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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科22巻10号

1987年10月発行

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視座

人名のついた医学用語

著者: 森崎直木

ページ範囲:P.1123 - P.1123

 病名・症状名・手術名などに人名を冠した用語にしばしば遭遇する.このような人名用語には利点もあるが,問題点も含まれている.利点としては,簡便にその内容が表現できることで,Perthes病といえば男の児によくみられる大腿骨頭無腐性壊死であることがわかる.人名のもう一つのよい点は,それを初めて,または詳しく記載した人の栄誉をたたえ偲ぶことができることである.
 しかし,いろんな問題点もある.人名であるため理窟ぬきで丸憶えしなくてはならない.講義のとき初めて多数の人名に接する学生の苦労が思いやられる.学生ばかりか,記憶の衰えてきた私にも次つぎにでてくる人名に応対しきれない.人名も一人ではなくCalvé-Legg-Perthes-Waldenström病となると,本症の記載に関連した人の連記であるが,憶え切れるものではない.連記されたように見えて一人の人名のことがある.Albers-Schönberg病(大理石骨病)のAlbers-Schönbergは一人の姓で,ハイフンでつながれておりfull nameはHeinrich Ernst Albers-Schönbergなのである.

論述

ガングリオンによる足根管症候群

著者: 長岡正宏 ,   佐藤勤也 ,   江川雅昭 ,   金沢伸彦 ,   武村剛

ページ範囲:P.1124 - P.1129

 抄録:ガングリオンによる足根管症候群は稀なものとされ,まとまった報告はきわめて少ない.そこで自験例をもとにガングリオンによる本症の病態,診断,治療および予後について,他の原因による本症と比較し,その特徴を検討した.過去8年間に経験した足根管症候群は45例54足である.そのうちガングリオンによるものは12例であり,従来思われていたほど稀なものではない.臨床症状のうち知覚障害の範囲は他の原因による症例と異なり,内側足底神経領域のみの障害例が75%と多かった.このことは,ガングリオンの起始部が距踵関節由来のものが多かったことと関連があると推察された.診断は,臨床症状より容易であることが多いが,腫瘤の穿刺は騎乗している脛骨神経を損傷することがあるため,安易に行うべきではない.治療法は,手術的治療が原則となるが,再発を防ぐため,できるだけその起始部より摘出することが望ましい.予後は一般的に良好である.

四肢悪性軟部腫瘍の切離断例の検討

著者: 大野和則 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   姥山勇二 ,   井須和男

ページ範囲:P.1131 - P.1137

 抄録:当科にて扱った四肢発生の悪性軟部腫瘍のうち,切離断術を施行した38例について検討した.切離断の適応となった例は,骨・大血管・主要神経へ腫瘍が浸潤したいわゆるT3の症例が最も多く31例(81.5%)を数えた.組織型別では脂肪肉腫が最も多く,次いで横紋筋肉腫,MFH,血管肉腫が多かった.新鮮例は15例で横紋筋肉腫が最も多く,局所再発例は16例で脂肪肉腫が最も多かった.
 切離断例の3年生存率は21.2%ときわめて不良であった.38例中32例(84.2%)がstage IVにて切離断術をうけており,これらの予後は組織学的悪性度の高低よりも病期が支配している結果を示した.局所再発は腫瘍の局所浸潤度を増し,切離断という四肢の重大な機能喪失をもたらすだけでなく,その生命予後をも悪化させた.再発を生じ切離断術を行った腫瘍には,組織学的悪性度の比較的低いものが多く,適切な初回治療による再発の防止が大切である.

