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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科20巻1号

1985年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第58回日本整形外科学会を開催するにあたって

著者: 赤星義彦

ページ範囲:P.1 - P.2

 昨年6月,第58回日本整形外科学会会長に指名され,昭和60年4月7,8,9の3日間,岐阜市において年次学術集会および総会を開催できますことを非常に光栄に存じます.教室同門全員が心を併せて充実した活力のある学会にすべく日夜努力致しておりますが,今後とも会員皆様方の温かい御支援,御協力を賜りますようお願い申し上げます.
 日本整形外科学会も会員が既に1万1千名を越える大きな学会に成長して参りましたが,学会の最高目的は言うまでもなく学術文化の発展に寄与することであります.整形外科の進歩普及という面からみますと脊椎,四肢すべての領域において年間40以上におよぶ基礎的,臨床的研究会が開催されており,それぞれ専門分化しながら急速な進歩を遂げつつあります.また今年度からは特に多くの教育研修会が各地区で開かれております.年次学術集会および総会は,それらを統合し調和を計る総決算とも言うべきものでありましょう.

視座

患者を治療しよう

著者: 三浦隆行

ページ範囲:P.3 - P.3

 対症療法を主体とする薬物療法が中心であった時代には,疾病の治癒は患者自身の持つ治癒能力にほとんどすべてがまかせられており,医療のはたす役割は,当面の苦痛の軽減に限られていた.内科領域においてはペニシリンを始めとする各種の抗生剤の発見,代謝,内分泌に関与する薬剤の開発,強力な抗炎症作用を持つ消炎剤の実用化などは,疾病の治療に医療が貢献し得る割合を高めてきた.外科的手術は傷害組織を切除することにより,患者自身の治癒能力を効果的に活用しようとする切開,切断に始まり,傷害組織切除などの手術へと発展してきた.一方整形外科の領域では,骨折,先天股脱などの治療にも代表されるごとく,傷害組織を切除することなく,患者自身の持つ治癒能力を最高度に発揮できる条件を整えることに医療の主眼がおかれていた.すなわち整形外科的治療を考える場合,いま加えられる処置には,治癒を促進する一面と同時に,必ず治癒を阻害する一面も合せ持つことを良く理解し,その両者の得失を治療法の選択にあたってまず考慮することが必要であった.この観点から非観血的治療と観血的治療の優劣も論ぜられ,手術術式の優劣も評価されていた."X線写真像を治療するのではなく,患者を治療することを考えよ"との言葉は,医師としての第1歩に先輩より教えられた感銘深い言葉の1つである.
 以来30年,抗生剤,術中術後管理,手術手技,手術材料の飛躍的発展は,外科領域における臓器移植,人工臓器をも可能とし,整形外科領域においては,人工関節置換術を花形とし,脊椎外科における各種instrumentationによる矯正固定手術を可能としている.これらの治療においては疾病治療における医療の役割を飛躍的に増大している.しかしこの場合にも患者自身が持つ治癒能力を軽視し得るものではなく,手術侵襲が大きくなる程,より配慮が必要となると考えられるにかかわらず,近年疾患治療における医療技術への過信がみられるのではないかと憂慮している.

論述

造影剤を用いたCTによる膝蓋大腿関節の検索

著者: 鈴木堅二 ,   千葉光穂 ,   森田裕己 ,   菊池俊彦 ,   島田洋一 ,   山本正洋 ,   戸沢一馬

ページ範囲:P.4 - P.12

 抄録 目的:膝蓋大腿関節の関節軟骨の病態を検索するため,造影剤を用いたCT scanningにより検討した.対象:膝蓋骨周辺の疼痛を主訴とする15症例について検索した.方法:膝関節に造影剤と空気を注入後直ちにCT scanningを行い,関節軟骨の形態や適合性について観察した.結果:関節面での造影剤の浸漬像や不規則像から,関節軟骨軟化症や変形性膝関節症における病巣の広がりや深さを推定することができる.また関節軟骨の厚さの計測も可能である.従来,膝蓋大腿関節の適合性は骨性の測定法により論じられてきたが,膝蓋骨自体の個体差や関節軟骨の形態の特殊性を考え合せると軟骨面を含めた適合性の検討が重要と思われた.結語:造影剤を用いた膝関節のCT scanningは手技も容易であり侵襲も少なく,膝蓋大腿関節の検索において有用であった.

変形性膝関節症におけるC. T. scanを用いた膝周囲筋の解析

著者: 鈴木伸治 ,   小野沢敏弘 ,   柴田稔 ,   山下泉 ,   吉村信一朗 ,   村岡俊一 ,   浅野章

ページ範囲:P.13 - P.19

 目的:変形性膝関節症(以下膝O. A.)における大腿四頭筋の筋力低下及び筋萎縮は,その成因,病態に重要な意義を有すると考えられる.我々は従来より膝関節周囲筋の筋電図学的検討を行ってきたが,今回C. T. scanを用い興味ある結果が得られた.対象と方法:正常群は19例26膝,膝O. A.群は全て内側型で17例30膝,R. A.群7例14膝である.膝上10cmのC. T.像から各群の筋断面積とdensityを測し各群について比較検討した.結果:膝O. A.群において筋断面積では大腿四頭筋にのみ著しい減少がみられ,屈筋群では比較的保たれていた.筋のdensityでは半膜様筋と大腿二頭筋長頭に著しい低下がみられ,筋腹全体が脂肪性のdensityに置き換わっている例も少なくなかった.これらは膝O. A.の成因として無視できない意義があるものと考えられた.

大腿骨骨切り術後の臼蓋嘴部骨棘形成について

著者: 山口秀夫 ,   増田武志 ,   東輝彦 ,   長谷川功 ,   高橋賢 ,   松野丈夫 ,   平井和樹 ,   深沢雅則 ,   紺野拓志

ページ範囲:P.21 - P.27

 抄録:変形性股関節症における大腿骨骨切り術後の臼蓋嘴部骨棘(roof osteophyte)の形成と予後の関係を検索した.対象は大腿骨骨切り術73例である.Roof osteophyteの変化を増加型,不変型,非形成型の3型に分類し,臨床症状およびX線所見の改善度との関係,および術前のX線計測(CE角,AHI,AC角)との関係について検討した.増加型,不変型,非形成型はそれぞれ,26.0%,15.1%,58.9%であった.増加型は非形成型に比較し,術後の疼痛およびX線所見の改善が著しかった.また,増加型は非形成型に比較し,術前のCE角,AHIが大きく,AC角が小さかった,すなわち,大腿骨骨切り術後にroof osteophyteの形成される症例の予後は非常に良く,術前に骨頭の求心性が比較的良く臼蓋のあまり急峻でない症例でroof osteophyteの形成傾向が認められた.

切断術後のControlled Environment Treatment(C. E. T)の経験—C. E. Tの紹介とその成績

著者: 市橋研一 ,   中島咲哉 ,   小林勝 ,   沢村誠志

ページ範囲:P.29 - P.35

 抄録 目的:四肢切断術後の創の良好な一次治癒をいかに獲得するかは重要な問題であるが,近年バージャ病・糖尿病など切断術後創管理の困難な症例が増加しつつある.我々は,1969年に英国で開発されたControlled Environment Treatment(環境制御治療—以下C. E. Tと略す)は,切断術後創管理の困難な症例にも有効と考え,若干の治療経験を得たので,その紹介を兼ねて報告する,対象:バージャー病4例,ASO 2例,糖尿病性壊疽1例,骨肉腫1例,外傷1例,慢性リンパ性浮腫1例,Hereditary Sensory Neuropathy 1例であった.方法:上記11例に12回の使用を経験し,慢性リンパ性浮腫およびバージャー病の2例に保存的使用を行った.他は術後症例であった.結果および結語:浮腫軽減,疼痛抑制に効力を発揮し,外部から創観察可能であるなど利点を列挙した.C. E. Tは切断術後創管理に有効であり,今後の普及を期待したい.

