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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科22巻6号

1987年06月発行

雑誌目次

視座

卒前教育と外傷学

著者: 渡辺良

ページ範囲:P.685 - P.685

 外傷学ことにその臨床教育は,卒前教育があまり効果的に行われていない科目のひとつである.卒前教育において,外傷学は,講義はされるものの,ベッドサイドの経験を含む臨床教育は,ごく一部の大学を除いては殆どなされていないと言っても過言ではない.外傷学の知識と技術は専ら卒後研修の一環として赴任先の市中病院などで修得されている.
 昭和61年に公表された「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議の中間まとめ」と「国際医学教育会議報告」を読んで,私はこれまで,卒前教育の問題を本来の整形外科医の仕事よりも軽く考えていたのではないかと反省している.

論述

外傷後膝伸展拘縮に対する治療と成績—大腿四頭筋形成術を中心として

著者: 岡本連三 ,   腰野富久 ,   藤井英也 ,   伊藤淳

ページ範囲:P.686 - P.692

 抄録:外傷後の膝高度伸展拘縮例に大腿四頭筋形成術を行った.対象は骨折後14膝(感染合併4膝),高位脛骨骨切り術などの抜釘時に行ったもの15膝,計28例29膝(男10,女18)であった.手術法はThompson法を主体の四頭筋形成術であるが,本法のみで不十分な例にJudet法(3膝)を追加した.骨折後14膝について,術前膝屈曲平均47°,術後114°,平均64°の改善を得た.正座可能例3例見られた.合併症として,膝蓋部の皮膚壊死が2例あり.有茎植皮術を行ったが,1例は屈曲30°と術前と変わらなかったが,他は125°屈曲可能であった.一方脛骨骨切り後の抜釘時に行った15膝では術前平均85°,術後104°,平均改善度19°と改善角度は小さかったが,術後の屈曲角度は前者とほぼ同じであった,本手術は満足しうる手術と考えられる.手術後得られた屈曲角度が術後減少してしまう例が見られ,後療法の良否が重要で,当科では術後4日〜1週間内に90°以上屈曲するよう工夫している.

軟部悪性腫瘍に対するHuman Tumor Clonogenic Assay—臨床効果との相関について

著者: 下崎英二 ,   富田勝郎 ,   横川明男 ,   沼田仁成 ,   青竹康雄

ページ範囲:P.693 - P.702

 抄録:制癌剤感受性試験の中で,Human Tumor Clonogenic Assay(HTCA)は,その精度(臨床効果の予言性)の高いことで注目を浴びている.我々は,1984年よりこのHTCAを軟部悪性腫瘍に導入してきた.ただ,肉腫においては,コロニー形成率が低率であるため我々は,Salmonの方法を改良したCuitivated HTCAを行っている.今回,軟部悪性腫瘍に対して行ったCultivated HTCAの結果と臨床効果との相関についてretrospectiveな分析から検討した.
 Cultivated HTCAを行った26例(32検体)のうち,感受性評価可能であったのは15例(21検体)で,このうち臨床効果との相関を検討し得たのは9例であった.結果は,true positive rate 75%,true negative rate 100%,全体的な予言性88.9%と高い相関性が認められた.以上から,軟部悪性腫瘍においても,HTCAを信頼性の高い感受性試験として臨床応用できることが示唆された.

爪下外骨腫

著者: 水野謙 ,   栗崎英二 ,   重野陽一 ,   島田克博 ,   下村裕

ページ範囲:P.703 - P.707

 抄録:[目的]爪下外骨腫の6症例及び2例の再発例を経験したので,本邦における報告例111例と再発例9例を合わせて検討した.
 [対象]過去5年間に当院にて治療を行った6例で男性2例女性4例,年齢は8〜37歳,平均16.7歳,すべて足趾発生例である.そのうち2例の再発例を認めた.

特発性距骨体部無腐性壊死の臨床的検討

著者: 池沢清豪 ,   門司順一 ,   佐々木鉄人 ,   八木知徳 ,   安田和則

ページ範囲:P.709 - P.717

 抄録:全身性疾患および外傷との関連のない特発性距骨体部無腐性壊死の報告は少ない.我々は過去7年間に本症を6例7足経験したので,本邦における報告例10例12足とともに,本疾患の臨床像,X線学的診断および治療方法を検討した.
 従来報告例および自験例での発症頻度においては性別,左右別の差はなく,初診時年齢は21歳から73歳と広範囲で16例中40歳以上が約70%占めている.

先天股脱の年次別発生頻度と地域別頻度—福島保健所管轄下地域における過去10年間の調査結果

著者: 渡辺真 ,   柳沢正信 ,   福田茂 ,   高橋功

ページ範囲:P.719 - P.724

 抄録:新生児期における股オムツの導入による先天股脱の発生頻度の推移および地理的環境の異なる地域での発生頻度の差異を調査して以下の結果を得た.調査期間は昭和51〜60年の連続10年間,対象は小学校就学児童(昭和44〜53年生れ)46,161名,地域は福島市(市街部および農村部)と飯野町・川俣町(山間部)であった.
 1)発生頻度は市街部2.02%,農村部2.39%,山間部3.53%で山間部に高頻度であった.2)股オムツの導入により三地域とも頻度は以前の約1/3に減じた.3)先天股脱の内訳は市街部と農村部では脱臼が約1/3であるのに対し,山間部では脱臼が約1/2を占めていた.4)乳児が出生後2,3カ月あるいは4カ月をすごす時期が寒い時期に高頻度であった.5)山間部の高頻度は寒さが影響しているものと推測された.6)出生後2,3ヵ月あるいは4ヵ月の間の環境(育児など)が重要な成因因子となっているものと思われた.

特別寄稿

整形外科インプラントのデザインにおける材料学的および幾何学的考察

著者:

ページ範囲:P.725 - P.732

 整形外科において,機能的なインプラントとは,生体内で生理学的あるいは生体力学的な機能を有するものである.したがって,インプラント材料は力学的に強くてinertで,骨あるいは軟部組織への固着は外的あるいは内的な荷重に対して耐えられるものでなければならない.基本的には3つのタイプがあり,人工の骨あるいは関節,人工の腱あるいは靱帯,骨折の接合材である.人工の腱あるいは靱帯は,長期間の負荷に耐えるために組織と一体となることが一般的に要求され,人工の骨あるいは関節に要求されることとは,非常に異なっている.骨折の固定のための接合材は,骨癒合迄の短期間のみ生体内で維持されるように意図されている.
 整形外科において人工材料の置換を考慮するにあたって3つの基本的な条件を考えなければならない.(1)患者の選択,(2)人工材料のデザインと構成,(3)実際の使用(術前処置,手術手技,術後療法)である(図1).これら3つのことは,人工材料の置換を成功に導くのに重要なことである.ここでは,焦点を3つに絞り 1)材料,2)形態,3)臨床について述べる.

整形外科を育てた人達 第49回

Carl Thiersch(1822−1895)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.734 - P.737

 遊離植皮を早く発表したのはスイスの医師Jacques Louis Reverdin(1842-1929)が1869年に,フランスの外科医Louis Xavier Edouard Leopold Ollier(1825-1901)が1872年であるが,いずれも小さな皮膚片の移植であった.1874年にはCarl Thierschが薄い皮膚ではあるが,かなり大きな肉芽創の上に移植に成功した事を発表し,現在でもThierschの植皮と称して利用されている.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

先天股脱観血的整復術

著者: 田辺剛造 ,   国定寛之 ,   赤沢啓史

ページ範囲:P.738 - P.750

 先天股脱に対する観血的整復術は,早期発見・早期治療の徹底により適応症例は減少している.
 Alfonso Poggi(1890)が12歳の少女の左先天股脱に対する観血的整復例を報告して以来,種々な術式が考案・報告されているが,脱臼の程度や手術施行時年齢の相違などにより,術式の優劣は簡単に比較できない.以前のように多数の適応症例があれば,経験を重ねることにより治療成績の向上も期待しうるが,最近私たちの施設でも年間10例内外と少なく,今後は文献の検索のみで直ちに手術術式を選択・施行することは適切ではないと考えている.この小論文は,これから観血的整復術を始める人達のためではなく,すでに経験のある人達にこのような考え方もあることを示し,今後治療成績を向上さすためには,どのようになされるべきかを検討して頂く切っ掛けとして提示するものである.

