icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

視座

この頃思うこと—細菌のリハビリテーションについて

著者: 嶋良宗

ページ範囲:P.641 - P.641

 目覚しい医学の発達は,二つの忘れられない画期的な出来事を介して,化膿性骨髄炎による死亡率の様相をも一変した.その第一は,近代医学の恩人といわれるL. PasteurやR. Kochらによる細菌学の進歩であり,また,Pasteurの学問を実地面から裏打ちしたJ. Listerの防腐法が広く採用されるようになってから,最初の死亡率激減をみるようになったことである.細菌学が当時の医師に普及し,防腐法が応用された前後の感染症治療状況を調べると,次の事実が判明した.つまり,前に起きたクリミヤ戦争(1853〜1856年)では,フランス軍309,268人中,感染症と考えられる傷病で死亡した者は,3.23%を算えたが,後の日露戦争(1904〜1905年)におけるロシヤ軍では,0.35%に過ぎないという驚異的な成果が得られた.また,クリミヤ戦争の際,フランス将兵で大腿骨複雑骨折に対し,切断を実施された者の方が,しなかった者の68.38%よりも,91.89%と圧倒的に多い死亡を記録にとどめ,その多くが感染によったようである.化膿性骨髄炎の死亡を次いで減少させた第二の事柄は,P. Ehrlichのサルバルサン開発に端を発する化学療法の進歩である.ことに,A. Flemingらのペニシリン,S. A. Waksmanのストレプトマイシン以来の抗生剤の開発によって,化膿性骨髄炎に罹患して死亡する例を,あまり経験しなくなった.
 さて,臨床医学の今日的課題は,伝染病や感染症のことではなく,成人病対策につきるといわれている.たしかに,化膿性骨髄炎の死亡は稀有なものとなったが,重症の糖尿病を併発して,難治性の慢性となって再発を繰り返し,足を切断しなければならない症例や,頻回に再発する瘻孔に扁平上皮癌を合併するケースを扱うようになった.このような症例は,かつてあまり経験されなかったことである.以上のように,化膿性骨髄炎が成人病対策の対象となるまでに,根治させることが急務となってきた.

論述

小児脊髄空洞症の診断と病態像

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   村井宏 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.642 - P.649

 抄録:小児脊髄空洞症は稀なものであり,その発症様式並びに成因に関しては,成人例とは異なるものである.今回,我々は小児脊髄空洞症の特徴的臨床像を述べ,小児脊髄空洞症の診断にMRIが非常に有用であることを強調したい.〈対象及び方法〉対象はCT並びにMRIにて診断された15歳以下の小児脊髄空洞症であり,19例中14例は脊椎披裂(8例はChiari奇形とmeningomyeloceleを,6例は脂肪腫を合併)を合併しており,Chiari奇形のみの合併は4例,特発例は1例であった.MRIは常伝導型の東芝MRT 15A(1500 Gaus)を使用した.〈結果及び結語〉①MRIは非侵襲的な検査法であり,小児脊髄空洞症の診断には非常に有用であった.②小児脊髄空洞症は側彎症,内反凹足等の骨格異常にて発症することが多く(本報告例の60%),小児脊髄空洞症の特徴的臨床像と考えられた.③脊髄空洞症の成因として,Gardnerの説のみでは,説明が困難な症例も存在した.

レ線上骨傷の明らかでない頸髄損傷例に対する手術的治療法の成績

著者: 佐々木邦雄 ,   角田信昭 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   山野耕一郎 ,   浅川康司 ,   古森元章 ,   森永政博 ,   高嶋研介

ページ範囲:P.651 - P.659

 抄録:レ線上骨傷の明らかでない頸髄損傷例に対し,我々は可及的早期の除圧・固定を目的として手術的治療を行ってきた.今回,過去5年間の前方除圧・固定例53例において,術前診断法・術中所見・結果を検討し,本損傷例における不安定性の存在・手術的治療の妥当性について述べる.術前の補助診断法としては,仰臥位でのC1/2側方穿刺によるair myelographyが有用であり,術中の前縦靱帯・椎間板・後縦靱帯の損傷部位の診断において40例(89%)に有用性を認めた.術中所見として明らかな靱帯・椎間板損傷の認められなかったものは3例(6%)のみであった.結果の検討に際しては,Frankel法・Yale法に準じた点数法,及び独自に考案した手の機能判定法を用いた.改善はFrankel法では75%,手の機能判定法では80%に認められた.又,点数法による%改善率は,運動・知覚共約60%以上獲得され,知覚の改善が運動機能の改善より良い傾向を示した.

反復性肩関節前方脱臼の予後調査

著者: 松永英裕 ,   竹下満 ,   高岸直人

ページ範囲:P.660 - P.665

 抄録:外傷性肩関節脱臼患者の反復性脱臼への移行頻度,移行要因について調査した.141名の外傷脱臼の中で19名(13%)が反復性になっていた.30歳以下の54名では16名(30%),固定期間が3週以内のもの88名では18名(20%),30歳以下で3週以内の固定症例では41名中15名(37%)が移行しており,年齢が若く固定期間が短い者程反復性に移行していた.又大結節骨折合併は23例いたが,全例反復性に移行していなかった.次に反復性肩関節脱臼患者123名についても調査した.初回脱臼時年齢は30歳以下が111名で全体の90%を占め,固定期間が3週以内の症例が116名で全体の94%を占めていた.その中で整復後固定をしていなかった者が78名おり,全体の63%を占めていた.この結果は反復性に移行しないようにする為には30歳以下の外傷性肩関節脱臼の患者は少なくとも4週間の固定が必要である事を示唆している.次に反復性脱臼の自然経過をみるため非手術例の予後調査を行った.調査できた55名中,26名は良くなっていると言っており,悪くなっていると答えた者は6名にすぎなかった.また初め再脱臼の傾向の強いもの程,その後の経過として軽快傾向が強かった.高齢者の反復性脱臼は非常にめずらしいと言われているが,今回の調査で初回脱臼が50歳以上の反復性脱臼症例が5例いた.この5例と非再脱臼例との間に明白な差を認めなかったが,この5例は全例大きなHill-Sachs損傷を持っていた.

新鮮および陳旧性足関節外側靱帯損傷の治療方針

著者: 朝妻孝仁 ,   加藤哲也 ,   横井秋夫 ,   斉藤正史 ,   小柳貴裕 ,   木原正義 ,   細川昌俊

ページ範囲:P.666 - P.674

 抄録:われわれは昭和57年9月以来,足関節外側靱帯損傷に対して,症例を選んで手術的治療を行ってきた.症例は新鮮例8例,陳旧例11例の計19例19関節である.術中の肉眼的所見と臨床所見,ストレスX線計測値,関節造影所見とを対比し,われわれの治療方針を決めた.
 新鮮例に対しては,関節造影で造影剤の漏出があり,われわれの考案した前方引き出しストレス撮影法で,引き出し陽性(計測値7mm以上)の症例に対しては一次縫合を行った.

パルス電磁場による偽関節の治療

著者: 八木知徳 ,   佐々木鉄人

ページ範囲:P.675 - P.682

 抄録:パルス電磁場療法を用い,多施設(15病院)で難治性骨折例を治療,検討し,次の結果を得た.(1)30例中22例73%に癒合を得,多施設での治療成績も良好であった.(2)原因疾患別癒合率は,外傷性遷延治癒や偽関節が79%,骨切術・固定術後の癒合不全と初回骨接合術との併用例で100%と良好であったが,病的骨折は33%と悪く,中でも先天性脛骨偽関節は全例失敗した.(3)癒合例の治療期間は,平均5.0ヵ月であり,前治療期間14.1ヵ月より著明に短縮していた.(4)感染例4例での癒合率は50%であった.(5)骨間隙が5mm未満の症例は,22例中20例癒合したのに比べ,5mm以上の8例では2例のみであった.(6)強固な内固定法を施行されていたものでは,13例全例が癒合しており,"強固な固定性"が必須であった.(7)効果判定では,著効6例,有効10例,やや有効3例,不明2例,失敗9例であり,有効以上が76%を占めていた.

新生児股関節検診ならびに乳児股関節X線撮影におけるFuji computed radiography(FCR)の有用性

著者: 井村慎一 ,   中瀬裕介 ,   大橋義一 ,   田中義孝 ,   富永敏朗 ,   堂庭信男 ,   石井靖 ,   小室裕由 ,   高島力 ,   山田良 ,   梁瀬義章 ,   飯田和質 ,   宮越洋二 ,   小林清二 ,   友影龍郎

ページ範囲:P.683 - P.688

 抄録:我々は福井市周辺の6施設にて主に触診による新生児股関節検診を行った.検診総数は1726例で,うち1例にclick sign(0.057%)を認めた.篠原の方法に従い,hip scoreを算定,score 3点以上のものに対しFCRに撮影,∠α,∠βを求めた.∠α+∠βがborderline,abnormalに相当するものに対し,それぞれ経過観察,治療を行った.Click sign陽性の1例のみ生後3ヵ月の現在,Riemenbugel(RB)にて治療中で,他の症例はいずれも正常である.なお乳児股関節X線撮影におけるFCRの有用性について言及した.

