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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科2巻3号

1967年03月発行

雑誌目次

視座

伝統の上に学問の進めを

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.243 - P.243

 現在,吾々が学んでいる日本の整形外科は田代義徳先生が明治39年に当時の東京帝国大学で講座を開かれたことに創まつていますが,京都帝大では松岡道治先生が,九州帝大では住田正雄先生がそれぞれ別個に整形外科の講座を開いておられます.ところで,これらの先生方は別個に講座を開かれたとは申しながら,何れもドイツで勉強されていますから,日本整形外科は歴史的に申しますとドイツ学派整形外科と申すべきであります.
 しかし戦後はアメリカ整形外科が大きく導入されまして,戦前は文献と言えばドイツ語文献が主で,病歴を書くにも,医者が病状を話し合うにもドイツ語をまぜておりましたが,今は英語が主になつて来たように思います.それで近頃はドイツ語を使つておりますと,若い人からは"古いな"と言う目でみられるようにさえなりつつあります.

論述

Whiplash injuryの処置

著者: 中村隆一 ,   河端正也 ,   御巫清允

ページ範囲:P.245 - P.250

 最近,交通・労働災害や,スポーツ外傷によつて,頸部外傷の症例が急激に増加している.1928年,H. E. Croweは自動車事故の後,全く理学的所見を伴わぬにもかかわらず,治療に抵抗する頸部外傷の8例を,San Franciscoの学会で報告し,"Whiplash injury of the neck"と呼んだが,それ以来,この言葉はしばしば法廷にも持ち出され,medical-legalな多くの問題を提起して今日に至つている.1958年には,Crowe自身も,この言葉を提唱したことを後悔したと述べている.その報告のなかで,彼がWhiplash injuryを定義して,「頸部の捻挫で全ての訴訟が解決するまでは,完全には治癒し得ぬもの」,としているのは意味深いものである(Proceedings of the Section of Insurance, Negligence and Compensation Law, American Bar Association, 1958, pp. 176-184).

シンポジウム 先天性股関節脱臼 私の治療法

乳幼児の手術的療法を中心に

著者: 柏木大治 ,   香川弘太郎

ページ範囲:P.251 - P.263

いとぐち
 先天性股関節脱臼(以下,先天股脱と略す)の治療法は,如何なる方法を用いるとしても,その目標とする所は股関節の解剖学的,並びに生理学的治癒にある.
 過去1世紀以上に亘り,先人達がこの目的のために非常な努力を重ね,数多くの業績が挙げられて来たが,我国においては,Lorenzの所謂古典的保存的療法(classical conservative treatment)がその主流をなして来た.

私の治療法

著者: 今田拓

ページ範囲:P.265 - P.272

はじめに
 私の治療法という題を与えられると、何か秘伝の公開といつた忍者めいたニュアンスがあつて,秘伝など持ち合わせのない私にとつて大へん迷惑な話である.たしかに私は先天股脱の乳児とともに既に20年近い歳月を送つてきたとはいえ,そこで力を尽してきたことはフィールドワークであつて,治療そのものについてのオリジナリティーというものは全くないのである.そして換言するならばこの間の先天股脱の治療法は大きく流動し,Lorenz法から運動許容療法,例えばBatchelor法,さらにRiemenbügel法1),そしてVon Rosen法やoverhead tractionといつた多彩性を示し,とても私の秘伝などが出現する余地はいくら考えても存在するはずがないのである.そしていささか私にとつて大それた「私の治療法」という題を考え出した編集子を恨めしく思うのである.

私の治療法

著者: 泉田重雄

ページ範囲:P.273 - P.279

 先天股脱の治療は吾々整形外科医にとつて最も日常的なものであつて,早期診断,早期治療の普及した今日に於いては多くの症例がRiemenbügelその他の簡単な装具による治療によつて好成績を挙げ得るようになつたが,なお年長児の場合は勿論,乳児期においてさえ,非観血的整復不能例があり.非観血的治療失敗例で手術を要請されるものも跡を断たない.先天股脱の治療が可及的非観血的に行なわれるべきものであることは論を俣たないが,保存的治療によつて好成績を得る見込みのないものはできるだけ早期に弁別して,然るべき観血的対策を講ずべきものであつて,この意味において手術の適応は一般に考えられているより遙に広いものと考える.以下先天股脱の手術の自家法を略述して諸賢の御批判を仰ぎたい.

