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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻5号

1986年05月発行

雑誌目次

巻頭言

第1回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するにあたって

著者: 野村進

ページ範囲:P.529 - P.530

 日本整形外科学会では,毎年春に総会と年次学術集会を同時に開催していますが,この学術集会を基礎と臨床に分離してはという意見が,第52回日整会津山直一会長により提唱され,以来検討を重ねた結果,昨年の第58回赤星義彦会長の時にその分離が決定され,本年の第1回基礎学術集会を私が担当することになりました.
 顧りみますと昭和48年に骨・関節の基礎を語る会が発足し,昭和56年には整形外科基礎研究会と改称され,昨年の第13回まで発展して参りました.しかしこの研究会も演題数の増加や,若い研究者だけを対象とする会として無理が生じ,もはや研究会というよりは学会という方が適切な状態となりました.

論述

最近の化膿性脊椎炎について—10年間の臨床経験から

著者: 宮本達也 ,   大谷清 ,   柴崎啓一 ,   中井定明

ページ範囲:P.531 - P.539

 抄録:最近10年間に経験した化膿性脊椎炎37例の,臨床像,診断と治療を検討した.性別は3:2で男性に多く,平均年齢は50歳で,最近の傾向として男女比の均等化,患者の高齢化を認め,以前の10年間と比較して,患者数が約2倍に,結核性脊椎炎との比率が約4倍に増加した,罹患高位は約70%が腰椎以下であり,初診時診断は15例が結核性脊椎炎であった.慢性経過例が多いが,約50%に初発時,発熱と疼痛を認めた.先行感染症は尿路系感染症が最も多かった.疼痛以外に腹部症状の愁訴が多く,腹部疾患との鑑別が重要である.対麻痺と尿閉を各1例に認めた.X線像で椎体の破壊と骨新生の混在するものが多く,結核性脊椎炎との鑑別が困難であった.
 初期に適切な化学療法を行えば,約3ヵ月間の保存的治療で治癒した.陳旧例や確定診断がつかないものなど,約70%に手術を行い経過良好であったが,再発防止のため長期間の管理が必要である.

頸椎・頸髄損傷のCT診断

著者: 小柳泉 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   杉本信志 ,   阿部弘 ,   斎藤久寿

ページ範囲:P.541 - P.547

 抄録:最近経験した頸椎・頸髄損傷23例のCT所見と頸椎単純撮影を比較し,頸椎外傷に於るCTの診断的及び臨床的有用性を検討した.CTはJefferson骨折,Hangman骨折の診断,歯突起骨折に伴う脊椎管の狭窄の描出に優れていた.椎弓骨折,下位頸椎の脱臼・骨折は,頸椎単純撮影では診断が困難な場合があり,CTが有用であった.特に,前方脱臼では,片側性か両側性かの鑑別がCTでは容易であった.CT-Myelography(CTM)は,脊髄に対する圧迫及び脊髄自体の形態,特に腫大像をみるのに適していた.我々の症例では,CTM上明らかな脊髄腫大がみられた症例の予後は悪く,今後,このような症例に対しては,myelotomy等の内減圧を含めた治療の検討を要すると思われた.

悪性軟部腫瘍の肺転移の治療

著者: 姥山勇二 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   井須和男 ,   加賀美芳和 ,   平田保 ,   高瀬浩 ,   平井靖夫 ,   本間仗价

ページ範囲:P.549 - P.558

 抄録:現在悪性軟部腫瘍では,肺転移が出現すると2年以上生存することが難しい.我々が経験した80例の肺転移例中開胸手術を行った症例は5例である.肺転移が直接死因となった65例のうち肺転移後2年以上生存した症例は8例(12.3%)であった.開胸手術5例中4例が2年以上生存しており,開胸手術例の転移後の生存期間は非手術例のそれよりも長くなっている.しかし開胸手術にて肉眼的に病巣がすべて除去されても,新たに出現する肺転移巣の発育阻止の治療をひきつづき行わなければ,また肺転移が出現し開胸手術は単なる延命効果に終わってしまう.外科的治療の適応がない場合には,限局した大きな病巣に放射線治療を行い腫瘍の数や大きさを減らすことによって延命効果が期待できる.肺転移の治療の基本は化学療法であるが,病状に応じて手術治療や放射線治療を補助的手段として積極的に活用することが,治療成績の向上に必要である.

