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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻11号

1986年11月発行

雑誌目次

視座

高齢者の生きがい作りのために

著者: 山本博司

ページ範囲:P.1191 - P.1191

 私たち高知医科大学に森本正紀学長という実に気宇壮大な大先生がいられたが,今春,御退官になられた.その退官の日に,森本学長は「高齢者の医療のことをたのむよ」としみじみと申された.まさに美しき老盛を過されている先生の短い言葉には深みがあった.
 人生80年の時代が急ピッチでやって来た.目前の21世紀には65歳以上の人口割合が20%に達するであろう.人口の高齢化で,寝たきり老人やぼけ老人も増えるであろうし,当然のことその対策として,医療給付費や老人福祉費も急増し,若い世代に重荷になるであろうとの暗いイメージも浮んでくる.これに対する十分な備えはできないようだし,官民ともにまだ危機感が薄いように思える.これらのことを森本学長は指摘したに違いない.

論述

掌蹠膿疱症性骨関節炎について

著者: 川井和夫 ,   土井田稔 ,   井口哲弘 ,   鵜飼和浩 ,   大野修 ,   広畑和志 ,   藤田久夫 ,   立石博臣 ,   石川斉 ,   八尾修三

ページ範囲:P.1192 - P.1202

 抄録:掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)の臨床病態を知る目的で,自験例41症例の臨床像,X線像,血液像,組織像の検索を行った.PAOは前胸部の有痛性腫瘤を主病変とし,30〜50歳代の女性に好発する.またおよそ30%の症例では脊椎,仙腸関節,末梢関節などにも病変が認められた.これらの骨関節病変は非常に難治性で長期間にわたり寛解と増悪を繰り返していた.鎖骨の肥大は,早期より経時的に追跡できた症例から,骨膜性骨形成の結果と思われた.6例に生検を行ったが,組織学的には皮膚,骨,滑膜病巣部には共通して,多核白血球とリンパ球を主体とする慢性炎症細胞浸潤が見られた.このことから各部位の病巣には密接な関連があり,共通の病因を有していると推測された.臨床的位置づけとしては,PAOをseronegative spondyloarthropathyの一疾患とするには問題点も多いことを指摘した.

転移性脊椎腫瘍に対する後方手術の適応と成績について

著者: 藤原桂樹 ,   米延策雄 ,   冨士武史 ,   江原宗平 ,   山下和夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1203 - P.1210

 抄録:悪性腫瘍の脊椎転移に対して手術療法を施行する場合,当科では病変の局在により前方法・後方法のいずれかを選択している.後方除圧術の適応は,6カ月以上の生命予後が望め,連続3椎体以上の罹患,もしくは後方要素・硬膜外腔への転移症例としている.1968年以来当科で施行した23例の後方除圧例を前方除圧固定術例と比較検討し以下の結果を得た.1)術後成績は疼痛,麻痺の改善ともに前方除圧固定群が最も良好で,次いで後方除圧固定群,椎弓切除群の順であった.2)椎体の破壊が高度で脊柱の支持性が消失した例では固定術を併用しなければ疼痛改善が得られない.支持性良好であれば椎弓切除のみで充分である.3)麻痺の改善については脊髄・馬尾への圧迫因子が前方に存在する症例では椎弓切除のみでは良好な成績は望めない.前方からの除圧,もしくはalignmentを矯正したうえでの後方固定が必須である.

呼吸麻痺性上位頸髄損傷の治療

著者: 冨永積生 ,   伊達和友 ,   大内啓司 ,   片山稔 ,   万代恵治 ,   豊海隆 ,   秋穂靖

ページ範囲:P.1211 - P.1220

 抄録:昭和42年以降に経験した上位頸髄損傷呼吸麻痺症例は28例で,麻痺レベルがC1以上脳幹部にいたるpentaplegia 4例,C2,C3のrespiratory quadriplegia 24例.損傷部位が上位頸椎のもの10例,C2-3,C3以下のもの18例.C3,C3-4,C4レベルのもの8例,それ以下のもの10例.これは上位麻痺への波及損傷となる.骨傷性のmalalignmentのもの24例,非骨傷性のもの4例.これらの症例を呼吸・循環管理のもと頸椎損傷に対する治療を行ったが,いかなる症例が生きながらえ,いかなるものが死にいたったか,その要因をかかげた.
 予後は16例が死亡.麻痺の何らかの改善,下降のもの13例,これらは呼吸障害からぬけ出し人工呼吸器から離脱できた.1例は5年間もいまだ生存する.9例が頸部筋支持増強により支持坐位可能となり家庭に復帰した.

