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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻12号

1986年12月発行

雑誌目次

視座

"筋"への取組みを祈念して

著者: 野島元雄

ページ範囲:P.1295 - P.1295

 本邦における"筋"の基礎的研究は現在世界のトップレベルにある.対照的に,骨,軟骨についての基礎的研究は,専ら私共整形外科医がそのリーダーシップをとっていると申して過言ではないと考える.
 "筋"の異常といえば,神経筋疾患を想起されようが,その蘊奥をきわめていただきたいと申し上げているのではない.神経内科,内科,小児科医らと協力し,限られたライフスパンを余儀なくされる患者たちに対して,惹起される拘縮,変形(四肢のみならず,脊柱,胸郭を含んで)に対して,対処上よき協力者になっていただきたいと切望する.この神経筋疾患は,筋が"なくなりつつある,なくなった整形外科"ともみなされる.著者自身の私事にわたって恐縮であるが,ちょっとしたかかわり合いを申し上げる.

論述

青壮年期重度変形性股関節症に対する関節固定術の長期遠隔成績

著者: 祖父江牟婁人 ,   河野左宙 ,   河路渡

ページ範囲:P.1296 - P.1307

 抄録:重度の変形性股関節症に対して,再び無痛の支持性と可動性を獲得させることは,人間の生きがいにつながる.その点でCharnley2)のlow friction理論の下に完成した全人工関節置換術は,一応,その目的を達成し得る手術法である.しかしながら,その摩耗,弛み,感染など,いまだ未解決の問題点を多く残しており,若年者に対しては現在のところその適応はない.一方,関節固定術はAlbee1)の発表以来,Lange, M.11)などにより大いに推奨された方法であり,良肢位固定により得られた無痛の支持性は永久的である.しかしこの固定術にも,至適固定角度,年齢的限界,隣接関節への影響,日常生活上の不自由さなど,長期的にみて検討すべき問題点がある.これらの点を考慮して固定術の正しい適応を知る目的で,我々の症例を調査分析した.その結果は,殆んどの患者が,股関節固定術による無痛の支持性に満足しており,隣接関節への障害,日常生活上の不自由などの問題点は,いずれも軽度で,各自の工夫や,周囲の協力により対処できる範囲内のものであった.股関節固定術は,青壮年期の片側重度変股症に対して人工関節全盛の現在にも,十分適応があると考えられる.

変形性股関節症に対するTHRの長期成績—股関節症における骨の増殖性変化とloosening

著者: 斉藤正伸 ,   西塔進 ,   仁科哲彦 ,   清水信幸 ,   大園健二 ,   高岡邦夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1309 - P.1318

 抄録:股関節症に対するTHRにおいて,人工関節のゆるみに影響する生体側の因子として,術前の股関節症の増殖性変化の程度とTHRの術後成績との関連を検討した.対象は術後5年以上経過した63関節で,osteophyteの形成の強さから股関節症をhypertrophic type,normotrophic type,atrophic type(以下H型,N型,A型)の3型に分類し,ソケットおよびステムのゆるみとの関連を検討した.ステムのゆるみは股関節症分類と関連しなかったが,臨床成績,ソケットのゆるみは股関節症分類と関連した.術後5年の臨床成績はA型が最も低く,X線学的ソケットのゆるみはH型6%,N型8%,A型41%とA型に高頻度であった.最終調査時の臨床成績は,術後5年で安定していたN型の成績が低下し,X線学的ソケットのゆるみはH型12%,N型33%,A型46%とN型での増加が著しい.以上,術前の股関節症分類はソケットのゆるみと関連し,H型が成績良好でA型で最も劣っていた.

