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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻7号

1984年07月発行

雑誌目次

視座

最近考えさせられること

著者: 井上四郎

ページ範囲:P.737 - P.738

 総合的な医学雑誌に日本の医療の質は二流国ではないかと,誠にショッキングな記事が出ていた.それによると,日本の車やテレビ,エレクトロニクスは世界を席巻しているが,世界から争って日本の医療を受けに来るということをきかない.その差は品質管理の徹底さによるのではないか.日本の車は安さで売れるのではなく,品質の高さ,燃費の良さ,故障の少なさで売れるのである.わが国の病院医療の平均在院日数の異常な長さ,すなわち治療に日数がかかることは医療の質が二流国であるためと論じていた.日本の事情を考えずにストレートに在院日数の長さを医療の質の評価に結びつける一般の常識には驚いた.
 われわれ整形外科医の立場から反論すると,具体的な例として,骨折や軟部組織の修復には動かし難い生物的な日数を要するため,ギプスを巻いた時点や松葉杖歩行が可能になった時点で退院させようとする.ところが病人や家族が承知しないことを再再経験するところである."死ぬまで入院させておいてほしい"とか"翌日から仕事に行けるようになるまで入院させておいてほしい"とか頼まれることが少なくない.何故,こんな事態になってしまったのであろうか.思いつく事情を列挙すると,まず,これは悪いことではないが,医療を受けても個人がお金を支払う必要がなくなったこと.生命保険等で入院に限り1日につき5000〜10000円が支払われること.

論述

腰仙部神経根症状の多様性の検討—分岐神経の臨床的意義

著者: 菊地臣一 ,   蓮江光男 ,   西山慶治 ,   伊藤司

ページ範囲:P.739 - P.747

はじめに
 腰痛や腰仙部神経根症状の責任高位の決定は,神経学的所見と形態学的補助診断法に負うところが多い.我々は責任高位を形態的および機能的に決定するために神経根ブロック4〜6)を用いているが,ときに教科書的には考えられないような知覚障害や麻痺が出現する.このような腰仙部神経根症状の多様性には神経組織自体の変異,神経根周囲組織の変化およびこれら両者間の相互関係が関与している.今回はこのうち分岐神経に焦点を当て,この神経の根症状の多様性に対する役割について検討したので報告する.

腰部脊柱管狭窄症に対する部分的椎間関節切除術

著者: 岡野克紀 ,   関寛之 ,   竹松宏 ,   飯島卓夫

ページ範囲:P.749 - P.754

はじめに
 腰部脊柱管狭窄症に対する観血的治療法としては,現在,広範椎弓切除が最も一般的に行われている5,7).しかし,脊柱の後方部分の構築学的破綻により腰椎不安定をきたすことや,椎弓切除後被膜(post-laminectomy membrane)の原因となることが指摘され8,15),必要最小限度の手術侵襲で効果的な除圧を行うべくさまざまな手術法が提唱されている.
 われわれは,1979年以降,本疾患に対し腰椎支持性を温存する手術法として部分的椎間関節切除を行ってきたので,それ以前の広範椎弓切除を施行した症例と比較して,本術式の有用性を検討した.

人工腱板による陳旧性広範囲腱板断裂の機能再建

著者: 尾崎二郎 ,   藤本誠 ,   増原建二

ページ範囲:P.756 - P.764

はじめに
 腱板断裂に対する手術的治療は,1909年に行われたCodmanの症例が最初とされている.彼は,"The Shoulder"という自著のなかで,受傷後5ヵ月経過した52歳,女性の陳旧性広範囲腱板断裂に対し,腱板断端部を大結節に絹糸で縫合しようと試みたが,断裂した腱板を大結節まで引きつけることができず,欠損部を残したまま手術を終えたことを記載している(suture a-distance)2)
 その後,腱板断裂に対する手術法は,診断法と病態の解明の進歩とともに,多くの術式が報告されてきた3,4,9〜11,16).しかし現在においても重要な課題の一つとして残されているのは,Codmanが当時苦慮した陳旧性広範囲腱板断裂に対する手術法の確立である.