整形外科を育てた人達 第23回

Royal Whitman(1857-1946)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.36 - P.39

 近代米国の整形外科の発達を語る場合に除外することのできない学者の一人としてRoyal Whitmanを挙げることができると思う.Whitmanはよく働きよく勉強したと彼の友人が口を揃えて言っている.患者に対しては,外来患者も入院患者も共に大切に取扱い,外来だからと言って軽視してはならないと考えていた.彼は整形外科に愛情を持ち,その進歩に休みなく努力した.彼に接した人達はWhitmanは終日整形外科の事のみ考えていたと言っている.19世紀の終り頃より外科的治療が次第に発達して来て,彼も手術に興味を持っていたが,非観血的療法を決して忘れなかった.彼の助手達が保存的療法を無視して手術のみに頼るとWhitmanは厳しく注意をした.手術は決して急がず,各組織の損傷を可及的に避けて,助手には常に組織を愛情を以て取扱えと教えている.
 誕生 1857年10月2日米国のMain州のPordandで生れた,家系は英国からの移住者であったらしい.それはWhitmanが第一線から引退した1929年に英国に移りLondonに住んでいた事から推察し得る.彼が生れてあと数年で米国では南北戦争が起っている.やがて戦争も終り米国は新しい活気のある国として急成長をしたが,医学界でも次第に成長し始めていた.

臨床経験

ダウン症候群における環軸椎亜脱臼の1手術例

著者: 四方實彦 ,   三河義弘 ,   池田俊彦 ,   浜淵正延 ,   一坂章 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.41 - P.45

 抄録:環軸椎亜脱臼,環軸椎回旋位固定,きわめて稀な環椎前弓後弓分離を合併したDown症候群(転座型Trisomy 21)患者に対し手術を施行,良好な結果が得られたので報告する.症例:5歳.女児.主訴:斜頸.現病歴:出生直後Down症候群に特有な顔貌を認められ4歳時某院で撮った頸椎X線にて環軸椎亜脱臼を指摘され,この頃より母親が斜頸に気付き来院.X線所見:頸椎屈曲でADI 5mmと環軸椎の亜脱臼を認めた.CT所見;環椎前弓,後弓の分離がみられ,軸椎は環椎に対し20゜の回旋位固定が認められた.手術所見:環椎後弓は正中部で幅約8mmの分離が認められ左右の椎弓は別々に動くのが確認された.環椎後弓を切除し軸椎の回旋変形を矯正した位置で自家腸骨片を用いて後頭骨から軸椎まで固定した.術後はTrippi-Wells Tongsを使用,良好な骨癒合が得られた.

観血的治療を行なったOs odontoideumの3例

著者: 伊藤淳二 ,   原田征行 ,   近江洋一 ,   大竹進 ,   植山和正 ,   中野恵介 ,   金子雅 ,   星忠行

ページ範囲:P.47 - P.51

 抄録:Os odontoideumの環軸椎間における不安定性と手術術式の選択,術前・術中・術後の固定法について,考察を加えて報告する.症例は3例で,2例に前方固定法,1例には前後同時侵襲による環軸椎固定法を施行した.また,術前より術後にかけての外固定法としてはHalo-vestを装着した.環軸椎の不安定性の小さい症例では,前方固定法のみで良好な固定を得たが,不安定性の大きい症例では偽関節を認めた.また,不安定性の大きい症例でも,前後同時侵襲による固定法を施行した症例では良好な固定を得た.したがって,環軸椎間の不安定性の大きいOs odontoideumに対しては,前方固定法に加えて同時に後方固定法も行なった方のが良好な結果を期待できる.また,術前の整復,整復位の保持,術中・術後を通じての固定にはHalo-vestがよい.

サルコイドーシスに合併した第4腰椎クリプトコックス症の1例

著者: 高橋偉 ,   石井良章 ,   望月一男 ,   河路渡 ,   福住直由

ページ範囲:P.53 - P.59

 骨クリプトコックス症は,クリプトコックス症の数%から10%にみられるといわれ,そのうち脊椎発生例は,比較的多い.また,サルコイドーシスに合併したものも,比較的多い.しかし,サルコイドーシスに合併した脊椎クリプトコックス症は,極端に少ない.最近,我々はこの合併例を経験したので,臨床経過,臨床検査,治療について報告したと共に,鑑別すべきものとして,脊椎サルコイドーシス,化膿性脊椎炎,脊椎カリエス,転移癌などについて,鑑別点を述べてみた.また脊椎クリプトコックス症の治療について,考察を述べた.

仙骨正中縦裂骨折の1例

著者: 今村安秀 ,   石塚雅美 ,   板垣昌樹 ,   龍順之助 ,   峯島孝雄 ,   三井伸夫

ページ範囲:P.61 - P.64

 抄録:最近,われわれは,骨盤環骨折の一型で,神経症状を伴わない,仙骨孔が温存された,仙骨正中部での縦骨折を経験したので報告する.症例は,18歳の男子高校生で,交通事故にて,同乗していたオートバイの後部席より落下し受傷した.初診時,殿部痛と腹痛が主症状であり,受傷直後のX線写真で,仙骨正中部での縦骨折と恥骨結合離開,左坐骨骨折を認める以外神経症状も認めず,合併損傷もなかった.治療としては,翌日よりキャンバス牽引,薬剤投与による対症療法を施行し,約7週継続した.受傷後約8週で独歩にて退院した.本症例は,骨盤骨折でも極めて稀な,仙骨孔が温存された仙骨正中部での縦骨折である.そのために神経症状を伴わず,また仙骨骨折には比較的多いとされている骨盤内臓器損傷等の合併症をも認めなかったことが大きな特徴である.

頑固な尾骨痛を主訴とした馬尾神経腫瘍の1例

著者: 伊藤博一 ,   植家毅 ,   高井康男 ,   榊原孝夫

ページ範囲:P.65 - P.69

 抄録 症例:18歳,女子.4年来,頑固な尾骨痛があり坐位不能に至った.臨床検査においては特に神経脱落症状は認めなかったが,脊髄造影にて第1仙椎高位で完全ブロック像を示していた.手術により馬尾神経腫瘍(epidermoid)を摘出し,症状は完全に消失した.考察:馬尾神経腫瘍の臨床症状は腰痛や坐骨神経痛のことが多く,本例のように尾骨痛のみを訴える例は稀である.しかし馬尾神経腫瘍には突然の夜間痛や夜間の俳徊などの奇異な症状を呈することがあり,また解剖学的特性により神経症状が軽度の場合も多いので,診断には注意を要する.一方,尾骨痛の原因として椎間板ヘルニア,馬尾神経腫瘍,sacral rhizopathyなどが報告されており,特に誘因なく頑固な尾骨痛を訴える場合には,馬尾神経部の病変も考慮する必要がある.

Arnold-Chiari Malformationによる神経病性肩関節症の1例

著者: 須藤啓広 ,   舘靖彦 ,   西村龍彩 ,   中川重範 ,   塩川靖夫 ,   荻原義郎 ,   鶴田登代志

ページ範囲:P.71 - P.74

 抄録:Arnold-Chiari Malformationによる脊髄空洞症に起因した神経病性関節症の報告例は稀である.今回我々はこの稀な症例を経験したので報告する.
 症例:57歳女性.昭和58年7月以来の右肩関節部腫脹,鈍痛を主訴として8月9日当科を受診した.右肩関節は著明に腫脹し,発赤,熱感を有するも疼痛の訴えは少なかった.神経学的には片側性に温痛覚,触覚の低下があり,PSRは両側とも亢進し,Babinski反射が右で陽性であった.入院時検査では梅毒反応陰性,空腹時血糖正常,尿糖陰性であった.単純X線像では右上腕骨の著明な骨破壊像と多くの遊離体を認めた.又,Myelographyで小脳扁桃によると思われるC1までの陰影欠損があり,6時間後のCTでC3〜C6までの中心管に造影剤貯留を認めた.以上より上記疾患が考えられたので,8月25日Resection Arthroplastyが施行された.その後,脳神経外科にて,後頭下開頭術,椎弓切除術及び空洞〜くも膜下腔シャント術が施行され,目下経過観察中である.