筋肉内脂肪腫と筋層間脂肪腫について

著者: 青池和彦 ,   赤堀治 ,   近藤陽一郎 ,   橋詰博行 ,   宗友和生 ,   山本和司 ,   赤木健 ,   横田忠明 ,   佐藤和道 ,   小倉丘

ページ範囲:P.559 - P.563

 抄録:過去10年間にわれわれの経験した脂肪組織由来の良性腫瘍のうち,筋組織と深い関係を有するintramuscular lipoma,intermuscular lipomaはそれぞれ5例であった.両者とも成熟した脂肪細胞よりなり増大傾向が大きい.しかしintramuscular lipomaは筋層内脂肪組織に由来し,腫瘍内に筋線維の存在することが特徴であり,通常被膜を有せず浸潤性に増大する.一方intermuscular lipomaは筋層間脂肪組織に由来し,したがって腫瘍内に筋組織はみられず,通常被膜を有している.CT検査はその存在部位やひろがり,両者の鑑別にたいして有効な手段であった.従来多くの著者は両者を同一カテゴリーに入れている.しかしEnzingerは彼の最新分類で両者を区別しており,われわれもまたその存在部位,組織学的差異などにより両者を区別して論ずるべきであると考える.

若年変股症における大腿骨骨切り術後臼蓋変化のX線学的検討

著者: 丹野隆明 ,   大井利夫 ,   木村純 ,   大西正康 ,   平松健一 ,   井合洋

ページ範囲:P.565 - P.575

 抄録:1968年から1984年までに当院で大腿骨骨切り術を施行した思春期及び青・壮年期変股症16名18関節において,術後X線上の臼蓋変化を経時的に検討した,検討項目は,荷重面骨硬化像の形態,荷重面開角の経時的変化,荷重面骨硬化像の拡大方向,荷重面傾斜角と骨頭被覆度,臼蓋側骨梁の5つとした.
 外反(減捻)骨切り術後の臼蓋変化には一定の傾向が得られなかった.内反(減捻)骨切り術後,約半数例に荷重面骨硬化像の厚さの減少と内下方延長を認め,後者は術後1〜2年の間に出現,術後頸体角120〜140度を示す症例に多かった.これらの荷重面開角と荷重面傾斜角は増大し,新荷重面による骨頭被覆度が改善することを見出した.臼蓋側骨梁では術後約半年より外側骨梁の菲薄化と内側骨梁の明瞭化を認めた.これらは荷重線の内方傾斜と荷重応力の分散化を示唆しており,本治療の際には術後の臼蓋変化を予測し行うことが大切であると考えた.

上腕骨小頭骨折の治療経験

著者: 西島雄一郎 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦

ページ範囲:P.577 - P.583

 抄録:上腕骨小頭骨折を8例経験した.年齢は15〜89歳で,骨端線閉鎖後の青年および老年である.Granthamの分類で骨折型を分類すると,Type Iはなく,Type II A 6例,Type III B 2例であった.Type III Bの1例を除いて全例,fat pad sign陽性であった.治療は転位のきわめて軽度な1例を除いて,7例に観血的整復固定術を行った.固定材料はKirschner鋼線か,AO microscrewである.直接検診6例,電話での質問2例で,予後を追跡した.予後追跡期間は最短1年から最長,5年3ヵ月である.予後調査時,肘関節痛はないか,あっても軽度で,関節可動域は軽度の伸展障害を残すものの,著しい制限を示す例はなかった.予後成績は優3例,良5例でありほぼ満足すべき結果を得た.本症の診断にはfat pad signは有用である.治療について,一部で,骨片の摘出術が推奨されているが,観血的整復固定術でも良好な予後が得られた.

