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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科20巻2号

1985年02月発行

雑誌目次

視座

医師としての自覚と責任感

著者: 山崎安朗

ページ範囲:P.111 - P.111

 私が大学を卒業した頃は,やっと食料品が出廻り,空腹を癒やすには充分とはいえないまでも,まあまあの時代であった.しかし経済的には未だ高度成長前の事であり,かなり苦しかった.当時諸先輩の給料が一万円にも満たない頃であった.その後経済が少しずつ好転し,私が昭和33年4月に初めて助手としてもらった給与が13,800円であったと記憶している.その頃結婚したばかりで,家賃を支払った残りで生活して行くには尚かなり苦しかった.従って当時の助手或いは無給副手は,早くArbeitを仕上げてTitelを貰い,地方病院への出張乃至就職を夢みていたものが多かった.というのは地方病院へ行けば臨床症例が多く,その上生活面からみれば住宅が支給され,更に給与は大学のほぼ4〜5倍近く貰えたのだから,我々にとっては甚だ魅力あるSitzeであった.従って当時は早くArbeitを完成させ,地方病院のSitzeに就く為に,臨床,研究に昼夜を問わず強勉したものである.1週間に2〜3回の徹夜は日常茶飯事の事で極く平気であった.当時は教室員一同お互いに助け合い,励まし合って良く頑張ったものである.
 ところが最近の教室員は,助手にしても研修医にしても,贅沢に育ちその上経済的にかなり恵まれているせいか,我々の頃の頑張りというものに随分欠けている様な気がする.臨床に関しては一生懸命にやるのだが,大学の使命である研究に関してはふんばりが足りない.

論述

半月板切除術後早期の関節造影

著者: 伊達伸也 ,   山上剛 ,   鱸俊朗 ,   益永恭光 ,   根津勝 ,   前山巌

ページ範囲:P.112 - P.118

 抄録:半月板切除術を行った27例(全切除ないし亜全切除23例,部分切除4例)に対し術後早期(平均14.6日後)に透視下二重造影を行い,切離部分の形態や半月板の遺残状態等を観察した.造影所見を3型に大別し,それぞれについて考察を加えた.半月板の遺残は内側後節に多く認められた.遺残半月板に損傷が認められる場合,この損傷が初回手術での取り残しなのか後にあらたに生じたものかを鑑別することは術後時日を経るほど困難になることなど,遺残半月板障害をめぐる種々の問題について述べるとともに,それらを解決する上で術後早期の関節造影により半月板の遺残状態を把握しておくことが有用と思われることについて述べた.

一次修復を行った膝関節十字靱帯損傷例の経験

著者: 朴鍾大 ,   伊藤惣一郎 ,   成沢弘子 ,   木村好行

ページ範囲:P.119 - P.125

 抄録:膝関節十字靱帯損傷に対して,一次修復を行った30例のうち,26例を直接検診することができたのでその成績を検討した.成績判定には松原の評価法を用いた.以下のような結果が得られた.①十字靱帯損傷における,一次修復では,76%のほぼ満足すべき成績が得られた.②十字靱帯損傷,十次修復の成績は,前後どちらか一方の靱帯が,健常であるか否かで大きく分れる.③後十字靱帯単独損傷例のADL障害は少ないので,保存的治療例と手術的治療例の成績評価の比較は,スポーツ動作を加えた判断で行う必要があろう.④術後Pull out wireが切れている症例が多く縫合法,縫合材料に改良工夫を要する.⑤前十字靱帯単独損傷例が非常に少なかったが,これは初診時に見逃されている可能性があり,診断技術の向上が必要であると考える.

X線上骨傷の明らかでない頸髄損傷について

著者: 米山芳夫 ,   柴崎啓一 ,   大谷清 ,   藤井英治

ページ範囲:P.127 - P.133

 抄録:X線上明らかな骨傷がみられなかった頸髄損傷60例を,骨傷のみられた症例82例と対比し,調査検討した.非骨傷群では51〜60歳に最も症例が多く,受傷原因では歩行中の転倒や自転車の転倒といった,比較的軽度の外力による症例が多かった.麻痺の高位は第5頸髄節以下が障害されていた症例が最も多く,受傷直後の麻痺ではFranKel分類のAの割合が骨傷群に比べて少なかった.不全麻痺例では中心部損傷型が多かった.脊椎症性変化を伴っていた症例が多かった,治療は保存的治療を原則としたが,外傷性椎間板ヘルニアの症例,脊椎症性変化などによる遅発性麻痺進行例に対しては観血的治療の適応とした.麻痺の予後は,保存的治療例,観血的治療例との間に明らかな差は認められなかった.

特発性側彎症における胸郭について

著者: 栗尾重徳 ,   泉恭博

ページ範囲:P.135 - P.141

 抄録:特発性側彎症の自然経過の分析はいまだ不充分であり側彎悪化因子について現在なお確立されたものがない.この悪化因子の追求を目的に特発性側彎症患者の特徴ある扁平な胸郭に注目し,胸郭と側彎度との関係についてX線学的分析を行った.症例は10歳から14歳までの女子で側彎度が50°までの右胸椎彎曲型の定型的特発性側彎症患者に限定した.検討症例は55例で,さらに対照として側彎が認められない10例も併せ検討した.胸郭の評価はTampasの方法に準じて胸郭の前後径,横径および胸郭の扁平率と側彎度との関係について検討した.結果は胸郭の扁平率,前後径と側彎度との間には明らかな逆相関関係,すなわち側彎度が大きい症例は胸郭の前後径が短かく胸郭が扁平であった.今回の分析より胸郭の測定値が側彎症の進行に大きく関与しており,胸郭の前後径,扁平率が悪化因子として予後判定に利用できることが示唆された.

人工股関節置換術における大転子切離の問題点

著者: 浅田莞爾 ,   清水孝修 ,   坂木和彦 ,   島津晃

ページ範囲:P.143 - P.150

 抄録:Charnley-Müller型人工股関節手術に当って私達は視野の確保,高位脱臼例あるいは再置換手術等に限って大転子切離を行い,またCharnley型ではroutineに大転子切離を行っている.今回これらの大転子wire締結症例についてwireの折損,大転子部の癒合不全,人工関節componentのゆるみと人工股関節設置位置との関係について調査した.調査対象症例のCharnley-Müller20関節およびWeber-Huggler3関節のうちwire折損は9関節,大転子癒合不全3関節,loosening 7関節,Charnley型50関節中wire切損28関節,大転子癒合不全5関節,looseningは0であった.このうちCharnley-Müller型で術前に比べ25mm以上の大転子引き下げ例8関節における大転子癒合状態とlooseningの発生をみると,大転子癒合良好例には3関節のlooseningと2関節の非looseningを認めるが,大転子癒合不全例は3関節ともlooseningを認めなかった.これらの事実より高度の大転子引き下ろしが人工関節componentのゆるみに与える影響について考察した.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・26

胸椎および胸腰椎手術 側彎症(Scoliosis)に対する手術—Anterior Instrumentation

著者: 北原宏

ページ範囲:P.151 - P.163

はじめに
 脊柱側彎症の手術で,anterior instrumentationとして2つの代表的な方法がある.まず1965年,A. F. Dwyer1)はcable,plate,screwを使用して側彎矯正を行った.つづいて1975年,K. Zielke9)はそのmodificationとして,rod,plate,screw,nutと独特の器械でderotationをはかるventrale derotation spondylodese(VDS)を発表した.いずれにしても,側彎矯正の為に椎間板の切除を十分に行い骨移植,固定をするが,最近では世界的にみても術後の脊柱後彎発生防止を期待できるZielke法を用いることが多くなってきている.前方術式施行にあたっては,血管外科,胸部外科,腹部外科,一般外科的知識,技術が必要となる.

整形外科を育てた人達 第24回

Marius Nygaard Smith-Petersen(1886-1953)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.164 - P.167

 Marius Nygaard Smith-Petersen,この長い名の学者は近代米国整形外科を世堺的に有名にしたと言われている.彼は近代の米国整形外科で我々の思い起こす人材の第1位にあると思う.

臨床経験

特異な第1肋骨奇形と小斜角筋により胸郭出口症候群を呈した1例

著者: 上田孝文 ,   米延策雄 ,   冨士武史 ,   坂井学 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.169 - P.172

 抄録:今回我々は一見偽関節を思わせる特異な第1肋骨奇形と小斜角筋の存在がその主たる原因と考えられる胸郭出口症候群の1例を経験したので報告する.症例は46歳男性,大工.主訴:左前腕〜指先部しびれ感.初め頸椎の異常に伴うRadiculopathyを疑い,脊髄腔造影・CTミエログラフィーを施行するも異常所見なく,種々の血管・神経テスト,鎖骨下動脈造影等より左第1肋骨奇形に伴う胸郭出口症候群を考え,左第1肋骨切除を施行.その際典型的な小斜角筋と思われる異常な腱様組織の存在も認めたため,併せて切除した.術後6カ月の現在すでに復職しているがとくに愁訴もなく経過順調である.

