icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科22巻7号

1987年07月発行

雑誌目次

視座

fibrous dysplasiaについて

著者: 北川敏夫

ページ範囲:P.801 - P.801

 fibrous dysplasiaは,なかなかむつかしい病気である.単発性のものは掻爬して骨移植をすれば大体それでおちつくと考えられる.然し多発性のものはどうであろうか.私共の熊本大学整形外科は昭和二十九年開講したのであるが,その手術第1例はfibrous dysplasiaであった.始めは単発性と思われたが多発例の広汎なpolyostotic typeであった.何回か手術を行ったが,病巣は完全に治癒しなかった.この患者さんは女性であるが,結婚して遠くの土地に移転した.移転先で,私の知り合いの某整形外科でX線をとってもらうよう電話したところ,その患者さんの答は次の如くであった.私は結婚して何不自由なく幸福にくらしている,今またX線をとって,あすごがわるい,ここがわるいなどと言われると幸福な生活が破壊される.然し,先生にはお世話になっているので,X線はとってもらいます.然しその結果は私には絶対に言わないでほしいということであった.X線をとってもらったのを拝見したが,大腿骨,下腿骨には広汎な病巣がある.然し患者は主婦としての労働を全く無理なく行っているのである.この症例は24年間経過をみている.

論述

頸部脊髄・神経根症の外科的治療後に見られた神経合併症の検討

著者: 江原宗平 ,   米延策雄 ,   藤原桂樹 ,   山下和夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.802 - P.810

 抄録:頸部脊髄症の外科的治療後の神経合併症の原因・病態・対策・予後について調査した.神経合併症の発生頻度は7.1%である.その発生頻度は疾患よりも術式に左右され椎間固定術,椎弓切除術,椎体亜全摘術の順に増加する.神経合併症は,神経根症状の悪化と脊髄症状の悪化に大別され,両者はほぼ同頻度で発生する.神経根症状悪化例は全例C5(6)根症状のみを示した.その原因として移植骨の脱転折損や,最近の椎体亜全摘術等の広範除圧時の脊髄移動に伴う神経根の牽引などが考えられる.全例,術直後は肩・肘の運動は可能であり術中損傷は原因ではない.対策は移植骨の再挿入,牽引等であり全例軽快している.脊髄症状悪化例の原因は,術中操作,術後血腫形成,頸椎のalignmentの乱れ,頸椎過伸展等である.対策は血腫除去,alignmentの矯正であり予後は発見した時期で左右される.神経合併症の早期発見には手の症状(脊髄症状)と肩の症状(根症状)に注意することが大切である.

距骨頸部骨折Hawkins III型とその類型の機能的予後

著者: 田辺秀樹 ,   小川清久 ,   井口傑

ページ範囲:P.811 - P.817

 抄録:1971年から現在まで我々は130余例の距骨骨折を集積・調査した.その内,距骨体部が足関節および距骨下関節から脱臼するHawkins III型の頸部骨折と,体部前方1/3に骨折線を有し両関節より後方骨片が脱臼する症例(「類型」と呼ぶ)は,いずれも関節障害と無腐性壊死の頻度が高く共通の問題をかかえていた.そこでHawkins III型13例とその類型8例の型21例について調査した.その結果,無腐性壊死の発生率に有意の差はなく,臨床的な予後に関しても差を見いだせなかった.従って従来,頸部骨折・体部骨折と全く異なる分類に属していた両者が,同一のカテゴリーに入れるべき骨折であるとの結論を得た.また,治療法に関しても全く同じであった.

上腕骨外上顆炎に対するNirschl法の経験

著者: 西島雄一郎 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦

ページ範囲:P.819 - P.824

 抄録:上腕骨外上顆炎は圧痛点へステロイド注入などの保存的治療で軽快を見る場合が多いが保存的治療に抵抗する場合は手術療法も考慮される.我々は保存的治療に抵抗を示した本症に対して,短橈側手根伸筋の上腕骨外上顆付着部の切除と外上顆のdecortication,drillingを行なうNirschl法を施行している.13例に対して本法を施行した.男10例,女3例で手術時平均年齢,48.0歳であった.術後,平均3.4年の予後成績をNirschlの判定基準で評価した結果,85%に良好な成績を得た.

シンポジウム 多発骨傷

多発骨傷に対する早期同時手術

著者: 岩田清二

ページ範囲:P.825 - P.833

 抄録:多発骨傷の初期療法は従来保存的に行われることが多かったが,ARDSや脂肪塞栓症候群などの合併症を併発したり,骨折の治療に難渋することが多く,最近では積極的な早期手術が行われる傾向にある.
 1983年より1986年6月までの3年6カ月間に,済生会神奈川県病院整形外科で行った多発骨傷の早期同時手術例は60例,142骨折である.

骨盤骨折を含む多発骨傷

著者: 星秀逸 ,   遠藤重厚 ,   土谷正彦

ページ範囲:P.835 - P.843

 抄録:骨盤骨折を伴う多発骨傷の場合には,強力な外力が働いており,重症度も相加的ではなく相乗的で,複雑な全身状態を示すことが多い.また同じような損傷でも症例によって病像は多彩で,同一視して考えることはむずかしい.加えて年齢,他部位合併損傷の型や程度などによっても病態は千差万別で,個々の症例について対応の仕方が異なることもやむをえない.
 したがって,適切な救急処置についで行う検査も制約され,情報の収集にも限度がある.かかる制約のなかで治療の優先順位,選択などを速やかに行うことが大切である.

多発骨傷の整形外科的重症度

著者: 青柳孝一

ページ範囲:P.845 - P.853

 抄録:従来の定義による多発骨折症例にはその程度の軽い症例から重症例までその差は極めて大きく,これを一緒にして治療法を検討したり治療成績を判定することには疑問がある.昭和47年から59年迄に当科で治療したいわゆる多発骨折症例に対して整形外科医の立場から重症度を設定し検討を加えた.さらにその中で同じ程度の重症例を取り上げ何が治療成績に影響を与えるかについて考察した.その結果次のような結論を得た.
 1.従来の定義のままで多発骨折を検討することは整形外科医にとって適切ではない.

不安定型胸腰椎移行部損傷,骨盤環骨折を伴った多発骨傷の治療成績

著者: 中山義人 ,   白井康正 ,   山口淳一 ,   井伊京一郎 ,   宮本雅史 ,   川井真 ,   元文芳和

ページ範囲:P.855 - P.864

 抄録:多発骨傷に不安定型胸腰椎型損傷や骨盤環骨折が含まれると,躯幹,四肢の運動支持機能が同時に広範囲に障害され,しかも重要臓器損傷も高率に合伴するために,生命的予後のみならず機能的予後も不良になり易い.
 我々はこのような症例に対しては,より早期に,同時的に骨折を安定化することがより良い予後をもたらすと考え積極的に手術治療を行ってきた.不安定型胸腰椎移行部損傷に対してはHarrington double distraction rods法を行い,良好な脊椎アライメントの改善と若干の神経学的所見の改善を得た.

多発骨傷における下肢骨折の治療

著者: 南郷明徳 ,   三好邦達 ,   木原仁 ,   中島久弥 ,   岡崎徳子 ,   高梨吾朗

ページ範囲:P.865 - P.871

 抄録:当院救命救急センター開設以来5年半の間に当科が治療に関与した多発骨傷例196例中,下肢帯の骨傷を有する症例は160例81.1%であった.なかでも大腿骨,脛骨骨幹部骨折はそれぞれ下肢帯骨傷の24.8%,23.0%とほぼ半数であった.このように多発骨傷で問題となる両骨骨幹部骨折例について,単独損傷を含め大腿骨74肢,脛骨86肢の治療成績を調査し,多発骨傷における即時内固定の有用性を検討した.その結果,即時内固定は大腿骨では比較的良好な成績であったが,脛骨では骨髄炎,骨癒合遷延などの症例が多く,追加手術も多かった.多発外傷・多発骨傷における下肢長管状骨骨折の即時内固定の,全身管理,早期社会復帰などの面での意義を考え合わせ,大腿骨に対しては,髄内釘などによる即時内固定を,脛骨に対しては,創状態,受診までの時間などによって,即時内固定あるいは創外固定を選択して,多発骨傷者での両骨に対する初期治療を行う方針である.

整形外科を育てた人達 第50回

Otto Wilhelm Madelung(1846−1926)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.872 - P.875

 橈骨末端の発育障害で尺骨末端が脱臼する変形をMadelung変形と言っているが,このMadelungという人について少し紹介したい.

手術手技 私のくふう

経膝蓋腱進入法による膝十字靱帯の修復ならびに再建

著者: 湯浅勝則 ,   山際哲夫 ,   須津富鵬 ,   山下文治 ,   盛房周平 ,   榊田喜三郎

ページ範囲:P.877 - P.883

 抄録:われわれは最近,膝十字靱帯損傷に対して従来行われてきた内側傍膝蓋進入法(medial parapatellar approach)に代わって,膝蓋腱を縦切し,関節内に到達する進入法(経膝蓋腱進入法:transpatellartendon approach)を用い,十字靱帯の修復・再建術を行っている.
 本法では前膝部の重要な神経枝を損傷する危険性が低く,膝蓋上嚢や内側広筋の切開が不要なため術後の癒着がなく,関節可動域の再獲得が早期より認められる.また術後早期より筋力訓練が可能である.半月板に関しては,この進入法では前角を除き直視下に観察するのは困難であるが,鏡視下手術の発達した現在,関節鏡の併用により特に問題となることはない.

下腿・足部手術における伝達麻酔について

著者: 村松哲雄

ページ範囲:P.885 - P.888

 抄録:大腿後面遠位1/3の高位で坐骨神経ブロックを,膝関節内側部で伏在神経ブロックを行い,膝窩以下の麻酔域を得,下腿及び足部の小手術・検査を施行した.
 本法は全身状態へ及ぼす影響が少なく,簡便安全に施行できる.麻酔範囲.持続時間・大腿部でのターニケット装着に制限があるが,短時間の膝以下の手術に有用であった.手技と結果を報告し,穿刺点付近の解剖学的考察ならびに従来の臀部,膝窩部ブロック法との比較を行った.

臨床経験

脛骨内側顆の特発性骨壊死と思われる1例

著者: 清家重郷 ,   武部恭一 ,   小嶋三郎 ,   西重敬

ページ範囲:P.889 - P.891

 抄録:膝の特発性骨壊死の脛骨側発生例は極めて少ない.我々は脛骨内側顆にみられた特発性骨壊死と思われる症例を経験したので報告する.
 症例は72歳の女性で,昭和57年9月に突然左膝の強い歩行時痛と安静時痛を自覚するようになった.翌年4月に当科を受診した際のX線所見にて,脛骨内側顆の骨壊死と思われる像と内反変形が認められた.なお,骨壊死と関連するような全身疾患や,ステロイド投与の既往はなかった.

外傷後近位橈尺骨癒合の1例

著者: 島田幸造 ,   政田和洋 ,   川端秀彦 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.893 - P.897

 抄録:橈骨頭骨折を伴う肘関節の脱臼骨折後に近位橈尺関節の癒合をきたした1例を経験した,症例は15歳の男子で12歳時に右橈骨頭骨折を伴う肘関節後方脱臼を受傷し,観血的整復固定術を受けたが,術後,異所性骨化による関節の可動域制限をきたした.2度にわたる授動術を受けたにもかかわらず可動域制限は改善せず,レ線上,近位橈尺関節部の癒合症が認められたため,受傷後1年4カ月後に右肘関節の可動域制限と尺骨神経領域のしびれ感を主訴として当科を受診した.近位橈尺関節の癒合と共に異所性骨化も認められたため異所性骨化の成熟を待った後,シリコン膜を用いた近位橈尺関節授動術を施行した.術後EHDPの投与と慎重な自動的な関節可動域訓練を行いながら経過観察中であるが,術後7カ月の現時点においては橈尺骨癒合の再発はみられない.本症例と共に骨折後の近位橈尺関節癒合の発生因子に関して文献的な考察を加えて報告する.

形質細胞性骨髄炎

著者: 北野元生 ,   小林康人 ,   徳藤真一郎 ,   田村裕昭 ,   川嶌真人

ページ範囲:P.899 - P.902

 抄録:形質細胞性骨髄炎は慢性原発性骨髄炎の特殊な型として注目されている.この疾患は長管骨の骨端部などに単発性限局性に発生し,臨床経過が緩慢でレ線的に限局性の骨の透亮像を示すため,臨床的に骨腫瘍との鑑別が困難なことが多い.従って最終診断は病理組織学的検索によらなければならない.ところが,病理組織学的に病巣は形質細胞に富む肉芽組織からなり,腐骨形成などがみられないため,形質細胞性腫瘍(骨髄腫)とまぎらわしいことがあるので注意が必要である.
 われわれは14歳男児の左脛骨末端部に生じた本疾患を検索する機会を得た.本論文はこの症例の臨床経過の概要と病理組織学的所見を述べた.加えて,病巣の形質細胞が多クローン性に出現して来たものであることを明らかにするとともに,免疫組織化学的手技が単一クローン由来の骨髄腫との鑑別に極めて有用であることを示した.

小児反復性外傷性股関節脱臼の1例

著者: 佐伯正典 ,   小田浤 ,   田辺剛造

ページ範囲:P.903 - P.906

 抄録:小児反復性外傷性股関節脱臼は極めて稀である.最近我々は2回の外傷性股関節脱臼を起こした4歳4カ月の女児を経験したので,その股関節造影像ならびに手術所見を述べ,とくにその治療法について文献的考察を加える.小児外傷性股関節脱臼には必ず関節造影を施行し,関節包の断裂が認められたなら縫合が必要と考える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら