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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻11号

1988年11月発行

雑誌目次

視座

「齢(よわい)」を感ずる時

著者: 桐田良人

ページ範囲:P.1275 - P.1275

 美しい竹林に囲まれて静かだった病院の周囲にも所謂新住宅が建てこんできて,自動車の騒音をきかされるようになったが,なお伐り残されている竹林の緑が梅雨の晴れ間の日射をうけて美しく輝いている.
 午前・午後の手術を終って病院玄関に立ってみると快い軽い疲れを感ずるが,晴れ間のそよ風を受けて気持は至ってさわやかである.

論述

加熱処理フィブリン接着剤(TISSEEL®)の多施設臨床試験

著者: 島津晃 ,   石井清一 ,   桜井実 ,   室田景久 ,   寺山和雄 ,   三浦隆行 ,   松井宣夫 ,   荻原義郎 ,   井村慎一 ,   榊田喜三郎 ,   増原建二 ,   小野啓郎 ,   廣畑和志 ,   生田義和 ,   杉岡洋一

ページ範囲:P.1276 - P.1284

 抄録:1)全国15施設にて,51例の整形外科手術において,主に骨組織(30例),神経(10例),血管(8例)を対象に加熱処理フィブリン接着剤を適用したところ,その成績(有効以上)は接着効果がそれぞれ52.6%,100%,62.5%,止血効果が骨組織で100%,血管で75.0%,更に,充填効果(主に骨充填)が80.0%と良好な結果を得た.
 2)本剤適用部位の機能的所見を適用後6カ月間観察したところ,骨組織に対する骨癒合は「良好」8例,「不良」1例,骨の「転位の有無」では「無」が5例,「有」はゼロ,神経機能回復では3ヵ月目で「早い」2例,「同じ」3例,「遅い」ゼロであり,血行状態も適用直後に「不良」が1例認めたが,その後の観察ではほぼ良好な成績であった.

変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術の落とし穴

著者: 緒方公介

ページ範囲:P.1285 - P.1293

 抄録:当科にて1970年より79年までに行われた高位脛骨骨切り術の術後長期観察症例(32膝)および1980年より84年までに行われた症例(121膝)について手術手技上の問題点を検討した.その結果,①切骨部の遷延癒合や偽関節をなくすためには切骨部の接触面積および安定性に優れた術式を選択する必要がある,②腓骨を近位1/3の部で処理すると腓骨神経を損傷しやすい,③矯正角の決定には臥位の下肢X線像を用いる方がより正確に術後の立位下肢アライメントを予想できる.また術中に正確な骨切りを行うためには専用の角度治具が有用,④関節鏡による精査にもとづく適応の厳密化,さらに鏡視下手術による関節内操作の併用により安定した成績が得られる,と思われた.以上の結果を考慮して1984年9月以降に行われた54例の手術(interlocking wedge osteotomy)では,合併症は皆無であった.

脛骨二重骨折に対するエンダー法

著者: 安藤謙一 ,   河辺憲郎 ,   中村秀明

ページ範囲:P.1295 - P.1300

 抄録:下腿骨骨折は,日常遭遇する機会の多い骨折であるが,脛骨二重骨折は比較的少ない.また,脛骨二重骨折は,強大な外力により発生することが多く,治療に難渋することが少なくない.今回,成人の脛骨二重骨折に対する治療法とその成績を調査した.症例は8例で.開放骨折4例,皮下骨折4例である.初期治療は,エンダー法7例,創外固定1例であり,エンダー法の4例は良好な骨癒合が得られたが,残りの4例はいずれも骨癒合が遷延し,salvage手術を必要とした.骨癒合が遷延したエンダー法の3例は,いずれも拙劣な手術手技が原因と考えられた.Salvage手術としては,いずれもエンダー法(2例に骨移植を併用)を行い,いずれも骨癒合が得られた.脛骨二重骨折のMelisの分類に当てはめたわれわれの行っているエンダー法は,注意深く手術すれば,回旋力に対する固定性も良好で,優れた治療法であると言える.

慢性関節リウマチの前足部変形に対する手術的治療例の検討—母趾Implant Arthroplasty併用例について

著者: 北野達郎 ,   井口哲弘 ,   松原司 ,   川井和夫 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1301 - P.1306

 抄録:1971年以降,RAの前足部変形に対してResection Arthroplastyを行ない術後短期間は除痛効果に優れていたが,その後の再調査結果では変形や胝股の再発がみられ歩行時の不安定感などの訴えもみられるようになってきた.歩行に際して母趾は重要な役割を演ずるために1977年以降,母趾機能の改善を目的としてClayton法に母趾Implant Arthroplastyの併用を行ない良好な結果を得ている.症例は21例30足で,術後追跡期間は1年から9年6ヵ月(平均3年)である.本手術法の手術成績を除痛効果,各変形の矯正,胼胝の消失,歩行能力や履物の改善などについて検討を行なった.

当院における10年間の大腿骨頸部外側骨折の統計から—予防を考える

著者: 金物壽久 ,   元田英一 ,   高橋成夫 ,   今枝敏彦 ,   三浦恭志 ,   山田英世

ページ範囲:P.1307 - P.1311

 抄録:老人医療に対する医学的,社会的問題が話題になっている.整形外科領域において大腿骨頸部外側骨折にはこれらの問題が端的に現われており,10年間の症例168例を調査し考察した.ここ数年間に本骨折は著明に増加しており,特に75歳以上に顕著であった.退院後のADLおよび生命予後は予想以上に悪く,主に合併症によって左右されており,整形外科的治療を論ずるだけでは対処できない例も多かった.一方,受傷時期は冬に多く,受傷場所はトイレ,玄関に多いなど一定の傾向がみられた.一定の傾向に対してはその予防策を考える余地があると思われ,オステオポローシス,環境,合併症といった危険因子や予知要因の研究が,今後進むことが期待される.

90歳以上の高齢者の膝X線像—変性所見の特徴について

著者: 野沢隆人 ,   佐藤實 ,   嶋屋雅光 ,   腰野富久

ページ範囲:P.1313 - P.1317

 抄録:最近我々は全国の国保関係の市町村立病院及び診療所より集めた,90歳以上の高齢者の膝関節X線像を観察する機会を得たので,その変性所見の特徴について報告する.
 男12例24膝,女24例45膝の計36例69膝,平均年齢93.3歳(90〜101歳),膝関節臥位正面および側面の2方向X線像について検討した.

指節骨癒合症について

著者: 今村貴和 ,   三浦隆行

ページ範囲:P.1319 - P.1327

 抄録:指節骨癒合症は,その頻度が全上肢先天奇形の約0.6%とされる比較的稀な奇形であり,左右対称性の手指関節の伸展位強直にしばしば手根骨,足根骨,足趾関節の癒合を伴い,常染色体性優性遺伝形式を示すものとされる.今回我々は,これまでに経験した,他のmajor anomalyに伴わない指節骨癒合症と考えられた症例(42例)につき検討を加えた.複数指罹患例(12例)は,罹患関節が尺側,PIP関節ほど多く,濃厚な遺伝性をみるなど,典型的な指節骨癒合症の臨床像を呈していた.単一指罹患例(30例)は母指,小指に多く,小指例が80%を占めた.又,家系発生は少なく,不全型が多いなど,真の指節骨癒合症との鑑別が問題となる症例を含んでいた.

尺骨神経管症候群—病態,臨床像と手術成績

著者: 高畑智嗣 ,   荻野利彦 ,   三浪明男 ,   福田公孝

ページ範囲:P.1329 - P.1334

 抄録:Guyon管における尺骨神経のentrapment neuropathyは,尺骨神経管症候群とよばれる.著者らが経験した8例の尺骨神経管症候群について,臨床像と手術時所見を分析し,診断および治療上の問題点を検討した.臨床症状は,尺骨神経の障害部位に応じて,様々な運動障害と知覚障害の組合せを示した.従来の分類には無い,小指外転筋のみが麻痺した1例を経験した.全例でGuyon管を開放し,6例で明瞭な神経圧迫所見を認め,そのうち4例はガングリオンが原因であった.超音波断層検査はガングリオンの発見に威力があるため,尺骨神経管症候群の補助的診断に有用である.明瞭な神経圧迫所見が無かった2例では神経剥離術のみを施行したが,術後の麻痺の回復状態は良好であった.障害部位がGuyon管と考えられる場合には,画像診断で腫瘤等の異常が認められなくとも,Guyon管を開放して内部の状態を確認すべきである.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

人工骨頭置換術

著者: 古屋光太郎

ページ範囲:P.1335 - P.1342

はじめに
 近年,日本も世界一の長寿国となり,高齢者人口は増加の一途を辿り,老人特有の骨粗鬆症および大腿骨頸部骨折が高頻度にみられるようになってきた.高齢者に多い大腿骨頸部内側骨折に対しては,寝たきりにならぬようできるだけ早期に手術を行い,しかも「痴呆」防止のため術後なるべく早く立たせて歩行させることが重要とされ,観血的治療が主流となっている.われわれはGardenのI,II,III型の一部はカニューレーテッド・キャンセラス・スクリューやコンプレッションヒップスクリューなどを用い強固な内固定を行い,IV型およびIII型のうち高度の骨粗鬆症のあるものや骨頭下骨折のような不安定のものに対しては人工骨頭を挿入し早期の起立歩行訓練を行っている.

認定医講座

胸腰椎ならびに脊髄・馬尾損傷

著者: 角田信昭

ページ範囲:P.1343 - P.1350

はじめに
 脊椎損傷は,何らかの外力が,直接的にしろ間接的(介達性)にしろ,同部に加わり,損傷に至ったものであり,外力の強さ,方向,加わった部位の解剖学的生理的特殊性によってその病態は,異なる.一方その程度によってはその内部に包含する脊髄,馬尾,神経根に種々の程度の損傷を来す.第11胸椎から第2腰椎に至る胸腰椎移行部はその中でも特に損傷の頻度が高い部に属する.

手関節および手の骨折

著者: 佐々木孝

ページ範囲:P.1351 - P.1356

 扱う範囲が広いので,要点と最近の話題について略述する.

整形外科基礎

X線像による大腿骨骨密度測定の試み

著者: 伊丹康人 ,   山下源太郎

ページ範囲:P.1357 - P.1363

 抄録:大腿骨,下腿骨などのように太い長管状骨の骨密度を,臨床利用の容易なMicrodensitometry法を応用して計測することを試みた.3mm×20stepのアルミニウムstep wedgeを大腿部からの散乱X線を遮蔽するための側面遮蔽板と底面遮蔽板との間に挿入したものを標準物質として股間に置き,大腿部が内旋外旋しないよう,踝部・足部固定装置で踝部・足部を固定して,リスホルムを備えたブッキーブレンデを使用して両股関節を含む大腿骨中枢側のX線像を撮影し,人工股関節直下などの光学密度をMicrodensitometerを用いて測定し,コンピューターにより骨幅D,骨髄幅d,Cortical Index(D-d)/D,Gsmax,Gsmin,ΣGS/Dを計算した.
 これら指標の測定誤差は,変動係数5%以下と小さく,少数例の解析ではあるが臨床例に応用した結果,本法は,長管状骨の骨密度測定に充分応用出来ると考えられる.

整形外科を育てた人達 第65回

Guillaume Benjamin Amand Duchenne(1806-1875)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1364 - P.1367

 整形外科は骨・関節の疾患を取扱っているが,この関節を動かすものは節肉である.この節肉の生理・病理に取組み,電気刺激を利用した学者の中で省くことのできない学者としては先ずDuchenneではないかと思う.一般には生れた町がBoulogneであったのでDuchenne de Boulogneと言われていたが,詳しく言うと次の如く長い名である.即ちGuillaume Benjamin Amand Duchenneが正しい姓名である.

臨床経験

Osteofibrous Dysplasiaの3症例

著者: 木下厳太郎 ,   住本公日己 ,   高岩均 ,   前田昌穂

ページ範囲:P.1369 - P.1374

 抄録:Osteofibrous dysplasia(以下O. D.)は,1976年,Campanacciにより独立した疾患概念として提唱されたが,fibrous dysplasia(以下F. D.)との異同に関しては統一した見解が得られていない.
 今回我々はO. D.の3症例を経験したのでF. D.との異同に関して私見を述べた.

細菌性心内膜炎を基礎として発症したと思われる化膿性椎体炎の2例

著者: 可徳三博 ,   原田正孝 ,   川上宏治 ,   加藤悌二 ,   東真理

ページ範囲:P.1375 - P.1378

 抄録:細菌性心内膜炎を基礎として発症したと思われる化膿性椎体炎の2例を経験したので報告する,症例は2例共に中年の男性で熱発に伴う激しい腰痛を主訴としていた.起炎菌は共にStreptococcusであった.1例は一時心不全状態を呈し巨大な大動脈弁の疣贅を残し,他の1例も大動弁の閉鎖不全が残り共に弁置換を余儀なくされた.細菌性心内膜炎は筋骨格系の症状を呈する事が多く,激しい腰痛で熱発を伴う場合は,本疾患も考慮し循環器系の検索を行う事が必要と思われる.

指(趾)の機能的血行不全に対するSuperselective Digital Sympathectomyの経験

著者: 武内正典 ,   茨木邦夫 ,   嘉陽宗俊 ,   新垣晃

ページ範囲:P.1381 - P.1383

 抄録:手指(足趾)の可逆的血行不全を呈する5症例に対しsuperselective digital sympathectomyを行い良好な結果が得られた.
 手術は指(趾)血管壁の外膜と中膜の間に存在する交感神経を切除するためにMP関節レベルで8-10mmの範囲にわたって指(趾)動脈の外膜を徹底的に切除した.本手術の効果の持続性についてはなお追跡調査が必要であるが,術後最長2年2ヵ月間経過するも全く再発傾向は認められず,かなり長期間患者の苦痛を取り除けるものと思われる.本法は手術侵襲も少なく,十分に有用な手術であると考える.

腰仙椎部脊髄硬膜嚢腫の2例

著者: 佐藤公治 ,   榊原健彦 ,   松丸輔

ページ範囲:P.1385 - P.1391

 抄録:最近我々は,膀胱直腸障害と下肢痛を主徴とした,比較的稀な腰仙椎部脊髄硬膜外髄膜嚢腫の2例を経験したので,本症の病態及び手術成績に対し文献的考察を加え報告する.嚢腫は,1例は第12胸椎より第4腰椎部の硬膜管の背側に,他の1例は第5腰椎より第3仙椎部に存在した.2例とも嚢腫の部位に一致して,椎体後縁のscallopingおよび椎弓の菲薄化を認めた.発生学的には,硬膜管に関連した異形成のひとつとして位置づけされ,長期間にわたり徐々に腫大し馬尾神経を圧迫し,神経症状が発現したものと思われる.治療は,2例とも椎弓切除し嚢腫を摘出した.嚢腫は,1例は交通性で,もう1例は非交通性であった.内容は共に髄液であった.組織は,硬膜に類似した繊維性組織であった.画像診断として,脊髄造影(Metrizamide myelography),CTM(CT-myelography)に加え,核磁気共鳴断層撮影装置(MRl:Magnetic resonance imaging)が有用であった.

RAで,大腿骨頸部のいわゆるspontaneous fractureをきたした2症例

著者: 萩野哲也 ,   井口哲弘 ,   川井和夫 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1393 - P.1397

 抄録:我々は過去15年間に慢性関節リウマチ(RA)の大腿骨頸部骨折を14例治療したが,そのうち2例は明らかに転倒などの外傷の既往のない患者である,この2症例の特徴,病因について外傷の既往の明瞭であった他の症例と比較検討した.症例は67歳と54歳の女性のclassical RAで,RA罹患歴は23年と17年で2例ともプレドニソロン服用歴がある.いずれも最初,歩行時や歩行後に疼痛を自覚し,その後,1週以内に高度の疼痛のため歩行不能となっていた.他の症例と比較すると,罹患歴,年齢,stage,class分類では差を認めず,血液所見でも有意な差はない.しかし大腿骨頸部には著明な骨萎縮がみられ2例ともSinghの分類のgrade IIIであった(P=0.02).組織所見では症例1で著明な骨萎縮に加え,菲薄化した大腿骨頸部の骨皮質直下にRA病変と思われる肉芽形成を認め,これも骨脆弱の一因と考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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