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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科2巻1号

1967年01月発行

雑誌目次

視座

国際交流に思う

著者: 天児民和

ページ範囲:P.3 - P.3

 外国の学者との交流が盛んになり日本から海外に渡航する人も多いし,また反対に外国からも日本に来る人が多くなつた.その場合に我々として注意しなければならない2,3の問題がある。昨年英国に行つた時ある学者が私にこんな不満をうちまけた.それは2年程前日本からある種のアンケートをとる手紙がきたので多忙だつたが丁寧にそのアンケートに答えておいた.しかしその後御礼の手紙もこないしアンケートの結果がどうなつているかの返事もこない.アンケートをとることは一向に差支えないがお互の礼儀としてアンケートの集計ができた時にはその協力者に一応送りとどけることである.日本の学者は国際間のそのような習慣に馴れていないのではあるまいか.国に帰つたら何かの機会にこのことを話して日本の学者の注意を喚起しておいてほしいとのことであつた.国際間の協力はそのような礼儀があつてこそうまくできるのである.

論述

胸腰移行部椎間板ヘルニアに対する前方侵襲法

著者: 池田亀夫 ,   池田彬

ページ範囲:P.5 - P.13

いとぐち
 胸部椎間板ヘルニアの報告は,Antoni(1931),ついでElsberot(1931)をもつて嚆矢とし,1964年までに欧米では126例の発表があるが,本邦では6例の報告をみるのみで,われわれの5例の自家経験を合せても僅々11例を算するにすぎない.
 胸腰移行部椎間板ヘルニアは慢性進行性の経過を辿り,始め単なる知覚あるいは運動障害にすぎなかつたものが,遂には膀胱,直腸障害を併発し,高度の脊髄麻痺へと進展する,従つて早期に根治手術が要請される理で,幾多の手術療法が試みられてきた.しかし,従来の手術成績は丈献及び自家教室例の示すように屡々不良に終つている.この原因として,発生部位及びヘルニア自体の解剖学的特殊性に基づく侵襲や剔出の困難さ,さらに診断の遅延が挙げられる.就中,前者は従来一般に採用されてきた後方侵襲を踏襲する限り不可避的である。この不利を解決せんとしてCrafoordら(1958)は開胸後,窓あけ手術(Fenestration)を行ない,髄核のみ掻爬し,Seddon(1935),Hulme(1960)らは肋骨横突起切除により側方侵襲を試みたが,いずれも視野の狭小,剔出の不完全,術後再発の危険性,脊椎の不安定性,等の欠点を有する.

シンポジウム 脊髄損傷

脊髄損傷患者の初期治療

著者: 大石昇平

ページ範囲:P.15 - P.22

いとぐち
 第2回車椅子スポーツ医学研究大会が別府で開催され,これを機会に日本パラプレジア医学会を発足させるからということで,脊損患者の初期治療について,シンポジウムの担当者となるよう,関係者の方から連絡をうけたのは学会1ヵ月前であつた.準備期間も少くとりあえず現在われわれの直接管理下にある脊損患者95名について調査しこの成績を基礎として何とかその責を果すべく関係方面へ御返事申しあげた次第である.
 他の労災病院の状況は分らないが,われわれの病院では新鮮な患者を取扱うことは比較的少く,第一線の病院や診療所で,その初期治療を実施して一応症状が固定した時期に収容されてくることが多い.従つてここに述べる脊損の初期治療の症例の大部分は大阪周辺の大学をはじめ,公私立病院,診療所におけるものであり,これに自家症例を加えて,これらを比較検討するわけであり,その意味で手術所見,術前の症状などその詳細が不明な部分もあり,その統計的な数字もいささかGrobeである点を先ずお断りしなくてはならない.

脊髄損傷の初期治療

著者: 玉井達二

ページ範囲:P.23 - P.28

はしがき
 脊髄損傷は我々整形外科医にとつて,重大なる疾患である.あるものは直ちに生命を失い,あるものは非常な努力によつて治療を行なつたとしても,合併症のために死に到り,またあるものは重大な機能障害を残すのである.
 脊髄損傷(以下脊損)患者の治療を行なう場合には,色々な難問に遭遇するが,我々はその一つ一つを忠実に解決して行かなければならない.この道は患者の一生を通じて続く長い道で,この道を険しい上にも険しくするか,比較的容易にするかは,初期治療の良否に掛つているといつても過言ではなく,初期治療はまた脊損の予後をも大きく左右する.

