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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科20巻12号

1985年12月発行

雑誌目次

視座

仙腸関節性腰痛あれこれ

著者: 白井康正

ページ範囲:P.1351 - P.1351

 遺伝子工学による種の変換,死の判定による人問の生死の境の決定,それによって行われる心臓・肝臓等のvital organの移植等近代の科学・医学はつい20年前には想像の世界であったものが現実になりつつあるが,医の倫理の方は相変らず昔のままの様である.整形外科医の我々もこれらの大問題に首を突っ込みたい気持はあっても,あまりに違う世界の様な気がするし,さりとて知らん顔という訳にもいかず,こんな事を考えているとくたびれてしまう程の進歩である.
 世の中がいそがしくなり,人間が長生きして人生を楽しむようになると,必ず一度は腰痛という難問に遭遇するのが人の世の常のようである.この腰痛の中でも神経原性腰痛とか脊柱原性腰痛とか言うものでなく,仙腸関節由来の腰痛の患者が意外に多いものである.成書には仙腸関節の痛みとして記載されているが,私はこれも一種の腰痛と考えて,あえて仙腸関節性腰痛と言いたい.

論述

変性性腰椎辷り症の手術—除圧とSpinal Instrumentationによる後側方固定

著者: 金田清志 ,   風間昶 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   倉上親治 ,   小熊忠教 ,   山元功 ,   橋本友幸 ,   斉田通則 ,   中村一孝 ,   藤谷正紀 ,   樋口政法

ページ範囲:P.1352 - P.1361

 抄録:変性性腰椎辷り症Degenerative Spondylolisthesisの66例にmedial facetectomyによる神経除圧術とcombined distraction and compression rod systemのspinal instrumentation応用による後側方固定術を施行,平均術後2年3カ月で調査した.椎弓切除を行わない除圧術で神経学的改善は満足すべきものであり,本症における神経症状は椎間関節のdegenerative hypertrophyによるlateral recess stenosisと,一部central stenosisによる神経根障害が主体であった,馬尾神経障害も本除圧術で十分なる改善を示した.後側方固定術の併用は,olisthetic levelでの椎間不安定性や辷りの進行を阻止し,臨床症状の改善をより確実なものとした.Spinal instrumentationの応用は,骨癒合率で早期離床に拘らず95.5%と高率で,%-SlipとSlip angleの追跡調査では術前の辷り椎間の椎体配列異常を増悪させず,特別な合併症もなかった.

原発性脊椎腫瘍—手術症例35例の検討

著者: 藤原桂樹 ,   米延策雄 ,   浜田秀樹 ,   冨士武史 ,   山下和夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1363 - P.1372

 抄録:原発性脊椎腫瘍の発生頻度は低いが診断,治療に難渋することが多い.当科にて1962年から1984年の23年間に手術療法を行った35例について検討し以下の結果を得た.
 1)良性腫瘍25例では骨巨細胞腫が,悪性腫瘍10例では骨髄腫が多かった.2)腫瘍は前方要素(椎体)発生が多く後方要素発生例は少ない.悪性腫瘍は全例椎体発生である.3)神経症状を呈した症例は16例(46%)である.良性腫瘍と悪性腫瘍では麻痺発生機序に相違がある.良性腫瘍の椎体発生例では脊髄への骨性圧迫が加わることが麻痺発症に重大な役割を果たす.悪性腫瘍では骨性圧迫がなくとも麻痺は生じうる.4)治療は一部の良性腫瘍を除いて手術療法を選択すべきである.術後,麻痺の回復がみられない場合,脊柱管内の腫瘍,骨片の残存が最も大きな原因である.良好な麻痺の回復を得るには早期に脊髄圧迫因子を徹底的に除去すること,必要なら脊柱再建術を行うことが必須である.