Monteggia損傷について—当科における49例の検討を中心に

著者: 嶋村正俊 ,   安達長夫 ,   生田義和 ,   渡捷一 ,   村上恒二 ,   津下健哉

ページ範囲:P.765 - P.774

はじめに
 Monteggia骨折は,人名骨折の一つとして周知であるものの,その発生頻度は意外に少ないものである.そのため,ややもすれば初期診断,治療の適切さを欠き,椀骨頭脱臼を見過ごされたり,尺骨の変形治癒を来たし機能障害を残すようなこともまれではない.このような陳旧例に対する治療には難渋する場合が多く,その方針にも多くの問題をかかえている2,26).また,まれな外傷型のため一施設での症例数も数限りあり,特に陳旧症例や長期予後に関する報告には乏しい.当科では大学病院の性格上陳旧例の割合が多く,今回我々は過去21年間における本症例の検討および長期経過後の予後調査を行い,いささかの知見を得ることができたのでここに報告する.

成人内反足の治療

著者: 原口和史 ,   野村茂治 ,   近藤正一 ,   前川正幸 ,   松尾隆

ページ範囲:P.775 - P.785

はじめに
 近年,先天性内反足では医療の普及と乳幼児期の治療法の確立によって,成人に達するまで変形の遺残する症例は散見されるにとどまる.成人内反足例では軟部組織の拘縮に加え二次性の骨格変形が存在するため,治療法も軟部組織の解離術よりも骨性手術が中心となる.我々は成人内反足に対して三関節固定術を中心とした治療を行ってきたが,今回その治療成績と問題点について検討したので報告する.

分裂膝蓋骨分裂部の病理組織学的所見と分類

著者: 大橋義一 ,   腰野富久

ページ範囲:P.786 - P.795

はじめに
 分裂膝蓋骨は古くから報告されているが,その病態は不明な点が多い.我々は分裂膝蓋骨についてすでに,スポーツとの関係9),臨床症状・臨床所見および成因10),手術術式および成績5),骨シンチ所見11)などにつき報告を行ってきた.今回は手術時の摘出骨片につき病理組織学的検討を行ったので報告する.

整形外科を育てた人達 第17回

Konrad Biesalski(1868-1930)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.796 - P.799

 英国に於てはSir Robert Jones(1855-1933)がDame Agnes Huntと協力し肢体不自由児の療育に取組み,第一次世界大戦が始まると戦傷による身体障害者のために組織的に働いたことは既に書いたが,今回はこれと同じ立場に立つKonrad Biesalskiについて書くことにした.

臨床経験

前腕変形に対し矯正骨切り術を施行した多発性骨軟骨腫の1例

著者: 萩原雅也子 ,   武部恭一

ページ範囲:P.801 - P.804

 多発性骨軟骨腫において,しばしば骨変形を伴うことがあり,特に前腕変形は特有であると言われている5,8,10).私達は,その変形を有する1例に対し,矯正骨切り術を施行し良好な結果を得たので報告する.

電撃傷によるDupuytren様拘縮の1症例

著者: 三枝憲成 ,   難波健二 ,   春日秀彦

ページ範囲:P.805 - P.807

 電撃傷による上肢の機能障害は時折みられるが,手にDupuytren様拘縮を呈することは稀である.最近われわれは,電撃傷によるDupuytren様拘縮の1症例を経験したので報告する.
 症例 15歳,男子,電気技術者専修学校生

先天性および外傷性橈骨頭単独脱臼に対する橈骨外旋骨切り術の遠隔成績

著者: 山崎幹雄 ,   田場弘之 ,   二見俊郎 ,   山本真

ページ範囲:P.809 - P.812

 橈骨頭単独脱臼は,比較的まれな疾患である.陳旧性の外傷性脱臼と先天性脱臼とが考えられるが,その鑑別は困難な場合もある.いずれにしろ放置され,橈骨頭や上腕尺骨関節に2次変化が生じれば,治療は難しくなる.このような症例に対しては,一般に橈骨頭切除術が行われているようであるが,そうなる以前の若い時期にできるかぎり,関節の相互関係を回復しておくことが重要である.そこで我々は,昭和49年より,先天性および,外傷性橈骨頭単独脱臼に対し,我々の考案した橈骨外旋骨切り術を行い,すでに雑誌1,7,8),学会などで報告して来た.今回,術後7年以上を経過した3症例につき,その経過を調査し,報告するとともに検討を加えた.
 術前の主訴は,肘の運動後の鈍痛,橈骨頭の突出,屈曲制限などであるが,いずれも軽微で,ADL上あまり問題となるものはなかった.そこで,術後の愁訴,ADL障害の有無,肘の関節可動域の変化,レ線学的変化等について調査した.