私の治療法(序)

著者: 福島正

ページ範囲:P.280 - P.282

 私の治療法と云つても特別のものがあるわけではないが,我々の教室で工夫し慣用して成績が良好と思われる,(1)Lorenz肢位穴あけギプス固定法,(2)PavlikのRiemenbügel法の使用上の諸注意点,(3)幼児期先天股脱治療後生じたPerthes様変形,遺残亜脱臼,臼蓋急峻及び観血的整復後の後療法にも適するBatchelor型改良装具,陳旧性先天股脱改造手術法等やや特長のある治療法がある.その中(2)のR-b使用法に就ては教室の北原が(3)Batchelor型装具についてはその遠隔成績を調査して教室の高砂子がそれぞれ論文を本号に掲載した.もとより編集者の好意によるところであるが私は記述の重複をさけるために詳細はこれら論文に譲り,治療法の根拠となる考え方を述べてみる.改造手術法については別の機会に報告する.

乳児期先天股脱の早期治療—Riemenbügel法を中心として

著者: 北原諭

ページ範囲:P.283 - P.289

はじめに
 教室では1962年からRiemenbügel(以下R-bと略す)を使用し始め1963年以降は全面的に使用してきた.最初使用した頃のものと比較すると成績もかなり向上し,漸くPavlikのいう如く骨頭変形の減少することを知つた.しかし臼蓋形成不全に対する予防的処置としての要,不要,適応の限界,脱臼度と装着期間,装具自体の改良等問題となる点も多い,そこでR-b法を中心として先天股脱早期治療に関する問題点を検討してみた.

いわゆる難治性先天股脱の非観血的治療法—我々の内旋外転装具について

著者: 高砂子七郎

ページ範囲:P.291 - P.298

緒言
 先天股脱の非観血的治療(特にLorenz法)の施行後,(1)種々の原因でPerthes様変形を生じたり,(2)股臼と大腿骨頭の形態上の非適合により,又関節内介在物等のためにも股臼底と骨頭との間がX線学的にいわゆる離れ過ぎて,遺残亜脱臼を呈し,臼蓋急峻(Shallow pfanne)を残すもの等がある.(3)Coxa vara,Coxa valga等の大腿骨頸部変形を生ずるものもある.(4)Limbusの反転,肥厚,骨頭靱帯の延長や肥厚等で非観血的療法ではいわゆる難治性股脱として,更に観血的手術を要するものがある.時に度々整復と固定及び再脱臼を繰り返えして来院することがある.以上の(1)から(4)項目の症例は従来の治療法では甚だ治療に困難を感じる.これ等に対し我々は内旋外転装具を考案した.その後装具を漸次改良して横バーを成るべく長くし,膝関節の屈曲度を増し,又横バーの伸縮を計つた.従つて股関節高度屈曲時はLorenz肢位に近く,伸展時は下肢の内旋外転が強くなり,Lange肢位に近づく様に工夫した.従つて体重負荷を許さず歩行はさせない方針をとつた.
 我教室では本装具は昭和32年以来使用し始め,近年症例数も増加し,治療終結後5年以上を経たものも多くなつたのでここに併せて遠隔成績を報告する.

境界領域

整形外科領域におけるX線診断法の進歩

著者: 高橋信次 ,   綾川良雄

ページ範囲:P.309 - P.317

緒言
 整形外科は肢体の機能障害を主たる対象とする臨床科である.肢体の機能障害の診断には,骨格及び関節の状況を知ることが重要である.この目的で,放射線,主としてX線の力をかりる.
 在来は単純X線検査が多く行なわれていた。しかし最近はX線検査法も進歩してきた.それで,これが整形外科領域でどのように応用されるべきか,述べてみることにしよう.

診療の経験から

先天性股関節脱臼の機能的療法

著者: 藤本憲司 ,   寺山和雄

ページ範囲:P.319 - P.326

まえがき
 乳幼児先天股脱に対する機能的療法とは,関節構成体に損傷を加えることなく整復し,生理的運動をできるだけ許容しながら整復位を保持することによつて治癒に導くという,いわばatraumaticな治療法をいう.機能的療法の条件を満足する方法としては,1.PavlikのRiemenbügel(R-b),2.その変法であるBartaのkombinierte funktionelle Behandlung,3.Overhead Extension(OE)などが挙げられる.信州大学整形外科では,1961年からR-bとOEを中心として,乳幼児の先天股脱の治療体系を一新した.患児の月令および脱臼の程度によつて,第1表のように,R-bおよびOEの適応をきめ,231例の先天股脱を治療した.1965年10月までに,治療開始後3年以上を経過した118例中74例(63%)については,その治療成績を詳細に調査したので,その経験から先天股脱の機能的療法に関する問題点について検討する.

