経験,成果を忠実に述べたものであって,研究の目的が明らかにされ,正しい方法のもとに妥当な成績が報告され,さらに独自の十分な考察がなされ,それにもとづく正しい結論が引き出されており,また自分自身が直接原著より引用した参考論文が正確に記載されているものをいうと考えられる.このような論述型式を踏み,独創性のあるものこそが価値ある原著論文であるべきである.
 論文のあり方を批判する場合,必ずその背景となる学会や研究会のあり方や関連性が問われる.一昔前には学会と考えられるものは春の年次総会と秋の地区会議に月例集談会ぐらいのもので,のんびりと研究活動を続けていればよく,それだけに重厚な発表も多くみられた.昨今ではやたらと学会,研究会がふえ,年中追いまくられる結果,とてもじっくりと象牙の塔にこもり,格調の高い発表を行い,こくのある論文を記述するゆとりがなくなった.

論述

悪性線維性組織球腫22例の臨床病理学的検討

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   網野勝久 ,   磯辺靖 ,   真鍋淳 ,   北川知行 ,   古屋光太郎 ,   和田成仁

ページ範囲:P.520 - P.532

 悪性線維性組織球腫(以下MFHと略す)に関する報告は近年多数みられるが,それらのほとんどが病理組織学的な面からのものであり,臨床学的な面から本症に触れた報告は少ない.我々は最近経験した本症をもとに,臨床診断上の問題点ならびに治療成績について報告する.
 症例は我々が1982年9月以前に治療を開始し,8ヵ月以上経過を観察し得た22例である(表1).内訳は軟部MFH 20例,骨MFH 2例である.軟部MFHの初発部位は図1のごとくであり,4例のpostradiation sarcomaが含まれている.このうちpostradiation sarcomaの2例および前腕部発生例は,当科初診時,多発転移あるいは巨大な腫瘍のため,根治術は不可能であった.骨MFHの発生部位は,上腕骨遠位および大腿骨遠位であった.当科初診時の年齢は24〜77歳,平均56歳であった.最年少の24歳の症例は,postradiation sarcoma例であった。症状発現から当科初診までの期間は2ヵ月から6年,22例中8例が1〜3回の再発例であった.軟部MFHの主訴のほとんどは,無痛性の腫瘤形成であったが,2例で腫瘤ははっきりせず,それぞれ大腿部の腫脹と局所の炎症所見が主訴であった.

特発性大腿骨頭壊死の早期診断に対する選択的動脈造影の応用

著者: 渥美敬 ,   黒木良克

ページ範囲:P.533 - P.544

 特発性大腿骨頭壊死は近年増加の傾向を示し,けっして稀な疾患ではなくなりつつある.しかし,本症が阻血性の壊死であることは明らかであるものの,その病態はいまだ解明されていない.
 本症が虚血性の疾患であるからには,従来明らかにされていないin vivoにおけるretinacular artery levelの変化を知る必要があると考え,著者は本症に対して選択的動脈造影(super-selective angiography)を施行し,その血行動態を明らかにしてきた1〜6).その結果,superior retinacular arteryが大腿骨頭頸部被膜を通る部位において,途絶等の血行障害を示す異常所見が明らかにされた.

下腿骨骨幹部骨折に対するEnder nailing法—開放骨折,遷延治癒,偽関節を中心として

著者: 安藤謙一 ,   片田重彦 ,   中川研二 ,   山田俊明 ,   久保田研喜 ,   佐藤正也

ページ範囲:P.545 - P.552

 下腿骨骨折は日常遭遇する機会の多い骨折で,その多くは交通事故などの直達外力により発生する.また下腿骨は被覆する軟部組織が少ないので,開放性になりやすく,外力を受ける程度も大きい.治療としては,PTB cast(あるいはbrace)の導入により,保存的療法の意義が増大しているが,Küntscher nailing, A-O plate固定,創外固定などの手術的療法が行われることも少なくない.一方,骨癒合が遷延する生体側の条件として,Nicoll12)は①comminution,②displacement,③infection,④soft tissue woundの4項目を上げている.これら4条件のある難治例に対しては,上記治療法の選択に苦慮することが多く,また結果として骨癒合が遷延し,salvage手術を必要とする症例も少なくない.我々は,下腿骨骨幹部骨折に対する手術的治療としてEnder nailing法を施行しているが,今回は一般的に治療の難しい開放骨折,遷延治癒,偽関節を中心にして報告する.