Neurovascular island flap法による損傷指の知覚再建

著者: 高見博 ,   高橋定雄 ,   安藤正 ,   金田英明 ,   吉田修之 ,   森田一史

ページ範囲:P.689 - P.697

 抄録:最近の7年間にneurovascular island flap法20例およびradial-innervated flap法2例による損傷指の知覚再建を経験した.Neurovascular island flapの知覚回復は2点識別覚10mm以下の良好な症例が多く,皮弁の知覚過敏を訴えた症例は1例のみであり,reorientationが獲得されないことによる機能障害を訴えたものはなかった.自験例の術後成績はほぼ満足すべきものであったことから,neurovascular island flap法は依然としてすぐれた知覚再建法であると考えている.ただし,painful handに対しては本法による知覚再建の適応はないものと考えている.Radial-innervated flapの知覚回復は2例とも不良であった.

整形外科を育てた人達 第38回

Robert Chessher(1750-1831)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.698 - P.701

 英国の整形外科はWilliam John LittleとHugh Owen Thomasによって開拓されたと思っているが,Orthopaedyの言葉もない時代に小児の身体的変形の矯正・予防に専念した医師がいた.これがRobert Chessherである.この事実は私も全く知らなかったが,W. J. Littleの次男で英国の初代の整形外科学会長であったMuirhead Littleが1928年に「Stromeyer以前の整形外科」と題した講演の中にRobert Chessherについて語り,医学史の研究家であるBruno Valentinも1958年のMedical History誌上に詳しくChessherにつき報告している.

臨床経験

骨原発良性線維性組織球腫(Benign fibrous histiocytoma of bone)の定義と鑑別診断

著者: 松野丈夫 ,   八木知徳 ,   佐々木鉄人 ,   小林三昌 ,   薄井正道 ,   石井清一

ページ範囲:P.703 - P.711

 抄録:近年,骨原発の良性線維性組織球腫(benign fibrous histiocytoma of bone,以下BFHと略す)の存在が明らかとなり,数例の文献的報告を認める.今回我々は,BFHと診断し得た3例を臨床的・X線学的・組織学的に検討し,他の骨腫瘍との鑑別を行った.
 BFHの診断上の定義としては,臨床的・X線学的にその発生年齢,発生部位が非骨化性線維腫(non-ossifying fibroma)と異なり,組織学的に,より腫瘍性の性格を有する良性組織球性腫瘍とした.

頸椎椎弓切除後に発生したpseudomeningoceleについて—typeの異なった2自験例を中心に

著者: 吉田宗人 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.713 - P.720

 抄録:Postoperative pseudomeningoceleは,椎弓切除の合併症の1つであるが,頸椎に発症した報告は少ない.自験例2例と文献例を合わせて検討した.症例Iは,頸椎OPLLで,椎弓切除を受け,約2年3カ月後に脊髄症の増悪をみた.症例IIは,頸髄腫瘍の疑いで椎弓切除を受け,術後頑固な頸部痛,頭痛を訴えた,文献例を含め,臨床像を検討すると,硬膜刺激症状としての頭痛,失神発作が多く,又,術後,原因不明の発熱が髄流貯留を疑わせしめる所見といえた.診断には,CTが有用であった.Cystは,茎の有無により2型に分類できた.手術法も異なり,type IIはcystの切除をするが,type Iは前壁のクモ膜を切除し,cystを縫縮した.
 頸椎後方手術後の悪化例を少なからず経験するが,こうした原因の一つとして,硬膜欠損があれば本疾患は稀ではないと思われ,注意深い経過観察と適切な診断が,術後成績の向上につながる.