骨肉腫に対する化学療法について

著者: 土屋弘行 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1139 - P.1146

 抄録:近年,化学療法を中心とした集学的治療の進歩により骨肉腫患者の予後は大幅に改善してきた.当科で経験した骨肉腫72例のうち,長管骨に発生し初診時明らかな転移のない59例を,high dose methotrexate(HDMTX),cisplatin(CDDP)を主軸とした化学療法施行群(A群16例)とhistorical control(B群43例)に区分し比較検討した.Kaplan-Meier法による5年累積生存率は,A群で51.7%,B群で14.4%であった.治療開始日より肺転移出現までの期間はA群で21.2ヵ月,B群で9.5ヵ月であり,肺転移出現までの期間の長期化が生存率向上の一要因と考えられた.局所療法としての腫瘍根治的手術はほぼ限界に達しており,これらの生存率の向上は化学療法の進歩による所が大きいと考えられた.今後,さらに成績を向上させるためには有効な制癌剤感受性試験によって感受性,耐性を的確に判定することと,1つのプロトコールに捉われず各症例毎に制癌剤投与スケジュールを検討する必要があると考えられた.

骨肉腫患肢温存の動向

著者: 富田勝郎 ,   土屋弘行 ,   横川明男 ,   立石昭夫 ,   高田典彦 ,   八木知徳 ,   石井清一 ,   山脇慎也 ,   柿崎寛 ,   千木良正機 ,   檜垣昇三 ,   川野寿 ,   大幸俊三 ,   井上幸雄 ,   福島博 ,   舘崎慎一郎 ,   新城清 ,   武内章二 ,   内田淳正 ,   林英紀 ,   遠藤寿男 ,   葉山泉 ,   井上治

ページ範囲:P.1147 - P.1153

 抄録:1980年から1985年の間に行われた骨肉腫治療について骨肉腫治療勉強会グループの全国21施設で症例調査を行い,骨肉腫患肢温存の動向を探った.年毎に患肢温存率は増加しており,1984年と1985年では50%を越えていた.生命予後は,症例を厳選しているために切離断例よりも患肢温存例の方が良好であり,患肢温存の適応が適切であることが示唆された.切除範囲については,健常部分を十分につけたWideあるいはOncological radical resectionの占める割合は,104例中60例(57.7%)であり,なかでも大腿骨遠位部は40例中33例(82.5%)であった.再建材料はMeta1あるいはCeramic Prosthesisが多く用いられていたが,機能評価においては各Prosthesis間で大きな差はなかった.総論的な機能評価については,概してMotionの項目が不良であるのが目立った.合併症は44例(うち4例は重複例)に認められ,生命予後を大きく左右する局所再発は13例(12.5%)に認められた.

シンポジウム 骨肉腫の患肢温存療法

骨肉腫に対する術前化学療法の現状とその問題点

著者: 古瀬清夫

ページ範囲:P.1155 - P.1161

 抄録:昭和50年3月より昭和62年4月までの間に治療された16例の骨肉腫の術前化学療法の効果について臨床病理学的に検討した.
 ALP値減少率,X線像および腫瘍壊死率の三指標を用い,反応(+)群と反応(-)群とに分類した.両群の生存率は前者で治療開始後112ヵ月で66.7%,後者で治療開始後145ヵ月で37.5%となり,p<0.05で有意の差を認めた.反応(+)群で生存例の追跡期間がやや短く,また積極的な化学療法が行われているけれどもある程度の予後を推測できるものと思われた.

骨肉腫に対する患肢温存療法—術前持続動注療法の効果とreduction surgeryについて

著者: 武内章二 ,   葛西千秋 ,   櫛田喜輝 ,   佐藤正夫

ページ範囲:P.1163 - P.1172

 抄録:近年,四肢骨肉腫に対して患肢温存手術が積極的に行われる様になったが,その背景には術前化学療法の進歩,向上がある.我々は,1968年以来,四肢骨肉腫53例に対して,術前持続動注療法を行ってきた.今回は患肢温存手術を施行した15症例について,Ennekingのsurgical staging systemに従いretrospectiveに評価し,術前持続動注療法の有用性とRI-angiographyを用いた抗腫瘍効果の検索から,我々の行ってきたreduction surgeryに対する術前評価について検討した.手術法との関係では,intralesionalが3例,marginal 10例,wideが2例であったが,局所再発は2例のみであった.また腫瘍reactive zoneでの病理学的検索でも,腫瘍辺縁には線維性被膜が形成され,腫瘍壊死との強い相関性が認められた.この結果より,術前持続動注療法との併用はmarginal marginでの切除でも,局所再発は低く.reduction surgeryによる機能温存が十分期待出来るものと考えられる.