足関節前方引出し徴候と距骨の回旋

著者: 斉田通則 ,   佐々木鉄人 ,   須々田幸一 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   安田和則

ページ範囲:P.553 - P.558

はじめに
 足関節外側の靱帯支持組織は,前距腓靱帯と踵腓靱帯が主たるものであるが,しばしばこれらの機能不全状態により足関節不安定性を生ずる.この足関節不安定性の診断には,前方引出しanterior drawer signやTalar Tiltなどの足関節異常可動性をX線学的に証明する方法が,従来より汎用されてきた.一般に,前方引出しは前距腓靱帯の,Talar Tiltは前距腓靱帯と踵腓靱帯の不全状態を反映すると考えられている(図1)2,4,8)
 一方,これら前方引出しや,Talar Tiltといった足関節異常可動性に加え,外側靱帯支持組織の機能不全の際に,距骨の回旋もおこっていることが注目されてきた.Rusmussen(1981)は,足関節異常可動性のひとつとしての距骨の内旋運動を,切断下肢を用いた実験で証明し,Anterolateral Rotational Instabilityという概念を報告した12).しかし,前方引出しや,Talar Tiltが,足関節不安定性の診断法として重要視されているのに対し,距骨の内旋運動を臨床的に計測した報告は,渉猟しえた限りない.著者らは,足関節外側靱帯支持組織の不全状態でみられる距骨の内旋を,X線学的に計測する方法を考案し,前方引出しとの関係について検討したので報告する.

有痛性分裂膝蓋骨に対する分裂骨片摘出術と成績

著者: 腰野富久 ,   大橋義一

ページ範囲:P.561 - P.569

はじめに
 分裂膝蓋骨は従来,無痛性でありX線検査にて偶然みつかることが多いとされていたが,有痛性分裂膝蓋骨にもしばしば遭遇し,中には疼痛のため,スポーツ活動,日常生活動作にも支障をきたすものもある.この点,従来より我々は種々の検討を行い,報告してきた8,10).最近では有痛性分裂膝蓋骨の認識もひろがりその報告も多くなりつつある2,3,5,8〜10,13〜15).またその病態に関しても少しずつ明らかになりつつある.これら有痛性分裂膝蓋骨の治療に関しては報告も少なく,一定の見解はみられていない.分裂膝蓋骨による膝痛を他の膝内障によるものと誤診し,後者の処置を行うなどは厳に避けなければならない.
 今回,当科にて行っている外科的治療の術式や術後成績を中心に述べる.

Discogramから見た骨盤牽引療法の検討

著者: 細川昌俊 ,   鈴木信正 ,   芦田多喜男 ,   高田知明 ,   阿部均

ページ範囲:P.571 - P.579

 腰痛および坐骨神経痛を訴えるものは多く,それに対していろいろと保存的療法が行われているにもかかわらず,その報告は少ない.骨盤牽引についても,その目的及び方法を熟慮せずに盲目的習慣的に施行している感が深い.今日広く行われている骨盤牽引は,Judovich(1952)5,6)の業績に負うところが多いが,その目的としたところは椎間板ヘルニアの整復であり,それに必要と思われる牽引力を算出し,その牽引力を有効に作用させ得る手段として間歇牽引装置を考案したのである.
 腰痛及び坐骨神経痛はいろいろな病態を基盤として発症するものであり,椎間板ヘルニアはそのごく一部の様態に過ぎない.従って,それらに対して骨盤牽引を行う場合,その目的及び方法を考慮した上で適切に行う必要があろう.一定の目的で,適切な方法で施行された骨盤牽引の結果からのみ,その効果が評価され得るのであり,もし有効ならば,その作用機序は何かという問題が当然提起されるべきである.

