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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻7号

1986年07月発行

雑誌目次

視座

人工関節置換術問題の対策について

著者: 田中清介

ページ範囲:P.751 - P.752

 変形性股関節症に対する治療として人工股関節置換術(THR)が優れた成績をあげていることは今更述べる迄もない.しかし,その優れた成績も長期的にはゆるみ(loosening)をはじめとする合併症のために低下してくることも周知のところである.その対策として,1)THRの手技の改良,2)新しい術式の開発,3)THR以外の従来行われてきた術式の適応の拡大,などが行われている.
 THRの手技の改良としては,大転子非切離で人工関節を正しい位置にしかも強固に固定するためのcementing techniqueを含めた種々の手術手技が考案されたり,人工関節そのものが改良されたりしてきた.特に,筆者が数年来注意して行っていることは,脚長差,骨盤傾斜,脊椎(特に腰椎)の後彎や側彎について,手術時に矯正すべきかどうかを,個々の症例で術前に十分に検討し,術中に予測通りの手術が行われるように努力していることである.一般に,両側股関節症の一側にTHRが行われた場合,反対側の関節症症状は改善される.しかし,進行する症例も時にみられる.この場合,脚長差,骨盤の傾斜,脊椎の後彎や側彎について考慮された上でTHRが行われておれば,反対側の関節症の進行が防げたのではないかと思われる例がある.また,このような考慮は人工関節にかかる応力の集中に基づくゆるみの発生の予防にも連がるものと思われる.

論述

人工膝関節における後十字靱帯温存の臨床的評価

著者: 星野明穂 ,   古屋光太郎 ,   山本晴康 ,   冨松隆 ,   宗田大 ,   水田隆之 ,   小幡公衛 ,   林承弘 ,   石橋俊郎

ページ範囲:P.753 - P.759

 抄録:[目的]人工膝関節手術における後十字靱帯(PCL)の意義を評価するため,1981年以降行われた手術のうち,PCLを切除するlnsall/Berstein Posterior Stabilized型TKR(IBPS)とPCLを温存するKinematic Posterior Cruciate Retention型TKR(KPCR)の術後成績を比較し,PCLの有無が臨床成績に及ぼす影響について検討した.[対象]IBPSは32例40関節,KPCRは27例35関節で平均folow-up期間はそれぞれ18.6カ月と24.8カ月であった.[結果]三大学試案による術後成績では両群とも同等であったが,IBPSにおける膝蓋骨骨折の合併症が注目された.術後屈曲角度はIBPSの方が大きいが改善度では差がなかった.Clear zoneの出現率はIBPSでは高率だがこれはPCLの切除によるよりもmetal backされていないtibial componentが多かったためと思われた.短期間のfollow-upではPCLの有無は臨床成績に影響を及ぼさなかった.

両側変形性膝関節症における片側人工膝関節置換の非手術側膝関節に及ぼす影響について

著者: 黒沢秀樹 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   安田和則 ,   三浪三千男 ,   柘植洋 ,   菅野吉一

ページ範囲:P.761 - P.768

 抄録:両側変形性膝関節症の一側に人工膝関節置換を行い6ヵ月以上経過した37例の反対側膝関節について,手術後の臨床症状の改善およびX線学的変化に関して調査し検討した.疼痛,三大学試案膝関節機能評価,および下肢機能軸の偏位で,術前にくらべ有意の改善がみられたが,膝関節可動域や大腿骨脛骨角(FTA)には有意差はなかった.X線学的病期分類では,24%が改善したが,これに関与すると思われる術後経過観察期間,肥満度,および手術側膝関節機能との有意の相関はなかった.また,X線学的変化と臨床症状との間にも有意の相関はなかった.片側人工膝関節置換後6ヵ月および8ヵ月経過して,反対側膝関節にX線学的にも臨床的にも改善のみられた2症例を提示した.この膝関節には豊富に軟骨が再生しており,組織学的に線維軟骨であった.以上のことより,片側人工膝関節置換後の反対側膝関節については,慎重に経過観察する必要があると思われる.

成人の上腕骨顆部骨折に対する治療—特に治療成績に及ぼす因子について

著者: 水口守 ,   山村恵 ,   宮野須一 ,   石井清一 ,   山内一功

ページ範囲:P.769 - P.776

 抄録:我々は過去8年間に7例の成人の上腕骨顆部粉砕骨折を経験した.Riseborough and Radinの骨折型分類8)ではType IIが5例,Type IVが2例であり,Type IIの1例を除いて観血的に整復固定術を行った.Riseborough and Radinの方法8)で総合成績を判定するとType IIはGood 4例,Fair 1例であるのに対し,Type IVの2例は全てPoorであった.
 総合成績に影響を及ぼす因子,すなわち骨折型,術後の整復の状態と内固定法,軟部組織の損傷の程度と多発外傷の有無,手術までの期間,自動運動の開始時期,年齢および性別の関係を分析すると,骨折型と,この骨折が手術によってどの程度までに正確な整復が可能であったかが,本骨折の治療成績を左右する最も大きな要素であった.

先天性脊柱変形に合併した尿路生殖器奇形の検討

著者: 山元功 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   倉上親治 ,   風間昶 ,   橋本友幸 ,   越前谷達紀 ,   後藤敏明 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.777 - P.783

 抄録:先天性脊柱変形症例は他臓器系の奇形をしばしば合併する.その中でも同じ中胚葉起源の尿路生殖器奇形の合併率は高いとされるが,報告は少ない.今回,先天性脊柱変形70症例について尿路生殖器奇形の合併を調査した.
 尿路生殖器奇形は14例,20%にみられ,諸家の報告とほぼ一致した.また脊椎奇形を伴わない一般剖検報告よりはるかに高率であった.尿路系奇形を合併した脊椎奇形は,その奇形型別では頻度に差がなく,部位別では頸椎,頸胸椎部で胸腰椎部よりも頻度が高かったが,他部位間で差はなかった.合併した尿路奇形は9例II奇形で融合腎・腎偏位が7例と最も多く,その中で稀な交差性融合腎が4例にみられた.性器奇形は6例8奇形で,停留睾丸が多かった.脊椎前方侵入法による尿路系合併症の報告があり,特に本症のように尿路系奇形合併の頻度が高い場合にはその危険性が大きい.本症の手術治療に際し,術前に尿路系の検索を行うことは必須である.

シンポジウム 頸椎多数回手術例の検討

頸椎性脊髄症における多数回手術例(MON)の検討と予防上の留意点

著者: 里見和彦 ,   平林洌 ,   若野紘一 ,   山田久孝 ,   宇佐見則夫 ,   田中京子

ページ範囲:P.785 - P.796

 抄録:頸椎性脊髄症に対する手術成績が不良のため追加手術を行うに至った多数回手術例(MON)25例を経験した.追加手術に至った原因を分析すると,手術手技に問題のあった5例,手術適応に問題のあった4例,前方固定術後,その隣接椎間に新たな病因が発生した4例,骨化の増大などOPLLのもつ除圧術の限界と考えられた9例,原因不明の6例であった.これらの再手術後の成績も,平均6年7ヵ月の経過期間でADL点数の改善率で19.1%と不満足なものであった.一方,多数回手術例といっても,脊柱管狭窄症などを合併したため計画的に2段階手術法を行った14例の成績は,平均3年11ヵ月の経過期間で63.7%の改善率を示し,一応満足できる結果であった.MON予防上の留意点は,初回手術前の正しい病態の把握による正しい手術適応である.特に,脊柱管狭窄症やOPLL例では,もっと積極的に計画的2段階除圧術を採用すべきと考える.

教室における頸椎多数回手術例の検討

著者: 後藤澄雄 ,   井上駿一 ,   渡部恒夫 ,   斉藤正仁 ,   斉藤康文 ,   小林彰

ページ範囲:P.797 - P.804

 抄録:教室における頸椎手術299例中25例の多数回手術例のうち,頸部脊椎症(ミエロパシー5例とラディクロパシー3例)と頸椎後縦靱帯骨化症4例につき,再手術に至った原因を検討した.
 その結果,ミエロパシー例では椎間板ヘルニアの取り残し.脊柱管狭窄に対する前方法施行例などが問題となったが,これらは手術手技と手術適応に関する時代の制約もあり,現在の教室の手術適応を順守し,充分なる除圧への配慮を行えばSalvage手術に至る例は防げると思われた.ただ頸椎後縦靱帯骨化症では手術手技上アライメントへの細心の配慮が必要と思われる.またラディクロパシーでは保存的治療を原則とし,手術は侵襲レベルを厳選する方針で行っているため,特に多椎間障害例では前方固定後の長期経過で新たな病巣による症状から多数回手術に至る可能性を有していると考えられた.

頸椎多数回手術例の検討—脳神経外科の立場から

著者: 長島親男 ,   窪田惺

ページ範囲:P.805 - P.819

 抄録:頸椎多数回手術例26例(9〜65歳,18例男性,8例女性)を脳神経外科の立場から検討し,次の結果を得た.[1]多数回手術を要した因子を列挙すると,診断の不適,手術方法の不適など多数回手術を回避できたと考えられたもの―26例中10例(39%),予測できない離れた部位での後縦靱帯,黄色靱帯などの骨化,脊柱管拡大術後の狭窄,髄内腫瘍の再発など,多数回手術を回避できない病態と考えられたもの―26例中12例(47%),術前から意図的に2段階手術を行わねばならなかったもの―26例中4例(14%)であった.[2]術後コバルト照射をうけ癒着の強かった高位頸髄髄内腫瘍(ependymoma)再発例でも,多数回手術で腫瘍全摘出に成功し手術適応のあることを知った.[3]患者や家族とのよい関係を維持するためにも,初回手術の術前に「多数回手術」となる可能性もあり得ることをよく説明し,相互の理解を深めておくことが,頸椎手術例の治療成績を向上させる上で大切なことである.

頸部脊髄症複数回手術例の検討

著者: 柴田稔 ,   原田吉雄 ,   竹光義治 ,   岩原敏人 ,   熱田裕司 ,   保田雅憲 ,   麦倉聡 ,   吉田英次

ページ範囲:P.821 - P.828

 抄録:頸部脊髄症の複数回手術例につきretrospectiveに分析し,複数回手術の原因は何か,どうすれば1回の手術で治療目的を達することができるか,等につき考察した.
 多少とも脊柱管狭窄要素のある症例では初回手術として前方除圧・前方固定術を選択しても短期的には症状の改善が認められたが再度症状の増悪をみた.脊柱管狭窄要素のある症例では初回手術として後方からまず除圧することが重要である.

頸部脊椎症性脊髄症および頸椎後縦靱帯骨化症再手術例の検討

著者: 佐藤良治 ,   四宮謙一 ,   金田昭 ,   谷川悦雄 ,   佐藤雅史 ,   岡本昭彦 ,   古屋光太郎 ,   山浦伊裟吉 ,   中井修 ,   黒佐義郎 ,   横山正昭 ,   佐藤浩一 ,   山内研介 ,   兵藤恭彰 ,   上小鶴正弘

ページ範囲:P.829 - P.837

 抄録:CSM・OPLL再手術症例,32例の原因分析を行い,これを 1.手技の不良,2.病態認識の不足,3.再発,4.その他,に分類した.1.では,OPLLの除圧幅の不足,除圧方向の不良,Halo-Vest装着不良,2.では高度の脊柱管狭小の伴った例での責任病巣判定不良,予後判定の不良,3.では,固定隣接椎間の異常.椎弓切除後の不安定椎,OPLLの増大,4.ではアテトーゼ型CP合併,椎骨動脈血流不全合併,椎体炎合併,が再手術の原因となっていた.再手術防止には手技の向上,確実な後療法に努め,術前にCTM,脊髄誘発電位などによる責任病巣の確実な診断とある程度の予後の判定が必要となる.再発防止の為には,術前に責任病巣の上下隣接椎間の変性に十分注意をはらい,症例によっては,予防的な固定も考慮する必要があると考えている.CP合併例では,内固定の追加など術式に工夫が必要である.その他,運動ニューロン疾患などの鑑別にも注意が必要である.

整形外科を育てた人達 第39回

Alfred Schanz(1868-1931)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.838 - P.841

 Alfred Schanzの名は最近の整形外科学会では聞くことが無くなったが,私達の若い頃にはよく耳にした名である.その頃は先天性股関節脱臼の年長児が多く,その治療法としてSchanzの骨切り術が用いられた.そのため学会でもSchanzの名は度々聞くことができた.先天性股関節脱臼の早期発見の技術が普及し,人工関節等の新しい技術が進歩すると共に彼の名の出る機会は少なくなったが,Schanzが19世紀末から20世紀初期のドイツ整形外科学の強力な推進力であった事は確実である.そこで今回はSchanzについて書くことにした.

臨床経験

骨外腫瘤を形成した肋骨好酸球性肉芽腫

著者: 浅野昌育 ,   杉浦勲

ページ範囲:P.843 - P.846

 抄録:組織球の異常増殖であるとされているhistiocytosis Xのうち骨のみに病変をもつ好酸球性肉芽腫の扁平骨でのX線像は通常限局性のosteolysisを呈することが多い.筆者らは肋骨に発生した好酸球性肉芽腫で著明な腫瘤を形成した稀な症例を経験したので報告する.
 症例は3歳の女児.主訴は右肩甲下部の疼痛と母指頭大の腫瘤.単純X線像では右第9肋骨の胸椎に接した部分に骨破壊像を認め,その部位に一致してほぼ円形の腫瘤像がみられた.CT scanでも同部に胸腔内に突出する球形の陰影を確認した.検査ではCRP 4.5以外異常なく原発を特定できずopen biopsyを行った.組織像はリンパ球,組織球,好酸球より構成される肉芽腫,eosinophilic granulomaの像であった.ステロイド療法を行ったが無効のため放射線照射を800rad行ったところ容易に腫瘤像は消失し右第9肋骨も再構築された.

大腿骨軟骨肉腫に続発した肺腫瘍塞栓症の1剖検例—腫瘍塞栓,空洞形成,真菌症の合併について

著者: 三浦正明 ,   矢部啓夫 ,   花岡英弥 ,   宮内潤

ページ範囲:P.847 - P.850

 抄録:40歳男性の右大腿骨軟骨肉腫例で,肺に多発転移をきたし術後2年6ヵ月に死亡した1症例を経験し剖検を行った.剖検所見では両側肺門部を中心に肺動脈内に広範囲に亘る腫瘍塞栓の形成がみられた.また右肺上・中葉肺実質内には大きな壊死性空洞が形成され,空洞壁にアスペルギルスの真菌感染巣を認めた.腫瘍塞栓の形成には腫瘍の大きさ,成長速度,血管侵襲性等が影響するといわれている.軟骨肉腫は,血管内で成長し,肺や心臓の動脈内に拡がる例の報告がある.転移性肺腫瘍の空洞については,定説はないが本例は肺動脈腫瘍塞栓のため,肺実質内に乏血性壊死を来し,壊死巣が空洞化し更に真菌感染を併発したと考えられる.真菌症の中でアスペルギルス症は診断困難な場合が多く,そのまま細菌感染症として処理される可能性が考えられる.

整形外科基礎

高濃縮フィブリノーゲン(Tisseel®)を使用した神経接合に関する実験的研究—低濃度トロンビン添加による接着力と組織定量的検索

著者: 光嶋勲 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.851 - P.855

 抄録:低濃度トロンビンを添加したフィブリン製剤が,神経接合後の抗張力,再生軸索の成長にいかなる変化を及ぼすかにつき検索し,高濃度トロンビンを添加したものと比較した.
 実験にはウイスター系ラット坐骨神経を用い,神経接合を行った.この際,接合物質として,高濃度トロンビン加フィブリン製剤群,低濃度トロンビン加フィブリン製剤群,縫合群の3群を作成した.術後経時的に抗張力の測定と術後4週目に坐骨神経を採取し,組織定量的検索を行った.その結果術後120分までは低濃度トロンビン群が高濃度群よりも強力な接着力を示した.また術後4週目の再生軸索数は低濃度トロンビン群が最大値を示した.以上の結果より,神経接合に際しては低濃度トロンビンを添加したフィプリン製剤の方が高濃度トロンビンを添加したものよりもより強固な接合力が得られ,接合部の瘢痕も少なくする可能性があるものと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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