手術手技

上腕骨近位端骨折の手術手技

著者: 細野惺

ページ範囲:P.327 - P.331

まえおき
 ここ数年来の日本の産業開発のめざましい進展,道路網の整備,車輛の増加などに伴ない,骨折患者も激増の一途をたどり骨折治療に対する再認識が必要となつている.以下上腕骨近位端骨折のうち外科頸骨折を中心にして述べてみたい.

臨床経験

掌蹠膿疱症を伴つた両側鎖骨骨髄炎の症例

著者: 佐々木正

ページ範囲:P.333 - P.337

 化膿性骨髄炎の中,鎖骨に発生するものは比較的稀である.古くは既にKocher(1879)の論文に多発生骨髄炎の一部分症として鎖骨骨髄炎の記載を見るが,我国では劉(1935)の報告以来38例を数えるのみである.我々は掌蹠膿疱症を伴つた両側鎖骨骨髄炎の症例を経験し,些かの知見を得たので報告する.

小菱形骨掌側脱臼の1例

著者: 松崎昭夫 ,   黒田次郎

ページ範囲:P.338 - P.340

 手根骨,特に末梢列手根骨の脱臼は,その解剖学的な構成からも考えられる如く稀なものである.中でも小菱形骨の脱臼は非常に稀で,Gay(1869年)の報告及び始めてレ線学的に診断したSheldon(1901年)の報告以後もあまり多くの報告をみない様である.又その中でも掌側脱臼は稀で,探し得た文献例14例中ではWahlers,Lewisの報告例各1例計2例を数えるにすぎない.我々は1例の小菱形骨掌側脱臼を治療する機会を得たので報告する.

検査法

オートラジオグラフィー—とくにミクロオートラジオグラフィーの作りかた

著者: 伊丹康人 ,   大森薫雄

ページ範囲:P.341 - P.347

はじめに
 近年核医学の進歩により,各種の放射性同位元素(ラジオアイソトープ)が,容易に入手できるようになつた.ラジオアイソトープは,一般の元素と同一の化学的性質でありながら,放射能を有するところに特徴がある.したがつて,これを追跡子(トレサー)として用いることにより,いろいろな元素,またはこれらの元素を含む化合物の動態を,その放射能を目印として追跡することが出来るわけである.ところで,ラジオアイソトープの有無や,その量,ならびに位置を知るための追跡法にはいろいろな方法がある.その中で,写真乳剤をその測定器とする方法をオートラジオグラフィーといつている.この方法には次にのべるような,他の測定器にはみられないいくつかの特徴がある.すなわち,
(1)常に放射能を検出し得る状態にあつて,しかも検出能力が著しく高い.
(2)標本と対照しながらアイソトープの分布図をかなり精密にとらえることが出来る.
(3)取扱いが簡便で,特殊な測定装置を必要としない.
(4)測定結果を永く保存出来る.
(5)経費は比較的安い.
などである.
 以上のことから,近年生物学,医学などの分野で広く利用され,物質代謝機構の究明に一段とその偉力を発揮し,また欠くべからざる研究力法の1つともなつている.

海外だより

フランス整形外科の現況(3)

著者: 弓削大四郎

ページ範囲:P.349 - P.353

6.第40回フランス整形災害外科学会
 1965年11月4,5,6,6日Jeau Judetの会長の下で,ParisのSaint-Dominique通りのMaison de la Chimieで行なわれた.何分,専門医になるのが難しいことと,日本みたいに入会金を払えば,すぐに学会員になれる訳ではなく,推薦制度であるため,現会員数はフランス人は430名位,外人が270名位である,(1963年は,フランス人383名,外人276名)そのため日本の学会に比べて,静かで,会場も小さく,スライド係も1人の技師がゆつくり写して行くように,万事がゆつたりとしていた.講演10分,討論5分で,演題は臨床的なものに限られているので,我が国の整形外科学会より随分分り易く面白く思つた次第である.基礎的実験研究の学会は,2年に一回別に行はれている.
 第1日目(1965年11月3日)
 1)P. Bertrand(Paris),H.M. Benard,A. chassage,P. Havret(pont-l'abbé) "Notre expérience des résections augulations á la lumiere de 396 cas."(396例よりみた大腿骨頭頸部切除兼骨切り術の経験)

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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