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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科22巻3号

1987年03月発行

雑誌目次

視座

大学病院の手術制限

著者: 津下健哉

ページ範囲:P.237 - P.237

 大学を辞めて1年半が経過した.在職中常にイライラの原因であった手術制限より解放されて,私の心臓への負担が無くなったことを喜んでいる次第である.したがって問題は解決した如くであるがやはり気になるので書かせて頂くことにした.
 御承知の如く大学病院の手術部には大なり小なり手術制限があるようである.全国の大学につき調査したわけではないが大同小異の如くで,教授が手術が必要と診断し,希望しても直ちには手術はできないわけで,予定手術を変更するか,他の病院に転送するか,また患者にはマイナスと知りながら手術を延期しなければならない点である.勿論手術室は各科の使用になるわけであるから多少の制約のあることは当然であるが,その運用が余りにも硬直化し,障害が多過ぎるようである.救急外傷は受け付けない病院も多いと聞くが,例え受け付けても手術までには数時間の待機を止むなくさせられる場合も少なくない.要は各科,各部が夫々の権利を主張し,最後に残った時間を手術に当てるということに原因があるようだ.気の毒なのは患者さんというべきか.設備は充分あるにもかかわらず人のやりくりへの硬直性というか融通の無さが原因であろう.そしてそこには医師を含め総ての職員に国立特有な親方日の丸的考えがあることも否定できない.さらに医局という破ることの難しい閉鎖性カプセル内の温室環境がお互いの向上心を阻害しているのも事実であろう.

論述

神経障害性膝関節症の診断と治療における問題点と考察

著者: 廣畑和志

ページ範囲:P.238 - P.252

 抄録:神経障害性膝関節症に於いてなお論議されるべき点が,変形性膝関節症とその周辺の変性疾患との鑑別診断と観血的治療法に残されている.進行性の関節破壊を抑制するためには初期診断が重要であるが,特に変形性膝関節症,骨壊死,ステロイド関節症,偽痛風との鑑別に難渋することがある.ここでは,まず神経障害性関節症の一般臨床所見を述べ,今のところ早期診断の規準がないために著者が誤診した5症例の主な臨床所見を呈示し,更に,2例の追跡調査結果を報告して確定診断の目安とした.次いで治療に関しては,3例の定型的膝関節症に対して行われた関節固定術と人工関節置換術の症例の追跡調査成績を掲載し,同時に非手術側の自然経過の観察結果を報告している.最後に,神経障害性膝関節症の鑑別の要点と治療上の問題点について著者の見解を述べた.しかし,関節水腫の発生機序,生検組織の診断学的価値と神経障害と関節症進展の関連性については結論は出せなかった.

骨・軟部腫瘍の治療における放射線療法の役割

著者: 恒元博

ページ範囲:P.253 - P.262

 抄録:骨肉腫,軟部組織肉腫,脊索腫は共に放射線感受性が低いことと,治療に当って機能温存が最も重要な課題となっている点で共通している.
 骨肉腫患者の患肢温存について,局所再発を防ぐために放射線は重要な寄与を為し,軟部組織肉腫の治療に応用される術前照射には患者を拡大根治手術から解放できる希望がある.また,脊索腫の治療においては,手術・再発・再手術の鎖を絶つ期待が術後照射にかけられている.

シンポジウム 骨悪性線維性組織球腫

骨悪性線維性組織球腫—解説

著者: 阿部光俊

ページ範囲:P.263 - P.264

 軟部の悪性線維性組織球腫(MFH)は成人の軟部肉腫中,最も高頻度に発生し,100例以上の報告も多いが,骨原発生のものについては症例も少なく,あまり一般的ではない.
 1972年,Feldmanが9例の骨原発性MFHを発表したのが最初であり,その後,欧米では表1のごとき発表がある.おもなものはDahlin 35例,McCarthy 35例,Capanna 90例などであり,近年徐々に増加している.本邦でも最近は少数例であるが,多くの発表をみる.