シンポジウム セメントレス人工股関節

セメントレス人工股関節

著者: 古屋光太郎

ページ範囲:P.1319 - P.1320

 人工股関節置換術(以下THRとする)を行う場合に,従来より行われてきた骨セメント固定型人工股関節を挿入するか,セメントレス型にするか議論の多いところであり,それぞれ一長一短があって優劣つけがたいのが現状である.
 わが国にTHRが導入されたのは1970年前後であり,その後急速に普及し,最近は10年以上経過例が増え,人工股関節のゆるみ,HDPソケットの摩耗,感染などの合併症がクローズアップされ,再置換手術が高頻度に行われるようになって来た.そこでrevisionsurgeryには有利であると一般に考えられているセメントレス人工股関節が注目され,国内・国外を問わず種々の型の骨セメントを使用しない人工股関節が考案・開発され漸次普及されつつある.今回はかかるtypeのTHRを比較的多数例手がけられている諸先生に各自使用されているtypeの特徴,問題点および臨床成績につき述べていただき,最後に寺山先生より現在なおTHRの主流で,しかも信頼のおかれているセメント使用のCharnley型人工股関節の長期成績をふまえた上での本型の長所と限界,さらにセメントレス人工股関節の問題点につき言及していただくこととした.

セメントレス人工股関節(R. Judet)の手術手技の問題点と治療成績

著者: 弓削大四郎

ページ範囲:P.1321 - P.1328

 抄録:R. Judetのセメントレス人工股関節全置換術を1976〜1986年の10年間に127例,145関節を行った.この人工股関節の形状,関節機構,多孔性表面への新生骨進入による錨着という特性のため,他のあらゆる人工股関節に比べて手術手技には特異性があり,特殊な手術器械を使いこなすための習熟度が要求される.手術手技上の問題点は,第1に二次性変股症で寛骨臼の不定型なかつ骨性ストックの乏しい症例に対して円柱形の人工臼を十分に収容するための骨性洞孔を作り,これを理想的な角度に固定するためのテクニックであるが,このためcenter-hole drillを作り,Protrusion acetabulaireという方法を開発した.第2は骨髄腔の狭窄な症例の大腿ステム挿入時の骨折にR. Judetのbracelet élastequeを用いることで満足すべき結果をえている.
 術後2年以上経過したPrimary T. H. R.(69例,83関節)の治療成績は優と良が83.1%(術前2.4%)で,改善度は43.4点(J. O. A.評価)であった.Revisional T. H. R.(すべてloosening)では臼側5例のうち優と良は2関節76点,大腿側は2関節とも良93点であった.

セメントレス人工股関節—LORD式使用の立場から

著者: 一青勝雄

ページ範囲:P.1329 - P.1335

 抄録:最近骨セメントを使用しない人工股関節が注目を集め,内外を問わず普及しつつある.骨セメントを使用せずに人工股関節を固定する方法としてLord式は,臼蓋側をネジ込み式,大腿骨側は表面球状のmadreporique typeを用いている.本邦では臼蓋形成不全の強い症例が多く,臼蓋側componentをネジ込み,initial anchorageを得るのに苦労する場合が多い.その際の手技上の工夫として,臼蓋底を意識的に破ってringを中心性脱臼位に入れる場合と,急峻なacetabular roofにあらかじめ植骨をしてから臼蓋をreamingしてringをネジ込む方法とを用い,現在までほとんどの症例に骨セメントを使用せずに,biological anchorageが得られている.
 1979年より現在まで100関節にLord式人工股関節を使用し,その内2年以上直接経過観察しえた54関節について臨床成績を検討しほぼ満足できる結果であった.

セメントレス人工股関節—慈大式の立場から

著者: 富田泰次 ,   室田景久 ,   今井敬人 ,   金尾豊 ,   杉山肇 ,   大谷卓也 ,   林靖人 ,   頴川功 ,   小野誠 ,   布村成具 ,   肥後矢吉

ページ範囲:P.1337 - P.1345

 抄録:著者らは昭和45年以降,一貫して骨セメントを用いない慈大式人工股関節を使用しているが,今回,術後5年以上経過した症例のうち,107例110関節について直接検診し得たので,術後成績を検討し,セメントレス人工股関節の問題点について述べる.
 術後成績は,日整会判定基準で術前平均38点であったものが,術後平均78.6点と改善されていた.しかし,術後10年以上経過した症例のなかで,日常の活動性の高い症例では,術後10年頃より徐々に成績が低下するものがみられた.