腰椎椎間板ヘルニア摘出術後に生じた極めて稀なossified extradural pseudocyst(ossified meningocele spurius)の1例

著者: 半田豊和 ,   辻陽雄 ,   飯田鷗二 ,   田島剛一 ,   森喜紀

ページ範囲:P.173 - P.178

 抄録:椎弓切除後に生じる脊髄硬膜外嚢腫,特に骨化性嚢腫は極めて稀で,文献的にVerbiest(1951)の1例,Rosenblum(1963)の1例のみであり,本例は第3例目ではないかと考える.本例は腰椎椎間板ヘルニアに対する椎弓切除術後,7年目に,右根性下肢痛で発症した著明な球状骨化性硬膜外仮性嚢腫の1治験例である.後方手術により前回手術の椎弓切除部位に発生した骨化性硬膜外仮性嚢腫を摘出し,同時に右S1神経根直下の再脱出髄核を摘出,局所に遊離自家脂肪移植を施行した.組織学的に嚢腫壁は成熟した骨組織から構成され,内面にはlining cellを有する粗な結合織で覆われていた.成因として初回手術時に生じた硬膜の微小な欠損より生じたくも膜ヘルニアが巨大化し,その壁が骨化したものと推定される.本邦では最初の症例と推定され,文献的考察とともに報告した.

急性弛緩性対麻痺を示した第6-7胸椎椎間板脱出の1例

著者: 北野悟 ,   加藤義治 ,   平野典和 ,   関戸弘通 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.179 - P.185

 抄録:我々は硬膜外腔に完全脱出した第6,7胸椎椎間板ヘルニアの一治験例を報告した.39歳,女性,背部痛より発症し,急速に弛緩性対麻痺へと進行し,spinal shockを呈した.神経学的所見では,第6胸髄レベルの不完全Brown-Séquard型脊髄障害を示していた.レ線所見では,全体としてdevelopmental narrow canalを呈し,第6胸椎下面にSchmorl結節を認めるほか異常なく,ミエログラムは,第6,7胸椎椎間間隙に一致した完全停溜像,ディスコグラムにて巨大正中ヘルニア腫瘤が描出された.緊急手術により,右開胸による前方進入で硬膜外腔に脱出したヘルニア腫瘤(500mg)を一塊として摘出し,椎体間固定を行った.術後5カ月の時点で自他覚症状は完治した.本症に対する文献的考察ならびに症状発現,手術術式に関し考察を加えた.

多発性傍骨性軟骨腫の1症例

著者: 広田茂明 ,   津田隆之 ,   玉田善雄 ,   土井照夫

ページ範囲:P.187 - P.189

 抄録 症例:M. K. 15歳,男.主訴:右上腕腫瘤.現病歴:昭和57年末,右上腕痛.58年5月,同部に2つの腫瘤に気付く.その後増大し,熱感出現.X線像:右上腕骨骨幹部に2カ所の骨皮質の膨隆,皮質内に境界明瞭な骨透亮像あり.CT所見:皮質内にlow density area.骨髄腔はintact.骨シンチ所見:同部にuptake上昇を認める.昭和58年6月excisional biopsy施行.術中,骨性被膜内に透明ゼリー状実質を認める.組織学的所見:腫瘍実質は良性軟骨性組織よりなり,periosteal chondromaの診断を得る.本症例はX線所見が典型的でなく,術前診断が困難であった.多発性傍骨性軟骨腫は,現在までに3例の報告があるのみで,まれである.

腸骨に発生した脱分化型軟骨肉腫の1例

著者: 堂前洋一郎 ,   田島達也 ,   斎藤英彦 ,   東條猛 ,   守田哲郎 ,   大西義久 ,   江村巖

ページ範囲:P.191 - P.194

 抄録:脱分化型軟骨肉腫は,1971年Dahlinらにより提唱された比較的稀な腫瘍である.今回,我々は本症と診断された1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は34歳男性.右腸骨外上後方部の手拳大の腫瘤を主訴として来院.X線像は右腸骨外側に広い茎部を有し,中に点状の石灰化が散在する軟部腫瘤陰影であった.昭和57年5月広範切除を施行.その組織所見は,大小不同の細胞からなるlow grade軟骨肉腫が主体であったが,周辺部は線維肉腫像や悪性線維性組織球腫と思われる組織像が混在していた.術後,VCR,ADMの化学療法を施行したが,術後3カ月で肺転移を来たし,転移巣を切除.MTXを追加した化学療法を行い,広範切除から1年後に,局所再発を来たし,片側骨盤離断術を行った.

肩甲下部弾性線維腫の1症例

著者: 丸山博司 ,   江見葉子 ,   浦等 ,   白岩和巳 ,   堤雅弘 ,   高橋精一 ,   小西陽一 ,   三井宜夫 ,   杉本秀樹 ,   西村秀樹

ページ範囲:P.195 - P.197

 抄録:著者らは,熊本県出身で約30年間の漁業の網引の仕事に従事していた職歴のある67歳の女性に,右肩甲下部の弾性線維腫の発生を認めたので報告する.本腫瘤は,世界的にみて沖縄県に最も多くみられるとされているが,稀な地理病理学的特徴を有した疾患と考える.組織学的に,腫瘤は被膜をもたず,豊富な膠原線維のある結合織からなり,これに成熟脂肪織の小島と血管成分が混在したもので,この中にWeigert染色に好染する数多くの弾性線維腫線維が認められた.これらの線維は,膵エラスターゼの前処置により消化された.本腫瘤は,遺伝的な体質的素因を背景にして,肩甲下部の場合では肩甲骨と肋骨弓との機械的刺激に対する一種の反応性増生によっておこると考えられる.著者らの症例も,恐らく個体の体質的素因と地理的因子に,外的因子が加わって発生したものと考える.

最近経験した化膿性腸腰筋炎の2症例

著者: 永野重郎 ,   冨士武史 ,   米延策雄 ,   西塔進 ,   中村信義 ,   小野啓郎 ,   坂井学

ページ範囲:P.199 - P.202

 抄録:最近経験した化膿性腸腰筋炎の2症例を報告し,本症の臨床的な特徴を述べ,その診断及び治療においてGa scintigraphy,enhanced CTが有用であることを指摘した.本症が化学療法の発達につれて,比較的稀な疾患となり一般診療医から忘れ去られつつある現在,股関節周辺の化膿性疾患の1つとして念頭に入れておかなければならない疾患であることを強調した.

運動時痛を伴ったtalar beak過形成の1症例

著者: 岩原敏人 ,   柴田稔 ,   石丸晶

ページ範囲:P.203 - P.206

 抄録:距骨頸部上縁に生じる骨棘類似の骨性増殖は,日常外来診察にてしばしば認められる.これはtalar beakやimpingement exostosesと呼ばれるものである.通常は無症状であるがスポーツ選手などで疼痛を生じることがある.今回我々はこのtalar beakの過形成が両側に生じたために両足関節の背屈制限と疼痛を来たした症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は20歳,男性,調理師.中学・高校と陸上の長距離選手だった.18歳ごろより両足関節前方に骨性隆起が出現して,ランニング時疼痛を伴った.レントゲンにてtalar beakの過形成を両側に認め,背屈時にこれが脛骨遠位端前方と衝突し背屈制限の原因となっていた.術中所見では距腿関節包がtalar beakのcap部に付着しており,成因として関節包付着部に働く繰返されるtractionが原因と思われた.術後両足関節の疼痛は消失した.

追悼

伊藤 弘 名誉教授

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.208 - P.209

弔辞(告別式にて)
 京の街並に落葉が舞い,深み行く秋のあわれをしみじみと感じさせるこの日,京都大学名誉教授伊藤弘先生の告別式を執り行うに当り,私共一同,謹んで先生の御霊前にお別れの言葉を捧げます.
 昨年は先生が白寿を迎えられたのを機に同門の者が一堂に会してお祝をし,また,今年は先生の御誕生日の七月に百歳のお祝いを申し上げたばかりであります.先生は卒寿を過ぎられてから,二度にわたる大病を見事に克服され,百二十歳迄は生きると言っておられました.私共も先生を不死鳥の様に信じ,誇りにしておりましたのに,去る十一月十四日の朝,先生は忽然として永遠の眠りにつかれました.将に一世紀にわたる御寿命を悔いなく生きられた超人でありましただけに,先生を失った空白は形容のできない程に大きく感じられます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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