仙骨切断による腫瘍広範切除術の経験

著者: 山口秀夫 ,   井須和男 ,   姥山勇二 ,   山脇慎也 ,   後藤守 ,   片山勝之

ページ範囲:P.1373 - P.1379

 抄録:軟骨肉腫,脊索腫,巨細胞腫では手術的治療が主体である.一方,仙骨部腫瘍の手術は腸骨動脈の結紮,凍結手術の併用でも多大な出血が不可避で不完全切除に終わることが多かった.仙骨脊索腫,巨細胞腫の取り残しによる局所再発の予後は悲劇的である.当科で仙骨切断をして腫瘍の広範切除を行った5例について検討して報告する.
 症例は仙骨脊索腫3例,巨細胞腫1例,横紋筋肉腫1例である.術中出血には腸骨動脈を結紮することなく低血圧麻酔で対処した,手術は後方より展開,直腸と仙骨間を剥離,仙骨神経を確認の上切断した.術後の機能障害は必発であり,1例に高度の膀胱直腸障害を招来した.このように術後の機能障害がある程度予想されても,手術療法が主体となる仙骨部腫瘍に対して,積極的に仙骨切断をして腫瘍の広範切除を行うべきと考える.

妊娠に関連する手根管症候群について

著者: 高山真一郎 ,   内西兼一郎 ,   飯島謹之助 ,   根本孝一 ,   松本昇 ,   田崎憲一 ,   堀内行雄 ,   伊藤恵康 ,   高橋正憲 ,   森雅文

ページ範囲:P.1381 - P.1386

 抄録:妊娠に関連した手根管症候群78名120手の経験を報告し,その診断,原因および治療について検討した.本症の診断に際してはTinel's signおよびPhalen's testが有用であり,general acroparesthesiaとの鑑別が問題になる.本症は両側例が多く,一般の手根管症候群と比較して軽症なものが多かった.大部分の症例は,妊娠7カ月以降出産後3カ月以内の発症であり,このうち産褥期の発症例のほうが僅かに多かった,de Quervain病に代表される腱鞘炎の合併を高率に認めたが,妊娠中毒症および全身的浮腫との関連は明らかでなかった.多くの症例は授乳期を過ぎる頃には症状が軽快し,観血的治療を行ったものは4%に過ぎなかった,本症の原因は様々なメカニズムによる手根管内圧上昇という外因的要素に加えて,末梢神経自身の易損性亢進が関与するものと考える.

年長児の三角筋拘縮症の特徴と治療について

著者: 柳川哲二 ,   小泉恵 ,   鈴木雅清

ページ範囲:P.1387 - P.1395

 抄録:乳幼児期に発症した三角筋拘縮症の患児が思春期前後まで治療されずにいた際に,肩関節周辺におこる2次的変形とその治療については充分に解明されたとは言えない.今回,12歳から19歳までの年長児,18肢について治療をする機会を得たので,年長児の三角筋拘縮症の特徴と当院での手術手技を紹介する.
 18肢中17肢に鎖骨の下垂や屈曲,肩峰の屈曲や回転などの骨格の変形を認めた.また,CT所見では上腕骨骨頭が関節窩に対して外旋して亜脱臼位をとり,肩甲骨と共に側方へ回転移動していた,さらに患側の胸郭は圧迫されて狭小化していた.手術によって全例に外転拘縮,翼状肩甲の消失をみた.肩幅の狭小化も,かなり改善されたが,骨格の変形に由来する肩下りは幾分のこった.肩関節前方亜脱臼は治療に最も難渋したが,矯正は可能であった.しかし,肩甲骨の変形などにより肩関節が,やや前方へshiftし勝ちであった.

座談会

整形外科プライマリ・ケアの対応

著者: 金井司郎 ,   三橋稔 ,   大井淑雄 ,   栗原章 ,   片山国昭 ,   高山瑩

ページ範囲:P.1397 - P.1408

 高山 整形外科医として,プライマリ・ケアをどのようにとらえるか大変難しいことと思います.いままで整形外科こそいつまでも発展を続ける科と考えていましたが,実はいま整形外科領域は分化していく大変な時期に入っています.この重要な時に,プライマリ・ケアについて討論することは,大変意義があると思っています.
 プライマリ・ケアの定義とか,概念や理念のことをいいますと,金井先生が日整会学術集会で言われましたように,あの難しい表現が混乱をまねくことになりますから,プライマリ・ケアのとらえ方から金井先生にお聞きしたいと思います.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・32

胸椎および胸腰椎の手術 側彎症に対する手術—ハリントン法

著者: 鈴木信正

ページ範囲:P.1409 - P.1421

はじめに
 Paul Harringtonによって創始され,ポリオ流行に伴って,多数の麻痺性側彎症患者が発生した1950年代に改良を重ね,1962年に発表されたHarrington instrumentationは1,2),現在では脊柱側彎症に対する手術療法として主流をなし,広く認められている.又側彎症のみならず,脊椎骨折,脊椎転移性腫瘍等幅広い応用がなされている.一方,近年の劇的なSegmental Spinal Instrumentationの発展を待つまでもなく,その術式には種々の改良,変法が加えられ5),現在に至っている.著者は,昭和56年1月より昭和60年6月までに,156例のSpinal Instrumentationを施行し,うち側彎症例は82例ある.Harrington法を行ったものは63例,Luque法は19例である.ここでは著者が,現在行っている側彎症に対するHarrington Instrumentationの術式について詳述したい.

整形外科を育てた人達 第33回

Georg Clemens Perthes(1869-1927)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1422 - P.1425

 小児股関節疾患Perthes病で整形外科医には馴染深いGeorg Clemens Perthesについて少し調査したので御報告したいと思う.

臨床経験

脊髄円錐部に発生し,馬尾部に嚢胞形成した上衣腫の1例

著者: 平木秀樹 ,   原田憲正 ,   東文造 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.1427 - P.1430

 抄録:症例は34歳の主婦で,腰痛と両下肢しびれをもって発症した.脊髄造影にて第2腰椎部に欠損を認め,脊椎管内腫瘍との診断で手術を施行した.肉眼的には,脊髄円錐部に発生し,馬尾部に嚢胞形成した腫瘍を認めた.組織学的には,典型的なependymomaで,Kernohanのmyxopapillary typeに属するものと考えられた.術後,軽度の知覚障害,排尿障害を残すも徐々に軽快している.
 Ependymomaは,一般に側脳室,第4脳室に発生するgliomaに属する比較的良性の腫瘍である.統計的には,脊髄腫瘍の2〜3%と稀である.Cushing,Baileyによって中枢神経の発生段階で分類されている.胸腰椎移行部と頸椎部に多く,myxopapillary type,cellular typeが多い.完全摘出例は,予後良好であり,部分摘出例でも放射線照射の効果が認められている.

脊椎カリエス後の高度亀背に対する血管柄付腓骨移植の経験

著者: 藤哲 ,   東野修治 ,   原田征行 ,   近江洋一 ,   大竹進 ,   中野恵介 ,   植山和正 ,   森山明夫 ,   林篤

ページ範囲:P.1431 - P.1435

 抄録:脊椎カリエスの高度亀背変形3例に対して,前方除圧および確実な骨癒合強固な支持性を得る為に血管柄付腓骨によるstrut bone graftを行った.血管柄付腓骨に対しては小伏在静脈を移植し,胸背動静脈を栄養血管として縫合した.要した静脈移植の長さは,平均13cmであった,血管縫合を容易にし,血管縫合後の胸腔内血腫の予防を計り,さらには移植床作成の時間のズレをより少なくする為に若干の工夫を加えた.症例はいずれも両下肢麻痺を伴った65度,75度,130度の亀背変形の患者であり,術後経過観察期間は1年から3年であるが,いずれも骨癒合は良好で体幹装具なしで歩行可能となっている.Strut bone graftとして血管柄付腓骨移植術の利用は,確実な骨癒合が期待でき移植骨の強度も保たれ有効な手段と考えている.この手術方法を紹介し,3症例の経過について報告する.

RAのSubaxial Subluxationによる脊髄症の2症例

著者: 野口光一 ,   米延策雄 ,   冨士武史 ,   藤原桂樹 ,   山下和夫 ,   脇谷滋之 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1437 - P.1441

 抄録:RAの下位頸椎病変は上位頸椎病変と比べて頻度は少ないが,近年臨床的に重要性が認識されてきている.その中で脊髄症の進行の為に手術に至る症例はまれであり,今回我々はsubaxial subluxationによる脊髄症を2例経験したので報告した.
 症例1は63歳男性でRAの活動性が高く,発症後2年で脊髄症が出現した.頸椎前方後方固定術を施行したが,挿入骨片の脱臼のために再手術を行った.症例2は54歳女性でRA病歴20年.上位および下位頸椎にリウマチ病変が存在したが,脊髄症の原因は下位頸椎が主であると考えられた.