脊髄損傷患者における尿路管理

著者: 池上奎一

ページ範囲:P.29 - P.34

 脊損患者には種々の尿路疾患が合併するが,これらに対する処置が適切を欠くときは,単に患者の社会復帰を遅延せしめるに止まらず続発する腎機能障害の結果全身状態の悪化を招き,遂には死因となることも少くない.脊損想者の予後に関する統計では死因の第1位に尿路合併症を挙げるものも多く,適切な尿路管理は脊損患者の治療上もつとも重要な問題の1つと言うことが出来る.私は最近英国Stoke Mandeville HospitalのNational Spinal Injuries Centre(以下S. M. Hosp.と略)における脊損患者の尿路管理について泌尿器科的観点から詳さに見学する機会を得たので,その経験を中心として脊損患者における尿路管理上の2,3の問題点について述べる.

低圧下における脊髄損傷患者の生理

著者: 冨田忠良 ,   今井銀四郎

ページ範囲:P.35 - P.47

 人体が高空に上昇したり高地に登つたりすると,高度と滞留時間によりHypoxiaをきたす.酸素吸入等の処置をほどこさずに外気を呼吸した場合,sea levelより標高約3,000mまでは動脈血の酸素飽和度は90〜95%に保持され,一般には人体に著しい変化をきたさないが,3,000m〜5,000mでは主として呼吸,循環の機能が亢進して,生理的な限界内で酸素不足に対する代償機転がはたらくとされている.これ以上の高度では普通Hypoxiaが発現する。しかしHypoxiaの発現とその程度は単に高度(外気の酸素分圧)の変化のみによるものではなく,上昇速度,滞留時間,気温,気湿,筋運動の程度などが影響し,さらに個人の体質や健康状態,精神状態,馴化の有無なども大きく影響する.たとえば2,500m程度の低高度では健康人が安静を保つている限り,比較的短時間ではHypoxiaの症状はあらわれないのが普通であるが,馴化が完成しない時期にここで安静時代謝の数倍以上もの筋運動を長時間行なうというような場合には,生体内酸素不足は著しくなり,Hypoxiaが発現してくる.

パラプレジア用の車椅子の人間工学的研究

著者: 小川新吉 ,   勝田茂 ,   尾方正矩 ,   冨田忠良 ,   今井銀四郎 ,   松林忠徳

ページ範囲:P.49 - P.57

まえがき
 現在,脊髄損傷者が使用している車椅子には,損傷の部位や程度によつて,いろいろの種類のものが考案され,型・性能・仕様等も種々様々である1).しかし,頸髄損傷以外の一般損傷者が現在使用している車椅子は,その数も多く,国産,外国製等,型や性能もまちまちであり,しかもいづれも規格化された既製品である.損傷者は体位が異り,さらに損傷高位が異つて運動能力等に大きな相違がみられても,座布団やパッキング等を用いて,車椅子の方に身体を合わせて使用しているのが現状である.
 われわれは,脊髄損傷者の体力,運動能力等の残存機能を測定2)する一方,損傷者の生理的,心理的な面から,現在広く使用されている車椅子のもつ諸々の不合理な点を考察するとともに,損傷者が自分の足として用いている車椅子の操作動作の特性を解析し,車椅子に対する基礎的な生理学的・人間工学的研究を試みた.

境界領域

滑液膜性腫瘍の組織構造

著者: 三友善夫

ページ範囲:P.65 - P.72

緒言
 関節滑液膜,腱鞘,粘液嚢などの滑液膜性組織由来の悪性腫瘍の発生頻度は決して多いものではなく,むしろ稀で,わが国では四ツ柳(1942)の報告例が最初とされ,以来僅かに50例余りを数えるにすぎないようである.欧米においても比較的少なく,Simon(1865)が関節滑液膜の原発性肉腫として報告してから,Synovial endothelioma,Synovial sarcoendothelioma,Malignant mesothelioma,Sarcoendothelioma,Malignant synovioma,Synovial sarcomaなどの種々の名称のもとに報告されて来た.現在では他の間葉系腫瘍と相俟つて,Synovial sarcomaの名称がもつとも多く用いられている.

診療の経験から

脊髄損傷に対するRolling Plaster jacket,Rocking plaster shell開発についてあれこれ

著者: 山田憲吾

ページ範囲:P.73 - P.82

はじめに
 物事にはすべて「きつかけ」が必要だ.臨床の実際は成書で書いてある通りには行かない場合が多い.そこで色々と工夫をこらして解決を試みる.たとえそれがささやかなものであつても貴重な独自の体験であり,深く思いをこらすならばそれが案外と重大な事柄に対する解決の糸口であつたりすることも稀ではない.
 しかし臨床の日々は全く忙しい.従つて物に則して考えると云う暇がない場合が多い.そこで公式的に処理して解決が得られたと考えていることが屡々ある.それでよいのだろうか.医者である限りにおいてはスピーディーに処理出来なければ有能な医師とは云えないし,鈍な要領の悪い男と思われても致し方ない.しかし医者であつても研究者と云うことになると要領の良し悪しだけを云う訳にも行くまい.大体研究などと云うものは一寸したことでも随分と廻り道をしなければならない仕事だから,要領が悪くなるのも致し方のないことかも知れない.世間でよくある事だが頭のよく切れる人が毎常よい研究家であるとは限らない.どうせ研究に徹するつもりならあまりせつかちでない方がよいと思う.