手術手技 私のくふう

仙腸関節部腫瘍に対する手術—Transiliac Approach

著者: 沢口毅 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.751 - P.760

 抄録:仙腸関節部に発生した腫瘍の切除は,その解剖学的特殊性から十分な視野が得にくく,神経の保護や出血のコントロールが難しい.また切除後の骨盤の支持性にも問題がある.我々はこのような症例に対し,側方侵入により腸骨翼を骨切りし仙腸関節部に到達するTransiliac Approachにより腫瘍切除を行っている.本手術法の特徴は,以下の如くである.

整形外科基礎

アドリアマイシン動脈内注入による血管壁の組織変化と微小血管吻合に及ぼす影響

著者: 多賀一郎 ,   河井秀夫 ,   露口雄一 ,   山本浩司 ,   川端秀彦 ,   政田和洋 ,   浜田秀樹 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.761 - P.766

 抄録:悪性腫瘍広範切除後の微小血管吻合に際して,術前動脈内投与された抗癌剤アドリアマイシンの影響について実験モデルを作成し,検討を加えた.ラットの大腿動脈を用いて動脈内投与後一定期間をおいて血管吻合を行い,開存率と吻合部の組織学的検討を行った.術前投与後3週の吻合は血栓閉塞を高率に生じ,5週以上の期間をおくと吻合成績は改善する傾向がみられた.術前投与後に吻合を行った血管には組織学的に内弾性膜の断裂が認められ,その部に血栓形成を生じることが証明された.内皮細胞の再生能等に対する影響は軽度であった.しかし,アドリアマイシンにより血管壁は脆弱となり,血管吻合操作により容易に損傷されると考えられ,特に内弾性膜の損傷は血栓形成と密接に関連していた.この作用はアドリアマイシン投与後3週頃に最も強いと考えられた.

臨床経験

肘関節炎症状を惹起したOsteoid osteomaの1例

著者: 趙南日 ,   前田昌穂 ,   高岩均 ,   立石博臣

ページ範囲:P.767 - P.770

 抄録:上腕骨遠位端に発生したOsteoid osteomaが肘関節炎を惹起した症例を経験したので報告する.症例は15歳男子中学生で,主訴は右肘関節の腫脹と疼痛であった.現病歴:昭和59年7月頃より右肘関節の腫脹と疼痛があり,昭和60年1月7日当科を受診,単純X線像では右上腕骨遠位端外側に直径7mmの骨透亮像がみられた.昭和60年3月28日病巣部を周囲の骨硬化した部位を含めて"en bloc"に切除し関節炎症状の消失をみた.病理診断はOsteoid osteomaであり,肘関節滑膜ではリンパ濾胞形成が認められた.
 考察:関節炎症状の発生原因は,血管圧の変化による交感神経への刺激及び疼痛による長期間のmuscle contractureが関与していると推測した.

掌蹠膿疱症に伴った大腿骨慢性骨髄炎の1例

著者: 渡辺秀樹 ,   本田邦彦 ,   岩田仁男 ,   園部成喜 ,   薗田紀江子 ,   早乙女紘一

ページ範囲:P.771 - P.774

 抄録:近年掌蹠膿疱症に合併した骨関節疾患の報告が多くみられるようになったが,それらの骨関節病変はほとんどの症例で前胸部や脊椎に存在している.我々はこれらの部位には全く病変を認めず,掌蹠膿疱症と臨床的に密接な関係を有した大腿骨の慢性骨髄炎を合併した1症例を経験したので報告する.症例は50歳,主婦.主訴は右大腿部の強い疼痛.病巣から細菌は検出されなかった.