左鎖骨骨内ガングリオンの1例

著者: 藤井正敏 ,   杉村功 ,   堀司郎 ,   氏川和育 ,   黒木秀尚

ページ範囲:P.75 - P.78

 抄録:左鎖骨に発生した骨内ガングリオンの1例を経験した.我々の渉猟しえた範囲では,鎖骨に発生した骨内ガングリオンの報告は欧米で6例,本邦例は認められず稀な症例と思われるので報告する.症例は51歳女性で,主訴は左肩鎖関節部の疼痛と腫瘤であった.レ線で左鎖骨遠位端に嚢腫様陰影とそれに接する軟部腫瘤陰影を認めた.手術を行い骨軟部病変を一塊として摘出し病理組織学的検討を行い,骨内・外嚢腫をガングリオンと診断した.我々の症例は骨内外に存在するガングリオンで,お互いは骨欠損部より侵入した結合織によって結合されていた.この症例の発生原因について次の2つを考えた.第1は,骨内ガングリオンが骨外に脱出した可能性.第2に,何らかの原因で骨内に結合織が侵入し骨内外の結合織がムコイド変性をおこし,それぞれ別個に骨内外にガングリオンを形成した可能性である.

左膝蓋骨恒久性脱臼,右膝蓋骨習慣性脱臼,両肩関節随意性脱臼及び側彎を呈したXX-maleの1例

著者: 福士智昭 ,   小松満 ,   野呂秀司 ,   村岡真理 ,   奈良康史 ,   片野博 ,   高橋義徳 ,   川島信二

ページ範囲:P.79 - P.83

 抄録:両膝関節部痛,労作時両肩脱臼感,腰部痛を主訴とした男性の症例に左膝蓋骨恒久性脱臼,右膝蓋骨習慣性脱臼,両肩関節随意性脱臼,側彎が認められた.両側の膝蓋骨脱臼に対し,Hauser法と上崎法を組み合わせた膝蓋腱,半膜様筋腱の移行術を実施.術後約3年の現在,両側とも膝蓋骨脱臼の再発はなく,疼痛も訴えていない.労作時脱臼感と疼痛もあった両側肩関節については,glenoid osteotomyを施行.術後は重量物の挙上が可能となり疼痛も消失した.側彎については年齢的に増悪傾向がないため経過観察中である.他覚的所見として低身長,女性化乳房,全身の関節弛緩,小さい睾丸を呈し,エストロゲン,17-KSが高値を示していたため染色体構成を検索したところ,46XXであった.XX-maleは,その多くが性機能障害を主訴として受診しており,本例のように全身的な関節弛緩についての記載はない.染色体異常の潜在していた症例につき若干の考察を加え報告する.

孤立した膝蓋上包に特発性出血をきたした1例

著者: 高橋勇二 ,   古賀良生 ,   間渕公一郎 ,   浅井忍

ページ範囲:P.85 - P.88

 抄録:膝固有関節腔と交通を持たない孤立した膝蓋上包に限局した特発性出血をきたした症例の治療経験を報告する.症例は46歳の女性で,10年来の高血圧の合併があり,外傷の既往はなく,右膝の運動時痛で発症し,5カ月間にわたり右膝蓋上包への穿刺により頻回の血性排液が得られていた.検査成績ではRumpel-Leedeテスト陽性以外異常はなく,単純X線,関節造影,関節鏡検査から孤立した膝蓋上包の特発性出血を疑い,膝蓋上包を摘出した.手術および組織学的所見では,3カ所の出血点と肥厚した滑膜間質の小血管の増生を認めたのみであった.術後7カ月を経過した現在,再発はみられていない.なお,本症例の出血の原因は,滑膜小血管の脆弱性が基盤にあり,機械的刺激により出血をきたし,滑膜絨毛の軽度の増殖や血管の増生を促し,さらに出血しゃすい状態になったためと推論された.また,高血圧の合併も関与している可能性が考えられた.