救命し得た悪性過高熱の1例

著者: 小柳貴裕 ,   横井秋夫 ,   野末洋 ,   里見和彦 ,   小林保範 ,   川添太郎 ,   浅野慎吾

ページ範囲:P.813 - P.816

 悪性過高熱(以下MHと略す)は麻酔時に急激な体温上昇と筋硬直を来たす致死的疾患である.筋骨格系に異常のある者に多いとされ1),整形外科領域でも常に念頭に置くべき合併症である.我々は全麻下に術中MHを発症したが,適切な処置により救命し得た1例を経験したので報告する.

下腿外捻骨切り術(reed osteotomy)を行なった先天性内反足

著者: 沢海明人 ,   山川浩司 ,   岩瀬育男 ,   阿部孝一 ,   高橋公 ,   黒羽根洋司

ページ範囲:P.817 - P.821

 先天性内反足に対しては種々の手術法が考案されているが,今なお完全な矯正の困難な例も少なくない.下腿の捻転骨切り術も,これら手術法の一つであるが,その是非については,先天性内反足における下腿捻転の有無と関連して議論が多い.
 Reed osteotomyは,Haas2),Nicholsonら4)が記載し,本邦では鈴木6)が先天性内反足13肢,ポリオ3肢,二分脊椎1肢について下腿捻転骨切り術として報告している.

Charcot-Marie-Tooth病の1例—整形外科的考察

著者: 宮崎誠一 ,   渡辺優 ,   宮本敬二郎 ,   戸祭喜八

ページ範囲:P.823 - P.827

 Charcot-Marie-Tooth病は,1886年Charcot,Marie1),Tooth2),の3名が別個に報告した足,下腿により始まる進行性の筋萎縮症である.通常20歳以前に歩行障害をもって発症し,原因は不明であるが常染色体優性遺伝の例が多いとされている3,4).主病変は末梢神経のmyelinの消失と軸索の分節化が主体で,脊髄後根にも病変が及ぶ.進行は緩徐で生命の予後は良い.この疾患の初発症状が歩行障害,足部の変形であることから整形外科医の限にとまる事もあり得る.実際,足部の変形に対し外科的治療も含め種々の治療がなされて来ている.今回我々は,その1例を経験しその足部の変形に対し,保存的治療法を試みてみたので報告する.

骨Paget病の1症例—硬組織学的検討を中心として

著者: 丹野隆明 ,   井上駿一 ,   松井宣夫 ,   後藤澄雄 ,   高田典彦 ,   栗原真 ,   小沢俊行

ページ範囲:P.830 - P.836

 骨Paget病は1877年Sir James Pagetが詳細に発表して以来,欧米では数多くの報告がみられてきたが本邦では比較的稀とされている疾患である.今回われわれは右大腿骨および第8胸椎に発生した骨Paget病の1例に対し骨生検材料をもとに骨形態計測を中心とする組織学的検討を行い若干の結果を得たので報告する.

乳癌による転子下病的骨折の治癒例—骨接合術後スポーツ活動を行っている1例

著者: 前田昌穂 ,   広畑和志 ,   田中徹

ページ範囲:P.839 - P.843

 乳癌の骨転移は日常よく遭遇する疾患である.癌骨転移の手術的治療法は数多く報告されているが2,6,7,13,14,19,21,22),特に乳癌・前立腺癌・甲状腺癌・腎癌等は発育が緩徐であり,長期生存例もしばしばあることから,整形外科的治療法に期待がもてる癌腫である.
 本稿では,大腿骨の広範な乳癌骨転移例に対し観血的骨接合術を試みたところ,局所治癒が得られ普通の健康人並にスポーツ活動をしている症例を経験したので報告する.

陳旧性膝蓋靱帯断裂の1治験例

著者: 葛岡健作 ,   白数邦彦 ,   森英吾 ,   浜本肇

ページ範囲:P.845 - P.848

 私たちは約5ヵ月間放置された膝蓋靱帯断裂の1例に対し治療する機会を得たので報告する.

追悼

水野祥太郎名誉教授

著者: 小野啓郎 ,   河野左宙 ,   山田憲吾

ページ範囲:P.849 - P.852

弔辞
 いよいよお別れの言葉を申しあげるときがまいりました.しかし頑健な先生がこんなにも早く亡くなられたということが私共門下生にはいまだに信じられないのです.
 病をおして筆をいれられた御遺著が手許にございます.「これは私のロマンである」という冒頭のことばに先生を終生馳りたてた熱いものを今私共も感じています.足の研究に,医学教育の改革に,またある時はヒマラヤに,77年の生涯,先生を瞬時もたちどまらせなかったものがまさにこの情熱であったと,

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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