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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科21巻9号

1986年09月発行

雑誌目次

視座

RuleとLaw

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.969 - P.969

 錚々たる編集顧問,編集委員,編集同人を擁する本誌の巻頭を飾るに相応しい"視座"をと,いろいろ頑張ってはみたものの,所詮力量不足.そこで"本を読むことは他人が代って考えてくれることである"というSchopenhauerの言葉に従って,近着の雑誌からの論文を紹介してその責めを塞ぎたい.
 American Academy of Orthopaedic Surgeons(AAOS)の次期会長講演でThompson(JBJS 68-A:479-482,1986)は,まずAAOSがassociationでなくacademyであることを誇らかに強調した後,AAOSの創設者であるWillis Campbellの1934年の会長講演を引用している.すなわち,AAOSの主目的は没我的なものであって,個人または集団を強大にするためではなく患者に対して最高の利益になるため,その専門性specialityを発展させるにある.そのために次のような事業を行うという.

論述

肘部管症候群に対する再手術例の検討と対策

著者: 平山隆三 ,   末松典明 ,   中野令子 ,   吉田英次

ページ範囲:P.970 - P.976

 抄録:肘部管症候群の再手術例10例の原因と対策につき検討した.初回手術はKing変法6例,筋層下前方移動術4例である.再手術時症状は尺骨神経麻痺症状の増悪不変再発などに加えて,移行神経部に一致する疼痛,特に回内屈筋群緊張時痛が全例にみられた.再手術時所見は,手術手技に問題があると考えられる例がほとんどで,筋層下前方移動術では,神経前方移動不足による神経のkinking,slip back,回内屈筋群入口部,出口部での圧迫,屈筋群の線維瘢痕化,King変法では神経周囲の瘢痕,fibrous bandの再形成などが主な原因である.
 全例血行の良好な回内屈筋群で神経を被覆する筋層下前方移動術により良好な結果をえている.原因除去に応じた正確な手術術式を選びatraumaticな手術手技に習熟することが必要である.

悪性軟部腫瘍患肢温存手術例の術後機能—Ennekingの機能評価法による

著者: 網野勝久 ,   川口智義 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   多湖光宗 ,   高倉保幸 ,   古屋光太郎 ,   和田成仁 ,   磯辺靖

ページ範囲:P.977 - P.984

 抄録:悪性軟部腫瘍に対する我々の患肢温存手術例の術後機能を,Ennekingらの考案した評価法によって検討し,その結果と本評価法の問題点を報告した.過去10年間に治療した悪性軟部腫瘍のうち90例に患肢温存手術が施行され,今回このうち60例に機能評価を行った.総合評価は,優33例,良20例,可4例,不可3例で,約90%の症例は本評価法により術後機能が良好であった.術後の機能障害は切除範囲によって決まり,特に神経幹の切離,骨切除を併用した例の中には評価点の低い例がみられたが,このような例でもなお実際には患肢温存が有用であった.Enneking評価法が実際の術後機能を正しく反映するためには,再発,満足度,ADLなどの採点に修正を加えた方がよいと思われた.

手に発生した悪性腫瘍の検討

著者: 大作浩一 ,   村上恒二 ,   大瀬戸政司 ,   阪田泰二 ,   杉田孝 ,   渡捷一 ,   生田義和 ,   津下健哉

ページ範囲:P.985 - P.992

 抄録:手に発生する腫瘍は,大部分が良性腫瘍であり,悪性腫瘍は極めて稀である.昭和40年から昭和59年までの過去20年間に,広島大学整形外科で経験した手の悪性腫瘍は,骨腫瘍3例,皮膚腫瘍8例の計11例であり,代表的な症例について述べるとともに,それらの診断,治療法(特に手術療法),治療成績について検討を加えた.手は炎症をおこしたり,外傷をうけやすい部位であるため,その診断には苦慮することが多く,少しでも疑いがあれば必ず病理組織学的検索を行うべきと考えられる.手術療法としては,腫瘍の生物学的悪性度,浸潤の程度により,切除術か切断術を施行し,症例によっては再建術として,植皮術,母指化術,指移行術を行った.悪性腫瘍においても,根治可能と考えられる症例においては,手指のもつ特殊な機能,外観上の問題にも特別な配慮が必要と考えられる

烏口上腕靱帯とrotator intervalの機能と臨床について

著者: 尾崎二郎

ページ範囲:P.993 - P.999

 抄録:烏口上腕靱帯(C.-H. lig.)は烏口突起基部外縁と上腕骨大・小結節とを結ぶ小さな靱帯であり,rotator intervalは棘上筋腱と肩甲下筋腱の間のすきまであるが,両者の役割はよく知られていない.本論文の目的は両者の機能と病態を明らかにすることにある.機能的にはrotator intervalは肩の可動性を高め,C.-H. lig.はこれを制御する役割を担い両者は腱板の構成体の一つとして認識することができた.C.-H. ligとrotator intervalの損傷は自験手術例27例28関節を検討すると,C.-H. ligの剥脱や弛緩によってrotator intervalが哆開し肩関節の不安定を惹起したものと,C.-H. ligが瘢痕化しrotator intervalに瘢痕様組織が介在し拘縮を生じたものに大別できた.前者は若年男性に後者は中年以降に好発し,ともに外傷などを契機に発生している.C.-H. lig.とrotator intervalは肩のdynamic stabilityに深く関与しており,臨床的にも肩関節の抵抗減弱部位の一つとして認識できることが明らかとなった.

先天性内反足に対する保存療法の検討—3年以上経過観察例について

著者: 飯坂英雄 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   須々田幸一 ,   加藤哲也

ページ範囲:P.1001 - P.1008

 抄録:生後3ヵ月未満初診症例中,corrective cast法で保存的治療コースにのり,3年以上経過観察例(平均4年5ヵ月),30例,36足の中間評価を行い,臨床的,X線学的に検討した.4項目中間評価では,優13足,良9足(優・良群61.5%),可7足,不可7足であった.距踵率による重症度分類で,重症度に応じた成績が得られる傾向にあった.脛踵角は優・良群と可・不可群と比べると,優・良群は初診時および保存的治療開始1ヵ月目で有意に小さく,また初診時より拘縮が軽く,治療にも良く反応することがわかった.中間成績の予後判定の指標として,脛踵角の測定が有効である.

フックプレートによる大腿骨頸部内側転位骨折の治療

著者: 山野慶樹 ,   難波泰樹 ,   日野洋介 ,   長谷川徹 ,   伊勢真樹

ページ範囲:P.1009 - P.1018

 抄録:大腿骨頸部内側転位骨折に新しくhook plateを考案し,臨床例に応用し良好な成績を得た.このhook plateは骨頭部を2本のhookで把持し,plate部を頸部から大転子部にスクリュー固定する方法で,biomechanicalに回旋,剪断,曲げ応力に優れており,superiorおよびinferior retinacular arteryやmetaphyseal arteryを障害せず,頸部のendosteal bone healingに有利と考えられた.また術中に骨頭から出血の有無を検索したところ,X線上から判定したGarden III,IV Stageと必ずしも一致しなかった.骨頭から出血のみられる群の多くは10週以内に骨癒合が起こったが,初期のplateを使用し固定性の悪かった2例では骨頭出血のみられない骨折の平均骨癒合期間より骨癒合が遅れた.この骨折には正確な整復と種々の応力に対する強固な固定が重要で,特に骨頭血行の不良な例ではこれが長期にわたって必要であるが,この点hook plateは固定性が良好で骨髄内骨再生を障害せず,有用といえる.

多関節マイクロロボットの動物実験への応用—力学的刺激の骨折治癒に及ぼす影響

著者: 笹田直 ,   藤江裕道

ページ範囲:P.1019 - P.1025

 抄録:力学的刺激の骨折治癒に及ぼす影響を調べる従来の実験では,装置自体の制約から骨折部に与えられる力学的刺激は1種類のものであった.しかし多関節マイクロロボットを導入したことによって,あらゆる定量的なくり返しの力学的刺激を容易に作り出せるようになった.さらにロボットを導入したことにより,実験動物と装置の着脱が容易になり,またin vivoの状態で骨折治癒の進行度を測ることも可能となり,本実験が効率的に,しかも定量的に行われるようになった.
 本論では,ロボットを用いて筆者らがおこなった動物実験(力学的刺激の骨折治癒に及ぼす影響)の詳細を示し,ロボットが動物実験にとって,きわめて有効なものであることを示した.

手術手技シリーズ 関節の手術<上肢>

肩関節固定術

著者: 原徹也 ,   飛松治基

ページ範囲:P.1027 - P.1036

はじめに
 従来,肩関節固定術は結核性肩関節炎,Polioなどに対し主として行われていたが,現在では主に腕神経叢損傷,分娩麻痺が対象となっている.これらの麻痺性肩関節における上肢の挙上・外転障害に対する肩関節機能再建術には,大別すると筋腱移行による方法と肩関節固定術による方法とがある.
 今回は肩関節固定術について,多数の術式が行われているなかで,我々が用いている肩甲上腕関節の固定と肩峰上腕骨頭間に腸骨を移植して骨性癒合をはかる慣用法と,僧帽筋の付着した肩甲棘の架橋骨移植を行うMerle D'Aubigne13)法の二つの方法を述べる.

整形外科を育てた人達 第41回

Prof. Dr. Theodor Kölliker(1852-1937)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1038 - P.1041

 Leipzig大学の整形外科はProf. Franz Schedeが1929年に大学の教室として建設したが,街には古くから小児の身体的変形を矯正する医師はいた.Johann Christian Gottfried Joerg(1770-1856)はその一人である.元来産科医であったが,生れて来る子供の四肢や脊柱に変形を有するものがあるので,その矯正を研究していたが充分な治療はできない時代であった.又,Georg Friedrich Louis Stromeyer(1804-1876)が皮下切腱術で内反足の治療を開始し,その成果を「Beitraege zur Operative Orthopaedie」の著書で発表したのは1838年であるが,Joergは1806年に「Über Klumpfüsse」と題した著書を出版している.勿論手術はできないので徒手矯正のみであった.又,Joergは大学とは全く関係がなかったらしいが,77歳で1856年に死亡した.

臨床経験

胸髄硬膜から発生した間葉性軟骨肉腫の1例

著者: 鈴木勝美 ,   舘靖彦 ,   須藤啓広 ,   西村龍彩 ,   塩川靖夫 ,   荻原義郎 ,   村島隆文

ページ範囲:P.1043 - P.1046

 抄録:胸髄硬膜より発生した間葉性軟骨肉腫の1例を経験したので報告する.症例は23歳の女性であり,昭和57年5月に第3胸椎高位で腫瘍摘出術のみが行われた.その後,両下肢麻痺に対して機能訓練を行っていたが,2年後に再発し昭和59年6月に再手術が行われた.病理組織学的には原発腫瘍・再発腫瘍ともに胸髄硬膜より発生した間葉性軟骨肉腫と診断された.脊髄より悪性腫瘍が発生したときには解剖学的に外科的根治術が困難であり,腫瘍摘出術のみでは本症例のように再発する可能性が高いので,再手術後は局所的根治術のために5000radsの放射線療法とRosenのT-10Bプロトコールに準じた化学療法が行われ,現在再手術後1年4ヵ月(化学療法終了後6ヵ月)で無病状態である.しかしながら,間葉性軟骨肉腫に対して今回行った放射線療法および化学療法の有用性を評価するにはさらに長い経過観察が必要であると思われる.

骨表面に発生し,リンパ節転移を有した骨肉腫

著者: 中馬広一 ,   篠原典夫 ,   横山庫一郎

ページ範囲:P.1047 - P.1051

 抄録:長幹骨の表在性に発生する骨肉腫としてparostealとperiosteal osteosarcomaがあり,諸家の報告がある.近年,WoldとUnniは髄内発生の骨肉腫と同様の組織像を呈して予後不良な骨表面発生の骨肉腫9例の臨床病理学的観察を行い,high-grade surface osteosarcomaなる疾患概念を提唱した.我々は,肉眼,組織学的検索で骨髄内病変を認めず,骨近傍より発生したと考えられるが,組織像は骨髄内発生の骨肉腫と鑑別し得ず,予後も不良な症例を経験した.この例は,Woldらが報告した症例と同様な性格を持つ腫瘍と考えられ,更に骨肉腫には稀なリンパ節転移を初診時より有していた.我々が経験した20歳男子の右大腿骨骨幹部に発生した骨肉腫症例の臨床病理所見と臨床経過を報告し,骨近傍に発生する骨肉腫の鑑別と骨肉腫では稀とされるリンパ節転移について文献的考察をした.

骨軟骨腫によるSnapping Scapulaの1例

著者: 小野浩史 ,   永岡潤吉 ,   山口武史 ,   中田浩司 ,   杉本和也

ページ範囲:P.1053 - P.1056

 抄録:症例は13歳男,半年前より左肩甲骨部にclickを自覚,次第に増強したので当科受診した.左肩甲骨上角部にclickを認め,X-Pでは左肩甲骨上角胸郭面側に骨軟骨腫があり,CTにて骨軟骨腫と肋骨の間に関節様の関係が見られた,このため骨軟骨腫によるsnapping scapulaと診断し,骨軟骨腫摘出術を行い,良好な結果を得た.Snapping scapulaは肩甲骨と胸郭後面との間の適合性の破綻により発生し,その原因は骨,筋肉,滑液嚢由来のものがある.本例のように,肩甲骨上角胸郭面側にできた骨軟骨腫による例が多く,これをLuschka's tubercleと言う.筋肉,滑液嚢に由来する例では保存的治療が有効な事もあるが,骨由来の場合は手術的治療が良いと考えられる.

膝関節に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎の1例—組織学的および組織化学的検索

著者: 中西純夫 ,   井形高明 ,   広瀬隆則 ,   佐野寿昭 ,   檜澤一夫 ,   柴田昌志 ,   坂東栄三

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 抄録:54歳,女性の膝関節内に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎の1例について組織学的および組織化学的に検討した.膝蓋上嚢から関節窩にかけて滑膜のポリープ状増殖がみられ,組織学的には滑膜の絨毛状増殖が主体で,組織球様の類円形細胞およびヘモジデリンや赤血球貪食細胞のびまん性密な増殖が認められた.組織化学的に種々のライソソーム酵素が類円形細胞とヘモジデリン貪食細胞の一部に陽性反応を示した.電顕的に豊富なRERとsiderosemeをもつ線維芽細胞様細胞,多数のライソソームをもつ組織球様細胞および中間型細胞が認められた.本例では増殖の主体をなす細胞は組織球性格をもち,活性化した滑膜細胞そのものであることが示唆された.

膝窩部に発生したbursal osteochondromatosisの1例

著者: 水口龍次 ,   栗原章 ,   田中賢治 ,   福原啓文 ,   宮崎誠一 ,   豊田嘉清 ,   広瀬哲司 ,   鶏飼和浩

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 抄録:Bursal osteochondromatosisは比較的稀な疾患であるが,このうちpopliteal bursaに発生するものが最も多く,調べ得た限りでは17例の報告がなされている.今回,我々は膝窩部に発生したbursal osteochondromatosisの1例を治療する機会を得た.症例は54歳の主婦で14年来の左膝関節痛があり,膝窩部に鶏卵大で弾性硬の腫瘤が存在した.単純X線写真では腫瘤部に一致して多数の石灰化陰影が認められ,関節造影によって造影剤は腫瘤内に流入した.手術時,腫瘤は膝窩筋を圧排するように存在し,27個の遊離体が内部に存在した.滑膜の病理組織所見では中等度の炎症像と表層下の骨組織がみられたが,軟骨細胞は認められなかった.一方遊離体には周辺部で軟骨細胞がみられ中心部では内軟骨性骨化が認められた.これらの所見はMilgramのSynovial osteochondromatosisの分類によれば3期に相当する所見と考えられた.術後患者の愁訴は消失しており経過良好である.

環指浅指屈筋腱部分断裂に続発したTrigger wristの1例

著者: 三浪明男 ,   荻野利彦 ,   長谷川敏

ページ範囲:P.1067 - P.1069

 抄録:Trigger wristは稀な疾患である.本論文では環指浅指屈筋腱部分断裂に続発したtrigger wristの1例を報告する.屈筋腱部分断裂により発症したtrigger wristの報告は内外の文献上みられず今回の症例が初めての報告と思われる.

足関節の嵌頓様症状を呈した狭窄性腓骨筋腱腱鞘炎の1例

著者: 嶺尾和男 ,   渡辺康司 ,   水野耕作 ,   具幸夫 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1071 - P.1074

 抄録:今回,我々は,狭窄性腓骨筋腱腱鞘炎で足関節の嵌頓様症状を呈した稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は32歳男性の調理師,主訴は右足関節の嵌頓様症状と疼痛である.3年前,単車事故にあい,近医にて立方骨骨折として治療を受けたが軽快せず,半年後,当科にて距骨骨軟骨骨折と診断され穿孔術を受けた.以後,疼痛は軽減していたが,術後2ヵ月で荷重開始すると足関節の嵌頓様症状と疼痛が出現するようになった.腓骨筋腱腱鞘造影にて患側は踵立方関節あたりで像の杜絶を認めた.術中,腓骨筋腱腱鞘及び支帯,皮下の癒着と肥厚を,腱には圧痕を認めた.腱鞘,支帯を切除することにより,症状は著明に軽快した.又,組織学的には慢性炎症の所見が得られた.以上より,本症例の嵌頓様症状は狭窄性腓骨筋腱腱鞘炎によるものと考えられた.なお,我々の検索し得た範囲では,嵌頓様症状を呈したという報告は見いだせなかった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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