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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻10号

1988年10月発行

雑誌目次

視座

整形外科にとってのMRI

著者: 柴田大法

ページ範囲:P.1155 - P.1155

 最近の学会発表ではMRI(磁気共鳴映像法)画像も普通のものとなった.1984年2月,フロリダ大学Enneking教授のもとに研修に出かけたとき,初めて腫瘍のMRI面像をみた.始めはCT像の翻転したものぐらいにしか思わなかった.骨はlow intensityであるため真っ黒で存在しないように見え,しかも横断像のみしか見る機会がなかったからである.これぐらいなら得られた面像を白黒翻転の裏焼きにしてCTと同じにすれば見易いのではと思ったものである.しかし軟部腫瘍の例では,組織の多様性が白黒様々に示されたり,生検後の血腫が真っ白に見えて腫瘍と識別可能であったりして,ある種の質的診断の可能性と生体無侵襲との利点を考え合わせるとこれは大したものだと思うようになった.1985年9月再度,同所を訪れたときには,2台目のMRI機器が設置工事中で,axialやcoronal画像も撮れると聞いた.CTの導入で果たされた任意の横断像を見る夢がふたたびもとの断層撮影像に戻るのかぐらいにしか感じなかったものである.しかし民活のお蔭で松山でも2台のMRI機器が導入され,画像が入手できるようになってその驚くべき威力に目を瞠らされることになった.先ず大腿骨骨肉腫のaxial像で,単純XPから予想された拡がりを遥かに超える骨髄内病巣の近位への拡がりとskip病巣の存在が明瞭になった.

論述

脊柱変形を伴った脊髄空洞症,Arnold-Chiari奇形22症例について

著者: 新井貞男 ,   大塚嘉則 ,   山縣正庸 ,   井上駿一 ,   北原宏 ,   南昌平 ,   礒辺啓二郎 ,   板橋孝

ページ範囲:P.1156 - P.1163

 抄録:アーノルドキアリ奇形(ACM),脊髄空洞症を伴った脊柱変形22例を対象とし検討を行った.この中,8例は学校検診で側彎を指摘された者の中から発見されたものであり,側彎を主徴とするACM,脊髄空洞症の存在に注意し早期発見に努める必要があると思われる.ACMを伴った脊柱変形は脊髄空洞症を伴ったものに比しsevere curveであり,装具内増悪,急性増悪を示す例が多かった.curve patternは必ずしもlong C curveを示さず,特発性側彎症と類似した症例がむしろ多く見られたことは注意を要する.治療としては,側彎,神経症状共に軽度である場合は装具治療を行いつつ神経症状に注意してfollowする.側彎の手術治療は,ACMを伴った症例では,後頭窩減圧術後,脊柱変形矯正手術を行う方法で術後精神症状の出現もなく良い結果を得ていた.脊髄空洞症を伴う症例では,神経症状が後日,新たに出現しても脊髄に対する手術が容易に行い得る前方手術が望ましいと思われた.

非骨傷性頸髄損傷の臨床的検討

著者: 白崎信己 ,   冨士武史 ,   久保雅敬 ,   濱田秀樹 ,   大村宗久 ,   荻野洋

ページ範囲:P.1165 - P.1172

 抄録:非骨傷性頸髄損傷18例を,脊髄腔造影像上の圧迫所見により分類し検討した.脊髄非圧迫群は4例あり,椎間不安定性のある2例には前方または後方固定術,不安定性のない2例には保存療法が施行された.死亡例1例を除き,麻痺は,Frankel分類のCからD2例,Dのまま1例であった.脊髄圧迫群は,単椎間圧迫群6例と,多椎間圧迫群8例に分けられた.単椎間圧迫群の圧迫原因は,椎間板ヘルニア3例,椎体後方骨棘3例であった.保存療法が3例,前方除圧固定術が3例に施行され,麻痺は,FrankelのBからD1例,CからD4例,Dのまま1例で,手術治療例の方が,保存治療例よりも,麻痺の回復の速さも,最終的な到達度も優っていた.多椎間圧迫群は,OPLLを5例,脊柱管狭窄を7例に認めた.完全麻痺の1例とFrankelのD2例に保存療法が,FrankelのBとCの5例に脊柱管拡大術が施行された.完全麻痺の1例以外は,麻痺は,FrankelのDに改善した.

滑膜肉腫の治療成績

著者: 広田茂明 ,   内田淳正 ,   上田孝文 ,   小野啓郎 ,   青木康彰 ,   濱田秀樹

ページ範囲:P.1173 - P.1178

 抄録:滑膜肉腫25症例の治療成績を検討した.症例は13〜84歳平均33.4歳で,好発部位は下肢近位で13例が発生した.追跡期間は3〜134カ月平均33カ月である.予後は生存14例,死亡11例で,5年生存率は47%である.予後不良因子は,腫瘍径が5cm以上と大きいこと,初回手術術式が単純切除術であること,局所再発したことであった.補助療法については化学療法及び放射線療法単独の効果は明らかにできなかったが,広範切除術と化学療法の併用によって治療成績を向上できることが分かった.また,滑膜肉腫の診断の一助としてKeratinを用いた酵素抗体法が有用であった.

不完全距踵関節癒合症について

著者: 楢林好隆

ページ範囲:P.1179 - P.1187

 抄録:7年余の間に足関節痛で来院せる1251名の中に9名10足の不完全距踵関節癒合症をみた.従来,その診断のために軸写,断層,造影,CTなどが工夫されているが,普通に撮影する正側面の2枚のレ線でも診断は可能であることが多い.それには載距突起と距骨の後部突起の内側結節との関係に注意すればよい.その際,写真の方向が問題になると思ったので,足関節痛で来院した368名のレ線の調査をしたが,その70〜80%は判定できる写真であった.また著者の足で調べたところ,側面像は立位が安定した所見を呈する事が分った.

シンポジウム 大腿骨頭壊死症の最近の進歩

大腿骨頭壊死症の最近の進歩—緒言

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.1189 - P.1189

 「骨が死ぬ」という奇妙な現象は,患者さんに説明するのも一苦労であった.「某有名歌手が骨の腐る病気らしい」という週刊誌情報があってこのかた,やや納得が得やすくなったという.実のところ起きてしまえば事態は深刻である.壮年期の人達の両側大腿骨頭をしばしば侵し,たとえ適切な治療が行われたとしても生涯にわたり活動範囲や就労に制約をうけるおそれがある.原因は? 予防は? 診断は? 有効な早期治療はあるのか? salvageする手段は? 100年も以前からその存在が知られていながら,成人の特発性大腿骨頭壊死症が日本で注目を集めたのはたかだか20年この方である.Legg-Calvé-Perthes病(1910)が10数年遅れで我が国でも詳細に報告されていることを考えあわせると,まことに奇異の感がある.しかし,その後,成人骨壊死に関する研究の進展ぶりは目覚ましい.厚生省の調査研究班結成がその原動力となったことは疑いないところである.力点がおかれているのは,画像診断の進歩,病期の進展に関する共通した基準,早期の大腿骨頭温存手術開発と優れた人工骨頭・人工関節置換によるsalvage,さらに内科との共同による疫学調査やリスク要因の追究等々である.

わが国における大腿骨頭壊死症の疫学

著者: 二ノ宮節夫

ページ範囲:P.1190 - P.1193

 抄録:1976年から1977年にかけて,厚生省特定疾患特発性非感染性骨壊死症調査研究班(班長西尾篤人九大名誉教授)が行った,特発性大腿骨頭壊死の全国疫学調査に基づいて,本疾患のわが国における実態を報告する.報告された症例数は1155例である.1964年頃までは,比較的稀有な疾患であったが,1969年以後,年々増加の傾向にある.ステロイド剤の服用や過度のアルコール摂取の既往を有する例が多く,それぞれ全体の約1/3ずつを占めている.男女比は約2対1で男性に多い.20歳代から50歳代の青壮年層に好発している.ステロイド剤の服用を要した基礎疾患ではSLEがもっとも多く,約1/4を占めている.本疾患は両側性罹患率の高いのが特徴で,ステロイド剤使用例では約62%,非使用例では約45%が両側に発症している.治療法としては,人工骨頭や人工関節の置換術がもっとも頻繁に行われている.

大腿骨頭壊死症の病型・病期分類と治療計画

著者: 井上明生 ,   樋口富士男

ページ範囲:P.1195 - P.1200

 抄録:病期・病型分類は,厚生省特定疾患 特発性大腿骨頭壊死症調査研究班で作製したものを紹介した.すなわち,X線上に変化の現れるまでのstage I,X線上わずかの変化を認めるが,骨頭陥没のほとんどないstage II,骨頭陥没の進行したstage III,関節裂隙や臼蓋側にも変化のみられるstage IVの病期分類と,帯状硬化像を示すtype I,関節面不整像を示すtype II,嚢胞様透過陰影を示すtype IIIの病型分類である.各病型・病期により予後が異なるため,その治療法も異なる.従ってX線像を的確に読み,治療計画をたてる必要がある.その基本的な考え方は,放置しても予後良好なものを的確に見つけ出し,無用の手術は行わない,人工物への置換と骨頭温存の両方の治療が考えられるときには,骨頭温存の治療法を優先させる,などである.

大腿骨頭壊死症の新しい画像診断

著者: 小久保宇

ページ範囲:P.1201 - P.1207

 抄録:大腿骨頭壊死症のMR画像について概説する.正常の大腿骨頭は骨頭内骨髄に含まれる豊富な脂肪のためほぼ均一な高信号に描出されるが,臨床症状と単純X線写真から骨頭壊死症と診断された51例70骨頭のMR画像を検討すると,全例で骨頭に異常低信号域が認められた.またその画像は,異常低信号域の分布状態から全骨頭型,表層型,輪状・帯状型の3型に分けられた.輪状・帯状型の中に単純X線写真上末期の骨頭はなかったが,その他の点ではMR画像とX線写真,骨シンチグラムの間に一定の相関はなかった.一方,X線写真が正常であっても,ステロイド剤を投与されている患者の骨頭には,半数以上でMR画像に異常が見られた.中でも輪状・帯状の低信号が見られた5骨頭の内,4骨頭で後に骨頭のcollapseが明らかになり,単純X線写真で異常の見られない早期の大腿骨頭壊死症もMRIで検出できると考えられた.

特発性大腿骨頭壊死症に対する人工骨頭,人工関節置換術の成績と問題点

著者: 高岡邦夫 ,   大園健二 ,   西塔進 ,   斉藤正伸 ,   清水信幸 ,   小野啓郎 ,   門脇徹 ,   仁科哲彦 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 抄録:特発性大腿骨頭壊死症(ANF)に対する単純人工骨頭18例19股,Bipolar人工骨頭39例46股,人工股関節36例44股の術後成績を調査した.経過観察期間は2年から14年である.単純人工骨頭では最終調査時の成功率は32%と低く,成績不良例のすべてにX線上,proximal migrationかstem sinkingが認められた.Bipolar人工骨頭では83%と高い成功率が得られ,stem sinkingの頻度は低く,proximal migrationの症例はなかった.また高い髄腔占拠率が成績良好因子であることが判明した.人工股関節では成績不良が29.5%と多く,femoral componentのゆるみが多かった.その理由として手術手技上の問題点も存在したが,その他,両側罹患,50歳以下の症例などが危険因子と考えられた.現時点ではstageIIIの時期に高い髄腔占拠率の得られるstemのbipolar人工骨頭を用いるのが望ましいと考えられる.

大腿骨頭壊死症に対するcore decompressionの手術法と合併症と成績

著者: ,   高岡邦夫 ,   増原建作

ページ範囲:P.1215 - P.1217

 抄録:大腿骨頭壊死症に対するcore decompressionの手術成績を調査した.手術は直径8mmのトレフィンを使用し,イメージ透視下に,大転子下部より骨穿孔を行う.手術適応はstage I,IIの早期骨壊死で,crecent signが出現すれば適応とはならない.術後5年以上経過した133例の臨床成績は,stage Iの93.9%,stage IIの82.3%が成績良好であった.X線学的にはstage Iの86.6%,stage IIの66.7%で進行が停止し,collapseに陥った症例は10例である.さらに,18例でcollapseをともなわない変形性関節症性変化がみられた.本術式の効果として,骨頭内骨髄圧の低下,壊死骨組織の部分的除去,壊死骨組織が生きた組織によって置換(血管結合織の形成→脂肪細胞の出現→造血骨髄組織の形成)されることが考えられる.

Nontraumatic Osteonecrosisの原因と病態についての考察

著者: ,   大園健二 ,   斉藤正伸

ページ範囲:P.1219 - P.1225

 抄録:アルコール中毒患者,ステロイド大量投与例などの骨壊死の原因となる疾患には,脂肪塞栓をおこしうる病態が共通してみられる.骨内脂肪塞栓は局所の血管内凝固機能に影響し,骨壊死の原因となる3相の血栓形成過程を惹起すると考えられる.この骨内で形成された血栓が骨外にまで波及し,外側骨端動脈の閉塞がおこるとき,部分的な骨頭壊死がおこり,さらに血栓形成がすすみ内側大腿回旋動脈まで閉塞されると,より広範囲の骨頭全体の壊死がおこると推論できる.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

Charnley人工股関節手術手技上のpitfallsとその対策〈後編〉

著者: 寺山和雄 ,   前田敏明 ,   小林千益

ページ範囲:P.1227 - P.1238

11.ソケットのトリミング時のpitfalls
 オージーソケットにトリミングエイドがつくようになってからトリミングがやりやすくなった.しかしうっかりミスは起こりうる.
 ①トリミングエイドの後方のフランジは外方に張り出し,股臼後壁とのアンカー効果を高めるようにできている.前後方向を逆転してとりつけないように注意しなければならない.トリミングエイドそのものに"posterior"という目印がついているから,それが後壁にあたるようにセットすること.ハンドルを頭側に向けた状態では,右側では"R"の目印,左側では"L"の目印が前方にくる.トリミングエイドをセットした後,トリミングを開始する前に直接股臼にあてがってみて,"posterior"の目印が後方にくることを確認する操作が重要である(図28).

認定医講座

大腿骨と膝の外傷

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.1239 - P.1246

I.大腿骨骨折
 はじめに
 股関節の外傷としての大腿骨頸部内側骨折と外側骨折を除く,転子下骨折,骨幹部骨折について述べ,顆上部および顆部骨折は膝関節外傷の項で述べることにする.骨折全般について言えることであるが,小児と成人とでは対応が著しく異なる.
 小児の大腿骨骨折:小児では観血的に治療されることはほとんどなく,牽引療法,徒手整復,外固定などを組み合わせた保存療法が中心になる(図1).

下肢の外傷—下腿から足関節

著者: 青柳孝一

ページ範囲:P.1249 - P.1258

はじめに
 下肢の外傷とくに下腿骨骨幹部骨折,足関節脱臼骨折等下腿における骨折・脱臼は発生頻度が高く日常最も遭遇する機会の多い外傷である.しかしその治療は整形外科医であっても認定医から研修医,整形を標榜する一般外科医,さらには今でも根強いファンを持つ接骨師に至るまでがこれに当っているのが現状である.長管骨骨幹部皮下骨折の場合は余計な操作を加えないで上下2関節を含めて固定さえすれば何時の日にか骨癒合が得られることは間違いない事実であるが,単なる皮下骨折であってもその状態,程度は症例によって全く異なるものであり,少なくとも整形外科認定医と呼ばれる者はそれぞれの症例に最も適した治療方法を選択し確実に施行する責任がある.そのためには受傷機序,受傷部位,型,程度などを治療前に充分把握する必要がある.筆者は今回下腿から足関節における骨折・脱臼について以上のことを重点にまとめてみた.

整形外科を育てた人達 第64回

Russell A. Hibbs(1869-1932)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1260 - P.1263

 Russell A. Hibbsの名は私達の若い時代に脊椎,関節の固定手術で有名であった.最近では人工関節等の進歩によりHibbsの名はあまり聞かなくなったが,脊椎,関節の外科では忘れることのできない学者である.

臨床経験

橈骨遠位端骨折部で12年間骨性癒着していた深指屈筋腱を解離しえた1症例

著者: 出目明 ,   玉井進 ,   水本茂

ページ範囲:P.1265 - P.1268

 抄録:橈骨遠位端骨折の合併症として長母指伸筋腱断裂はしばしば見受けられるが,屈筋腱の損傷例は極めて稀である.今回我々は,21歳男性で示指深指屈筋腱が,橈骨遠位端骨折部で12年もの長期にわたって骨性に固定されていたにも拘らず,不可逆性のmyostatic contractureに陥ることなく,腱剥離術によって良好な可動性を再獲得できた1例を経験した.

血友病による膝屈曲拘縮に対するReversed Dynamic Slingsの使用経験

著者: 関矢仁 ,   岩谷力 ,   大井淑雄

ページ範囲:P.1269 - P.1272

 抄録:血友病患者では,繰り返す関節内出血により不良肢位拘縮ならびに関節破壊を引き起こす.膝関節は荷重関節であり,運動量も多いために上記関節症の好発部位の一つであり,膝関節の機能障害,特に屈曲拘縮が生じた場合に,日常生活に及ぼす影響は大きい.
 以前より血友病による膝屈曲拘縮に対する保存的療法は種々あるが,1975年,SteinとDickson4)はReversed Dynamic Slings(以下R. D. S.と略す)を用い,著明な改善結果を報告している.今回,われわれは血友病により両膝屈曲拘縮を呈する1症例に対しR. D. S.を用い,良好な結果を得た.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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