骨移植術を併用した股関節全置換術の成績

著者: 東隆 ,   坂井和夫 ,   岡垣健太郎 ,   原好延 ,   中洲裕 ,   西口豊憲 ,   西上茂樹 ,   安田浩成 ,   関谷博之 ,   高木希

ページ範囲:P.581 - P.589

はじめに
 脱臼性股関節症に対し,人工関節置換術を行う場合,さまざまな問題に遭遇する.Charnleyはその困難さ故に,高度の先天股脱は股関節全置換術の適応でないと述べ,脱臼性股関節症に対しても,積極的には手術を勧めていない.臼蓋側での困難性は主として骨材料の不足にあり,これに対処するために多くの手術手技が報告されている.
 Charnleyら4)(1973)は,切除骨頭や,臼のリーミングによって生じるbone-pasteを用いて,臼蓋や臼内側を補強する方法を示唆した.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・21

経口咽頭路による環軸椎椎体間固定術

著者: 津山直一

ページ範囲:P.591 - P.596

I.適応
 環椎軸椎間脱臼または不安定性を伴う先天性頭蓋脊椎移行部奇形ことにのちに後方椎弓切除,除圧術を追加する可能性のある場合,外傷性脱臼骨折で歯突起が脊髄を前方から圧迫しており,これを前方除圧する必要のある場合,その他.

検査法

SubtractionによるLumbar Peridurography

著者: 室捷之 ,   錦見純三 ,   夏目交授 ,   伊藤裕夫 ,   二宮正志 ,   水野直門 ,   山下弘

ページ範囲:P.597 - P.603

はじめに
 われわれは,過去13年間にわたって腰痛疾患のroutineの検査法の一つとしてperidurographyを行っているが,硬膜外の病変把握の一手段として有用であることは認めながら,なお,手技的にも造影的にも不確実な要素が多いと考えている.今回,その読影法の一助を目的として,本法にsubtractionを行い,単純peridurogramと比較検討したので,少数例ながらここに報告する.

整形外科を育てた人達 第15回

William Ludwig Detmold(1808-1894)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.604 - P.607

 米国に最初に整形外科を欧州より持ち込んだのはW. L. Detmoldである(図1).それは1837年の春であった.Detmoldは1808年12月27日にドイツのHanoverで生れた.父は医師Dr. Johann Heinrich DetmoldでHanover王家の宮廷医をしていた.Detmoldは7人兄弟の二番目であった.環境に恵まれ教育も順調に進み,1830年にはGöttingen大学で医師の資格を得て,Hanoverの近衛兵外科医に任ぜられている.丁度1831年にLouis Stromeyerが皮下切腱術に成功しているので,Detmoldは早速Stromeyerに師事している.師弟の年齢差は僅か4年しかなかった.

臨床経験

嚢胞状陰影を呈した膝蓋骨結核の1症例

著者: 高桑一彦 ,   野口哲夫 ,   加藤義治 ,   海木玄郷 ,   高野治雄 ,   森田多哉 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.609 - P.612

 骨関節結核のうち,扁平骨に発生する骨結核は稀であり,平野5)は,膝蓋骨に原発する骨結核は,0.1%と報告している.我々が渉猟し得た膝蓋骨結核の報告例は,我が国で6例にすぎず,そのうちの4例13,15〜17)は,定型的な骨結核の進展を示し,瘻孔が膝関節または皮膚に達している症例であった,今回,我々は,X線像で嚢胞状陰影を呈し,膝蓋骨内に限局し,瘻孔を形成しない型の骨結核を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

環椎に発生したEosinophilic granulomaの1例

著者: 福士明 ,   伊勢紀久 ,   森繁 ,   西村和也 ,   原田征行

ページ範囲:P.613 - P.616

 上位頸椎部の原発性骨腫瘍の発生は稀なものとされているが,その中でも環椎原発の骨腫瘍は非常に少なく,osteochondroma,benign osteoblastomaなどがわずかに報告されているだけである.
 今回我々は環椎外側塊に発生したeosinophilic granuloma(以後EG)を経験し,経口進入路による掻爬骨移植にて組織診断及び治癒を得ることができた.

足背島状皮弁による下腿および足の再建

著者: 鳥居修平 ,   杉浦勲 ,   和田郁雄 ,   三輪昌彦 ,   花村浩克

ページ範囲:P.617 - P.621

 足背皮弁は足背動脈とその伴行静脈および背側静脈弓に栄養されるaxial pattern flapとして,1975年にMc-Crawら3)によりその臨床応用が報告された.下肢の骨の露出した皮膚欠損の治療には,従来局所皮弁以外にはcross leg皮弁が行われることが多かった.Cross leg法は術後の下肢保持に苦痛を伴い,2度にわたる手術を要するなど患者の負担は大きい.かかる症例に足背動脈とその伴行静脈を血管茎とする足背島状皮弁を移植し,良好な結果を得たので,それらの概略を報告するとともに,この術式の特徴と適応について検討を加え発表する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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