放射線照射後に発症した大腿骨頭辷り症の1例

著者: 寺田洋 ,   臼井宏 ,   中村豊 ,   千葉昌宏 ,   山路修身 ,   大場良臣

ページ範囲:P.775 - P.778

 抄録:放射線照射が原因で発症したと思われる大腿骨頭辷り症の1例を経験したので報告する.症例は12歳男児,右股関節痛及び跛行を訴え来院した.生後7ヵ月時に右停留睾丸のEmbryonal Carcinomaにて摘出術を受け,術後再発予防目的で,腰椎および両股関節を含む骨盤部に3,000rad.のライナック照射を受けている.右股関節に圧痛及び屈曲,内旋制限を認め,Drehmann's signが陽性であった.X線より右大腿骨頭辷り症と診断,Southwickの転子下骨切り術を施行した.放射線照射による大腿骨頭辷り症の報告は少なく,本邦では5例の報告を見るのみである.報告例に見られる特徴より,放射線照射後に発症する辷り症は,放射線照射による骨端軟骨の遺残性障害に,思春期前期の成長による負荷の増加や,ホルモンの変動などの因子が加わり発症すると推察される.

側彎変形を呈したCushing症候群の1例

著者: 山田昌弘 ,   原田義昭 ,   島崎和久 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.779 - P.783

 抄録:Cushing症候群は副腎皮質ホルモン過剰により種々の病態を起こすが,骨変化としては骨粗鬆症がよく知られている.このような骨粗鬆症により腰椎の側彎変形をひきおこし疼痛のため観血的治療にまで至った例はまれである.
 症例は54歳女性,約6年前より腰痛が生じ,3年前Cushing症候群の治療後より徐々に腰椎の圧迫骨折とともに側彎変形が進行し,症状が増強した.神経学的所見なく,躯幹ギプス固定,椎間関節ブロック等が効を奏したため,椎間関節由来の痛みと考えLuque法による後方固定術を行い,疼痛の軽快を得た.

両膝蓋靱帯・両上腕三頭筋腱の同時皮下断裂の1例

著者: 内田竜生 ,   高橋定雄 ,   安藤正 ,   高見博 ,   山崎富士夫 ,   本多伸芳 ,   黄清 ,   大石陽介 ,   平沼憲治

ページ範囲:P.785 - P.789

 抄録:微弱な介達外力で筋腱断裂を起す素因として副甲状腺機能亢進症,糖尿病,痛風,ステロイド等があげられる.今回我々は,慢性腎不全にて血液透析が行われていた症例で,自家筋の急激な収縮によって引き起されたと考えられる両膝蓋靱帯,両上腕三頭筋腱の同時皮下断裂の1症例を経験した.
 症例:39歳,男性.昭和58年11月,血液透析開始,昭和60年6月.足がもつれ踏ん張ろうとしたが,そのまま膝がくずれ,両手をつく.四肢そのまま動かせなくなった.即日入院.両膝靱帯形成術(McLaughlin法)施行.両肘は保存的に観察した.現在も筋力低下は認められるが日常生活には不自由していない.術後組織学的に断裂部を検討し,この断裂が剥離骨折を主体とした断裂であるとの知見を得た.

Cefoperazoneの関節包と関節液への移行性の検討

著者: 白川貴浩 ,   岸本郁男 ,   森下忍 ,   森田純弘 ,   島田恭光 ,   三田村有二 ,   太田利夫 ,   辻卓司 ,   小野村敏信

ページ範囲:P.791 - P.795

 抄録:静脈内に投与したCefoperazoneの血中及び関節組織内濃度を測定し,その移行性について検討した.対象は主として股及び膝関節形成術を行った21例である(股関節18例,膝関節3例).Cefoperazone 2gを術前30分間で点滴静注し,点滴終了後1乃至4時間後に静脈血及び関節包を同時に採取し,可能なものには関節液を採取した.各検体の抗生物質濃度は薄層カップ法により測定した.点滴終了後4時間までの平均値では股関節,膝関節症例ともに血清,関節液,関節包の順に高濃度を示し,股関節症例では4時間値においても関節包内濃度の平均値は17.3μg/gと高濃度が維持されていた.股関節症例に対してarea under the curve(AUC)法を用いて薬物動力学的解析を行うと,関節包及び血清中のAUC1hr→4hrは各々93.65μg・hr/g,175.15μg・hr/gであり,血清から関節包への移行効率は53.5%と良好な移行性を示した.これらの結果から関節手術に際しての予防的な抗生物質投与の方法について,参考となるいくつかの示唆が得られた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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