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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科20巻5号

1985年05月発行

雑誌目次

視座

「正常」に関して思うこと

著者: 井上哲郎

ページ範囲:P.569 - P.569

 毎日の新聞に老齢化,高年者,老人病などの文字を見ないことはない.これはとりもなおさず医学の進歩により,我国も世界の三指に入る長寿国となったことによるものである.現在,世界の人口は約44億人とされ,30年前(25億)に比し,約2倍となっており,15年後には62〜65億人に達すると推定されている.これら人口増加の主因は高齢者の占める割合が高くなるためとされ,この時期には65歳以上の人口が,11億6000万人となり,おおよそ6人に1人がいわゆる老人ということになる.我国に例をとってみても,本年度が全人口約1億2000万人のうち60歳以上の人が約1726万人(1950年 約630万人),15年後には約2650万人になると推定されている.これらのことから考えても向後高齢者の患者が増加することは間違いなく,医学面のみならず社会面での問題も大きくなってくることであろう.このような高齢化社会になるにつれ,最近「正常とは?」ということをとみに考えることが多くなってきた.「正常」を広辞苑で引いてみると,「他と変わったところがなく普通であること」,日本国語大辞典でひいてみると「ある規範のうちにあること」とあり,他あるいは規範をどこに求めるかが問題となる.

論述

大腿四頭筋拘縮症の治療成績—三術式の比較

著者: 菅野吉一 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   安田和則 ,   青木喜満 ,   福原啓之 ,   飯坂英雄 ,   加藤哲也

ページ範囲:P.570 - P.576

 抄録:昭和40年より当科で手術した大腿四頭筋拘縮症(直筋型,混合型)の術後成績を検討した.用いた手術方法は起始部切離術,縫工筋形成術,瘢痕部切離術の3種類である.症例は54人61肢,手術時年齢は3〜19歳,術後経過観察期間は2〜15年9カ月である.
 全症例の術後成績では日整会評価法で術前平均7.0点から術後平均1.9点へと改善した.尻上がり角度も術前27.4°から術後92.8°へと増大した.

慢性関節リウマチに伴った頸椎病変の経時的変化

著者: 冨士武史 ,   米延策雄 ,   藤原桂樹 ,   小野啓郎 ,   岡田孝三 ,   原田茂 ,   冨士正夫

ページ範囲:P.577 - P.584

 抄録:1年6カ月以上の入院加療を行ったclassical RA患者のうち頸椎レ線像の経年的な観察が可能であった33例を対象として,環軸関節前方亜脱臼(AAS),軸椎歯突起頭蓋内陥入(VS),下位頸椎亜脱臼(SS)がどのように進行し,かつその進行が予測できるか否かをretrospectiveに検討した.調査開始時の平均年齢は51.4歳,頸椎レ線像の観察期間は平均6年1カ月で,以下の結果を得た.
 (1)軸椎周囲のレ線変化が認められ,環軸椎間の矢状面での可動性が低下している例ではAASが進行した.(2)軸椎歯突起のerosion,環軸椎側方関節の変化を認める例ではVSが進行し,高度に進行した例ではSSを合併する傾向があった.(3)SSは頸椎症性変化の稀なC2/3,C3/4椎間に多くみられ,RAに特異的であったが,この進行を予測できる頸椎レ線変化は発見できなかった.

胸腰椎部粉砕型骨折に対する手術的治療

著者: 佐々木邦雄 ,   角田信昭 ,   芝啓一郎 ,   香月正昭 ,   植田尊善 ,   山野耕一郎 ,   浅川康司 ,   吉浦光三 ,   権藤英資

ページ範囲:P.585 - P.592

 抄録:脊椎損傷の好発部位である胸腰椎部の椎体骨折において,椎体後方骨皮質の破壊の有無により,粉砕型と楔状型骨折,その他に分けた,粉砕型骨折においては,構築学的・神経学的両面より,大部分の症例において手術的治療の必要があると考えられる.過去4年間に,本部位粉砕骨折27例に対して手術的治療を行った.全例に前方除圧・固定を行い,後方要素の断裂の存在や,2椎間固定例を対象に19例に後方よりの固定術を追加した.骨癒合は25例(93%)にみられた.構築学的に不安定性の強い粉砕骨折例に対しては,Harrington instrumentation使用による前方・後方同時侵入による整復・除圧・固定術が有用な方法と考える.