化膿性脊椎炎の検討

著者: 島垣斎 ,   秋本毅 ,   今野俊幸

ページ範囲:P.721 - P.729

 抄録:過去10年間に当院で経験した化膿性脊椎炎の10例について検討し,本症の保存的治療について考察した.本症の臨床像は,抗生物質の発達などのため,近年著しく変化した.最近では,成人,特に高年者の椎体部に好発し,腰仙部罹患が多く,病型では急性型が減少している反面,軽度の自覚症をもって発症する潜行型が増加する傾向にある.治療法として,自験例では安静と抗生剤投与による保存的治療を主体とし,合併症に対してのみ手術的治療を付加したが,1例の再発例を含め全例を治癒に導くことができた.一方,10例中3例は安静のみにより病勢が沈静化したと考えられ,安静の重要性を再認識させられた.なお,抗生剤投与の期間については,未だに一定の見解は得られていないが,主に血沈値を指標として決定するとの報告が多い.しかしながら,CRPは血沈値よりも早期かつ忠実に病勢を反映するため,CRPの陰性化と同時に抗生剤投与を中止することも可能と考えられた.

下垂足にて発症,他覚的に知覚障害を認めなかった胸腰椎移行部骨化疾患の3症例

著者: 井上喜久男 ,   見松健太郎 ,   榊原健彦 ,   原田敦 ,   牧山友三郎 ,   岡山直樹

ページ範囲:P.731 - P.735

 抄録:下垂足を主症状とし,初診時においては知覚障害を欠くといった,まれな臨床像を呈した胸腰椎移行部骨化疾患の3症例を経験し,手術により症状の改善を得た.原疾患は,後縦靱帯骨化症,後方Kantenabtrennung,後縦靱帯骨化を伴う椎間板ヘルニアとそれぞれ異なっていたが,いずれの症例においても単純X線像にて胸腰椎移行部における局所の後彎形成がみられ,脊髄造影にては不完全ブロックであった,手術は2例は前方侵入にて圧迫の除去,後彎の矯正を行い,1例は後方侵入にて圧迫の除去を行い,いずれも良好な成績を得ている.この臨床症状の病因としては,①胸腰椎移行部における局所の後彎と骨性隆起とにより脊髄の前角のみ圧迫障害され,後角が障害をのがれ得た,②脊髄の前根後根付着部の相違,つまり知覚髄節の方が運動髄節より頭側に位置するため圧迫をまぬがれ,運動障害のみ出現した,といった2つの可能性が推察された.

先天性棘下筋拘縮症による肩関節後方脱臼の1例

著者: 岡史朗 ,   多田浩一 ,   北野継弐 ,   中嶋洋 ,   堀部秀二

ページ範囲:P.737 - P.741

 抄録:肩関節後方脱臼の病因論には多くの説があるが,棘下筋拘縮を原因とするような報告はない.今回,先天性棘下筋拘縮による肩関節後方脱臼の1例を経験したので報告する.〈症例〉14歳,男性,〈主訴〉左肩甲骨変形及び左肩不安定感.〈現症〉左肩甲骨内側縁が外後方に彎曲・突出し,左棘下筋内に索状物を認めた.また左肩外転90°にて,随意性後方脱臼を認めた.〈X線所見〉左glenoidの形成不全を認めた.〈手術〉1.棘下筋内の索状物の切除,2.glenoid osteotomy,3.左肩甲骨変形部の切除,4.後方関節包縫縮術を行った.〈経過〉術後5ヵ月で再発なく,経過良好である.〈考察〉本例においては,棘下筋拘縮によって上腕骨頭が後方へ牽引され後方脱臼がおこり,また肩甲骨内側縁が外側へ牽引されることにより変形が生じたと考えられる.棘下筋拘縮は,棘下筋内に発生した異常なband状のものによって生じたもので,筋膜の遺残,あるいは迷入でないかと考えられる.

股関節limbus ganglionの1例

著者: 松井稔 ,   大園健二 ,   西塔進

ページ範囲:P.742 - P.746

 抄録:股関節に発生したlimbus ganglionは極めて稀な疾患で,邦文・欧文を含め2例の報告があるにすぎない.今回,われわれが報告する3例目の股関節limbus ganglionの症例は29歳の男性である.X線学的検査を含め諸検査に著変のないにもかかわらず,右股関節の強い運動時痛,顕著な逃避性跛行を示したことが特徴的であった.両側の股関節造影で右股関節limbus陰影の肥厚を根拠に手術を行い,limbus ganglionと診断した.手術的にlimbusを部分切除後,疼痛は消失し,患者は原職に復帰した.本症例の経験から,診断に難渋する股関節疾患の中にlimbus ganglionを考慮すべきこと,診断確定のためには両側の股関節造影が重要であることがわかった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら