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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科22巻9号

1987年09月発行

雑誌目次

視座

各種疾患評価表の蒐集

著者: 佐野精司

ページ範囲:P.1017 - P.1017

 日本整形外科学会(日整会)から出版された整形外科学術用語集は,日常の教育・診療に大変便利に使わせていただいている.この用語集に肖って,整形外科診療に必要な各種疾患に対しても,その術前・術後の機能評価が出来る表示を,手頃な一冊の本に纏めてもらい座右に備えられるよう提言したい.
 題自由という「視座」執筆の依頼をうけた経緯上,勝手であるが貴書院の編集委員諸兄にその作成をお願いしたい.当然,国際化に対応する今日では,英文も併記されているのが理想であるが,差し当たり日本文だけのものでも早急に編纂していただきたい.

論述

脊椎・脊髄疾患に対する術中エコー—意義と臨床的応用について

著者: 川上紀明 ,   大沢良充 ,   森健躬 ,   小早川裕明

ページ範囲:P.1018 - P.1024

 抄録:脊椎・脊髄疾患に対して術中エコーを32例に試み,超音波診断を手術中に行いどのような情報が得られるのかを検討しその意義を以下4つに分けた.1)手術操作(除圧)の確認が可能である.2)術中に硬膜切開をせずに脊髄の観察が可能である.3)腫瘍切除時のガイドとなる.4)超音波ガイド下穿刺.各項目について代表的症例を提示し,更には術中エコーの長所・短所を超音波の特徴を念頭において考察し,長所として 1)操作手技が単純,2)多方向の断層像が得られる,3)実時間での観察が可能,4)動態的観察が可能,5)X線写真との比較が容易,6)安全性が高い,以上の6つを,短所として 1)時間がかかる,2)術中使用に適した装置が必要,3)ある程度の骨切除部が必要,4)術前評価が不可能,5)読影に熟練が必要,の5つをあげた.また,脊椎・脊髄疾患に対する超音波診断の応用についてその現在の状況について考察を加えた.

腰椎分離症に対するSegmental Transverse Wiring法

著者: 山下弘 ,   山本博司 ,   谷俊一 ,   河内通 ,   藤田泰宏 ,   岡田正彦 ,   山口龍彦 ,   橋本伸朗 ,   野口政隆

ページ範囲:P.1025 - P.1034

 抄録:過去3年間に当科を訪れた30歳以下の腰椎分離症58例の調査を行った.その結果,成長期のスポーツ活動が大きく関与していることがわかった.X線所見においては,第5腰椎に好発しており,13.8%に椎弓癒合不全(spina bifida occulta)の合併が認められ,先天的要因と後天的要因の両者の関与が考えられる症例もあった.
 保存的治療にて効果なく,日常生活に支障をきたしているものに対して,我々はSegmental Transverse Wiring法を行い良好な成績を得ている.本法は分離部に骨移植を行い,両側の横突起基部に通したwireを棘突起下で締結する方法であり,後方構築物を損うことなく,隣接の運動セグメントに障害を与えない理想的な手術法と思われる.本法の手技・適応・結果について詳しく述べる.

末梢神経Schwannoma 105例の臨床病理学的検討

著者: 真鍋淳 ,   川口智義 ,   網野勝久 ,   松本誠一 ,   北川知行 ,   町並陸生 ,   都竹正文 ,   古屋光太郎 ,   和田成仁 ,   磯辺靖 ,   多湖光宗

ページ範囲:P.1035 - P.1046

 抄録:最近7年間に経験した末梢神経schwannoma105例について検討した.症例は男48例女57例で平均年齢は49歳(17歳〜84歳)であった.単発例が90%,多発例が10%で,腫瘍の大きさは5cm以下のものが90%であった.症状として自発痛は4%と稀であったが圧痛は69%に認めた.Xerographyは82例に行い66%が筋間腫瘤像を呈した.腫瘍割面では中心部にAntoni A周辺部にAntoni Bを示す傾向がみられた.超音波,CT,Angiographyにおいてこの組織像を反映した特徴的二相パターンが約1/3症例に認められ診断的意義が大きいと思われた.穿刺細胞診は50例に行いclass IIが68%と多かったが,class IIIが5例(10%),class IVが1例(2%)にみられ,また迅速診断でも悪性と誤られ易い症例がみられた.しかし臨床所見,画像所見,細胞診を総合することにより術前正診率は96%であった.治療は悪性を疑ったもの以外,全例通常の神経を温存した摘出術を行い再発や神経障害はなく経過良好であった.

