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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻6号

1984年06月発行

雑誌目次

視座

「三」のミラクル

著者: 信原克哉

ページ範囲:P.625 - P.625

 18年ほど前のことだろうか,留学中にしばらくCoventry先生のお宅に厄介になっていたことがある.それ以後数年間,彼の好意でMayo ClinicからProceedingという雑誌が送られてきていたが,その表紙のemblemにいつも心を惹かれていたことを覚えている.それは西洋楯のようなフレームの内にE(教育)とC(臨床),R(研究)の三文字をからませた簡単なものだが,三者が一体となって最高の医療を実践しているMayo Clinicの内容を象徴するにふさわしいもののように思われた。
 一方,混乱していたとは言え,当時我国の医学部にも,教育と臨床,それに研究という体制は維持されていた.しかし教育は学生に対するそれを指し,卒後研修や生涯教育は限られた徒弟制度の中でしか受けられなかったし,臨床は医学という錦の御旗のもとで権威的に行われていた.そして研究はもっぱら自己の学位を得るための活力で支えられていた感があった.これらの不協和をかろうじて支えていたのが,医は仁術という社会通念と経済的に貧しかった医師達の善意であったようである.

論述

化膿性肩関節炎の診断上の問題点

著者: 鳥巣岳彦 ,   真角昭吾 ,   新藤正輝

ページ範囲:P.626 - P.634

 定型的な化膿性関節炎は,急激な疼痛をもって発症し,局所の腫脹,発赤,熱感が著明であり,血沈亢進,白血球増多も認められる.そして混濁した関節液の培養で細菌が証明できれば診断は容易に確定する.しかしここで問題にしたいのは,混濁した関節液の細菌培養が陰性である場合,あるいは単純X線像や関節造影所見で感染が疑われながらも,関節液が混濁しておらず,しかも細菌培養が陰性である場合である.
 当院で経験した副腎皮質ステロイド剤(以下ステロイド剤と略す)の関節内注射後の化膿性肩関節炎の臨床像を検討し,診断上の問題点を明確にしたい.

外反母趾に伴う中足骨頭部痛に対する中足骨斜め骨切り術について

著者: 武部恭一 ,   広畑和志

ページ範囲:P.635 - P.641

はじめに
 中足骨頭部痛という言葉は諸家により多少異なった意味に用いられているが,一般には母趾以外の足趾の中足趾節関節(以下MTP関節と略す)足底部の疼痛を主訴とする疾患を包括した症候名である5,13,14).したがって中足骨頭部痛と呼ばれる疾患も多様であるため,1981年Scranton14)は中足骨頭部痛の患者を1次性,2次性,前足部痛の3群に分類し,各々に属する疾患を明確にした(表1).
 これらのうち,とくに1次性中足骨頭部痛に対し欧米では従来より手術的治療が報告されているが,本邦ではその報告はみられない.われわれは最近主に外反母趾に伴った中足骨頭部痛の症例に対して中足骨斜め骨切り術を施行して満足できる成績を得ているのでここに報告する.

手部に発生した腫瘍の治療経験

著者: 加藤由実 ,   石川忠也 ,   井戸田仁 ,   浜田敏彰 ,   服部寿門 ,   毛利保雄 ,   若山日名夫 ,   宇野裕 ,   杉浦勲

ページ範囲:P.643 - P.647

 運動器腫瘍の組織由来は,間葉系mesenchymalでその種類は極めて多数にのぼる.
 これらの腫瘍は,発生部位,年齢によって各々そのclinical behaviourに差を生じ,同一の腫瘍でも,発生部位によっては,多彩な臨床症状を呈し治療法の難易が大きく異なってくる.

軟部腫瘍性病変の圧迫による肘部管症候群

著者: 阿藤孝二郎 ,   上平用 ,   大月健二 ,   林正郎 ,   山下英男 ,   山本清司

ページ範囲:P.649 - P.657

 肘部管症候群は,Feindel8)がcubital tunnel(肘部管)という新語をつくりだして以来,同部に何らかの原因があって生じた尺骨神経障害に対し名づけられた名称である.その原因として,肘部の陳旧性骨折・脱臼,変形性関節症・リウマチなどの肘関節疾患,職業性外傷,先天性奇形,ガングリオン,腫瘍,その他多くの原因が考えられるが,ガングリオン・腫瘍などのいわゆる軟部腫瘍性病変の圧迫によるものの報告は,比較的少ない.
 今回,国立三朝温泉病院にて軟部腫瘍性病変の圧迫による肘部管症候群8症例を経験したので,興味ある3症例について詳しく述べるとともに,それらの臨床症状や治療成績について報告する.