シンポジウム Bioactive Ceramics研究における最近の進歩

バイオセラミックスの分類とバイオアクティヴ・セラミックスの特徴

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 抄録:セラミックスとは結晶質を含む無機の合成固体材料の総称である.そのうち,生体材料やバイオテクノロジーに用いられるものはバイオセラミックスと呼ばれている.生体用インプラントとして用いうるセラミックは2つに大別される.すなわち,バイオイナート・セラミックスとバイオアクティヴ・セラミックスである.前者は炭素材料やアルミナに代表されるもので,生体内で安定で溶出せず,周囲組織と反応することのない材料でしかも生体親和性が良い.後者はBioglass,水酸アパタイト,結晶化ガラスなどであり,生体親和性は極めて良いが,生体内で多かれ少なかれ溶出し,材料の表面に数ミクロンの厚さのアパタイト層が再結晶し,そのアパタイト層と新生骨のアパタイトとが共通の結晶を作るために骨と化学的に結合する性質をもっている.今迄に知られているバイオアクティヴ・セラミックスはすべてCaを含んでいる.

ハイドロキシアパタイトと唾液,血液,関節液との反応

著者: 青木秀希 ,   秦美治

ページ範囲:P.1225 - P.1232

 抄録:ファインセラミックスの一つで,骨組織や皮膚組織と極めて親和性の高いハイドロキシアパタイトが最近注目されている.ハイドロキシアパタイトを素材とした生体材料が体内に埋入される時にまず最初,血液や唾液などの体液と接触し,溶解や蛋白吸着などの反応が起こる.この最初の反応は生体材料の劣化や親和性と密接に関係し,これを明らかにすることは極めて重要である.本稿はハイドロキシアパタイトと唾液,血液,関節液などの体液との反応性を物理化学的,生化学的に検討し明らかにした.六方晶系のハイドロキシアパタイトは体液中で極くわずか溶解する,a軸方向には溶解するが,c軸方向にはほとんど溶解が起こらないことがわかった.また体液中の蛋白質が吸着し,その量は反応時間と共に増大する.特に強固に吸着している蛋白質のアミノ酸組成はプロリンが少なくセリンが多い特徴的なものであることがわかった.

合成水酸アパタイトの骨親和性

著者: 丹羽滋郎 ,   堀正身

ページ範囲:P.1233 - P.1240

 抄録:合成HAの実験的研究にて以下の結果を得た.
 1)骨髄内に移植されたHA顆粒は移植後早期よりHAを中心とした骨形成を示した.
 2)この骨形成はHAの焼成温度により差を認め,800〜900℃にて焼成されたHAが最も優れた新生骨形成を示した.
 3)至適温度で焼成されたHAもその形状により骨形成に差を認め,小さい粒子径のHAが良好な新生骨形成を示した.
 4)至適温度にて焼成したporous HAはその気孔径により骨形成の差を認め,90μmの気孔径を有するporous HAが,最も優れた骨形成を示した.
 5)HAにより形成される骨の形成過程は生体のそれと酷似しており,その骨は生体の要求に合う様にremodelingを受けた.
 上記の結果より合成HAを45例に臨床応用し,現在3年半経過した巨細胞腫例を始めとして全例良好な結果を得ている.

合成水酸化アパタイトとβ Tricalcium-phosphateの実験的研究

著者: 仁科秀雄 ,   石井良章

ページ範囲:P.1241 - P.1247

 抄録:骨置換材料として有望な合成水酸化アパタイト(HAP)とβ Tricalcium-phosphate(TCP)に注目して動物実験を行い,両者の比較検討を行った.
 術後2週でHAP,TCPともosteoidで囲まれ,24週まで経時的に新生骨量は増加した.lmplant周囲の骨形成に関しては両者ともにほぼ同じ反応がみられ,有意な差を認めなかった.

ガラスセラミックスと骨との界面における変化

著者: 木次敏明 ,   山室隆夫 ,   中村孝志 ,   小久保正 ,   高木雅隆 ,   渋谷武宏

ページ範囲:P.1249 - P.1258

 抄録:アパタイト含有ガラスセラミックス(A),アパタイト・ウォラストナイト含有ガラスセラミックス(AW),アパタイト・ウォラストナイト・ウィットロカイト含有ガラスセラミックス(AWCP)の3種類のアパタイト含有ガラスセラミックスを作製し,セラミックスと家兎脛骨の界面の変化を,SEM・EPMAにて調べた.
 元素の変動(Siの減少,Pの上昇,Caはほとんど不変,Mgの軽度の減少)が,セラミックスと骨の界面にて観察され,Ca-P rich layerの形成が認められた.これらの元素の変動は,術後30日より明瞭になった.

True Bone Ceramicsの特長について

著者: 植野裕 ,   桜井啓一 ,   笠松望 ,   栗本公博 ,   青木雅昭 ,   嶋良宗 ,   秋山太一郎

ページ範囲:P.1259 - P.1265

 抄録:自家骨移植には採骨のための追加手術が必要であり,供給量も限られることから同種骨や異種骨,また最近では合成セラミックスが骨欠損部への充填材料として利用される.しかし,同種骨,異種骨移植には免疫反応,合成材料には生体への安全性などの問題が基本的に内蔵されている.私どもはこれらの問題を解決するために,天然骨(哺乳動物)を焼成することにより骨構造をそのまま温存した完全な除蛋白骨—焼成骨,True Bone Ceramics,TBC—を開発した.この素材は元の骨構造を温存していること,無機質は結晶化した骨塩であることが特長である.組織学的実験では優れた組織親和性,骨形成性が示され,更に新生骨基質がTBCの内部に侵入する積極的な結合も観察された.TBCは生体と一体化し癒合してゆく興味ある素材として私どもは高く評価しており,臨床上も優れた効果を得ていることから自家骨に代り得る骨移植材料として期待される.