シンポジウム 人工股関節再置換術の問題点

Müller型人工股関節の長期成績からみた"ゆるみ"の原因と対策

著者: 内山真 ,   長屋郁郎 ,   浅井富明 ,   衛藤義人

ページ範囲:P.593 - P.602

 抄録:〈目的〉当院で10年以上にわたって一貫して行ってきたMüller型人工股関節手術例の,主としてX線学的成績の検討から,"ゆるみ"の要因を考察し,その予防対策を講ずる一助としたいと考えた.〈対象〉1970年10月より1981年11月までに行ったMüller型人工股関節手術症例509例,586関節のうち,現在までに再置換術を行った43例,44関節を対象症例として"ゆるみ"のrisk factorを考察した.〈結果〉"ゆるみ"発生のrisk factorとしては,ソケット側では,二次性変股症例に高率にゆるみが発生している事実より,種々の問題点を有する日本人女性の狭小な臼蓋そのものが,手術手技上の困難な問題を提供していると考えられた.ステム側では,大腿骨髄腔の広い男性例や,人工骨頭からのサルベージ例に再置換率が高かったことより,Müller型オリジナルステムの太さ・形状と大腿骨髄腔との不適合が最大のrisk factorであると推定された.

慈大式人工股関節再置換例の検討から

著者: 室田景久 ,   富田泰次

ページ範囲:P.603 - P.610

 抄録:慈大式セメントレス人工股関節置換術を施行し,術後臨床的ないしX線学的に経過が思わしくなく,再置換手術を施行した症例は8例8股で,術後3年以上を経過した症例のうちの4.5%を占めている.これら症例の初回手術時の年齢は平均49.6歳と若く,原疾患は変股症が5例,無腐性大腿骨頭壊死,強直性脊椎炎,関節リウマチ各1例である.
 再置換手術を行った理由としてはlooseningが8股中5股と最も多く,そのうち3件は骨頭脚の移動による大腿骨骨皮質の穿孔を合併,その他脱臼が2例,人工骨頭脚の折損が1例である.原因としては,8例中7例が不適切な手術手技によるもので,主に,人工臼蓋の挿入位置,挿入角度に問題があった.その他の原因としては,不適切な後療法,感染の疑い,肥満などがあげられた.

各種人工股関節における再置換例の検討から

著者: 島津晃 ,   浅田莞爾 ,   斉藤英雄

ページ範囲:P.611 - P.621

 抄録:1968年から1984年12月までに当教室で施行された人工股関節は357関節であり,使用人工股関節のタイプも多岐にわたっているが,1977年からCharnley型を用い,さらに1979年からはalumina ceramic骨頭を有するタイプを導入している.再置換術症例も他医からの転医例も含めて64関節に達しているが年を追って増加の傾向にある.今回これらの再置換術症例に関して,その手術の実際的な注意事項,問題点,手術手技についてのべ,代表症例を供覧する.また再置換術に至る最も大きな原因の1つであるcomponentのlooseningの調査を行い,発生時期ならびに再置換術施行時期についてのべ,さらにloosening経過期間と大腿骨の破壊強度の検討から臨床上適当な再置換術施行時期の存在することを示唆した.最近われわれが人工関節施行患者の教育および術後のfollow upのために使用している人工関節手帳についても報告する.

ソケット・カップ股関節表面置換術後における再手術例の検討

著者: 江口正雄 ,   緒方公介 ,   田所英二 ,   杉岡洋一 ,   西尾篤人

ページ範囲:P.623 - P.630

 抄録:当科で行われたソケット・カップ表面置換術後の再手術例について検討を加えた.1984年6月までに130股のうち23関節に再手術が行われた.再手術理由は臨床的に疼痛の再発とその持続であり,多くはソケットとカップの単独あるいは両者の過大なlooseningが原因と考えられた.再手術の多くはTHRへの変換であり,比較的容易であった.これは初回手術で骨セメントが使用されなかったことと,臼蓋形成不全が高度な場合は骨移植による臼蓋形成術が併せ行われていたためと思われた,再手術率が初回手術時の年齢と基礎疾患によって異なることがわかった.先股脱に起因するOAで20代・30代の比較的若年期に行われたものが,40代・50代で行われたものより再手術率が低いこと,またOAに比して大腿骨頭壊死とRAでは再手術率が高いことであった.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・27