仙骨腫瘍の診断上の問題点

著者: 大幸俊三 ,   矢作宏 ,   保田勉 ,   川野寿 ,   小林定夫 ,   鳥山貞宜

ページ範囲:P.1048 - P.1054

 抄録:仙骨に発生する骨腫瘍は稀であり,単純X線像で異常を読影することは困難で,誤診が多い.我々は最近の3年間(1983-1985)に当科および関連病院において,11例の仙骨腫瘍を経験したので,診断上の問題点を検討する.11例の内訳は癌骨転移が5例,癌骨侵蝕が2例,原発性骨腫瘍は3例であった.仙骨腫瘍の診断が得られた最終検査および診断法として,CT-scanが6例,直腸指診が2例,単純X線像が2例,脊髄造影と骨シンチグラムがそれぞれ1例で,その他,手術時に発見されたものが1例あった.これらの検査をretrospectiveにみて,その有効度を検討するとCT-scanが9/10,直腸指診が6/8,骨シンチグラムが5/7,脊髄造影像が3/5,単純X線像が6/11で,CT-scanが最も有効であった.臨床的に仙骨腫瘍が疑われた場合,まず,直腸指診を行い,CT-scanで確認することが必要である.

後十字靱帯損傷に対する保存的治療—動揺のメカニズムと装具の効用

著者: 林承弘 ,   石橋俊郎 ,   水田隆之 ,   長束裕 ,   山本晴康 ,   宗田大 ,   冨松隆 ,   鈴木博之 ,   高木博史 ,   飯田勝

ページ範囲:P.1055 - P.1064

 抄録:膝後十字靱帯損傷における動揺のメカニズムを明らかにするとともに,装具による保存的治療の有効性について検討した.対象は陳旧例16例,新鮮例9例,計25例の後方動揺膝で,先ずそれらの臨床像について調べ,次に側面X線および筋電図を用いて,ADL上いかなる状況でsaggingが生じるかをバイオメカニカルな面より調べた.その結果,saggingは階段下降時,患肢をtoe-offする時など非荷重位でのみ生じ,しゃがみ込み動作時など荷重位では生じ得ないことがわかった,また後方制動装具の使用により,階段下降時などでのsaggingが抑えられ,同時にその際に発生する不安感も消失した.こうして装具を数ヵ月間装着した後,多くの症例では装具なしでも不安感を訴えなくなった.後方動揺では,他の複合靱帯損傷を合併しない限りdisabilityが少なく,装具による保存療法で十分なことが多い.

膝関節前十字靱帯再建術におけるsubstituteの固定部位,running route及び固定時の膝関節角度について

著者: 冨士川恭輔 ,   伊勢亀冨士朗 ,   竹田毅 ,   松本秀男 ,  

ページ範囲:P.1065 - P.1072

 抄録:ACL再建術の成否を決定するsubstituteの至適固定部位,固定時の膝関節角度,substituteのrunning routeを求めるために新鮮屍膝関節5体,ACL再建術中75関節を用い,固定部位などを色々変えて計測を行った.
 ACL再建術では,substituteを大腿側はACLの解剖学的付着部の後上縁部,脛骨側はその前内側部(膝関節伸展位)に固定するとsubstituteの固定間距離のlength patternは,膝関節伸展から屈曲まで平均2mm以内とほぼisometricとなる.至適屈曲角度は30〜45°に存在する.また関節外外側補強術を併用する場合には,関節内外再建substituteは互いに干渉してはならず,それにはsubstituteの関節外固定部位は,大腿側は外側顆後上縁部,脛骨側はGerdy結節前上縁部となる.また外側補強用substituteのrunning routeは,外側側副靱帯とのimpingementをさけるためにその外側を通す.

抗生物質(Fosfomycin)混入骨セメントの実験的臨床的研究

著者: 小野浩史 ,   山口武史 ,   中田浩司 ,   杉本和也 ,   矢島弘嗣

ページ範囲:P.1073 - P.1078

 抄録:8種類の抗生物質(FOM,DKB,GM,KM,TIPC,TC,CTM,CFS)について骨セメントよりの溶出実験を行いFOMが最も良好であった.このFOMについて各濃度での溶出実験および骨セメント別の比較実験を行い全てで十分な溶出を認めた.FOM混入骨セメントの強度実験ではポリマー40g当たりFOM 2gまでは強度に問題はない.溶出実験,強度実験の後,FOM混入骨セメントを臨床応用した.人工骨頭16例,TKR 5例に使用し,その排出液より十分なFOMを検出できた.血液中に移行したFOMの濃度は極めて低く全身的な影響は少ないと考えられた.臨床応用例21例すべてで術後感染症は認められていない.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

大腿骨骨切り術(前思春期〜成人)

著者: 上野良三

ページ範囲:P.1079 - P.1087

いとぐち
 前思春期以降で行われる大腿骨骨切り術は,大腿骨頭あるいは大腿骨頸部に加わるストレスを軽減する目的で行われるもので,変形の矯正のために用いられるわけではない.前股関節症性変形として重要な外反股に対しては内反骨切り術,股関節症には荷重部関節面の適合性を改善するための内反あるいは外反骨切り術,大腿骨頸部偽関節には頸部の横径増大および頸部の外反を目的としたY骨切り術が行われる.これらの大腿骨骨切り術は,いずれも解剖学的な関節の再建を目指したものではなくて,病的な形態によって関節の免荷を実現しようとする生力学的治療法である.

整形外科を育てた人達 第52回

Hermann Gocht(1869-1938)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1088 - P.1091

 既に半世紀以上の昔になったが1935年,筆者天児が43日の長い船旅をしてドイツに到着し,先ずBerlin大学病院Charitéを訪れた.その整形外科教授のHermann Gochtに会う事ができたがCharitéの整形外科は貧弱で病床は30床,教授室は図書室と一緒になっていた.GochtはOscar Helene Heimの所長もしていたのでそこも見学することにした.Gochtの前額部には当時のドイツ学生間に行われた決闘(Mensur)の瘢痕があった.

臨床経験

Ring apophysisの解離2例

著者: 上野起功 ,   今原敏博 ,   加藤明 ,   西村淳喜 ,   森本興市

ページ範囲:P.1093 - P.1096

 抄録:若年性腰椎椎間板ヘルニアは,種々の点で成人のそれとは異なることが従来指摘されてきたが,そのひとつにring apophysisの解離が存在する.本症はEpstein,森らの報告に始まる比較的稀な疾患であるが,我々は15歳と13歳の男子における2例を経験した.前者はレ線上,本症が疑われ両側骨形成的椎弓切除術を施行し,後者は単純レ線・断層写真にては明瞭でなくCTにてかろうじて疑われ両側Love変法が施行された.若年性腰椎椎間板ヘルニアにおける本症の発生率は,内外の報告を総合すると約10%であるが15歳以下の症例に限るとその割合は飛躍的に上昇する.Bickは17歳頃にring apophysisが椎体と癒合し始めると述べているが,それ以前の年齢,とくに15歳以下の腰椎椎間板ヘルニアではringapophysisの解離をつねに念頭において対処すべきと思われた.

人工透析患者に発生し,骨癒合に難渋した大腿骨骨幹部骨折の1例—アルミニウムとの関連について

著者: 溝畑隆男 ,   石井良章 ,   久津間健治 ,   佐藤圭子 ,   河路渡

ページ範囲:P.1097 - P.1101

 抄録:人工透析患者に発生した大腿骨骨幹部骨折に対し骨接合術を施行したが,骨癒合を得られぬまま再骨折を生じた症例を経験し,骨癒合とA1(アルミニウム)との関連を追求した.症例は45歳女性.昭和56年より人工透析を開始し,2年後左大腿骨骨幹部骨折を起こし,angle plateによる観血的骨接合術を施行した.以後,骨癒合不良にて約11ヵ月後に再骨折とプレートの破損を起こした.本症例では骨癒合が遅延し何ら外傷の既往なく再骨折を生じたこと,血清A1値が7.5μg/dlと高値を示したことからA1中毒性骨障害を考えキレート剤desferrioxamineを投与すると共に観血的骨接合術を併用し,骨癒合の徴候を認め良好な経過をたどっている.また,AI検索のために行った硬組織の分析電子顕微鏡によるspot analysisではAIの有意のピークを認める部位があり,示唆に富んだ所見と思われた.以上により,AIが骨折部の石灰化抑制作用に大きな影響を与えていたものと推論した.

高齢者大腿骨頸部骨折手術における低比重テトラカイン脊椎麻酔

著者: 山田邦雄 ,   太田邦昭 ,   脇田郷

ページ範囲:P.1103 - P.1106

 抄録:高齢者の大腿骨頸部骨折手術の麻酔30例に,0.2%低比重テトラカインによる脊椎麻酔を施行し,その有用性を検討した.対象は年齢が64歳から90歳まで平均74.4歳で,さまざまな術前合併症を認めた.テトラカイン溶液の注入量はおおむね8mlで低身長の患者は約7mlに減量した.注入10分後のpin prick法による無痛レベルは最高Th3最低L1で,3分の2の症例がTh10からL1の間であった.創部痛出現時間は平均6時間34分で,術中除痛目的で必要とされた補助麻酔はなかった.注入後30分間に血圧低下のため昇圧剤を使用した症例は9例30%であったが,その他重篤な合併症はなかった.
 この麻酔は患側を上にして腰椎穿刺が可能であり,骨折患者にとって苦痛が少なく,最小の体位変換で手術に移ることができる.十分な無痛と筋弛緩が比較的長時間得られ,術中術後の合併症が少なく,高齢者の下肢の手術にも比較的安全に行える麻酔である.

小児における高度下肢変形拘縮に対する治療経験

著者: 藤野まどか ,   小野沢敏弘 ,   山下泉 ,   熱田裕司 ,   鈴木伸治 ,   宮津誠

ページ範囲:P.1107 - P.1110

 抄録:110°の尖足と高度の膝関節屈曲拘縮を示した,4歳男子の治療経験を報告した.
 足関節変形矯正に伴う牽引性末梢神経損傷の予防に用いた末梢神経機能モニタリングの有用性と足関節変形矯正の際行ったipsilateral thigh flapの利点と限界について主に述べた.

過成長を伴った下腿グロームス腫瘍の1例

著者: 鶴薗雅史 ,   高倉義典 ,   三井宜夫 ,   島屋正孝 ,   宮内義純 ,   青木孝 ,   増原建二

ページ範囲:P.1111 - P.1114

 抄録:われわれは過成長を伴う左下腿に発生したグロームス腫瘍を最近経験したので報告する.症例は21歳男性で主訴は左下腿外側部の腫脹および疼痛であった.現病歴は約5年前より左下腿外側部の疼痛と腫脹に気づくも放置していた.約1年前より同部の圧痛が著明となり当科を受診した.現症は左下腿外側の中下1/3部および左外果部にそれぞれ約2×2cm,約3×2cmの腫脹を認め,同部に著明な圧痛が存在した.
 単純X線像では脛骨の長さが患側に0.7cmの過成長を認め,腓骨の長さで患側に0.9cmの過成長が存在し,特に外果部でその所見が著明であった.ゼログラフィーおよびCT検査で同部に軟部腫瘍陰影が認められたため,腫瘍摘出術を施行した.臨床および組織学的所見よりグロームス腫瘍と診断した.なお,過成長の原因はグロームス腫瘍に存在しているarterio-venous anastomosisにより成長期の骨発育が助長されて生じたと推測される.

手舟状骨亜脱臼の1例

著者: 中野謙二 ,   山田総平 ,   渡部圭介 ,   加藤公 ,   細井哲

ページ範囲:P.1115 - P.1117

 抄録:手舟状骨亜脱臼の1例を報告する.症例は,51歳男,乗用車運転中の衝突事故で受傷,手関節腫脹,圧痛があり,X線撮影で,舟状骨—月状骨間拡大,舟状骨の短縮,ring signが認められた.観血的整復固定術を施行した.手関節背側を縦皮切にて侵入,舟状骨—月状骨間は完全に離開し,舟状骨は,背側に回旋亜脱臼を呈していた.用手的に整復可能で,手関節橈屈にて舟状骨—月状骨間が整復された.その位置で経皮的にC-wire 2本にて固定,靱帯修復後約4週間のcast固定を施行した.術後3ヵ月経過した現在同部に症状なく,可動域良好,X線的に軽度の舟状骨—月状骨間離開を残すが,ほぼ問題なく以前の生活に復帰している.手関節外傷によるcarpal instabilityのうちの舟状骨回旋亜脱臼と考えられ,これらは初期治療において整復固定を怠ると,将来手関節障害を残す要因となる為要注意であると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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