手術手技シリーズ 関節の手術<上肢>

肩関節の腱板に対する手術

著者: 遠藤寿男

ページ範囲:P.585 - P.591

はじめに
 肩の腱板(rotator cuff)断裂の治療としては,保存療法を優先すべしとする意見と積極的に手術療法をすべしとする意見がある.保存療法を優先する理由として,腱板断裂が発生し一時的に肩挙上が不能となってもやがて挙上が可能となること,剖検例の約3〜21%に完全腱板断裂を認めること,陳旧性の広範囲断裂では修復が難しい.積極的に手術をすべしとする理由として,腱板断裂があると完全な肩自動運動が望めず肩運動痛や運動制限のあること,夜間痛のあること,筋力の低下などをあげる.
 不完全断裂については,まず保存療法で経過を見る人が多いようである.完全断裂についてはarm drop signや肩筋力弱化や運動痛や肩機能として問題が残ることが多く手術をする人が多い.

手術手技 私のくふう

血管柄付き肋骨による脊椎Anterior Strut Bone Grafting

著者: 大谷清 ,   宮本達也 ,   根元健二 ,   塚原茂 ,   吉田宗人 ,   中井定明 ,   柴崎啓一 ,   相原忠彦

ページ範囲:P.593 - P.599

 抄録:我々は主として脊柱後彎,後側彎の矯正・固定術に移植骨として遊離腓骨を用いてきた.その30余例をfollow upしたところ,約10cmの腓骨が完全に生着するには約2年を要することが解った.Strut boneがより早く生着して,外固定期間を短縮するためには血管柄付き肋骨の使用がすぐれていると考え,追試してみた.本法はBradford(1980)が報告し,以後諸家によってすぐれた成績が報告されている.我々は現在まで胸椎カリエス3例,胸腰椎部骨折2例,胸椎化膿性骨髄炎1例の計6例に本法を行い,経過は良好である.
 本法は手技的に容易であり,手術侵襲も軽く,推奨できる手術である.

整形外科を育てた人達 第37回

Lord Joseph Lister(1827-1912)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.600 - P.603

 前回はJames Symeについて書いたが,その時Joseph Listerの夫人はSymeの長女Agnes Symeであると記述した.そのためSymeについて資料を集めていたら同時にListerに関係のある資料が集まったので今回は外科的手術の最大の問題である創の感染の防止に成功した英国の生んだ偉大な外科医であるLord Joseph Listerについて書くことにした.Listerは外科医であるが,彼が最初に制腐術に成功したのは開放骨折で,それによって整形外科が観血的療法に領域を拡げることのできた事を思えばListerも整形外科を育てた人達の中でも偉大な存在である.

臨床経験

胸骨に限局性の骨病変を形成した骨クリプトコッカス症の1例

著者: 片岡祐司 ,   川島弘三 ,   熊沢宏 ,   岩田久 ,   三浦克敏 ,   佐野光一 ,   白澤春之

ページ範囲:P.605 - P.609

 抄録:クリプトコッカス症の骨感染は10%以下とされる.現在までに骨感染を伴うクリプトコッカス症の報告は130例であり,本邦報告は著者らの症例を含め6例である.これらの文献報告のうち,骨限局のクリプトコッカス症は,更に少ない.著者らは胸骨限局の骨クリプトコッカス症を経験したので,臨床経過,臨床検査,治療について報告するとともに,骨カリエスや他の真菌による骨感染症について,その鑑別点を述べた。また著者らの症例に対し文献的考察を試みた.

