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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科20巻9号

1985年09月発行

雑誌目次

視座

トップの条件

著者: 赤松功也

ページ範囲:P.1017 - P.1018

 山梨医科大学整形外科の講座が開かれてこの四月で2年を迎えた.新設医大の味わう産みの苦しみはなお続いているが,ようやく体制みたいなものが出来上ってきた.そこでこの2年間,一体何に腐心してきたかを改めて想い起こしてみた.甲州は周知の如く武田軍団発祥の地である.それにあやかったわけでもないが,教室造りの最大の関心はやはり人を基盤とした組織作りにあった(それは今も続いているが).着任前の浪人時代,先人によるいろいろな本を読みあさってこれに具えてきたが,そのうちいくつかの語録に強く引かれるものがあった.それらをその都度拾い集めノートに記し,自らの反省の材料としてきた.今回「視座」執筆の依頼を機会にこのなかからいくつかを抜粋して自らの「視座」としてみた.
 まずリーダーとしての心構えである.十八史略に有名な「鶏口となるも牛後となる勿(なか)れ」というのがあるが,トップは小さくてもやはり先端になくてはいけない.トップが肩身を狭くしていては部下達の気持ちは推して知るべしである.天声人語(S. 58. 11. 8付)は指導者の条件として①情熱,②責任感,③判断力を挙げ,松下幸之助氏は①使命感,②無私,③詩心(ロマン),④現実処理能力などが必要としている.松下氏の"ロマン"は心の余裕を説いたものでさすがと思う.

論述

腰仙部神経根症状に関する神経根ブロックの治療効果

著者: 松井達也 ,   菊地臣一 ,   星加一郎 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.1019 - P.1026

 抄録:根性疼痛を主訴として入院精査し,退院後6カ月以上経過した腰仙部主要疾患260例を対象として,神経根ブロックの疾患別および症状別にみた有効率,治療効果の早期予測の可能性などにつき検討した.結果は以下の通りである.
 ①神経根ブロック有効率は全体として28.5%であり,脊椎症にもっとも高く,ついで椎間板ヘルニアと変性すべり症であった.また脊椎症における間欠跛行例に対し有効率が高かった.②治療効果は第1回の診断手技としての本法実施後24時間の時点でほぼ予測可能であり,治療効果のあった例ではその効果は少なくとも平均1〜2年持続している.③保存療法の最後の手段として,手術に進む前に実施する価値のある治療法であり,とくに再手術例に対しては試みられるべき方法であると言える.

Impingement ExostosisのX線学的検討

著者: 梅ケ枝健一 ,   菊地臣一 ,   松井達也 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.1027 - P.1034

 抄録:スポーツ選手の足関節によくみられる骨棘は,athlete's ankle,foot baller's ankle,さらにimpingement exostosisと呼称されてきた.しかしその発生機序に関しては詳細な報告はみられない.われわれは,発生機序解明の糸口として男子バスケットボール選手61名(高校生17名,大学生16名,全日本選手20名 元選手8名)の足関節X線像を検討した.その結果61名中,51名,89足,145カ所に骨棘がみられ,これらを大きさにより3型に分類した.さらに各選手群における骨棘の発生頻度をみると,競技年数が長くなるのに比例して増加し,形態も大きくなる傾向がみられた.しかし一方,競技年数の長い全日本,元選手群のなかに骨棘のまったくみられない症例のあることや,同一選手の左右の足関節で骨棘の大きさが異なる症例がみられ,本症発生に足関節に加わる機械的刺激以外にも個体差,その他の要素が関与しているのではないかと推論された.

後縦靱帯を穿破した頸部椎間板ヘルニアの診断と治療

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   田代邦雄 ,   阿部弘 ,   宮坂和男 ,   伊藤輝史

ページ範囲:P.1035 - P.1041

 抄録:後縦靱帯を穿破した頸部椎間板ヘルニアの術前診断並びに手術時の問題点につき,検討を加えた.〈方法および対象〉CTはSiemens社Somatom IIならびに東芝TCT 60Aを使用し,脊髄造影はMimer IIIにて,動態撮影を行った.対象は手術が施行された後縦靱帯を穿破した頸部椎間板障害11症例である.〈結果〉①脱出髄核は,plain CT上,Hounsfield値76-98の軟部組織陰影として描出され,CT myelographyでは,局所的な脊髄圧排像が示された.②脊髄造影では,中間位にても,脊髄圧排像は残存し,多くの場合,罹患椎間板上下の椎体の高さ1/2を越えた.③後縦靱帯の数mmの裂孔を通して,髄核は,靱帯間あるいは硬膜外腔へ脱出していたが,靱帯を切除して摘出した.④術後成績は全例良好であり,11例中7例は優,4例は良であった.〈結語〉脱出髄核の後縦靱帯穿破の有無は神経症状発現機序を理解する上でも,また,手術操作上,重要であるが,CT,脊髄造影にて,術前診断は可能であると考えられた.

手術手技シリーズ 脊椎の手術・29

胸椎および胸腰椎の手術 後彎症に対する手術

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.1043 - P.1056

はじめに
 脊柱後彎症は側彎症に比して変形も目立ち麻痺や疼痛の発現も多く,軽症例を除いては保存的治療も無効となり手術適応となる場合が少なくない.後彎症に対する観血的治療は前方固定術が主体でありstaged operationとなることが多いため技術的にも或る程度高いものが要求されるにもかかわらず,矯正率,固定力の点で側彎手術に劣っていた.しかし近年,固定金属にも専用のすぐれたものが考案され安定した成績が得られるようになった2,3,5,7,8,9,12,13,15)

手術手技 私のくふう

変形性股関節症に対する寛骨臼回転骨切り術

著者: 土方浩美 ,   田川宏

ページ範囲:P.1057 - P.1070

はじめに
 我が国における変形性股関節症は,ほとんどが亜脱臼に起因する二次性股関節症である.これらに対する手術的治療法には数多くの術式が用いられているが,臼蓋形成不全に対して骨頭被覆を拡大する骨盤側の手術にも各種のものがある.股関節形態の正常化をはかることにより過大かつ異常な応力分布を解消することが,永続的な治療効果につながるものと考えられ,この意図に沿う術式として,1968年より寛骨臼回転骨切り術を広く実施してきておりおおむね満足すべき結果を得ている.この方法は,本来の関節軟骨をそのまま移動するという特徴を有するとともに,荷重域の拡大による荷重の分散,臼蓋荷重面の水平化による剪力の減少,骨頭位の内方化による合力の減少など生体力学的に優れた効果が得られる.

整形外科を育てた人達 第30回

Sterling Bunnell(1882-1957)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1072 - P.1075

 終戦直後Sterling Bunnellの名著「Surgery of the Hand」の初版(1944)を読んで皮切から腱の取扱いまで細かく記載されているのに感銘を受けた.この技術は整形外科医には不可欠だと考え,手の手術をする時この書物を参考にしていたが,昭和25年私は新潟から九大に移らねばならなかった.さて九州に移った頃から米国の医学教育視察団が来日し福岡にも来たが,私は団長として来たDetroitにあるWayne大学の外科の教授Johnstonを教室の病棟回診に案内した.その頃はKüntscherの髄内釘を使ったりBunnellの著書を読んで初歩的なhand surgeryを開始した時であったので,少数の手の外傷の入院患者もいた為にJohnstonは興味をもって回診してくれたが,帰米後1年位して手紙で「手の外科の専門家であるHarry Millerが行くからよろしく頼む.今手の外科の学会のあるのは米国とScandinavia諸国と英国の3学会のみである.日本でも手の外科の学会を始めないか」と言って来た.Harry Millerは昭和31年に九州に来た時にMasonの手の手術の映画とBunnellの手紙を持って来た.この手紙には日本にも手の外科を普及すべきで,そのためには学会を開催するのもよいと書いてあった.又その中に,1952年の米国の外傷に対する災害保険の補償金額も記入してあった.総額6億5千万ドルで,件数は1,920,000件,1件当り390ドルに達している.

調査報告

手術成績におよぼす経過観察率の影響—全人工関節置換術の追跡調査より

著者: 安藤御史 ,   後藤英司

ページ範囲:P.1077 - P.1081

 抄録:全人工関節置換術施行例107名の術後調査より,経過観察順調群,難航群がどのような症例であるかを分析し,手術成績におよぼす経過観察率の影響について検討した.術後1-4年未満と4年以降では経過観察順調群では観察率に有意の差がみられた(P<0.01)ため,術後1-4年未満までは経過観察難航例を無視,あるいは除外しても成績には影響しないが,術後4年以降では経過観察順調群のみの成績は実際の成績よりも常に良くなる傾向がみられた.またこの傾向は術後経過期間が長くなるにつれ強まることが推察された.一方経過観察難航群には成績不良例がより多く含まれていた.従って長期手術成績の検討にあたっては,成績の過大評価を避けるために,かなり高い経過観察率が必要であると考えられた.

装具・器械

小児上腕骨顆上骨折の創外固定法

著者: 藤原紘郎 ,   枝重恭一 ,   川村正英 ,   松田和実 ,   赤堀治 ,   角南義文

ページ範囲:P.1083 - P.1088

 抄録:〈目的〉小児上腕骨顆上骨折の治療法は,徒手整復後ギプス固定,または介達あるいは直達牽引による方法が一般的であるが,後遺症としてとくに内反肘変形を残すことが多く,さらに入院臥床,管理の煩雑さなどの短所がある.これらの諸問題を解決するために,本骨折に対する創外固定法を開発した.〈対象〉3〜4歳以上の上腕骨顆上骨折.〈方法〉尺骨および上腕骨に2本ずつのネジ付キルシュナー鋼線を刺入しHoffmann jointで固定,これを整復装置に取り付けて解剖学的に整復する.そして2個のHoffmann jointを90°屈曲したバーで固定して整復装置から取りはずすと,良好な整復位を骨癒合まで保持することができるという創外固定法である.〈結果〉この方法によって固定中の再転位はなくなり,また患児のADLにほとんど支障なく,牽引療法の短所はすべて解消され,良好な成績をえた.〈結語〉上腕骨顆上骨折の新しい治療法として創外固定法を確立した.

臨床経験

クモ膜下腔に転移した悪性胸腺腫の1例

著者: 竹川克一 ,   伊藤俊介 ,   藤井充

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 抄録:症例は73歳男性.左下肢しびれを主訴として来院し,ミエログラフィーにて完全ブロック騎袴状を呈したため椎弓切除,腫瘍摘出術を施行.病理学的に転移性悪性胸腺腫の診断を得た.術後6カ月にて主訴は消失した.
 胸腺腫は比較的稀な疾患で正岡らの統計で年間768例で,悪性のものは一般に近接臓器に浸潤し,遠隔転移をきたすことは稀である.Seyboldは,1950年49例の胸腺腫の精査にて,遠隔転移はないとし,Bernatzは1961年138人中2人に遠隔転移を認めたにすぎない.転移は主として肝・腎が多く,中枢神経系への転移は我々の検索しえた範囲では14例で,うち脊髄へ転移したものは6例しかなく,クモ膜下腔に転移し,ミエログラフィーにて孤立性の騎袴状陰影を呈したとの報告はなく,きわめて稀な症例であると思われ,文献的考察を加えて報告した.

硬膜内に脱出した腰部椎間板ヘルニアの1例

著者: 中野謙二 ,   渡部圭介 ,   細井哲

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアが硬膜内へ脱出した一症例を経験したので報告する.症例は25歳男性で,主訴は両下肢痛,歩行障害であった.来院時,疼痛著明でほぼ歩行不能であった.両側Laségue 40°(+),両側L5以下の知覚鈍麻両側足関節背屈および底屈筋力2,両側ASR消失,膀胱直腸障害著明であった.ミエログラフィーにてL4/5での前方よりの圧排とほぼ完全ブロックが認められた.L3よりL5の椎弓切除術を施行した.硬膜と後縦靱帯の癒着が著明であった.硬膜切開にて約0.8gの脱出ヘルニアを確認摘出した.L4/5前方で硬膜が椎体後縁の骨棘部分と癒着し,一部欠損していることを確認した.術後6カ月経過した現在,疼痛は消失,両側Laségue(-),両側足関節背屈筋力5,底屈筋力4に回復,膀胱直腸障害も完全ではないが改善を示している,L5以下の知覚鈍麻も改善し,肛門周囲と両下腿外側足底に多少の知覚鈍麻を残すのみとなった.

高圧圧注損傷による後骨間神経麻痺の1例

著者: 鈴木宏 ,   名村臣夫 ,   西川正治 ,   森良樹 ,   小川亮恵

ページ範囲:P.1099 - P.1102

 抄録:症例 45歳,男性.高圧下の合成樹脂が点検中の押出し機より誤って右前腕伸側中枢1/3に注入され,近医にて皮膚縫合を受けたが指MP関節伸展不能となり当科を受診した.X線上異物は認めなかったが,後骨間神経麻痺症状を呈していた為,異物確認と神経修復を目的に受傷後6週目に手術を施行した.回外筋浅頭を切開すると,骨間膜と回外筋深頭間との間に存在する合成樹脂を認め,これが後骨間神経を圧迫し麻痺症状を起したと考えられた.術後4カ月で筋力は正常に戻り原職に復帰しており,何等愁訴は認めていない.高圧圧注損傷による後骨間神経麻痺の報告例は文献上見られず恐らく内外初めての報告と思われるが,高圧圧注損傷症例を扱うに際し注入物質が大量である可能性と組織障害を惹起する化学物質である可能性を常に念頭に置き適切な初期治療を施すべきであることを強調した.