骨肉腫の患肢温存療法—術前化学療法後の組織像と予後

著者: 竹山信成 ,   立石昭夫 ,   檜垣昇三 ,   小島達自

ページ範囲:P.1173 - P.1178

 抄録:骨肉腫の術前化学療法が原発巣に及ぼす組織学的効果および,その組織学的効果と局所再発,転移,予後との関連があるかどうかについて検討した.対象は四肢骨肉腫30例で,局所灌流療法を中心とした術前化学療法を行い,その後に手術を行った.薬剤としてMTX,ADR,MMC,CDDPを用い,単独または多剤を投与した.投与方法は静注法または動注法を行い,うち22例は局所灌流療法を行った.手術は切断19例,切除11例であった.術前化学療法後の腫瘍細胞壊死率80%以上の有効以上の症例は30例中21例(70%)であり,うち95%以上の著効例は11例(37%)であった.CDDP併用群に壊死率の有効例が多かった.壊死率と局所再発との間に相関があったが,壊死率と肺転移および累積生存率との間に相関はなかった.以上より,局所灌流療法を中心とした術前化学療法は原発巣に対して組織学的効果は著明であったが,その組織学的効果と肺転移および予後との相関がみられなかった.

四肢悪性腫瘍における患肢温存症例と切・離断症例の機能評価の比較

著者: 鬼頭正士 ,   高田典彦 ,   中川武夫

ページ範囲:P.1179 - P.1187

 抄録:1973年以降四肢悪性腫瘍で手術(患肢温存/切・離断)を行った症例のうち,患肢機能評価のできた44例について検討した.症例は骨肉腫が大半を占め36例,その他軟骨肉腫,MFH等である.機能評価はわれわれ独自のADL評価法を下肢と上肢に分けて行い,患肢温存例と切・離断例を比較するとともにEnnekingの評価も行った.下肢ではADL評価で患肢片脚起立に伴った動作である更衣動作(ズボンはき),入浴動作(浴槽の出入り)においては患肢温存例のほうが良好であるが,膝の屈伸運動を必要とする更衣動作(靴下はき),トイレ動作(和式トイレの使用)では切・離断例のほうが良好であった.上肢ではすべての動作で患肢温存肢のほうが良好であった.また切断肢にEnneking評価をあてはめると義肢を評価することになり患肢温存肢と比較することには疑問を感じたが,患肢温存肢を個々の関節ごとに評価,比較することは意義があると思われた.

骨肉腫の患肢温存手術

著者: 川口智義 ,   網野勝久 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   古屋光太郎 ,   磯辺靖

ページ範囲:P.1189 - P.1197

 抄録:骨肉腫34例の患肢温存例について検討を加えた.内訳は放射線治療を主体とした治療群7例,治癒的広切を主体とした13例,化学療法有効下手術群4例,化学療法と放射線下手術群10例であった.1981年以後の再発は2例にみられ5年生存率は52%であり満足にはほど遠いものであるが少なくとも患肢温存手術が予後を不良にすることはほとんどないと考えられた.再発要因としては潜在性スキップ転移によるものが考えられたが他に静脈浸潤,リンパ節転移も問題と成りうると考えられた.術前化学療法は有効であるとwide marginが生じても根治性を保証しうるがさらに放射線治療はmarginal marginの生じた手術の根治性をも保証しうる可能性があると感じた.しかし放射線施行例では術後合併症が多く真の患肢温存率向上を目指すためにはできるだけ完全な手術的切除を行い放射線照射は量,範囲ともにできるだけ限定し症例も選んで行う必要があると考えられる.

骨肉腫の患肢温存療法と全身化学療法

著者: 山脇慎也 ,   井須和男 ,   姥山勇二 ,   後藤守 ,   薄井正道 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳

ページ範囲:P.1199 - P.1205

 抄録:一般に骨肉腫は原発巣からのcell releaseが早期より起こり局所症状の現われる初診時には既に肺転移がmicro metastasisとして存在すると考えられる.歴史的には骨肉腫の5年累積生存率は15%以下で2年以内に80%が肺転移で死亡した.アドリアマイシン(ADM),メソトレキセート大量療法(HDMTX)およびシスプラチン(CDDP)の導入は骨肉腫の予後を改善して症例によって患肢温存も可能となった.骨肉腫の全身化学療法の意義は原発巣の手術的除去とともに流血中の腫瘍細胞や肺の微小転移巣を撲滅しtotal cell killを達成する事である.当科の骨肉腫患肢温存例は13例(25%)でこれらの無病率は80%,生存率は90%である.患肢温存療法としては膝関節固定,人工関節,人工骨頭,同種骨移植などが行われた.今回はこれ等の症例を中心に検討して骨肉腫患肢温存治療における術前,術後における全身化学療法の意義を追求した.

整形外科を育てた人達 第53回

Sir Astley Paston Cooper(1768-1841)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1206 - P.1209

 英国の有力な外科医John Hunter(1728-1793)については既に発表したがCooperはその門下生の一人である.当時の外科医は主として四肢の外科であったので,整形外科との関係は密接であると共に英国に於ける傑出した医学者であると思うのでその伝記を記述することにした.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

臼蓋形成術

著者: 井上明生

ページ範囲:P.1211 - P.1219

はじめに
 臼蓋形成術といえば,広義にはSalter,Chiariなどによる各種骨盤骨切り術も入るだろうが,ここでは一般に"shelf operation"と呼ばれている狭義の臼蓋形成術について述べる.

臨床経験

徒手整復不可能であった第1足趾IP関節背側脱臼の2症例

著者: 鍜利幸 ,   三木堯明 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 抄録:第1足趾IP関節の脱臼は,稀にvolar plateが嵌頓し徒手整復不能となることがあり,過去,内外で21例の報告がある,我々も,2例を観血的に整復した.
 症例1は,35歳の男性で,バイクで転倒して来院,第1足趾IP関節の背側脱臼を認めた.IP関節に嵌頓した種子骨が整復障害となっており,これを観血的に掌側に整復した.種子骨はintactな両側側副靱帯でしっかりと固定されて,徒手整復は全く不可能と考えられる状態であった.2ヵ月後にはほぼ正常に回復した.症例2は,26歳の男性で,保線工事中,レールとクレーンの間に挾まれて来院,第1足趾IP関節の背側脱臼を認めた.X線でIP関節裂隙の拡大があり,観血的整復を施行した.術中所見では,volar plateが指節骨の間に嵌入していたが,外側側副靱帯が断裂しておりIP関節を内反させながらvolar plateを掌側に整復した.4週間後現在,経過は順調である.

プロ野球選手に見られた有鉤骨鉤骨折

著者: 伊藤恵康 ,   竹田毅 ,   若野紘一 ,   堀内行雄 ,   佐々木孝 ,   高山真一郎 ,   根本哲夫 ,   飯島謹之助 ,   村上恒二 ,   木暮巽

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 抄録:プロ野球選手に見られた4例の有鉤骨鉤骨折を報告した.2年間で1球団3例,他球団からの紹介1例と意外に高頻度であった.受傷側は,右打の選手では左側,左打の選手では右側に,いずれもbatting時に受傷していた.Foul chip時の受傷が2例,他は空振りと通常の打撃であった.Foul chipの場合には,ballがbatの上部を擦った時,batのheadが急激に押し下げられ,batの軌道が狂い,握り込まれたgrip endが直達外力として有鉤骨鉤を打撃し,骨折を起すと考えられた.
 鉤骨折は通常のX線写真では判然とせずCT撮影により明瞭に描出された.手術は小指球尺側縁から侵入し,鉤を切除した.術後全例試合に復帰している.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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