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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科19巻9号

1984年09月発行

雑誌目次

視座

臨床教育と医療費

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.961 - P.961

 医学生や卒後研修医の人達とともに生活している関係上,ときどき国民医療費の実態と医療のあり方などについて,問題意識を促すように心掛けている.医療を担うものとして不可欠なことの一つと考えるからである.昭和45年に約2兆5千億円だった総医療費が,その後急速な伸びを示し昭和50年には6兆5千億,そして昭和58年には14兆5千億円にも達した.GNPに占める医療費の割合は今,10年前の約2倍の6.5%と欧米なみになった.医学生にこの総医療費額を問うてみると約1〜2割の人が理解しているに過ぎないのは残念である.ともあれこの莫大な医療費は収入を得ている国民が等しく相互扶助,博愛の精神の上に立って,乏しい月給の中から出し合って形成されるものであり,それを切りくずすことのできる権限を与えられているのは私達医師なのである.医療費の急速な増大は抗癌剤,抗生物質をはじめとする高価な医療・検査薬剤の開発をはじめ,特殊診断法の進歩,体内埋没材料の台頭など,医学技術進歩の当然の帰結でもある.しかし,一方では診断ということを例にとると,多くの特殊診断法が保険医療制度の中にあって極めて身近に行えるようになったことが,ややもすればこれが一足飛びに,ときにはセット化されて実施される可能性を秘めている点に注目しなければならない.このことは,診断学の基本からみるとき,病態把握という一連の過程での短絡思考を知らぬ間に身につけてしまう危険性を常にはらんでいる.

論述

軟部腫瘍の臨床診断における迅速穿刺細胞診の応用

著者: 川口智義 ,   網野勝久 ,   磯辺靖 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   都竹正文 ,   北川知行 ,   古屋光太郎 ,   和田成仁 ,   渕岡道行

ページ範囲:P.962 - P.975

はじめに
 最近,患者に軟部腫瘍の認識が高まり,わずかな腫脹や小腫瘤を主訴として来院する事が多くなった.ちなみに昨年1年間に軟部腫瘍を心配して当院を受診した患者は約500例であり,そのうち半数は関節炎,ガングリオン,類上皮嚢腫,血管腫,リンパ管睡,脂肪腫など臨床診断の容易な例で治療対象から除外されている,すなわち残り242例が手術の対象となったが,そのうちには皮膚癌,デスモイド,隆起性皮膚線維肉腫各3例と28例の悪性軟部腫瘍例があった.軟部の腫瘤のうち皮下など浅在性の小病変に対しては,摘出生検術が行われたが,ある程度の大きさをもった腫瘤の良・悪性を的確かつ迅速に鑑別するのに最も威力を発揮したのは穿刺迅速細胞診であった.この穿刺迅速細胞診は,1980年2月から軟部腫瘍診療に際しての初診時検査として採用したもので,当初は細胞診の信頼性に不安があったため,生検術を併用せざるをえない例が多かった.しかし現在では,ほとんどの例で細胞診のみ,あるいは同時に得られた針生検診を併用して治療法を決定し術前に切開生検を行うことはむしろ稀になりつつある.そこで本稿では現在の軟部腫瘍診療においての,画像診断,穿刺細胞診,生検診らのかかわりを具体例で示し,迅速穿刺細胞診の臨床応用について紹介したい.

橈側偏位を示す母指多指症について

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   三浪明男 ,   福田公孝 ,   小林三昌 ,   坂田仁 ,   加藤貞利 ,   中里哲夫 ,   三浪三千男

ページ範囲:P.977 - P.982

緒言
 母指多指症における骨の発育の方向は,分岐部の高さにより一定していると考えられている7).すなわち末節型母指多指症では,末節骨は互いに離反するが,基節型と中手型では,一たん離反した基節骨と中手骨は末梢で集合する傾向を示す1,10).ここでみられるIP関節あるいはMP関節の偏位は,本症の治療を困難にしている要因の一つである.偏位の原因としては,中手骨あるいは基節骨自体の変形の外に,腱の走行異常,IP関節への介入骨の介在等の因子が考えられている4,7,11)
 一方,重複した毋指の末稍が共に橈側偏位を示す変形(以下橈側偏位型母指多指症と呼ぶ)については,まとまった報告はみられず,その病態についても明らかではない.今回,著者らは橈側偏位型母指多指症のX線像と手術時所見を分析して,変形の要因および治療上の問題点について検討を加えた.

手の外科におけるSilastic Sheetingの応用—各種癒着防止材料の適応にもふれて

著者: 伊藤恵康 ,   堀内行雄 ,   飯島謹之助 ,   小林保範 ,   高山真一郎 ,   内西兼一郎 ,   佐々木孝 ,   岩田清二

ページ範囲:P.983 - P.989

はじめに
 日常よく行われる腱剥離術において,術中期待された程の良結果が得られない症例は少なくない.癒着が高度な場合は,剥離操作による組織損傷も甚だしく,剥離範囲も広範囲に及び,術後の浮腫,疼痛のため後療法も十分に行えず,再癒着を起こすことになる.
 このような再癒着の防止,或いは腱や神経修復時の周囲組織との癒着防止を目的として,古くから種々の試みがなされてきた.

特発性大腿骨頭壊死の自然経過例の検討

著者: 長谷川功 ,   増田武志 ,   東輝彦 ,   紺野拓志 ,   高橋賢 ,   松野丈夫 ,   平井和樹 ,   深沢雅則

ページ範囲:P.991 - P.997

はじめに
 特発性大腿骨頭壊死は,はなはだ難治性の疾患であり,その治療にあたっては病像に即した適切な治療法を選択する必要がある.その治療方針は,初期では骨頭の陥没変形を防止する事であり,末期では関節機能の再建である.当科では従来より表1に示した病期分類に従いIII期までは骨頭を温存する骨移植術または各種骨切り術を,IV,V期に対しては関節形成術を原則としてきた.いずれにせよ,本疾患は小児のペルテス病と異なり,壊死骨の白然修復が起こりにくく,またあっても緩徐であり,手術的治療がその中心となる.しかし,症例によっては長期に亘って骨頭の陥没変形が進行しない例もあり,そのような例を事前に把握する事は無用な手術的治療を加えない上で肝要な事である.今回,全身状態より手術不能の例,臨床症状の軽微な例,および関節形成術の適応としかならないが,まだ若年の例などに対してADL指導をし経過観察を行ってきた.これらの例について,本疾患の自然経過を知る目的で検討を加えた.

骨移植を併用した人工膝関節置換術について

著者: 龍順之助 ,   河野洋平 ,   小林茂夫 ,   川野寿 ,   鳥山貞宜

ページ範囲:P.999 - P.1006

はじめに
 人工膝関節置換術(total knee replacement,TKR)は近年多くの施設で数多く行われており比較的安定した成績が得られている.慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)や変形性関節症(osteoarthritis,OA)などで膝関節部の骨欠損の高度な症例に対するTKRは骨欠損部の処置のためにしばしば手術に難渋する.TKRの手術の際,脛骨側骨欠損部が浅く狭小な場合は一般に骨セメントが充填されるが,骨欠損部が大なる場合,その処置につきいくつかの方法が報告されている.その方法は脛骨骨破壊部分を含めて骨切除し厚い脛骨componentの人工関節を使用する方法,内外側で厚さの異る段違い脛骨componentを使用する方法10),スクリューや金属メッシュをアンカーとして骨セメントを充填する方法4,5,7),自家骨移植を行う方法2,10)等が報告されている.骨欠損部に骨移植を行う方法は人工股関節置換術においてはよく用いられる方法であるが,TKRにおいてはあまり用いられておらず,その精細な方法,結果についての報告も少ない.そこで今回,骨破壊の高度な症例および人工膝関節再置換の際に生じる深く範囲の広い骨欠損に対し骨移植を併用してTKRを行ったので,その方法の精細及び結果について報告する.

整形外科を育てた人達 第19回

Benjamin Collins Brodie(1783-1862)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1008 - P.1011

 1783年,Benjamin Collins Brodie(図1)はEnglandの西南部のWiltshire地区の小村Winterslowで生れた.父は教区の牧師で6人兄弟の4番目であった.父の名はReverend Peter Bellinger BrodieでMaster of Artsであった.祖先は北のScotlandの名門であったが1649年にEngland移って来た家系である.
 父は子供の教育を自分自身で行った.その教育は古典について教え,数学もよく教育した.父に負けず子供も勤勉で,よくその激しい教育に堪えた.ところが15歳になった頃,NapoleonがフランスのBoulogneから英国に侵攻作戦を計画していた.これは1798年の事件であったが英国はNapoleonの侵攻を警戒するために,海岸に沿って数ヵ所に厚い壁の監視と防禦のために塔を建設した.これをMartello Tower(図2)と言っている.この塔の監視役を少年Brodieが勇敢に志願したので,国王George 3世から「私の信頼する,愛すべきCollin Brodie」と賞讃されたこともある.

臨床経験

血友病性偽腫瘍に伴う左大腿骨病的骨折の治験例

著者: 井口晶雄 ,   陶山哲夫 ,   中村茂 ,   榎本敏雄 ,   岩谷力 ,   岩野孝彦 ,   三間屋純一 ,   藤原将登

ページ範囲:P.1013 - P.1017

 我々は,血友病Aの患者の左大腿部に発生した血友病性偽腫瘍による左大腿骨病的骨折に対して,補充療法下に外科的治療を行い得たので報告する.

大腿骨に発生した外軟骨腫の1例

著者: 藤井正則 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   石野洋

ページ範囲:P.1019 - P.1022

 最近我々は,比較的稀とされる大腿骨近位部小転子下に発生したecchondromaの一例を経験したが,その病態については未だ不明の点が多く定かではない.今回経験した本症は,X線学的に(殊にCTスキャン)示唆に富む所見を与えてくれたので,その発生に関し聊かの文献的考察を加えて報告する.

フィブリン糊(Fibrinklebesystem)を用いた海綿骨移植術について

著者: 釆野進 ,   宮崎和躬 ,   笠原勝幸 ,   多田健治 ,   日浅浩成 ,   福田寛二 ,   中井徹

ページ範囲:P.1023 - P.1029

 近年各科の領域において,フィブリノゲン,トロンビンおよび第XIII凝固因子から生ずるフィブリン凝塊を生理的糊(Fibrinklebesystem,以下FKSと略)として使用する試みが行われている6,12).Böschら(1977)2)は骨髄炎などによる骨欠損部に対する海綿骨移植にこの方法を用い,Fibrinspongiosaplastikとして報告したが,我々はこれに注目して1979年以来6症例に対して本法を行い,いずれも良好な成績を得ているのでここに報告する.

ハムストリングの起始部皮下腱断裂の2例

著者: 伊達徹 ,   石川浩一郎 ,   北川敏夫 ,   丸田意気夫

ページ範囲:P.1031 - P.1033

 今回我々は坐骨結節のハムストリング起始部において剥離骨折を伴わずハムストリングの腱断裂をおこした極めて稀な2症例を経験したので報告する.

脛骨骨折を伴った腓骨頭上方脱臼の2例

著者: 中川重範 ,   川口篤 ,   関口和夫 ,   石橋民生

ページ範囲:P.1035 - P.1037

 外傷性近位脛腓関節脱臼のうち,上方型(腓骨頭上方脱臼)は,きわめて稀である.最近,我々は脛骨骨折を伴った腓骨頭上方脱臼の2例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

膝関節複合靱帯損傷にみられた内側半月前角付着部剥離骨折の1例

著者: 広本明敏 ,   塩田敬司 ,   竹田毅 ,   戸松泰介 ,   冨士川恭輔 ,   伊勢亀冨士朗 ,   水島斌雄

ページ範囲:P.1039 - P.1043

 膝関節の靱帯損傷に半月板の損傷が合併することは稀ではないが,半月板が付着部で小骨片剥離骨折の型で損傷を受けることは稀である.
 今回,我々は膝関節複合靱帯損傷に台併した半月板前角付着部剥離骨折の1例を経験したので報告する.

時期を異にして両側に生じた特発性膝関節内出血の1例

著者: 大野憲一 ,   川井和夫 ,   前田昌穂 ,   広畑和志

ページ範囲:P.1045 - P.1049

 特発性関節内出血は,明らかな外傷の既往もなくまた明確な原因もなく関節内に出血を繰返す比較的稀な疾患である.本疾患は通常老人に発症し,好発罹患関節は膝と肩である.しかし,両側性に見られることは極めて稀である.最近,我々は時期を異にして両側に生じた特発性膝関節内出血の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

食道損傷を伴った頸髄損傷の1症例

著者: 北野継弐 ,   荻野洋 ,   川津伸夫

ページ範囲:P.1051 - P.1054

 われわれは過去数多くの脊髄損傷患者をあつかってきたが,今回頸髄損傷患者で食道損傷を伴っていた1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

著明な呼吸性移動を示す馬尾神経鞘腫の1例

著者: 久保田研喜 ,   吉沢英造 ,   山田俊明 ,   鷲見信清

ページ範囲:P.1055 - P.1058

 脊髄腫瘍は,しばしばその症状発現初期において他疾患特に脊椎変性疾患と誤診され,長期間無用の保存的治療が続けられることがある.特に馬尾神経腫瘍は坐骨神経痛を主訴とすることが多く,下部腰椎変性疾患と間違われやすく,時には術後に両下肢麻痺に発展してはじめて馬尾神経腫瘍の存在に気づく例もみられる.この場合,造影剤を胸椎領域まで上昇させてのmyelography施行が診断確定のための有力な手段となるが,腫瘍が移動性を示す場合には透視下で停止像が読みとりにくく,腫瘍の存在自体の診断が困難なこともありうる.
 今回われわれも変形性脊椎症の診断のもとにmyelographyを行い,あぶなく馬尾神経腫瘍を見落すところであった症例を経験したので報告する.

腰部脊柱管内に発生したガングリオンの1例

著者: 吉岡薫 ,   久保田政臣 ,   杉田孝 ,   嶋村正俊 ,   住田佳樹

ページ範囲:P.1061 - P.1064

 ガングリオンは日常しばしば経験する疾患であるが,本疾患が脊柱管内に発生することはきわめて稀である.
 最近,われわれは腰部脊柱管内に発生し,根性坐骨神経痛症状を呈したガングリオンの症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

非産生型骨髄腫の1剖検例

著者: 佐藤功一 ,   永野柾巨 ,   泰江輝雄 ,   福島明 ,   鈴木基広 ,   森三樹雄

ページ範囲:P.1065 - P.1069

 多発性骨髄腫の診断は骨X線像,骨髄像,単クローン性免疫グロブリン,Bence-Jones蛋白などの所見より判断される,しかし時に,形態学的には典型的な骨髄腫でありながらM成分を証明し得ない例がある.1959年Girardら3)が非分泌型骨髄腫として報告して以来,診断の確かなもので約60例の報告がある2,14)
 われわれも,形態学上は多発性骨髄腫の像を呈しながら,血清中,尿中にM成分を証明し得ず,さらに,骨髄腫細胞内にM成分の産生を認め得なかった症例を経験したので報告する.

一家系にみられた合指症の症例

著者: 前興治 ,   吉次興茲 ,   永瀬洋 ,   冨士慶子

ページ範囲:P.1071 - P.1073

 手の先天性奇形の遺伝と原因については不明な点が多い.成書によるとその原因を便宜上1次性奇形と2次性奇形に分類している.前者については当然遺伝が関係しており,胚腫異常,抑制奇形,隔世遺伝性奇形などが考えられる.後者は主として子宮内越荷性奇形,または子宮内疾患によるものと考えられ,遺伝性は少ないとされている.しかしその原因は不明で,今後解明されなければならない点が多い.一般に手の先天奇形の種々な型と臨床上にみられる遺伝性については,多指では遺伝性は少なく,合指では遺伝性が疑われるとされている.今回報告する症例は血族結婚のある同一家系内に男性5人,女性1人に主として両側第3,第4指間に合指症の発現をみ,そのうち3人4手の治療を行ったので報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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