Achondroplasiaに伴う後彎変形の病態と治療成績—5症例報告

著者: 宮津誠 ,   竹光義治 ,   原田吉雄 ,   今井充

ページ範囲:P.611 - P.618

 抄録:骨端軟骨異栄養症(achondroplasia)に伴う後彎変形の病態と治療上の諸問題について検討した.対象は,5例で男2例,女3例であり,円背型後彎4例,突背型後彎1例,前者中combined typeの脊柱管狭窄を合併した53歳男子1例があった.方法は,矯正用装具と傍脊柱筋増強訓練による保存的療法が2例,脊柱管狭窄の例は手術を現在すすめている.手術的療法は,突背型後彎で有神経症状例に対する前方除圧固定術と,突背型変形への徴候が見られた症例への予防的後方固定術であった.装具を用いた2例とも後彎の矯正は良好で,1例は,45°あった後彎角が9°と改善され,装具を除去してもその再現性がない.突背型後彎例の手術結果は,術前の神経症状は完全消失したが,6歳で後方固定術を行った1例は,術後一過性に対麻痺が発生し,instrumentationの除去を余儀なくされた.以上より,脊柱管が狭い本症への後彎治療上の諸問題について検討した.

頸椎部硬膜内髄外に発生した悪性リンパ腫の1例

著者: 村田英之 ,   下小野田曄夫 ,   渡辺勝典 ,   小林剛 ,   藤原敏弘 ,   井上哲郎

ページ範囲:P.619 - P.623

 抄録:悪性リンパ腫はその経過中にしばしば神経合併症の発現をみるが,脊髄への侵襲は硬膜外リンパ腫が大部分で,硬膜内の発生は稀である.今回,我々は上肢のradiculopathyを初発症状とし,頸椎部硬膜内髄外に発生した1例を経験したので報告する.
 症例は64歳の男性で,右上腕の疼痛・筋萎縮を主訴として当科を受診した,神経学的には右C5・C6神経根を中心とする障害が認められたが,long tract signはなかった.単純X線像では軽い頸椎症性変化をみるのみで,ミエログラムではC5・C6にかけ脊髄が右側より圧迫され,右くも膜下腔は消失していた.手術所見では,腫瘍はC5・C6・C7の右側硬膜内髄外に位置し,各神経孔にまで侵入しC6神経根は融解消失していた.組織学的には,びまん性混合型の悪性リンパ腫であった.術後,脳神経症状の発現をみたが,メソトレキセート,プレドニンの髄腔内投与,放射線照射により症状の改善をみた.

大腿骨頸部骨折に対するケタミン・ジアゼパム持続点滴麻酔法の使用経験

著者: 渡部圭介 ,   山田総平 ,   中野謙二 ,   細井哲 ,   東明彦

ページ範囲:P.625 - P.628

 抄録:老人の大腿骨頸部骨折の際に一般に問題となってくる事は,より侵襲の少ない手術法の選択とともに麻酔法の選択である.今回,我々はケタミン・ジアゼパム持続点滴麻酔法を19症例に使用して良好な結果を得,心疾患等のhign risk患者へも十分利用できるものと確信した.麻酔導入として,0.1%ケタミン溶液500ml中にジアゼパムを10mgから20mg混入し,点滴ポンプにて持続点滴を施行する.本麻酔法の特徴として呼吸抑制はほぼ皆無で,術中・術後共に良好な自発呼吸を認め,前投薬処方後舌根沈下を観た1例を除き,気管内挿管を必要としなかった.覚醒遷延を2例10.5%認めるも,ケタミンの主たる副作用である神経症状はジアゼパムの併用にて解消され1例にも認めなかった.術後24時間後に95歳の1例に急性心筋梗塞の発症を認めたが,ケタミンの代謝等を考慮すると直接的な関連性は少ないものと思われた.

少年期の高度脛骨内反変形に対するtransepiphyseal osteotomy

著者: 菅野吉一 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   安田和則 ,   柘植洋

ページ範囲:P.629 - P.636

 抄録:少年期の進行性の脛骨内反変形をきたした症例に保存的治療,骨切り術での矯正は困難である.Langenskioldはelevation of medial condyle of tibia(transepiphyseal osteotomy)を報告したが,術後成績を報告した文献はほとんどみられなかった.我々はtransepiphyseal osteotomyを3例4膝,(Blount病infantile type 1膝,adolescent type 1膝,pseudoachondroplasia 1例2膝)に行った.全例とも脛骨成長帯完全閉鎖時の調査では下肢アライメント,関節の適合性,安定性は良好であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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