小指P. I. P.関節chronic recurrent dislocationの1例

著者: 平山隆三 ,   末松典明 ,   多田博

ページ範囲:P.89 - P.92

 抄録:近位指節間関節(P. I. P.関節)の過伸展損傷はスポーツ外傷時などに屡々起るが,掌側板の断裂は見逃されやすく,安易に治療されると長期にわたって徐々に変形が進行し,P. I. P.関節の過伸展変形,指はswan neck変形を呈してくる.過伸展変形が進行増悪するとchronic recurrent dislocationを呈するようになり,過伸展位からの屈曲は自力では不可能となり隣指を重ねて屈曲するようになる.また有痛性のlockingを伴いA. D. L.上障害になってくる.この変形に関しては1929年Kaplanが最初に報告して以来,脱臼骨折などに伴う過伸展変形の発生治療に関する報告を散見するが,骨折を伴わない長期間にわたり徐々に進行したchronic recurrent dislocationの報告は少ない,我々はこの1例を経験し観血的治療を行う機会をえたので,その発生病態,治療,術後経過につき文献的考察を加えて報告する.

掌蹠膿疱症性骨関節症に伴う鎖骨疲労骨折の1症例

著者: 小島達自 ,   田中弘美 ,   中村信也 ,   園崎秀吉

ページ範囲:P.93 - P.97

 抄録:両胸鎖関節強直を伴った掌蹠膿疱症性骨関節症患者に,右鎖骨骨折を経験した,患者は48歳女性で,胸鎖関節強直の期間は不明であるが,明らかな外傷の既往もなく,掌蹠膿疱症性骨関節症や他疾患による病的骨折の可能性もないことより,力学的弱点部に起こった疲労骨折と考えた.

全人工股関節再々置換術2例の経験

著者: 朴一男 ,   浅田莞爾 ,   斎藤英雄 ,   坂部賢治 ,   佐々木健陽 ,   坂本和彦 ,   七野清之 ,   喜多義将 ,   島津晃

ページ範囲:P.99 - P.102

 抄録:変股症のために,全人工股関節置換術を施行したのち,再々置換術を余儀なくされた2症例を報告する.手術手技的には,大腿骨開窓による骨強度の低下を予防するため,Bucholtz式セメント抜去器を用い,2例ともにCharnley型ロングステムを使用し,大腿骨近位部骨皮質菲薄化による支持性低下に対処した.また臼蓋ソケット設置に際し,1例には,セラミックスクリューをアンカーとして使用し,骨母床不足に対処した.術後成績は,症例Iでは,日整会点数50点より62点,症例IIでは,55点より69点の改善にとどまり,ROM,ADLに問題を残し,高齢化による全身状態の悪化とともに,再々手術による局所条件の悪化をうかがわせた.このため手術手技の改良を検討するとともに,初回手術の際により慎重な適応決定が望まれる事を再確認した.

Hereditary sensory neuropathyの1例とその臨床神経生理学的知見

著者: 関戸弘通 ,   玉置哲也 ,   加藤義治 ,   高野治雄 ,   北野悟

ページ範囲:P.103 - P.107

 抄録:我々は,遺伝性末梢神経疾患の中で,知覚神経に優位に変性萎縮を認める,hereditary sensory neuropathyのうちで,Dyckらの分類によるI型に該当する症例を経験した.そして,我々の経験した症例に対して,知覚神経が選択的優位に障害されることの電気生理学的実態を明らかにするため,針電極による一般筋電図検査,運動神経ならびに知覚神経伝導速度の測定,H波・F波の観察,さらに大脳皮質感覚誘発電位(SEP)の記録などの臨床神経生理学的検査を施行した.その結果,知覚神経線維の優位な障害,なかでも四肢末梢からの走行距離の長い求心性線維が選択的に障害され,運動神経には変化がないという興味ある所見を得たので報告した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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