手術手技

脛骨下端部骨折の手術

著者: 小谷勉 ,   綾井豊吉

ページ範囲:P.83 - P.93

 脛骨下端部骨折は,果骨折と果上骨折に分けられるが,何れもその頻度が高い.

臨床経験

脊髄麻痺をきたしたDysostosis generalisataの症例

著者: 大場良臣

ページ範囲:P.101 - P.105

 先天性鎖骨欠損症は1760年Meckelの報告来多くの報告がある.1898年Marie Saintonは鎖骨形成不全の他に頭蓋骨の形成不全を伴い,遺伝的関係のある一連の疾患としてDysostosis cleidocranialisと命名した.本邦では1925年高橋の先天性鎖骨欠損症の報告があり,1932年羽根田は鎖骨,頭蓋骨のみならず全身の骨格に形成不全があることからDysostosis generalisataと呼ぶことを提唱した.
 我々は最近左鎖骨欠損,左肩甲骨形成不全,左第1,2,3肋骨形成不全,胸骨柄欠損,左上腕骨骨頭変形を有するDysostosis generalisataと思われるものに,脊椎奇形と食道憩室を合併し,憩室の感染により頸椎々体を犯し,慢性脊椎炎をおこし脊髄麻痺を発生して死亡した症例養例を経験したので報告する.

軸椎歯突起骨折を伴つた環椎前方脱臼の2症例

著者: 平沢精一 ,   海老原勇雄

ページ範囲:P.106 - P.110

緒言
 頸椎損傷は全外傷の3%に外ならないが,そのうちでも上位頸椎損傷は更に少く,諸家の報告では全頸椎損傷の2%位である.ところがこの上位頸椎損傷には早期より脊髄症状を呈するものが案外少く,遅発性に脊髄障害を起こすものが多い.これは解剖学的特徴によるためであろうが,我々は受傷後7年にして脊髄症状を呈した陳旧例を経験したので早期症例を加えて報告する.

検査法

先天性股関節脱臼関節造影法の実技

著者: 津山直一 ,   坂口亮

ページ範囲:P.111 - P.117

はじめに
 先天股脱の治療が,脱臼骨頭を如何に整復するか,整復されたものを如何に保持するかという点から先ず出発して,次に整復は非暴力的に,而も骨頭と股臼との適合をよく,即ち求心位が得られるように,そして保持の方法は許される限り寛容な固定で,という方向に次第に進んで来た,求心位獲得が将来の成績をよくするために必須のことであり,これを阻むものをみつけ出して除去する努力が払われている.このように脱臼股の本態を捉えて,それに応じた適切な方法を行なうことのためには,股関節造影法は大きな役割を持つている.
 先天股脱に対する股関節造影法の歴史は,高木(1926)が空気を使用して行ない(現今でも尚我々の間では「ガス入れ」なる略称が愛用されている.)Sivers(1927)が陽性造影剤を使用して試みたあたりが最初とされ,その後多数の業績が積み重ねられたが,詳細にはふれず,本稿では,現今我々が股関節造影をどのようにして行なつているか,主としてその方法を具体的に述べ,それに関係する問題の幾つかについて考えてみたい.

質疑応答

ミエログラフィーの適応と実施上の注意について

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.118 - P.118

 ミエログラフィー yelographieは脊髄造影法と直訳される筈でありますが,ミエログラフィーで実際やつていることは脊髄液腔の造影であります.いうなれば脊髄液腔を造影して間接的に脊髄の病態を知ろうというわけであつて,かつてわれわれがミエログラフィーを脊髄液腔造影法といわないで,あえて脊髄造影法と直訳したのはこの直訳がかえつて真意を表わしているからであります.すなわち,ミエログラフィーとはこれによつて脊髄液腔の状態を描き出し,描き出された影像から脊髄液腔の通過障害の様態を読み判け,脊髄の病態を読み解く補助診断法であります.
 あえて補助診断法といいます.そのいみは,ミエログラフィーには必ず神経学的診断が先行しなければならないということであります.神経学的診断を省いたり,粗末にしたりする所にはミエログラフィーは無いはずであります.ミエログラフィーは神経学的所見のうえにたつて行われ,神経学的所見を裏付けあるいは補う役目をするものであります.どこまでも補助診断法であるということを忘れないでいただきたいものであります.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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