大腿骨頸部骨折手術後の大腿深動脈仮性動脈瘤の1例

著者: 石丸晶 ,   後藤哲二 ,   岩原敏人 ,   柴田稔 ,   松倉裕美

ページ範囲:P.1443 - P.1446

 抄録:右大腿骨頸部外側骨折に対する観血的骨接合術後に生じた大腿深動脈仮性動脈瘤の1例を報告した.症例は73歳男性で,骨折手術後30日目に右大腿の拍動性腫瘤と収縮期雑音を認めた.核医学的検査(blood pool imaging)および動脈造影により,大腿深動脈損傷によって生じた仮性動脈瘤と診断し,同血管の結紮術を施行した.臨床経過および術中所見から,原因として骨折手術中のdrillingによる動脈損傷である可能性が高いと思われる.診断上注意すべきは,動脈損傷後,仮性動脈瘤としての特徴的理学所見が明らかになるまでに長時日を要するため,血管損傷の存在に気づきにくい点にあるが,核医学的検査と動脈造影により診断は確実に行い得る.一般に大腿深動脈の途絶によって患肢の循環不全は生じないため,治療としては,動脈の結紮術が最も安全かつ確実である.

大腿骨頸部骨折に対するチタン合金製Captured hip screwの使用経験

著者: 平泉裕 ,   清水泰雄 ,   松尾一久 ,   藤巻悦夫

ページ範囲:P.1447 - P.1450

 抄録:従来のステンレス鋼製compression hip screwに比べて,手術手技,生体適合性,強度等の面で優れているといわれるチタン合金製captured hip screwを使用する機会を得たので,器械の紹介に加えて,チタン合金とステンレス鋼の物理的並びに生物学的性質の文献的考察も行った.症例は,当院に入院した大腿骨頸部骨折患者11名で,内側骨折3名,外側骨折8名,年齢は43歳から88歳までの平均75.4歳である.結果:手術時間は平均60.7分,出血量は平均85.6gであった.観察観間は平均5.5カ月とまだ短いが,全員荷重歩行が可能であり,全身合併症による死亡1名を除いて,歩行に障害となるような下肢の変形は見られず,骨癒合も良好である.合併症の多い高齢者の手術には有利であると思われた.

骨内分化型骨肉腫の2例

著者: 村瀬正昭 ,   井形高明 ,   藤内守 ,   檜沢一夫 ,   広瀬隆則 ,   藤井義幸 ,   遠藤哲 ,   殿谷隆一 ,   中村巧

ページ範囲:P.1451 - P.1456

 抄録:慢性骨髄炎,線維性骨異形成,線維肉腫などとの鑑別に苦慮した骨内分化型骨肉腫の2例を報告する.症例1:22歳,男性,漁夫,昭和48年9月右大腿部痛出現.昭和49年5月病的骨折により受診.生検では線維性骨異形成と診断され,掻爬,骨移植術を受けた.術後1年半,局所再発し股関節離断術施行.腫瘍は灰白色,充実性であり,大腿骨下部では皮質を破壊して外方に膨隆していた.術後9年の現在,健在である.症例2:41歳,女性,昭和56年4月左膝部痛出現.昭和58年3月当科受診.生検にて骨髄炎,線維肉腫などが疑われたが,確定診断が困難なため,再度生検にて骨肉腫と診断し,大腿切断術施行.腫瘍は灰白色で硬く,左脛骨上半部の髄腔に充満し,出血,壊死が広範であった.大部分は髄腔内に限局していたが,一部は骨膜にも浸潤していた.術後1年にて肺転移をきたし,化学療法中である.本症例の診断および治療に関しては,今後の検討が必要と思われる.

両側性舟状骨—第1楔状骨間癒合症の1例

著者: 佐藤啓二 ,   小西陽一 ,   青木正人 ,   熊沢宏

ページ範囲:P.1457 - P.1461

 抄録:17歳女性,両側の舟状骨—第1楔状骨間癒合例を経験した.同関節に一致した軽度の膨隆と同部の圧痛が主たる症状であり,踵骨外反,扁平足等の変形はなく,距骨下関節の可動域も正常であった.アーチサポートの使用が効果的であった.病巣病変の把握に骨シンチグラフィー,断層撮影が有用であった.単一癒合が舟状骨—楔状骨間に認められたものは1959年Lusbyの1例,1979年Mikiの1例に続いて第3例目である.通常の癒合症では,骨化に伴う可動域低下が疼痛原因と考えられているが,この舟状骨—第1楔状骨間癒合例では軟骨性癒合部が存在するために相対的な力学的弱点を有することになり,このために疼痛が発生したと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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