高濃縮フィブリノーゲン(Tisseel®)を使用した神経接合に関する実験的研究—第2報 軸索内輸送の測定による軸索伸長速度の計測

著者: 光嶋勲 ,   波利井清紀 ,   松林薫美

ページ範囲:P.659 - P.664

はじめに
 近年,分子生物学の進歩により細胞レベルの蛋白代謝能を測定することが可能になった.この技術は神経生化学の領域にも応用され,神経細胞で合成された蛋白が細胞骨格とともに軸索内を輸送される機構が解明されつつある.これは軸索内輸送(Axoplasmic transport)と命名され,神経細胞の代謝,軸索再生,末梢神経障害など多方面において利用されはじめている5)
 さて近年,組織の生理的な接着を目的とした高濃縮フィブリノーゲン(Tisseel®)が開発され,すでに耳鼻科10),口腔外科7),整形外科11)などの領域において臨床手術への応用が検討されはじめている.われわれは,神経外科領域においてTisseel®の臨床応用を検討するために,これを用いた神経再生の状態を組織定量的に検索し,従来の縫合法によるコントロール群と比較してすでに報告した6).その結果,再生軸索の成長は縫合群とほぼ同レベルであり,高濃縮フィブリノーゲンに由来する瘢痕組織が接合部における再生軸索の伸長を障害する危険性は全く認められないことが解った.そこで今回は,軸索内輸送の経時的変化を観察することにより,接合部の再生軸索に及ぼす高濃縮フィブリノーゲンの影響を神経細胞の機能的な観点より検索し,若干の考察を加えて報告する.

分娩麻痺児の上肢長差について

著者: 屋宜公 ,   津山直一 ,   長野昭 ,   立花新太郎 ,   落合直之 ,   近藤徹 ,   原徹也 ,   畑栄一

ページ範囲:P.665 - P.669

 ポリオにおける罹患肢の成長障害,およびその結果健側肢との間に肢長差を生ずる事実はよく知られている.特に下肢では脚長差のためADL上多大の障害をきたすので治療法等についても多くの研究がみられる.分娩麻痺あるいは幼小児期の末梢神経損傷でも上肢の生長障害をきたすことは周知のことであるが(図1)下肢に比べ上肢長差のためにADL上障害をきたすことは少ないためか,上肢長差に関する研究は殆んどみられない.分娩麻痺児の治療を行う上で有用な基礎資料を得るべく上肢長および周囲長を計測し,麻痺の重度との関係,年齢に伴う生長障害の度合等について若干の知見を得たので報告する.

特集 小児股関節(第22回先天股脱研究会より)

小児股関節における関節鏡

著者: 扇谷浩文 ,   黒木良克 ,   斎藤進 ,   森雄二郎 ,   筒井廣明 ,   渥美敬 ,   内田俊彦 ,   川内邦雄 ,   杉森広海 ,   近藤宰司 ,   小原周 ,   広瀬勲

ページ範囲:P.671 - P.680

はじめに
 関節鏡の臨床分野での応用は,とくに膝関節において著しいものがある,一方,他の関節における関節鏡の報告も近年散見される.しかし,股関節においては,高木教授の神経病性関節症に対する鏡視の報告を嚆矢とするが,その後の報告も少なく,かつ普及もしていない.
 筆者らは昭和52年9月に第1回の股関節における鏡視を先天股脱に行って以来5,6),昭和58年12月末現在までに72例95関節に対し,鏡視を行ってきた.今回は15歳以下の小児の症例に限定して報告する.

Cleidocranial dysplasiaの股関節変化

著者: 横串算敏 ,   高橋延勝 ,   小川考了 ,   池本吉一 ,   小野民夫

ページ範囲:P.681 - P.687

はじめに
 Cleidocranial dysplasia鎖骨・頭蓋異形成症は,従来cleidocranial dysostosis8),dysostosis generalisata3),mutational dysostosis11),osteo-dental dysplasia5)等の名称で報告されてきた疾患である.本症は 1)頭蓋横径の過大な発育と泉門の骨化遅延,2)鎖骨形成不全,3)歯牙の発育不全,それに 4)遺伝性を有することが特徴である.本邦では整形外科,歯科口腔外科,小児科領域での発表があり,本症の臨床所見,遺伝形式等につき検討,報告がなされている1,4,7,14,15).本症が骨盤,股関節の変化をしばしば伴うことは既に知られた事実であるが,これらの発生機序,病態についての詳細な報告はまだない.
 今回,著者らは本症小児の5例と成人の6例について,特に股関節変化に着目してその発生機序,病態について検討した.その結果にもとづき,先天性股関節脱臼にみられる股関節変化の発生機序にも考察を加えた.

先天性股関節脱臼左右決定因子についての考察

著者: 高橋功 ,   渡辺真 ,   柳沢正信 ,   岩瀬育男 ,   福田茂 ,   鈴木信 ,   秋山精治

ページ範囲:P.689 - P.693

はじめに
 古来,幾多の先天股脱発生論についての説が百花媚を競うように開花し,それが現在もなお咲き続けているものもあれば,萎れてしまったもの,また再び咲き直したものもある.しかしながら発生論という真理の高峰をめぐって,いまなお同心円上の軌道を限りなく回っている感がぬぐいきれない.本論文の主旨たる股関節脱臼の「左右を決定する因子」をさぐることは,遠大な発生論にかかわる意志は全くないのにもかかわらず,おのずとその論議に足を踏み入れてしまうことになり,緊張感と畏れの前に戦慄すら覚える.今回の調査から先天股脱の左右決定因子について,ひとつの考察を加える機会をえたので諸兄の批判を乞い,あらたな討論開始への契機となれば幸いである.

ソルター骨盤骨切り術後の臼蓋発育の推移

著者: 増田武志 ,   東輝彦 ,   高橋賢 ,   長谷川功 ,   松野丈夫 ,   山元功 ,   平井和樹 ,   深沢雅則 ,   一岡義章 ,   紺野拓志

ページ範囲:P.695 - P.701

はじめに
 ソルターの骨盤骨切り術は先天股脱の整復に際しての不安定性を取り除く目的で,そして遺残亜脱においても,臼蓋の発育方向を変える目的でなされている10).その成績についてはSalter自身および多くの人々によって報告されている4,5,6,11,12).本手術の利点は,臼蓋が異常方向になっていることを修正することによって,股関節の安定性を獲得することであり11),さらにこのように安定性の得られた股関節においては,正常の荷重によって骨頭および臼蓋の発育が促されることである.このような意味においても本手術の術後経過には注意をはらう必要がある.
 今回は,本手術後の臼蓋発育の推移をみる目的で,当科において本手術施行例で,5年以上経過し,経時的に臼蓋の発育を観察し得た症例についての結果を報告する.

Overhead traction法による先天性股関節脱臼の整復状態とその後の股関節形態

著者: 久米田秀光 ,   船山完一 ,   佐々木仁行 ,   北純 ,   田中久重

ページ範囲:P.703 - P.712

はじめに
 先天性股関節脱臼(以下,先股脱と略す)の保存的治療上,over head traction法(以下,OHTと略す)は,重要な手段の1つと考えられる.そして,その方法や成績などCraig2),Mau25)以来,内外多数の報告がある.
 教室でも1971年以降,簡易OHT装置を作製し,RBなどで整復できなかった症例を対象に,OHT法を実施してきた31).この間,併用してきた観血的整復術の成績があまり良くなかった反省に立ち,1977年以降はさらに徹底したOHTの保存療法を試みている(図1).OHT整復後の関節造影像をみると,はじめの整復状態は不十分であり,完全なconcentric reductionを獲得してないのが通例である26,38).しかし,その後の整復位保持から成長と共に,congruent hipに改善していくことが経験される.これは,OHTに限らず骨頭を障害することなく,整復・保持に成功した保存療法症例の特微である29,34)

整形外科を育てた人達 第16回

Sir Robert Jones(1857-1933)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.714 - P.717

 英国の整形外科はWiliam Littleと接骨師の家系から医師となったHugh Owen Thomasの二人によって開拓された.そして英国整形外科学会の初代の会長はLittleの息子のMuirhead Littleで副会長がSir Robert Jonesであった事は既に書いたが,このRobert JonesはHugh Owen Thomasの甥に当っている.Thomas夫人の兄弟の子供であるRobert Jonesは1857年Walesの北の海岸の小さな町Rhylで生れた.伯父のHugh Owen Thomasは接骨師に満足せず,勉強をして医師となりLiverpoolのNelson Streetに病院を持ち非常に繁盛していたが,Robert Jonesも外科の修練を受け1878年若くして医師の資格を与えられた.更に1889年にRoyal College of Surgeons of Edinburghのメンバーとなることができた.その頃よりLiverpool Stanley Hospitalの外科主任となり働き盛りの40歳であったので,毎日午後に20以上の手術をしていた.その後Royal Southern Hospitalの外科も担当することになり,多忙であったが彼はよく頑張った.その間に外国からも見学者が訪ねて来た,当時は石炭酸による制腐手術であったが,その見学者の中に米国のMayo ClinicからMayo兄弟のWilliamとCharlesの名も見出すことができる.Robert Jonesの得意な手術は主としてosteotomy,osteoclasis,arthrodesis等であった.勿論腱の手術もあったが骨の手術は当時としては見学者は驚いていたらしい.しかし手術を要する患者は多く集まり,午後に開始した手術も夜になることも多く,病室回診が深夜となり患者が驚いたことも少なくなかった.

学会印象記

第3回西太平洋脊椎外科学会

著者: 山本博司

ページ範囲:P.718 - P.719

 昭和58年10月10日より4日間,WPOA, Spinal Sectionの第3回会議が東京で開催され多くの成果を挙げることができた.
 学会参加者数は403名に達し,日本国外からは90名にも及ぶ参加者があり,国際学会にふさわしい盛会となった.学会場には新宿高層ビル街にひときわスマートに聳える安田海上火災ビルを千葉大学の計らいで使用することができた.

臨床経験

慢性膝関節炎症状を呈した膝蓋骨Osteoid osteomaの1例

著者: 高橋秀裕 ,   岩森洋 ,   黒木秀尚 ,   井内康輝

ページ範囲:P.721 - P.724

 膝蓋骨に腫瘍性疾患が発生することはきわめて稀であるが,なかでもosteoid osteomaの報告は少なく,内外の文献をみても,その臨床像を詳細に記載した例はみあたらない.最近私達は,強い膝関節炎症状を呈し,このため長期にわたり診断を確定しえなかった膝蓋骨osteoidosteomaの1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

β-ガラクトシダーゼ・ノイラミニダーゼ欠損症の1例

著者: 島田克博 ,   新名正由 ,   下村裕 ,   石橋明 ,   鈴木義之

ページ範囲:P.725 - P.729

 ムコ多糖症とスフィンゴリピドーシスの両者の症状を備え,ガルゴイル顔貌,小脳失調,視力障害,眼底のチェリーレッド斑,角膜混濁,被角血管腫及び骨変形を主症状とした症例に生化学的検索を行い,β-ガラクトシダーゼ,ノイラミニダーゼの欠損を証明しえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

20年を経過したアクリル樹脂骨頭について

著者: 後藤直史 ,   長屋郁郎 ,   浅井富明 ,   衛藤義人 ,   近藤徹 ,   牧山友三郎

ページ範囲:P.731 - P.734

 高度股関節障害に対する外科療法として,人工材料を用いての再建術は,古くから行われており,1950年代よりJudetにより始められたアクリル樹脂人工骨頭1)が広く用いられてきた.しかしアクリル樹脂は,その組織反応などの為に,長期成績に問題を有し,現在では用いられなくなっている.
 今回我々は,1962年に当院にて挿入した自家製アクリル樹脂人工骨頭を,挿入後20年を経過して抜去し,Bateman型人工骨頭に再置換した症例を経験したので,その臨床経過,再置換時の手術所見に若干の検討を加え報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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