セラミックセメントレス人工股関節の適応と問題点

著者: 浅井富明 ,   長屋郁郎 ,   古沢久俊

ページ範囲:P.1347 - P.1355

 抄録:骨セメント使用の従来のTHRは短期成績は良好であるが長期的にみると骨と骨セメント間のゆるみの発生が問題となる.当科で1982年6月より施行したセラミックバックのセメントレスソケットを用いたTHRのうち半年以上を経過した61例69関節の臨床成績を検討した.疾患別では変股症が49例56関節と最多で,以下RA,大腿骨頭無腐性壊死,大腿骨頸部骨折の順であった.変股症の手術時平均年齢は53.6歳±5.1,臨床成績は術前45.0±14.7が術後3年で80.2±11.5と改善した.成績の安定までにやや期間を要した例もあった.高度臼蓋形成不全に対する切除骨頭移植なども一因と考えられたが,セメントレスソケットが骨性臼蓋に強固に固定されるのにある程度の期間を必要とする症例もあるためと推論された.本術式は術直後の除痛効果に少しく難点を有する例もあるが,長期の耐用性が期待でき,変股症を始めとする各疾患の若年者に対する手術法として十分に適応があると思われた.

何故セメント使用の人工関節を行っているか

著者: 寺山和雄

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 1.骨セメントの功罪
 形状の完全に一致しない固体を接合しようとするときに,界面間に流体を注入し,その流体が硬化することによって接合されるのはもっとも合理的である.いかに骨母床との適合性のよい人工関節であっても,流体を注入するほど広い接触面積を獲得することは不可能である.現在用いられているアクリル骨セメントには問題があるものの,セメントという形で人工関節を固定しようという理念は間違っていない.骨セメントそのものには接着能力はなく,骨表面の凹凸に密に入り込んだセメントが硬化して錨着されるだけである。よって骨セメントは主として圧縮応力を分散伝達するのに役立ち,引張り応力には原則として抵抗しうるものではない.骨セメントは皮質骨と海綿骨の中間の弾性率を有し,人工関節部品に加わった応力を無理なく皮質骨に伝達する.このような性質をもつ骨セメントは即時性にかつ簡便に人工関節を骨母床に固定させることができる優れた材料であり,この特性を活かして使用される限り十分な耐用性が期待できる.

整形外科を育てた人達 第44回

Prof. Dr. Hans Spitzy(1872-1956)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1358 - P.1361

 第一次世界大戦が勃発したのは1914年であったが,その8年前の1906年から4年間プロシア国内の肢体不自由児の実態調査をしたKonrad Biesalskiが1910年にその結果を発表し,身体的に障害を有する者に対する福祉行政に大きな刺激を与えた.戦争が始まると多数の負傷兵が発生するのは当然であるが,その負傷によって起る身体の障害を克服し可及的に自立せしめる必要のあることを認め,これを実現させることをKriegskrüppelfürsorgeと言って,整形外科の専門家が相談し3大都市に単なる病院ではなく,医療から社会復帰までを行う施設を建設することにした.BerlinはBiesalskiが,MünchenはFritz Lange,WienはHans Spitzyが指導することになった.この3人の中でLangeが一番先輩で,1909年に第8回ドイツ整形外科学会の会長を務め,Spitzyは開戦の前年1913年の第12回の会長,Biesalskiは戦後1921年の会長となっている.この3人は有力な整形外科医であった.

手術手技シリーズ 関節の手術<上肢>

手関節固定術

著者: 三浦隆行

ページ範囲:P.1363 - P.1372

 手関節固定術は,慢性関節リウマチ,関節結核などの関節炎治療,麻痺などによる不良肢位の矯正保持,外傷後の有痛性関節症などに対して有効な手術として多用され,既に1942年にはAbbott1)が多くの手術法があることを述べている.現在までに報告された主な手術法のみでもSmith-Petersen(1940)16),Abbott(1942)1),Colonna(1944)7),Butler(1949)3),Haddad & Riordan(1952)9),Evans(1955)8),Stein(1958)17),Robinson & Kayfetz(1962)15),Thomas(1965)18),Claytom(1965)5),Mannerfelt & Malmsten(1971年)11),Carroll & Dick(1971)4),Millender(1973)12),Larson(1974)10),Allende(1979)2),Rayan & Clark(1982)13,14)と数多くの術式がある.このように数多くの手術法があるということは逆にまた一般的に採用され得るとくに優れた手術術式がないことも意味している6)

臨床経験

距骨に発生した単発性骨嚢腫の1例

著者: 酒井亮 ,   小宮節郎 ,   南野盛二 ,   柿添光生 ,   生田久年 ,   井上博 ,   井上明生

ページ範囲:P.1373 - P.1377

 抄録:距骨に発生した極めて稀な単発性骨嚢腫の1例報告.症例は30歳,男性で左足関節の運動痛を主訴とし,X線で外側距腿関節面直下に嚢腫病変を認めた.外傷の既往がない点,穿刺による漿液性の液体の逆流,並びにその細胞診の所見,術中に関節軟骨面が正常にみえた点,内容物の病理組織像等により滑膜嚢腫と鑑別することができた.治療は掻爬・骨移植で10ヵ月目の現在,経過良好である.長管骨の骨嚢腫と対比して,本疾患のrarity,etiology,治療法について考察してみた.

両側足底部線維腫症の1例

著者: 成島勝之助 ,   冨地信和 ,   加藤良平 ,   矢川寛一 ,   一戸貞文 ,   阿部正隆

ページ範囲:P.1379 - P.1382

 抄録:症例は61歳女性で,数年前より両側足底部に腫瘤があったが放置していたところ,増大傾向がみられたため某医受診し,手術を奨められ昭和60年3月岩手医大整形外科に来院した.受診時右2×2cm,左1×1cmの腫瘤を触知したが,発赤・熱感・足趾の運動障害はみられなかった.昭和60年6月同部の腫瘤切除を行ったが,周囲との癒着は認められなかった.肉眼的には両側とも足底腱膜に一致して腫瘤を認め,割面は灰白色を呈しており,組織学的に腫瘤の周辺部は豊富な膠原線維からなり,中心部では紡錘形の細胞成分の密な部分がみられた.
 以上より両側足底部に同時期に発生したDupuytren型線維腫症いわゆるLedderhose病と診断した.また,Luckの分類ではinvolutional stageに相当する像と思われた.本邦では足底部のDupuytren型線維腫症の報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.

Marfan症候群(不全型)に伴う頸椎高度後彎変形の1治験例

著者: 手塚正樹 ,   里見和彦 ,   若野紘一 ,   平林洌

ページ範囲:P.1383 - P.1388

 抄録:Marfan症候群不全型に伴う頸椎高度後彎変形の1症例を経験したので報告する.症例は21歳,男性,主訴は頸部後屈障害と硬直感であった.頸部は約30°前傾し,後屈は著明に制限され,長身痩躯,蜘蛛状指,漏斗胸を呈していた.心エコー検査で僧帽弁の逸脱と,軽度の先天性白内障が認められた.頸部X線所見では,C4〜C6に58°の後彎変形と,C4/5,5/6,6/7椎間の椎体上下縁に著明な前棘及び各椎間の軽度の前方辷りがみられ,C1/2間には前方亜脱臼が認められた.Marfan症候群の脊柱変形は一般に進行性であり,将来おこりうる神経障害の予防のため,後彎の矯正とともに強固な脊椎固定が必要であると判断した.Haloを装着し,徐々に牽引し,後彎32°でhalo-vestを装着した.頭蓋牽引下で一期的に前方解離→後方固定(Luque rodを使用)→前方固定術を施行した.術後の後彎度は5°と著明に改善し,強固な固定にも拘らず,20°の可動域が保たれている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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