胸椎および胸腰椎の手術 脊髄腫瘍の手術

著者: 辻陽雄 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.631 - P.643

はじめに
 脊髄腫瘍は本来,脊髄実質,脊髄神経根ならびにそれらの被膜あるいは脊柱管内結合織・血管などから生じる腫瘍性病変をさし,それにもとづく進行性の圧迫性脊髄麻痺を呈する外科的脊髄疾患である.
 したがって,殆んどは神経組織由来の原発性腫瘍であるが稀ならず脳に生じた,あるいは脳に転移した腫瘍が脊髄腔を経由して脊髄に転移巣を形成する場合もあるほか,血管奇形,外胚葉性腫瘍など多彩である.いずれにせよ,多くは慢性進行性の脊髄圧迫障害を主症状とするが,中には麻痺の急性増悪をみる例も少なくない.この場合,一般的には腫瘍確認とともに緊急摘出が要求される.本稿では胸・腰椎部での脊髄腫瘍のうち一般的なパターンを挙げて,その摘出手技のコツを述べることとするが,この手技の基本は上位頸髄腫瘍,下位頸髄腫瘍にも共通することである.

手術手技 私のくふう

褥創にたいする簡便な手術法—埋没網状植皮法

著者: 上敏明 ,   中島龍夫 ,   泉従道 ,   高松浩一

ページ範囲:P.645 - P.649

 抄録:今回我々はskin flapやmuscle-myocutaneous flapの適応外と思われる全身状態のあまり良くない褥創症例に対し,褥創の潰瘍底に網状植皮を埋没する新しい手術法を考案した.
 我々の手術法の特長は,
 ①Granulation flapの下に植皮片を埋没させるため確実な固定が可能でtie over dressingなどの特別な固定を必要としない.
 ②植皮片はgranulation flapと潰瘍下層にはさまれることになり,植皮の生着に良い状態とすることができる.
 ③手術手技が簡単で,局所麻酔下に短時間に手術を行うことができ,全身状態に悪影響をおよぼすことが少ない.
 ④術直後から術前と変わらぬガーゼ交換と体位変換ができ,特に複雑なcareを必要としない,などである.

整形外科を育てた人達 第26回

Fred Houdlette Albee(1876-1945)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.650 - P.654

 私がAlbeeの名を知ったのは戦前の骨結核の多かった時代,骨移植による脊椎固定法をAlbeeの手術と言っていたからである.その後米国の整形外科の発展の歴史を知ると共にAlbeeの国際的な活躍を知った.彼自身で自伝「Surgeon's Fight to Rebuild Men」を1950年に出版しているし,夫人のMrs. Louella B. Albeeが1951年に「The Doctor and I」を出版している.これを読むと興味深いものがあり,法律用語であったRehabilitationを医学界に持ち込んだのも彼であることを知った.

整形外科基礎

抗生物質(Cefoperazone)の骨組織および周辺組織への移行濃度に関する考察

著者: 西岡淳一

ページ範囲:P.655 - P.661

 抄録:抗生物質(Cefoperazone)の血中および組織内濃度を測定し,その動態を考察した.組織として末梢血のほか骨髄血,骨組織,筋肉,靱帯を対象とし,骨組織は皮質骨と海綿骨を分けて採取,分析した.検体は変形性関節症(OA)9例,慢性関節リウマチ(RA)4例の14股の股関節障害(股関節全置換術13股,骨切術1股)の患者から採取した.Cefoperazone 2gを手術直前に静注し,各検体の採取時刻を正確に記した.抗生物質濃度の測定は日本抗生物質医薬品基準一般試験法に従って行った.末梢血および骨髄血内濃度は回帰分析法で指数関数が最もよく相関し,骨,筋肉,靱帯の各固型成分は一次関数に相関した.骨髄血内濃度が末梢血のそれより高いものがOA症例に多く,RA症例と相反した.しかし末梢血濃度と組織内濃度との間にはRA症例の方により高い相関性が得られた.
 以上の結果について考察を加えた.

Letters to the Editor

故棈松教授の"視座"を読んで

著者: 松野誠夫

ページ範囲:P.662 - P.662

 本誌19巻12号の故・棈松教授による視座を拝読させていただきましたが,その一部に昨年6月札幌で開催された第57回日本整形外科学会に関する誤解がある様ですので一言申し上げたいと存じます.
 第57回日本整形外科学会のプログラム編成にあたり,棈松教授にはその病いが篤いとの噂をかねがね聞いておりましたので,恐らく札幌までお出いただくことは難しいと思っておりましたが,そのお元気なお姿をどうしても日整会員の諸氏の前に現していただきたいとの私の願いから会長招待講演Wagner教授の座長をお願いいたしましたところ,病いをおして御来札いただき立派に座長の労をとっていただきましたことを心から感謝申し上げます.

臨床経験

術後16年を経て再発したと思われる硬膜内髄外腫瘍の1例

著者: 長谷川良一 ,   浜田勲 ,   中村孝志 ,   林卓司 ,   大田秀一

ページ範囲:P.663 - P.667

 抄録:脊髄腫瘍摘出術は,もはや日常的となったが,再発例に対する手術成績は不良である.今回,我々は初回手術後16年を経て再発したと思われる胸髄硬膜内髄外腫瘍に対し手術を施行し術後良好な結果を得たので報告する.〈症例〉48歳,女性,主婦.昭和38年左背部痛自覚,42年6月8日,第1〜第3胸椎に及ぶ椎弓切除,硬膜切開を施行し,第2胸髄左側後根と連続性のある硬膜内髄外腫瘤を摘出した.術後神経症状改善し日常生活に復していたが,58年3月背部痛自覚,5月下旬より対不全麻痺となり7月7日第7頸椎〜第4胸椎に椎弓切除,硬膜切開を施行し,嚢腫状腫瘤を摘出した.術後,神経症状は改善し,両足底部の知覚障害を認めるのみでADL上支障なく生活している.病理組織診断は,初回時「肉芽腫」,再発時「neurinoma Antoni B type」であったが,手術所見より「neurinoma」の再発と考えられた.

膝関節より発生した限局性結節性滑膜炎の症例

著者: 堀田恵司 ,   久保敬 ,   長尾彰 ,   岸和彦 ,   佐藤洋

ページ範囲:P.669 - P.671

 抄録:限局性結節性滑膜炎(L. N. S.)は,1941年Jaffe,Lichtensteinらの命名した色素性絨毛結節性滑膜炎(P. V. S.)の一型とされる.L. N. S.は手足の腱,腱鞘,滑膜には好発するが,膝関節より発生した本症の報告例は比較的少ない.田島らの報告によれば,欧米において116例,本邦において11例の合計127例である.今回我々はこの比較的稀な膝関節より発生したL. N. S.の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告するものである.L. N. S.はP. V. S.の限局型とされるが,その臨床症状,X線所見,病理組織学的所見,治療法などにおいて著明な相違が認められる,以上の所見も含め考察を加えた.

甲状腺機能低下症と慢性関節リウマチとの臨床的考察について

著者: 別所和也 ,   中村信也 ,   識田弘美 ,   三井弘 ,   林𣳾史 ,   園崎秀吉 ,   内田詔爾

ページ範囲:P.673 - P.675

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RA)は橋本氏病との合併頻度が高いといわれている.そこで我々はRAで治療中の患者で甲状腺機能低下症を有する8症例を調査し,その関節症状の特徴を調べてみた(8例中7例が橋本氏病であった).方法は患者への問診により甲状腺機能低下症並びにRAについての発症時の年齢・症状・現在までの経過等を調べた.また血液検査やX線像も参考にした.
 その結果,RAの発症時期と甲状腺剤投与開始時期は近い傾向にある事がわかった.また関節変形は少ない傾向にあり,手のX線写真では遠位指節間関節(DIPj)に所見が多かった.甲状腺剤投与では症状の緩解はみられなかった.
 以上より,この関節症は特異的な症状を持ち,甲状腺疾患と深い関連があるが,BlandらのいうHypothyroid-Rheumatic syndromeではないと考えられる.

学会印象記

Scoliosis Research Society 19th Annual Meetingに出席して

著者: 大木勲

ページ範囲:P.676 - P.679

 第19回SRSの年次総会は1984年9月19〜22日,Florida半島中部Orlando市郊外にあるDisney World内のContemporary Resort Hotelで開かれた.
 Disney Worldは総面積がNew YorkのManhattanの2倍もあるという広大な敷地に各種のレジャー施設をそろえたvacation landである.Los Angelesや東京ディズニーランドと同様のMagic Kingdomをはじめ,人気の的EPCOTセンター(Experimental Prototype Community of Tomorrow)や各種のスポーツ施設やVillage,Hotelをモノレールで連絡し合っており,家族ぐるみで長期間のレジャーを楽しめるよう設計してある.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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