坐骨神経に発生した巨大な孤立性神経鞘腫の1症例

著者: 鈴木基広 ,   永野柾巨 ,   泰江輝雄 ,   福島明 ,   佐藤功一 ,   小勝薫 ,   三浦妙太

ページ範囲:P.1103 - P.1106

 抄録:坐骨神経に発生した巨大な孤立性神経鞘腫の一例を経験したので報告した.症例は48歳男性.約10年前,左大腿後面に無自覚性の小結節を生じ,漸次増大した.来院時,腫瘤は24cm×25cm,弾性硬で圧痛があった.術前検査により悪性新生物を考えて手術を行った.腫瘤は大腿二頭筋の深部に存在し,被膜に包まれ,坐骨神経本幹に連続していた.大きさは19cm×13cm×12cm,重さ1,852gと巨大な腫瘍であった.割面は充実性で,肉眼的には黄白色で一部に出血巣が認められた.病理組織はAntoni A型とAntoni B型の混合型の神経鞘腫であった.坐骨神経に発生する腫瘍には悪性のものが多く,神経鞘腫で,本症例のごとく巨大なものは,今日まで報告がなされていない.症例は術後5年間の経過観察をするも,再発の徴候なく,元気に社会生活を送っている.

大腿骨頸部偽関節を生じた大理石骨病の1例

著者: 白崎信己 ,   浜田博朗 ,   江原宗平 ,   多賀一郎 ,   前田邦雄 ,   原田武雄

ページ範囲:P.1107 - P.1111

 抄録:大理石骨病は易骨折性を特徴とするが,骨硬化のため観血的治療が困難となることが多い.今回,治療に難渋した大理石骨病を経験した.症例は14歳男子で,テニス中受傷.4カ月後,大腿骨頸部骨折後偽関節の状態で来院した.muscle pedicle bone graftの試みは,骨硬化と脆弱性のため失敗し,Knowles pinによる内固定と骨移植にとどまった.術後4カ月でピンは固定性不良のため抜釘され,患者は受傷後1年3カ月現在,偽関節の状態である.文献的にも,本症に対する手術治療は困難とする報告が多く,本症の骨折に対しては可能な限り保存療法を選択すべきである.

神経症状を伴った腰椎盲管銃創の1例

著者: 江原宗平 ,   白崎信己 ,   前田邦雄 ,   多賀一郎 ,   原田武雄 ,   浜田博朗 ,   武田力 ,   米延策雄 ,   冨士武史

ページ範囲:P.1113 - P.1117

 抄録:本邦では脊椎銃創の報告は少ない.今回神経症状を伴った腰椎盲管銃創を経験した.症例は35歳男性.背後から銃撃され弾丸はL3/4右側椎間板へ侵入停止,両下肢に重度の馬尾神経損傷による症状を呈した.骨片,弾丸の摘出,馬尾神経剥離,硬膜閉鎖し良好な神経症状の改善を得た.銃創による脊髄,馬尾神経損傷の麻痺発生機転,治療法選択について文献的考察を加え報告した.

投球動作によって生じた上腕骨内側上顆骨端線剥離骨折の3例

著者: 稲田学 ,   居村茂明 ,   綿谷和男 ,   藤田久夫 ,   園田万史 ,   辻充男

ページ範囲:P.1119 - P.1122

 抄録:最近我々は中学生の野球部員が練習中に投球動作によって生じた上腕骨内側上顆の骨端線剥離骨折の3例を経験した.いずれも骨端線でのseparation fractureで投球動作の最終段階で骨折を生じたものである.3例は何れも観血的骨接合術によって骨癒合は完成した.このうち症例3は前駆症状があり,投球を禁じていた矢先に生じたものである.文献的考察を加えて本病発症のメカニズムならびに野球肘が話題になっている折柄,かかる外傷や野球肘の予防策について私見をのべる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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