骨悪性線維性組織球腫—解説

著者: 湯本東吉

ページ範囲:P.265 - P.266

 第19回骨軟部腫瘍研究会(会長井上駿一千葉大教授)において骨悪性線維性組織球腫(骨MFH)が主題として取りあげられ,病理学側から病理組織学的診断を町並陸生教授が,鑑別診断を牛込新一郎教授が講演し,遠城寺宗知教授ならびに長尾孝一教授から夫々指定発言があり,骨MFHの診断の要点と問題点が明らかにされた.また,これに先だってMayo ClinicのDr. K. K. Unniの"Fibrohistiocytic tumors of bone"の特別講演も行われた.その他ポスターセッションIIに7題の骨MFHの発表が行われた.
 骨MFHの診断については日整会誌56;659〜672,1982に総説を発表しているので10),これを骨子に最近の知見・問題点を加えて解説する.

骨MFHの病理組織像と酵素組織化学的並びに電顕的検討

著者: 町並陸生

ページ範囲:P.267 - P.273

 抄録:軟部MFHの診断基準を満足させる骨病変で,病変の最大割面全体を標本にして腫瘍性の骨や類骨形成のないことを確かめることができた7例について,病理組織像,電顕像及び酵素組織化学的所見を検討した.
 平均年齢は41.3歳で男女差はなく,大腿骨遠位部が好発部位で,剖検の行われた2例では肺転移が死因となっていた.病理組織学的には軟部MFHと同様の所見を呈したが,肉眼的には骨折がなくても,組織学的には殆んどの症例に小さな骨折がみられ,反応性の骨形成を伴い,1例では仮骨形成が著明で骨肉腫との鑑別が問題となった.電顕的にも軟部MFHと異なる点はなく,腫瘍巨細胞は周囲の組織球様或いは線維芽細胞様の腫瘍細胞と同様の像を呈していた.酵素組織化学的には腫瘍細胞はラインゾーム酵素のほかに,細胞膜に5´Nase活性を示し,1例では脳転移巣に著明なアルカリフォスファターゼ活性がみられた.

骨MFHの病理学的鑑別診断

著者: 牛込新一郎 ,   高桑俊文 ,   中島久弥 ,   三好邦達 ,   福間久俊 ,   広田映五 ,   高田典彦 ,   桑原竹一郎 ,   下田忠和 ,   石川栄世 ,   森内幸子

ページ範囲:P.275 - P.283

 抄録:骨のMFH(16例)を中心に,骨肉腫(II),線維肉腫(2),MFH vs骨肉腫(2),悪性骨巨細胞腫vs骨肉腫(3)について,光顕的および免疫組織化学的に検索し,鑑別要点を求めた.
 [結果]1.MFHを示唆する像が観察されても,小児例では骨肉腫の可能性を十分除外すべきである.一方,中高年の例ではMFH像が主体であっても,tumor osteoidが一部にあれば骨肉腫と診断すべきである.2.osteocalcin(Gla蛋白)は信頼できる骨肉腫のマーカーで,MFHや線維肉腫との鑑別に役立つことを示した.3.tumor osteoidが明確でない生検材料でも,osteocalcin(+)の場合は,骨肉腫の可能性が高く,tumor osteoidを探す努力が必要である.4.α1-antichymotrypsinを始め組織球マーカーは骨肉腫等でも(+)となるので,その陽性像からMFHと診断してはならない.以上から,tumor osteoidか単純な膠原線維かの区別が大切で,その形態的特徴を述べた.

骨原発性線維性組織球腫の臨床病理

著者: 古屋光太郎 ,   磯辺靖 ,   川口智義 ,   網野勝久 ,   松本誠一 ,   真鍋淳

ページ範囲:P.285 - P.293

 抄録:骨MFHの臨床病理学的特徴を把握するため病理組織学的に確診された34症例につきX線学的,病理組織学的検索を行い,併せて予後を左右する因子につき検討を加えた.
 1)性別は男24例,女10例で男性に多く受診年齢は12歳より72歳で平均45.6歳であった.
 2)大腿骨遠位,脛骨近位骨幹端部に好発するが骨幹部,骨端,扁平骨どこにも発生する.
 3)X線学的に溶骨性で骨皮質も侵蝕性に破壊され,軟部に腫瘍陰影を形成する.骨膜反応を欠くことが多い.
 4)多形性に富んだ組織球性細胞と紡錘形の線維芽細胞様細胞が混在し,storiform patternがいずれかの部位に認められる.
 5)組織亜型と予後は相関しなかったが組織自体の悪性度とは関連性が認められた.
 6)32例の5年生存率(Kaplan-Meier法)は71%であったが5年以後も下降する.初回手術の適否が予後に大きな影響を及ぼすものと考える.

骨悪性線維性組織球腫の診断と治療

著者: 鳥山貞宜 ,   大幸俊三 ,   高田典彦 ,   富田勝郎 ,   井上治

ページ範囲:P.295 - P.303

 抄録:骨悪性線維性組織球腫(以下骨MFHと略す)の診断は困難で,X線学的には非骨化性線維腫,骨巨細胞腫などとの鑑別,また,病理学的には骨髄炎,骨巨細胞腫などの良性疾患と誤診され,病巣掻爬と骨移植といった単純な手術が行われ易い.今回,われわれは4施設から骨MFHの23例を集め,診断と治療について検討した.症例の年齢は14歳から78歳(平均46歳),性別は男性13例,女性10例であった.発生部位は四肢長幹状骨が17例,他は脊椎,骨盤,顎骨などで,また,多発例が1例あった.X線像は大部分が骨透明巣となり,骨硬化を伴ったものは3例で,病的骨折は5例に認められた.骨MFHと診断されるまではさまざまで,最初から骨MFHと診断されたものは8例に過ぎない.治療は掻爬と骨移植,切除と人工関節などが主で,切断,離断は3例のみである.予後は9例が3ヵ月から3年7ヵ月で死亡しており,累積生存率は5年で35%であった.

整形外科を育てた人達 第47回

Antonio Scarpa(1747−1832)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.304 - P.307

 Antonio Scarpaはイタリヤの有能な外科医であり又解剖学者でもある.動脈瘤,ヘルニヤの病理を開拓したが,内反足の矯正を行いその成果を1803年に発表している.勿論非手術的な治療であるが整形外科の先駆者の一人と思う.又イタリヤ整形外科の開祖でもある.

症例検討会 骨・軟部腫瘍8例—日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍研究会

〔症例1〕左腓骨骨腫瘍

著者: 西本裕俊 ,   柴田大法 ,   佐々木雅俊 ,   坪内康則 ,   田部井亮 ,   大森高明 ,   呉聡栄

ページ範囲:P.309 - P.312

 症例:17歳,女性
 昭和60年5月,運動中に,左足関節内反を強制され,同部に軽い疼痛を自覚し,近医受診,X線検査にて左腓骨末梢に異常陰影を指摘され,生検施行された.組織学的にaggressiveな様相を呈するossifying fibromaと診断され,至適な外科的マージンによる手術を求めて,当科を紹介された.昭和60年12月初診時,特に自覚症状なく,左足関節に明らかな変形や熱感,発赤を認めなかった.可動域も左右差なく良好であった.血液血清検査でも特に異常所見は認められなかった.X線上,左腓骨遠位骨幹端部より骨幹部にかけ,7×2.5cmの隔壁様陰影を示す巨大な蜂巣状の骨透亮像と内側への骨皮質のballooningを認め,紙様に菲薄化した骨皮質や骨膜下新生骨におおわれていた(図1-1).骨シンチ検査で,同部に著明な集積所見が認められた.昭和61年1月24日,再発をみない外科的マージンと足関節機能温存を配慮し手術施行した.

〔症例2〕左橈骨部腫瘍

著者: 三島真一 ,   鈴木勝己 ,   飯島卓夫 ,   堀江昭夫 ,   原武譲二

ページ範囲:P.312 - P.315

 症例:70歳,男性(K. N. 8510552-6)
 主訴:左前腕部腫脹,疼痛

〔症例3〕20歳女性坐骨骨腫瘍

著者: 中瀬猛 ,   白井康正 ,   石坂公人 ,   石原正博 ,   馬杉洋三 ,   前田昭太郎 ,   金子仁

ページ範囲:P.316 - P.318

 症例:20歳女性
 経過:昭和60年4月頃から右股関節痛を生じ,7月13日来院,右坐骨腫瘍の診断で入院した.X線では右坐骨結節部から臼蓋部にかけて骨吸収像を認め,CTスキャンで同部に充実性の腫瘍像を示した(図3-1).骨シンチグラムで異常集積像を示した.血液所見では軽度の貧血と血沈の上昇以外特に異常を示さなかった.術前診断としては骨巨細胞腫を疑い,9月5日に腫瘍切除術及び臼蓋部への骨移植術を施行した.切除標本で悪性所見が認められたので,化学療法,放射線療法を施行したが,術後2ヵ月で局所再発し,以後貧血,腎機能低下等全身状態の悪化を示して昭和61年6月29日死亡した.

〔症例4〕左臀部軟部腫瘍の1例

著者: 榎木登 ,   廣田映五 ,   板橋正幸 ,   福間久俊 ,   別府保男 ,   中馬広一

ページ範囲:P.318 - P.321

 症例:38歳,女性
 主訴:左臀部腫瘤

〔症例5〕脛骨骨腫瘍

著者: 野島孝之 ,   井上和秋 ,   八木知徳 ,   佐々木鉄人 ,   梶原昌治 ,   山城勝重 ,   宮川明 ,   井須和男 ,   姥山勇二 ,   山脇慎也 ,   後藤守 ,   松山敏勝

ページ範囲:P.321 - P.324

 症例:15歳,男性
 主訴:右下腿痛

〔症例6〕右脛骨骨腫瘍

著者: 西本裕 ,   武内章二 ,   葛西千秋 ,   楊中仁 ,   櫛田喜輝 ,   横井達夫 ,   赤星義彦 ,   下川邦泰 ,   池田庸子 ,   尾島昭次

ページ範囲:P.324 - P.326

 症例:18歳,女性
 現病歴:生来,健康であったが,小学1年生時に右下腿前面に小石が当たり,以来,小腫瘤の存在に気付いていたが,特に疼痛,腫瘤の増大はなく,放置していた.

〔症例7〕骨肉腫のレ線像を呈したaneurysmal bone cyst:telangiectatic osteosarcomaとの鑑別について

著者: 西田淳 ,   鈴木秀憲 ,   里舘良一 ,   奥田則雄 ,   斉藤満 ,   阿部正隆

ページ範囲:P.326 - P.330

 症例:11歳,女子.
 主訴:右下腿〜足関節痛.

〔症例8〕右脛骨骨腫瘍(高齢者骨肉腫の1症例)

著者: 森本兼人 ,   前山巌 ,   古瀬清夫 ,   折戸隆 ,   大森俊一 ,   山形健治 ,   安達博信 ,   湯本東吉

ページ範囲:P.330 - P.332

 症例:74歳,男性
 主訴:右膝腫脹および疼痛

臨床経験

RAに合併した恥骨骨折

著者: 松原伸明 ,   竹吉恵一 ,   綿谷和男 ,   居村茂明

ページ範囲:P.333 - P.336

 抄録:今回我々は,RAに合併した恥骨部骨折を5例に経験し,このうち2例は恥骨部に骨折を認めた後進行性に破壊が進み,再び元の骨盤形態に復することがなかった.恥骨部骨折は,年齢54〜61歳,平均58歳,罹病期間は3〜23年平均14.6年である.骨盤特に恥骨部の骨折については,RAに伴う骨粗鬆症いわゆるinsufficiency fractureと呼ばれる状態,筋群の拮抗作用,あるいは骨折部に働く圧迫力などがその理由とされて来た.
 我々は,さらにRA炎症や筋力低下のために起こる骨盤輪の弾性低下にも大きな原因があると考え,症例を呈示して論じたい.

化膿性仙腸関節炎に続発したと思われる腰筋膿瘍の1例

著者: 五十嵐康美 ,   遠藤崇 ,   小野雄司 ,   花山寛隆

ページ範囲:P.337 - P.340

 抄録:発熱と腰痛で発症し,強い炎症所見を伴って右股関節部の疼痛を示した50歳,女の糖尿病患者を化膿性股関節炎と診断した.切開排膿を目的として行った硬膜外麻酔に際し背部から膿が流出したため,CTを施行して腰筋膿瘍を確認した.腹膜外より排膿洗浄,ドレナージを行い,症状の改善をみた.膿よりStaphylococcus epidermidisを検出した.経過の観察にもCTが有用であった.X線写真とシンチグラムにより,感染は同側の化膿性仙腸関節炎から波及したものと推定された.腰筋膿瘍の診断はpsoas shadowの変化や,いわゆるpsoas signに留意すれば困難ではないが,整形外科の日常診療で遭遇することはかなりまれと思われ,多彩な症状を示すことから,本疾患が念頭になければ診断に困難を来すと予想される.このため腰痛,股関節痛の診療では本疾患を鑑別診断に加えることが重要と考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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