整形外科を育てた人達 第43回

Johann Friedrich August von Esmarch(1823-1908)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1266 - P.1269

 今日四肢の外科には出血を可及的に少なくする方法としてEsmarchの止血帯が用いられているが,この止血帯を考案したのが長い名の外科医Johann Friedrich August von Esmarchである.欧州では1800年代にも各地で戦争があり,その戦傷者の治療の研究者として有名であり,その研究成果の一つが止血帯である.

手術手技シリーズ 関節の手術<上肢>

肘関節拘縮に対する関節解離術

著者: 阿部宗昭

ページ範囲:P.1271 - P.1280

はじめに
 肘関節の拘縮に対する手術法の呼称に関し若干の混乱があるように思われる.すなわち,関節形成術,関節授動術などが用いられているが,拘縮に対する手術法の呼称としては必ずしも適当でないように思われる.関節形成術は強直した関節や破壊された関節に対し関節切除を行い中間挿入膜や人工関節によって新たな関節を形成する術式に対して用いられるべきであろう.関節授動術は強直や拘縮した関節に可動性を持たせる術式のことでより広い意味での呼称であり非観血的な方法も含まれることを考慮すると拘縮に対する手術法の呼称としては必ずしも適当でない.
 関節解離術arthrolysisは本邦では一般化していない呼称と思われるが,Kessler10),関16)等も記載しており,肘関節拘縮に対し可動性を持たせるための術式を描写するのに最も適当な呼称と考えられる.本稿では,日常,比較的遭遇する機会の多い,主として外傷に起因する肘関節拘縮に対する関節解離術について著者が行っている術式の詳細とその適応について述べる.

臨床経験

距骨に嚢腫様変化を呈した色素性絨毛結節性滑膜炎(PVS)の1例

著者: 大田秀一 ,   浜田勲 ,   中村孝志 ,   林卓司 ,   綿谷茂樹

ページ範囲:P.1281 - P.1285

 抄録:症例は66歳男性.主訴は右足関節痛.昭和48年某医にてPVSと診断され滑膜切除術をうけた.昭和51年他医にて距骨骨嚢腫と診断されるも放置していた.昭和59年6月嚢腫様病変の拡大を指摘され同年9月当科に入院した.レ線上距骨体部内側に嚢腫様骨透明巣を認め,足関節周囲軟部組織は軽度腫脹し,CT上軟部組織内にややhigh densityの部分が混在していた.PVSの再発を疑い手術を施行した.足関節周囲には多数の有茎性結節状腫瘤を認め,距骨体部内側のosteo-chondral junction近傍に直径約2mmの小孔が開存し,唯一これが嚢腫様病変部に通じていた.骨皮質を開窓すると足関節周囲と同様の結節状腫瘤が充満し,組織学的にもPVSの所見であった.手術は病巣郭清後腸骨骨移植を行った.PVSにおける骨破壊機序には諸説あるが,自験例では距骨の栄養動脈の1つである後脛骨動脈からの三角靱帯枝の血管孔経由でPVS組織が距骨内へ侵入したものと推測された.

結核性重度亀背変形に対する腓骨支柱骨移植と内固定術の経験

著者: 熊野潔 ,   宮下裕芳 ,   石田哲也 ,   侭田敏且 ,   大石陽介 ,   三上凱久

ページ範囲:P.1287 - P.1291

 抄録:2例の結核性重度亀背変形の治療経験の報告である.症例1は35歳男性,腰背部痛を主訴.Cobb角100度の陳旧性脊椎カリエスで,Halo-pelvis装置を装着後に左前方進入法によって腓骨支柱骨移植と肋骨骨移植を行い術後もHalo-pelvis装置で固定した.術後7年の現在Cobb角73度に矯正され疼痛は軽減した.症例2は44歳男性,左結核性距踵関節炎を合併した活動性カリエス.亀背はCobb角110度であった.左前方進入法にて病巣郭清と腓骨支柱骨移植と腸骨骨移植を行い,更にSlot-Zielke Instrumentationを行った.術後は,外固定を用いず2ヵ月間の臥床の後起立歩行を開始.術後1年半の現在,再発の徴候もなくCobb角98度に矯正されている.4cm〜11cm長の腓骨を用いたが骨癒合は良好であり支柱骨として適している.症例2では,感染創の中に金属内固定具を用いたが,強固な固定力が得られて早期の離床と骨癒合が得られ良好な結果であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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